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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
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第三話、完結です。

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 翌日、友雅は約束通りあかねの下を訪れた。
「ご気分はいかがかな、姫君?」
「はい、もう、すっかり大丈夫です。心配かけて、ごめんなさい」
「何、構わないよ。君の心配をするのは、私の一生の仕事だろうからね」
「え…?」
思わず頬を染めたあかねの手を取ると、友雅は言った。
「では、出かけようか。今日ははやてに乗って来ているのだよ」
「わあ、遠乗りに連れて行ってくれるんですか」
「そうだよ。今日はよい日和だが、もう秋も深い。肌寒くなるかもしれないから、何か羽織る物がいるよ」
はやて、とは友雅の愛馬である。これまでも友雅は、戸外を好むあかねを、何度か遠乗りに連れ出していた。
「では藤姫、日暮れには、姫君をお連れして戻るよ」
「承知致しましたわ。どうぞお気を付けて、楽しんでらして下さいませ」
「行ってきまあす」
藤姫の笑顔に送られて、二人は馬上の人となった。
「今日はどこへ行くの?」
「今の時期、京でもっとも美しい場所の一つだよ」
馬は軽快な足取りで、京の市中を抜け、次第に郊外の山里に入っていった。
里の秋は、今や終盤に差し掛かりつつあった。穏やかな日差しの下、刈り取られた稲が乾され、柿の実は赤く色づいていた。田畑で働く農夫たちは、友雅を見ると、手を休めて深く頭を下げた。
「この辺りは、私の一族の荘園でね。もっとも目的地はここではない。先を急ごう」
友雅は、更に馬を進め、山の端に分け入った。
さあさあと流れる谷川を左手に見つつ、緩やかな勾配を登り詰めた時、突如目の前に開けた風景に、あかねは思わず声を上げた。
「わあ」
坂の上から見下ろしたそこは、ちょっとした窪地になっており、さながら錦のように、鮮やかに染まった山紅葉が、何本も丈高く枝を差し交わし、音もなく葉が舞い散っていた。
山紅葉の木立の奥には、風雅な庵が秘やかにたたずんでいた。
「ここは祖父が隠居所に使っていたのだがね。今は、そう、私の隠れ家といったところかな」
「ほんとに、すてき……。ここにいたら、この紅葉を独り占めっていう感じですね」
「気に入ってもらえたなら、よかったよ。さあ、だいぶ馬に乗って来たから、疲れたのではないかな。こんな鄙びた場所だから、たいしたもてなしはできないが、あそこで少し休んでいくことにしよう」
「え? あ…はい」
顔を仰向けて、照り映える紅葉に見とれていたあかねは、建物の中に入るのが少し惜しい気がした。
「まったく君の視線をそれほど引きつけるとは、この紅葉が少々ねたましいね」
「友雅さんたら、もう」
頬を染めるあかねを、背後からそっと抱きしめると、友雅はささやいた。
「紅葉に嫉妬するなんて、馬鹿な男だと思うかい。ふふ、覚えておいてほしいね。私は君のためだったら、いくらでも馬鹿になれる男なんだよ。相手が紅葉であろうが、桜であろうが、今二人だけのこの時に、君の気を私から逸らすなんて、許せないのだよ」
「……」
これまで、そんな友雅の所作に、気恥ずかしさとともに、心地よい温もりを覚えていたあかねだった。だが。友雅の呼吸が、ごくわずかに速くなり、背中から伝わる彼の体温が、自分の中に押し入って来るように感じられた時、あかねの奥底から、激しい抵抗がわき上がってきた。
(いや! 怖い!)
