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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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友人の小倉どらさんに約束していた、リズ先生のお話です。
めでたくお婿入りが決定♪
秋の夜長ってことで、一つ……。

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「その小さき手で」

「では、少しじっとしていて下さいね」
弁慶に言われて、望美は身をすくめた。棘の刺さった指先に、弁慶が手にした針が近づいて来ると、もうたまらず、目をそらしてしまった。
「おかしな人だな。戦場では、少々の怪我もものともせず、敵に立ち向かっていくのに」
くすりと笑われて、望美はふくれながら反論を試みた。
「それとこれとは、別ですよ〜。戦場では、なんていうか、そんなこと構ってられないけど、今は構うんです!」
「そうですね。戦闘中は、確かに平時とは精神状態が違いますからね。では、今はこの針に立ち向かって下さい。大丈夫、すぐに取ってあげますから」
「は……はい」
肯いたものの、望美は泣きたい気分だった。
(うえ〜〜ん、怖い〜〜〜)
痛みに耐えようと、ぎゅっと目を閉じたその時、頭上から声が降って来た。
「神子、大事ないか」
 望美は目を開け、声の方向を振り仰いだ。
「先生」
情けない顔や声にならないよう、気を張った。剣の師であるリズヴァーンに、
まさか棘を針で突かれるのを怖がっている様子など、見せるわけにはいかない。
「神子が、栗のいがを指に刺したと聞いたが」
「ええ、大体取れたんですけれど、小さな棘が少し指に入ってしまったので、今、この針で取ろうとしていたところですよ」
その言葉に促されるように、リズヴァーンは弁慶の手にした針と、望美の指を見比べた。
「私がやろう」
思いがけないリズヴァーンの申し出に、望美と弁慶は瞠目した。
(先生が〜? なんで〜?)
望美はただ驚いただけだが、弁慶には薬師としての意地がある。
「いえ、リズ先生のお手をわずらわせるほどのことではありませんよ」
 笑みをたたえつつ、やんわり拒絶したが、それで引っ込むリズヴァーンではない。
「弁慶、おまえは確か視力があまりよくないのだろう? それならば、私の方が小さな棘を取るのに、向いていると思うが」
淡々と、しかし揺るぎない口調で、事実を告げられては、仕方がない。弁慶は、軽く息を吐くと、リズヴァーンに針を手渡した。
「では、リズ先生にお願いしますよ。後の処置もお任せしてもいいですか?」
「無論」
「棘を抜いた後、こちらの膏薬を小さく切って、指に貼ってあげて下さい。僕は、台所の様子をちょっと見てきますよ。譲君と朔殿が今頃栗の皮を剥いているでしょうからね」
弁慶が退出すると、リズヴァーンは望美と向き合うように腰を下ろし、その手を取った。
(やだな……。荒れてみっともない手なのに……)
 剣を握るために、何度もマメがつぶれ、皮も厚くなってきた自分の手に、リズヴァーンの目が注がれることに、羞恥を覚える望美だった。
「ここだな?」
棘の大きさと刺さった場所を確認すると、望美の緊張を感じ取ったのか、リズヴァーンは顔を上げ、ふっと目元を和ませた。
「大丈夫だ、神子。案ずることはない」
「は……はい、先生」
「では、これを少し持っていてくれ」
望美に一旦針を預けると、リズヴァーンは利き手の手袋を外した。すらりと長い指が現れる。望美から再び受け取った針は、その手の中で、まるで人形の玩具のように小さく見えたが、リズヴァーンはやすやすとそれを扱った。その一連の自然な動作は、望美に安心感を与えた。
「では、神子、始めるぞ」
「はい」
リズヴァーンに、自らの手を預けた時、望美が目をそらすことはなかった。リズヴァーンの器用な指先に光る針、一点に集中した青い瞳、添えられた手の温もり……。それらが望美に伝えるのは、リズヴァーンが彼女に寄せる愛に他ならなかった。
(先生……)
胸の中に熱いものが込み上げるのを覚えつつ、その愛を自分のすべての感覚で最大限に感じ取ろうとした。と、その時、指先にちくりと痛みが走った。
「取れたぞ、神子」
「あ……ありがとうございます」
 その一瞬に、ただ自分の指先一点に集中していたリズヴァーンの意識が、ふっと離れるのを感じて、望美は今のひとときを呼び止めたいような思いにとらわれた。そんな望美の心中を知ってか知らずか、リズヴァーンはよどみないしぐさで、針を片づけ、膏薬を指に貼った。
「これでよい。今後、栗を扱う時は、気を付けることだな」
「はい……。すみません、先生に面倒をかけちゃって」
「栗は、今日の夕餉の膳にのぼるのだろう?」
「あ、はい。譲君と朔が栗ごはんにしようって……」
「好物だ。楽しみにしよう」
  穏やかな笑みを青い瞳に浮かべるリズヴァーンに、望美は心の中で訴えた。
(先生がお好きだから……私が作ってあげたかったんです、栗ごはん)
今、台所に行っても、手際のいい朔と譲のことだから、もうほとんど準備を終えているだろう。そう思うと、棘を刺した自分の不注意が、望美には恨めしかった。
「神子……」
「はい?」
「おまえの手は、すっかり剣士の手になったな。鍛錬を怠っていないことが、その手を見ればわかる」
「……ありがとうございます」
剣の師としてのリズヴァーンの言葉を、喜ぶべきところである。だが、今の望美には、その言葉を素直に受け取ることができなかった。我知らず、自分の荒れた手をリズヴァーンの目から隠すように、後ろ手にした。
「神子」
そんな望美のしぐさをどう思ったのか、リズヴァーンは手を伸ばして、望美の手を取った。
「せ……先生?」
「神子、恥じることはない。おまえはこの手で、剣で、今まで運命を切り開いて来たのだから。そして……いつかこの小さな手に、本当に似合う、女としての幸せをつかみとるがいい」
「先生……」
望美の手に注がれるリズヴァーンの目は、深く、やさしい。
「……つかみとることができますか?」
「ああ、きっと」
力強くリズヴァーンは肯いた。
「先生、私は……」
 望美の思いがあふれ出そうとしたその時だった。
「神子!」
誰かがその名を呼んだ瞬間、リズヴァーンは望美の手を離した。
「あ……白龍……」
外見は長身の若者に成長しても、中身は無邪気なままの白龍が、飛び立つように、望美の傍にやって来た。
「あ……私、何かじゃまをした?」
望美の顔が曇ったのを見て、たちまち心配そうな表情になる。そんな白龍に腹を立てるわけにもいかず、望美は何とか笑みを作ってみせた。
「そんなことないよ。どうしたの?」
「景時がね、キノコをこ〜んなに採ってきたんだよ! おいしいキノコ汁を作るから、神子も手伝ってって、朔が台所で呼んでるよ!」
「わかった、すぐ行くね」
「早く、早く〜〜」
白龍に台所の方へと手を引っ張られながら、望美はリズヴァーンを振り返った。
「キノコ汁も好物だ」
微笑むリズヴァーンを、望美はひたと見つめた。
(私がつかみとりたいしあわせは……先生と一緒にいることです! いいですよね、先生?)
言葉になり損ねた思いを、視線にこめた。その視線を受け止めたリズヴァーンは、一瞬目を見開き、そして苦悩の表情とともにそらした。
(先生……!)
望美の声にならない叫びが、波動のように伝わる。
(きっと……きっとですよ!)


