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友人が、スウィートな方向で、コルダ2の加地本を出すというので、
少しでも役に立てばと、スウィートな加地ネタをひねり出すべく、
やってみました。とりあえず、二本短いのを書いて、選んでもらいました。
そのうちの一本がこれ↓ です。
もう一本は、めでたくお嫁入り。発刊の暁には、こちらでも、
情報、出しますね〜。
それにしても、スウィートは難しい〜〜。
結局あんまり甘くはならんかったという結果発表です、とほほ……orz

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「予防線」

練習を終えて、外へ出ると、冬の短い日は、もうすっかり落ちている。
「香穂さん、今日もお疲れさま。帰ろう?」
暗くなった帰り道は危ないからって、加地君はこのところ、ずっと家まで送ってくれる。教室で隣同士の席で一日を過ごして、放課後は一緒に練習して、そうして帰り道も一緒に歩く。一日の大半、加地君は私の傍にいてくれるのに、まだ足りない気がする。私、欲張りなのかな?
そんな思いで加地君の顔を見上げると、すっと手を伸ばして私のマフラーを巻き直してくれた。
「さあ、いつまでも、じっとしてたら、風邪引いちゃうよ。行こう」
 私の首に、指先がほんの少し触れる。さっきまでヴィオラを奏でていた指は、熱を帯びているみたいで、はんこを押されたみたいに、触れられたところがあたたかい。
先に立って歩き始めるそのスピードは、速くはないけれど、遅くもない。ねえ、もっとゆっくり歩いてよ。一緒にいられる時間が少しでも長くなるように。そんな言葉は言いたくても言えない。だって加地君は、過ぎるぐらいに、私を気遣ってくれるから。
「香穂さん、歩道側を歩いてね。君の車道側が、僕の定位置。忘れないでね」
そんなことを言われるたび、やさしい笑顔を向けられるたび、私の心臓がどきっではなく、「スキっ」と動機を打つ気がする。もう、ほんとに、こんなにしょっちゅうドキドキしてたら、私の心臓がもたないよ……。
児童公園に差し掛かる頃には、まんまるな月の位置が大分高くなっていた。公園の地面が、月の光を白く反射して、ぶらんこや滑り台が、その上にくっきりと影を落としている。
「別の世界みたい……」
思わずつぶやくと、加地君は私の顔を覗き込んで、言った。
「ほんとだね……。それに、月の光を浴びた君も、何だか……別の人みたいに見えるよ」
もう少しこの風景を、二人で眺めていたい。言葉にしなくても、そんな気分を分かち合って、ベンチに向かって歩き始めた。加地君はポケットを探って、ハンカチをベンチの上に広げると「はい、特等席」と笑った。
ベンチもしんと冷えていたけれど、並んで腰掛けた加地君がいる側は、ほんのりとあたたかい。
「もう少し傍に寄ってもいい?」
尋ねると、加地君は目を丸くして、ほんの少し身じろぎをした。
「ねえ、ダメ?」
畳みかけてみた。加地君は、目を閉じて天を仰ぎ、ふうっと息を吐いた。
「うん、寒いものね」
言いながら腰を浮かせて、私に体を寄せてくれた。その体温をしっかり感じたくて、私は加地君の腕を抱き締めた。びくりと彼のからだが強ばる。
「香穂さん、前にも言ったけれど、その……そういうことをされると、僕、落ち着かないんだよ……」
なおも言葉を紡ぎそうな口を、私は手でそっと塞いだ。
「むぐ……香……!?」
私は、ありったけの思いを込めて、加地君の目を見つめた。
「こんな月のきれいな晩に、そんなこと、言わないで?」
口元に当てた手から、加地君の顔の火照りが伝わる。顔を振って、私の手から逃れると、加地君は頬に血の色をのぼせて言った。
「月のきれいな晩だから……よけいダメなんだよ。だって君は、いつもよりもっときれいで……。狂おしくなる……」
私は口元から外された手を、加地君の頬に滑らせた。
「だったら、狂ってよ……。月の光がそうさせるのなら、それが自然っていうものだわ」
加地君の目が、一瞬強いきらめきを放った。次の瞬間、私のからだは彼のあたたかい腕にまきしめられていた。
「香穂さん……」
かすれた声が、私の名を呼ぶ。そして、熱く柔らかい唇が落ちてきた……。


どれぐらいそうしてベンチに座っていたか、わからない。けど、気づいた時には、地面からはい上ってきた冷気で、足が冷たい棒みたいになっていた。さすがに耐えられなくて、とんとんと足踏みをすると「もう帰ろうか」と加地君が笑った。その顔はもうすっかりいつもの加地君で、彼が我を忘れたのは、ほんとうにあの一瞬だけだったのだと、実感させられる。
唇が触れた直後に、児童公園の周りの道路を、カーステレオから派手に音楽を鳴らして、車が通り過ぎて行った。そのけたたましい音が月光の魔法を解いてしまった。加地君は、私のからだから腕をほどいて、言った。
「……これ以上狂うことは許されないみたいだ。今、車が通ったのも、きっと自然な流れなんだよ」
……もっと狂ってほしい。私をガラスケースに入れないで、触れてほしい。そう望むのは、いけないことなの? 心が月の光と同じぐらい、青く哀しくなった。
答えが見つからないまま、家路に着いた。こんなに別れるのが辛い気持ちを……加地君、わかってくれてる? 
「じゃあ、また明日」
家の門の前で、微笑んで立ち去ろうとする加地君のジャケットの裾を、思わず掴んだ。
「どうしたの?」
やさしい笑顔。……どうしてだか、何も言えない。
「ううん、何でもない。また、明日」
「うん。明日、また、君の音を聞かせて? 今日は随分君を外にいさせてしまったから、あったかくしてよく寝んでね」
後ろ姿を見送りながら、私は加地君の触れた唇を、そっと指でなぞってみた。まだ彼の熱が残っている気がする……。もっともっと感じたい。だから……このままじゃ終わらせない。そんな思いが、胸の奥からふつふつと湧いてきた。今は無理でも、加地君が引いた予防線を、いつかきっと突破してみせる。
空高く上った満月が、研ぎ澄まされた光を送って来た。そのパワーを取り込むように、私はしばらく月を見つめていた。もっともっと、私を魅力的にして。あの人の理性の壁を打ち壊せるように。
私の音にとらわれたのは、加地君。彼にとらわれたのは、私。この赤い糸を、私、きっと一本によりあわせる。
月が私の思いを後押ししてくれるように思えた。それは自分の中に、答えを一つ見つけた、忘れられない美しい夜だった……。                       (終わり)






自分で書いていて、加地のヘタレっぷりに、イライラしました(笑)
ここまでしたら、他の男子なら、そう月森や志水きゅんだって、もっときっちり、
手を出すでしょーよ、ねえ?
でも、そこが加地が加地たるゆえんだとも、思ったりもします(笑)

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