先日頼久に抱き締められた時、痛切に思い知らされた感覚が甦ってくる。そう、あの時、あかねは初めて実感したのだ。女として、本気で男に求められる、というのが、どういうものであるのかを。
今、あの時と同様、彼女は脅えていた。それは、あらがいようのない男の強い腕の中で、少女から女へ急速に変わることへの本能的な恐れに他ならなかった。
 恐れに駆られたあかねは、友雅の胸を、かぼそい腕で懸命に押し返そうとした。
「あかね殿、どうしたのかね?」
あかねの態度の変化を感じた友雅は、彼女を腕から解放し、顔をのぞき込んだ。まだ青い木の実のように、堅く強ばった少女のからだは、細かく震えていた。そして深くうなだれた口元から、
やっと聞こえるか聞こえないかの声が、漏れて来た。
「……怖いの」
「怖い? 私がかい?」
友雅は、あかねのあごに手を掛け、そっと仰向かせた。あかねは、わずかにあらがったが、目を堅く閉じたまま、友雅に顔を向けた。白いまぶたから、涙がぱたぱたと流れ落ちた。
一度感情の掛けがねが外れると、胸にためこんできたものが、とめどなくあふれ出してきた。
「あかね殿!?」
「……怖いの。友雅さんも頼久さんも……。そして、私を変えて、押し流そうとするこの京のすべてが……」
あかねは、顔を覆い、小さくかぶりを振った。
「みんなは最初は、私を“龍神の神子”にした。藤姫ちゃんも、八葉のみんなも……。もう闘いは終わったんだから、私は普通の女の子になってもいいと思った。でも……この世界での、あるべき女の子に私はなれそうにないし、友達になったと思った人だって、そうは思ってくれない……」
 あかねは、我と我が身を守ろうとするように、腕で巻き締めた。
「……普通の女の子として扱ってほしいと、口に出したら……頼久さんを傷つけてしまった……。でも……でも……」
溢れる涙の中から、あかねは、友雅に言い放った。
「……押し流されるのは、イヤ! ありのままの、このままの私でいるのが許されないなら……私、私、もうここにいたくない!」
この言葉は、友雅に石で殴られたような衝撃を与えた。だが、そこは、大人、一個の男子である。動揺を努めて抑制し、すぐに体勢を立て直して、あかねに働きかけた。震える肩にそっと手を回し、ことさら深い声音を、耳に注ぎこんだ。
「京にいたくない、とは……。姫君は、桃源郷に帰ってしまうおつもりかな? ……この私を置いて」
あかねは、はっとしたように、口を押さえた。取り乱した感情のままに、言い放った失言を、悔やんだ。
「ご、ごめんなさい、友雅さん。今のは……」
顔を涙でくしゃくしゃにし、唇を震わせながら、必死に言葉を探すあかねの姿に、友雅はある衝動を覚えた。
あかねが、頼久の名を口に出したことが、嫉妬をかき立ててもいた。また、この小さな少女の言葉一つで、大の男の自分が動揺し、安堵もし…。そんな自分が情けなくもあり、またどうしようもなく心をかき乱すこの少女が、憎らしくさえ思えた。
友雅は、あかねを抱く腕に力を込め、荒々しく唇を重ねた。そして、
「今のは……失言なのかい? そうでなくとも、私は君を手放すつもりなぞないよ。……君はやっと手に入れた、私の月の姫君なのだから。帰ると言うのなら、帰り道がわからなくなるほどの彼方まで、私は君をさらっていってしまおう」
低く激しく言うや否や、友雅は馬の腹を蹴った。よく訓練された馬は、主の突然の乱暴な指示に、抗議のいななきをあげたが、それでも、全力で走り出した。
「きゃあっ! と、友雅さん、どうしたんです?」
「振り落とされないように、しっかり捕まっておいで」
あかねを、しっかり胸に抱きかかえると、友雅は更に速度を上げた。
こうなると、あかねは、吹き荒れる嵐に見舞われた木の葉のように、飛ばされないよう、友雅の胸にすがりつくほかなかった。
(友雅さん、どうしちゃったの? 私、私、どうなるの? ……怖い!)