 それから、幾とせの時が流れてー。再び秋が巡って来た。
「お待たせ。今日は栗ごはんと、キノコ汁にしてみました」
 ほかほかと湯気の上がる膳を、望美は得意げに、リズヴァーンの前に置いた。
「ほう、これはうまそうだな」
 楽しげに箸を取るリズヴァーンの反応を、望美はわくわくしながら、見守る。
「うまい。腕を上げたな」
期待通りの言葉に、望美はうれしさで頬を火照らせた。
ほっくりと甘い栗の味を楽しみながら、リズヴァーンは、ふと望美がまだ源氏の神子であった頃のできごとを思いだした。
「そういえば、今日は棘を刺したりはしなかったのか」
その言葉に、望美は笑い声を立てた。
「もお〜、そんなドジはしません。私だって、毎日おさんどんをするうちに、進歩してるんです」
「そうだな」
肯くとともに、リズヴァーンは望美の手を取り、引き寄せた。
「あ……」
 片腕にしっかりそのからだを抱き締めながら、自らの手に包み込んだ望美の手に視線を注ぐ。
「もう〜、ご飯の途中で、お行儀悪いですよ」
言いながらも、体重をリズヴァーンにふわりと預ける望美に、リズヴァーンは微笑みかけた。
「……手が変わったな」
「え?」
「今のおまえの手は、剣士の手ではない」
望美は、リズヴァーンの目を見つめて、微笑み返した。
「それは、そうよ。今の私は源氏の神子でも、あなたの弟子でもない。……奥さんだもの」
「そうだな。おまえに、二度と剣は握らせたくない。この小さな手に……私は相応しい男か?」
望美の笑みは、深くなった。差し伸べた手で、しっかりとリズヴァーンの首を抱く。
「ええ、十分すぎるほどに。あなたは……あなたは、私がこの手でつかみとったしあわせ、ですもの」
「そうか……」
 お互いのからだに巻かれた腕の力が強くなる。幾度とない運命の流転の中で、ようやくつかみとったぬくもりを確かめるために。
「おまえの、この手を得たこと……私の生涯の誇りだ」
リズヴァーンの唇が、そっと望美のたなごころに落とされる。……そして続く動作に、望美は形ばかりの抵抗を示した。
「も、お〜。せっかくのご飯が冷めちゃいますよ」
「すまない。今はやめたくない。それに冷めても、おまえの作った食事は、十分うまい」
「……しかたのない人」
くすりと笑って、愛しいぬくもりを、その腕に抱き締めた。
(離さないで……、もう、決して……)
秋の陽はつるべ落としに暮れて。望美の思いも、リズヴァーンの思いも、舞い降りた闇に、吐息とともに溶け入っていく。長い夜が始まろうとしていた。
                               (終わり) 



ってことで、私にしては、まあ甘くなったかな、と。
新婚ネタにすれば、甘くできるんだなあと、しごく当たり前のことを実感した次第(笑)
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