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加地企画「フルール」さんに参加させて頂いたのを機に、書いたお話です。写真は、そのお話に出てくる花、もじずりです。6〜7月頃に咲きます。あんまりいい写真じゃなくて、すみません。

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「みちのくの……」

  昼休み開始のチャイムが鳴ると同時に、香穂子は机の上を 手早く片づけ、昼休みを目いっぱい使うための準備に入った。 片手には弁当包み、片手には大切なヴァイオリンと楽譜。
(よおし!)
小さく拳を握り、早々に席から離れようとする香穂子に、 友人たちが手を振った。
「練習、頑張ってね! 香穂ちゃん」
「ん、ありがとう。実技の小テスト終わったら、 また一緒にお昼するね」
  三年に進級して、ついに音楽科に移った香穂子だったが、 何せ二年のあのコンクールからヴァイオリンを始めた彼女には、 音楽の基礎知識、素養が決定的に不足していた。
 そのため音楽科の教師の心遣いで、正規の授業の他に、個人 レッスンや補習を受けていた。香穂子の個人教授を引き受けた ヴァイオリン担当の教師は、学内でも厳しいことで、つとに知 られていた。
 びしびしこの教師にしごかれ、時に深いため息を つく香穂子だったが、きつい練習をこなした分、腕は確実に上 がっていた。 手応えを感じると、より一層練習に身が入る。そういうよい 循環ができつつある香穂子なのだった。
 そして今、その教師から、実技の 小テストを来週始めに予告され、今はそのテストに向けて、 全力をあげる気組みになっている。 教室を出た香穂子は、一直線に練習室に向かおうとしたが、 ふと足を止めた。空気の中にふと甘い香りを感じたからだ。
「あ…クチナシ」
 純白の花から漂う香りは、張りつめた香穂子に、何か暗示を 与えるようだった。そして香穂子は、それに誘われるように、 行き先を変えた。
「……今日は、森の広場で練習しよう」
  青草を踏みしめ、まず弁当を広げる場所を探し始めると、 香穂子の名を呼ぶ者があった。
「香穂さん、どうしたの? 今日はひとり?」
  柔らかく耳に響く声は、加地葵のものだった。芝生に長い足を 投げ出して座っている様は、見るからにリラックスしている風情 だった。
「あ、加地くん。うん、今日はここでお昼食べて、練習しようと 思って」
「わあ、ラッキー。じゃあさ、一緒に食べようよ。それで、練習 聴かせてもらってもいい?」
 子供のように無邪気に喜ぶ加地に、逆らえるものではない。 それに、音楽科に香穂子が移って以来、以前のように、机を並べ ることもなくなり、こうして話すのも久しぶりだった。 加地も…あの二年の秋から冬にかけてのコンサートでの演奏を 評価されて、音楽科への転科を薦められたはずだが、彼は普通 科に止まった。僕なりの音楽の愛し方をするから、と。
「うん、いいよ」
 うなずき、加地が差し招く方へ、歩を進めようとしたその時 だった。
「ああ、ストップ! 香穂さん! そこにもじずりの花が咲い てる」
「え?」
加地の制止に、ふと足下を見ると、細い茎を伸ばして咲いて いるピンクの花があった。
「あ……これ?」
「そう、よかった〜。香穂さんが踏まなくって」
 言いながら加地は立ち上がって、香穂子のそばへやって来た。 加地の言いぐさだと、自分はまるでかよわい花を踏み荒らす怪 獣のようだと、香穂子はちょっと苦笑した。
「これ、もじずりっていう花なの? 初めて知ったよ」
「うん、ねえ、香穂さん、よく見て、この花の付き方。茎に巻 き付くみたいに、ねじれて咲き上がっているでしょ。だから、 ねじばなともいうんだよ」
「ほんとだ」
  野花を見つめる加地の目はやさしくて、香穂子は、ちょっと 花にうらやましささえ、感じるほどだった。そのやさしい目を、 香穂子にそのまま当てて、加地は言った。
「ねえ、こんな歌、知ってる?  みちのくの しのぶもぢずり 誰ゆゑに  乱れそめにし われならなくに」
「聞いたことがあるような…」
「百人一首にも入ってる歌だからね。この歌で言うもぢずりは、 ほんとは染め物のことらしいけど。でも、この花を見ると、思い 出すんだよ」
「ふうん…」
  歌の内容はよくわからなかったが、ゆっくりと吟ずる加地の声 の響きと、可憐な花の風情が、香穂子には好ましかった。
「すてきだね…」
「そうでしょ? ……だから、香穂さん。練習、大変だろう けど、足下の花を見失うほど、根を詰めないでね?」
「……!」
  今の自分を見透かされたような気がして、香穂子は、 思わず加地の顔を見返した。
「……ごめん。よけいなこと言って。…ただ、香穂さん、 補習授業を受けたり、厳しい先生に個人指導されたりして るって、音楽科の連中に聞いたもんだから。 それに、何だか最近ぴりぴり張りつめてるように見えたし」
「……」
  この人は、ずっと私を見ていてくれたんだ……。 そう思うと、ふっと肩の力が抜け、胸がじんわり温まるような 気がした。
「わわ、ごめん! 気を悪くした?」
 我知らず、目に涙を浮かべた香穂子に、加地は慌てた。
「ううん、違うの」
  加地が差し出したハンカチを受け取り、目に当てながら、 香穂子は笑ってみせた。
「加地君にそう言ってもらったら、何かすごく気が楽になっ ちゃって。そうしたら、勝手に涙が……」
「そうなんだ……」
  香穂子の言葉に、ほっとしたように加地は笑った。
「じゃあ、涙が止まるように、おいしいもの、食べよう。 ご飯の後で、とっておきのチョコレートボンボン、あげる。 だから、ね? 泣きやんで? よしよし」
「お菓子プラスよしよしって……加地君、親戚のおじさん みたい」
「おじさん〜〜? せめて、お兄さんでしょうが。 そんなこと言う子にはあげないよ」
「ああ〜、ごめんなさい、お兄さま〜」
  軽口を叩いているうちに、香穂子の気持ちは、 一層ほぐれてきた。
「じゃあ、特等席へどうぞ」
  おどけて加地が、芝生の上にのべた敷物の方へ 香穂子を誘った。
「こんなもの持って来てるって、ほんとに準備いいね、 加地君」
  言いながら香穂子は、そちらへ歩き出した。
その背後で、加地は小さなため息をつき、 そっと可憐な花へと振り返った。
(ねえ、僕はうまくできたかな?  ほんとうは……香穂さんの顔を見るだけで……)

     乱れそめにし われならなくに  

 そんな気持ちをそっと胸の奥にしまって、 加地は香穂子に声を掛けた。
「ねえ、飲み物は紅茶と緑茶のペットボトルがあるけど、 どっちがいい?」
  加地の足音が遠ざかると、まっすぐな茎に、 紅い花をまといつけたもじずりは、そっと露をこぼした。

……誰にも知られぬままに……。                     
                               (終わり)


ネタ出ししてからよく考えたら、もじずりの咲いている 6〜7月頃って、加地君、まだ星奏学院にいないんですよね〜。 なので、三年になってからということで。 んで、この話の加地君は、クリスマスには告白せず、 自分が香穂ちゃんにふさわしくなるまで、気持ちは打ち 明けまい、とか思っているようです。 当初は、少しは甘い話にしようと思ったのですが…。
結局、こんなことになってしまいました^^;
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