友雅は、山のふところに向けて、ぐんぐん馬を駆っていった。そうして、小半時も過ぎただろうか。もはやなだらかな斜面も終わり、馬が踏み入ることも叶わないという辺りまで来て、ようやく手綱を引いた。
「どうっ。どうどうっ」
嵐のような早駆けの終着地、そこもまた…紅葉、紅葉、紅葉だった。仰ぎ見れば、天蓋のように紅の色が視界を染め、見下ろせば、黄色に、朱赤に、散り敷いた葉で、土の色が見えないほどだった。
友雅は、太い息を一つ吐き、呼吸を整えると、腕の中の少女をのぞき込んだ。
「……震えているね、怖がらせてすまないことをした」
堅く友雅の衣を握りしめた、あかねの手は、じっとりと汗ばんでいた。その小さな手を、友雅はそっと解きほぐし、自らの手で包みこんだ。壊れ物を扱うように、彼女を馬から抱き下ろすと、緊張した背中を、何度もやさしくさすった。
そうしたあかねに対するフォローとでもいうべき行動を続けるうちに、友雅の顔は、次第にうなだれていった。
「友雅さん……?」
いたわりのこもった友雅の手のぬくもりに、ようやく胸の鼓動も収まり、落ち着きを取り戻したあかねが、そっとその頬に触れた。
友雅は、あかねの手を取り、自らの額に当てた。
「……すまない。君は軽蔑するだろうね。君の言葉一つで取り乱して、八つ当たりのような暴挙に走る私を……。ただ、これだけはわかってほしい。私は…私はもう、君を失うことに耐えられない。冗談でも、私の側からいなくなるようなことは、言わないでおくれ」
「友雅さん……」
あかねの胸の中に、驚きがさざ波のように広がった。それは、異国の美しい旋律を聴くかのような、不思議に甘い感覚だった。
(……私より、ずっと大人だと思っていたこの人が、私をこんな風に思っていたなんて……)
自分が、愛する男を悲しませる力を持っていることを、あかねはこの時、初めて自覚した。胸の奥の深いところから、いとしさがこみ上げてきた。そして、図らずも、自分が彼に与えてしまった苦しみをぬぐい去りたいと思った。
あかねは、友雅の額に当てられた手を頬へと滑らせ、もう一方の手も添えて、彼の顔をそっと挟みこむようにした。そして、彼の瞳をまっすぐに見つめながら言った。
「……ごめんなさい。私、自分のことばっかりで……。あなたが、私のことをそんな風に必要としてくれている、なんて思いもしなかった……。でも、うれしかった。友雅さんが、こんな風に心の中を、私にさらけ出してくれて。私、私、あなたの側にいるね。いていいんだよね?」
「あかね殿……」
友雅は、長い年月、忘れていた激しい感情の潮に、自らの身を委ねた。少女のか細いからだを、壊れそうなほど抱きしめ、心のままの言葉を、口に上せた。
「……そんなことは聞くまでもない。側にいてほしい……。逃げると言ったって、離すものか……!」
「友雅さん……」
あかねは、友雅の腕の中で、初めてすべてを委ねられるような、安心感を覚えた。何があっても、この腕はきっと自分を抱き締めてくれる……そんな確信が胸に広がる。あかねは、全身の力を抜いて、ささやいた。
「私の……私の港になってね。どこかに流されたり、飛んでったりしないように、しっかりつなぎ止めていてね!」
この言葉に、友雅は腕を緩めて、あかねの顔をのぞき込んだ。澄んだ瞳にたたえられた陰りない信頼と、花のような微笑みを見出した時、彼の心は慄えた。
「ああ……君をつなぎ止めよう。どこにもやりはしない。君の港は……居るべき場所は、この私の腕の中だ」
「……うれしい」
あかねは、安心しきったように、友雅の胸に再び頭を預けた。友雅は、その柔らかな重みに、ふと自分の男としての感覚がざわめくのを感じた。しかし、先ほどの清らかなかんばせを見た後では、自分のそうした衝動を、表に現すのは、はばかられた。
できれば、腕の中の少女の肌の温もりを、じかに確かめてみたい。だが……と、歯止めをかけるものが、友雅の中にはあった。
だが、こんな清らかな乙女には、今少し時間を与えなくてはならない、と。そんな友雅の逡巡を感じ取ったのか、あかねは彼を見上げて、問いかけた。
「どうしたの、友雅さん?」
友雅は、笑み返した。
「いいや、何でもないよ……」
その言葉に続いて、そろそろ帰ろうと言おうとした友雅だったが、はっとした。あかねが、まぶたを閉じ、彼の方へ、そっと顔を仰向けたからだ。
「あかね殿……?」
あかねの言葉は、緊張のため上ずり、とぎれとぎれになっていた。
「……つなぎ止めてくれるって、言ったじゃない。……そのしるしが、欲しいの。……だめ?」
「あかね殿」
友雅は、恋の手練れには、およそ似合わない戸惑いを見せた。
「いいのかい? 君は……怖いんじゃないのかい?」
あかねは、堅く目を閉じ、緊張のため、細かくからだを震わせながら、しかしきっぱりと言った。
「違うの。友雅さんと……っていうことは、押し流されるんじゃなくって、今、私が選びたいことなの。……だから……」
あかねの言葉は、最後まで続かなかった。皆まで言わせず、友雅が、その唇を、自分のそれで塞いだからだった。
「……それ以上の言葉は、いらない。姫君にそんなことを言わせる無粋な男に、しないでおくれ」
友雅は、あかねが羽織って来た被衣を脱がせると、散り敷いた紅葉の上に広げた。そして、彼女をそっとそこに横たえた。
あかねは、これから始まる未知の体験への恐れから、目をぎゅっと瞑っていた。そんな彼女の緊張を解くために、友雅は、そのまぶたから頬にかけて、そっと指を滑らせ、笑みを含んだ声で、ささやきかけた。
「目を開けてごらん、姫君。…何が見える?」
その声音に誘われて、あかねはまぶたを開いた。彼女の瞳に映ったのは、染み入るような微笑を浮かべた恋しい男だった。
「君に焦がれている男が見えたかい。ほら……」
友雅はあかねの手を取ると、自らの胸に導いた。
「私の胸もこんなに高鳴っている……。初めて恋をした少年のようにね」
「友雅さん……。あ……」
香りのよい衣の下で、確かに友雅の鼓動が脈打っているのを確かめた、その直後には、厚い広い胸の下に、巻き込まれていた。
「……!」
男のからだの重みと、体温、においが、一斉に彼女に迫ってきた。初めての感覚に、あかねは息もできないほど圧倒されたが、自分が今、全身で感じている、これが友雅なのだ。そう思った時、あかねの中ですべてを受け入れる気持ちが固まった。
(この人が好き……。この人になら……かまわない……!)
一方、友雅は、自分のからだの下で、棒のように強ばっていたあかねのからだの緊張が、ふっとほどけるのを感じた。
「あかね殿?」
手を着いて、顔をのぞき込むと、澄んだ瞳と、かち合った。
「友雅さん……。大好き……。あなたになら……何をされてもいい。このまま、私を奪って……!」
友雅は胸を衝かれた。
「あかね殿……!」
その微笑の中に、菩薩の慈愛を見たと思った。こんなにも誰かを求めたことは、これまでなかったし、また、それを受け入れられ、包み込まれたこともなかった。この小さな少女が内包している、広くあたたかな海が、今友雅を取り巻き、抱き取った。
「……君は、君こそは、月から授けられた私の姫君だ……」
少女の、まだ誰も踏み入ったことのない雪野のような肌に、朱を散らしていく。舞い散る紅葉にも負けないほど、鮮やかに浮かんだそのしるしが、増えていくうちに、少女の呼吸も速くなり、内側から燃えだした熱のために、その肌はぽっと赤らんできた。
か細いからだの奥深くに、男を受け入れた時、少女はくぐもった小さな叫び声を上げた。だが、寄せては返す波のように、ゆったりとした動きが繰り返されるうちに、甘やかな熱の中で、二つのからだは、一つにとけあった。あたかも、はじめから一つのものだったかのように。

 
「神子さま、お帰りなさいませ」
藤姫が珍しく門前まで、迎えに出て来た。聡明な姫のこと、顔色には出さなかったが、いつになくあかねの帰りが遅いことを、案じていたのに違いなかった。もっとも当代きっての武官である友雅が同行しているのだから、あかねが何か危難にさらされるとは、考えにくいことではあったのだが。
外出時の心配は、いつも神子を怨霊との闘いに送り出していた藤姫にとって、習慣のようなものとなっていることを、あかねは理解していた。その藤姫に対して、あかねは顔も上げられないような気持ちだった。
「ただいま、藤姫ちゃん。遅くなって、ごめんなさい」
 気恥ずかしさから、言葉少なに、ややぶっきらぼうに答えたあかねに、友雅が言葉を足した。
「神子殿を遅くまで連れ回して、すまなかったね。陽気に誘われて、つい郊外まで脚を伸ばしてしまってね。私が神子殿を誘ったのだから、どうか咎めないであげてくれまいか」
「そんな、咎める、だなんて。楽しくお過ごしになったようで、何よりですわ」
 言いながら、藤姫はあかねの様子をそっと見やっていた。
(その割には、神子様が元気がないように見えるけれど…。私の気にしすぎかしら)
「さすがは話せる賢い姫君だ」
どんな気難しい女でも、それ以上は文句を言えなくなる魅力的な笑みをひらめかせると、友雅は、ことさらいとおしげにあかねを見つめた。
「では、あかね殿。私は、これで失礼するよ。……またね」
あかねは、恋人の視線を受け止め、微笑み返した。
「はい。今日は……ありがとう、友雅さん」
見交わすお互いの目の中に、以前より一層色濃くなった恋情があった。そんな二人の間の空気を、藤姫はむろんしっかり読みとったわけではなかったが、わからぬまま、居心地の悪さを感じて、馬上の人となった友雅の姿が遠ざかると、ほっとした。
「神子様、お疲れでございましょう。お食事はいかがなさいますか」
問いかけながら、藤姫はあかねの被衣に、真っ赤な紅葉が絡みついているのに、気づいた。藤姫はそれを手に取り、何の気なしに言った。
「まあ、きれいな紅葉。今日は紅葉狩りにお出かけでしたの」
すると、見る間にあかねの頬に、紅葉に負けないほどの色が上った。思いがけない反応に目を丸くした藤姫に、あかねは、しどろもどろになりながら答えた。
「そ、そう。紅葉狩りに行ったの、とっても、キレイだったわ。ええっと、遠くまで行ったから、今日は何だか疲れちゃった。食事はもういいから……今日はもう寝ることにするわ」
言い終えるや否や、あかねは屋内へ駆け込んでいった。
「あ、神子様!」
置き去りにされて、あっけに取られた藤姫は、独りごちた。
「私、何かまずいことでも、言ったかしら。神子様、神子様! お待ち下さいませ」
藤姫が去った後には、あかねの身も心も染めた紅葉が、夜風にくるくると舞い踊っていた。たとえその葉が風に吹き流されても。雨風に打たれ、土に帰っても。至福の一時を閉じこめたその真紅は、あかねが生きている限り、彼女の心の中で息づいているに違いない。
明日の朝、あかねは手鏡の中に、これまでとは違う自分を見出すことだろう。少女の眠りを守るように、秋の夜はしんしんと静かに更けていった。                   (終わり)



今読み返すと、友雅さんの大人げなさが、ツボか、と(笑)
頼久さん……ごめんね。いつかしあわせなお話をを書くから。←(未定^^;)

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