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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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加地君が登場するのは、秋以降なので、 今の時期の話は、やはり無印コルダになりますね。

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「来年の夏も……」

「じゃあ、もう少しだけテンポを上げて、合わせてみよう。 二人ともいい?」
「はい!」
「いつでも、OKっすよ」
 私と土浦君の返事に、王崎先輩はにっこりうなずくと、 ヴァイオリンを奏で始めた。いつもの王崎先輩とは、思い切り 違うジャンルの選曲だけど、小気味いいリズムの底に流れるやさ しさは、やはり先輩のものだった。その心地よさを味わいなが ら、私も自分の音を絡めていく。土浦君のキーボードが、 ばっちりテンポを刻み、メロディを盛り上げていく。
 楽しい。曲が終わってしまうのが、惜しいくらい。 聴いてくれる人にも、この楽しさが伝わるといい。 そう思ったのは、私だけじゃなかったみたい。練習の終わりに、 王崎先輩は満足そうな笑顔で言った。
 「うん。これならきっと喜んでもらえるよ。俺も踊りたく なっちゃったよ」
 今日は、王崎先輩から頼まれて、老人ホームの夏祭りで、 演奏をすることになっている。あれは十日ほど前。先輩の笑顔につられて、気安く引き受けた ものの、渡された楽譜を見て、私は目を剥いた。 「これ、やるんですか? ほんとに?」
「ああ〜、だって、ほら、お年寄りに聴いてもらうんだし、 夏祭りだし、ね?
日野さんなら大丈夫だよ」
何が大丈夫なんだかと、切り返したくなったけど、同じく 助っ人を頼まれた土浦が、ぐははと笑って、「いいじゃねえか。俺は好きだぜ、こういうの」と 言ったので受け入れるしかなかった。
 それで、空いた時間に自分で練習をして、前日と当日の 夏祭り開催時間前に、
三人で音合わせをして本番に臨むこ とになった。結果は上々って感じだけど。
私は、こっそり 王崎先輩の横顔を見上げた。
(不思議なひと……)
  開催二十分前に老人ホームに着くと、中庭に小振りだけど、 盆踊りの櫓が建てられ、小さなステージも設営されていた。 敷地内は、バザーや模擬店の準備が進行中でいかにも お祭りという雰囲気が出来上がりつつあった。
 浴衣姿の職員の方が、にこやかに私たちを出迎えてくれた。
 「王崎君、今年も来てくれたのね。皆さん、ほんとに楽しみに してるのよ。もちろん、私もね」 「僕の方こそ、ここで演奏させてもらうのは、いつも楽しみ なんです。宜しくお願いします」
「こちらこそ。ええと、ここにおおまかな今日の進行表が あるから、見ておいてね」
 そうして、缶ジュースと金券を人数分くれて、職員の方は、 忙しそうに離れて行った。
「じゃあ、流れを確認しておこうか」
  食堂のテーブルに座って、うち合わせしていると、王崎先輩を 見つけた職員や入所しているお年寄りが、次々声を掛けてきた。
「あら〜、王崎君。今日、宜しくね〜」
「よう、ヴァイオリン弾きのお兄ちゃん、今日は何弾いてくれ るんだい?」
 当然、というべきか、女性陣の視線が熱い。ちょっとしたアイ ドルって感じ? 土浦君にそっと「先輩、人気者だね」と囁くと、
「そうだな。人望っていうか、人徳っていうか。なかなか真似 できるもんじゃないな」という返事が返って来た。
  車いすのおばあちゃんの前に膝をついて、やさしく話しかけて いる王崎先輩の姿を見ていると、私まで胸のあたりがあったか くなった。
 私たちの順番は、和太鼓演奏の後だった。祭り装束の男の人 って、かっこよく見える。
威勢のいいかけ声とともに、力強く 太鼓を叩く粋なお兄さんたちを眺めながら、
「土浦君も、ああいう格好したら、2割り増し、かっこよく見 えるかもよ?」と言ったら、「るせー」と頭をはたかれた。
「そうだね、土浦君は似合いそうだね。俺は、ダメかな?」
「王崎先輩は、浴衣の方が似合いそうですね。今日着てくれば、 ここのおばあちゃんたち、大喜びしたんじゃないですか」
 心の中で、私も見たいかもと、付け加えた。
「うーん、浴衣で、ヴァイオリンってのは、ちょっと合わない んじゃない?」
「あはは、それも、そうですね」 そんなことを言ってるうちに、私たちの順番が来た。
  司会の人が、「星奏楽院の皆さんによる楽器演奏です」と紹介 すると、
ミニステージを囲む観客たちの間から、嬉しそうな どよめきが上がった。
王崎先輩が、あいさつのためにマイクを 握ると、数人の女の人から掛け声が掛かった。
(ん〜、やっぱり、アイドルっぽいなあ)
 ぼーっと考えてたら、あいさつを終えた王崎先輩から、 スタンバイの合図が送られてきた。
いけない、集中しないと!  まず、一曲目は「北酒場」だね。それから、「お祭りマンボ」。
こんな曲を、アンサンブル用の楽譜に起こす王崎先輩って、やっ ぱりすごいよね。
すこーんと抜けていくような 明るいメロディと、テンポがその場を覆っていくと、
小声で歌ったり、手拍子したり、からだ全体でリズムを 取ったりする人も出てきて。  
 ヴァイオリンって、じっと耳を傾けてもらうものだと思ってた けど、
人を踊らせることだって、できるんだ。
 提灯に照らされて 浮かび上がる、聴いてくれる人たちの笑顔。
みんなのからだと 心がリズミックに跳ねるのを肌で感じて、私のからだも自然に 動いていた。

「こういうのも、悪くねえな」
 缶ジュースのプルタブを開けながら、土浦君が、にっと笑った。 一回目の演奏を終えた私たちは、夏祭りを楽しませてもらってい た。後、閉会の前に、もう一度演奏するまで、自由時間。 屋台で金券と交換して来た、焼きそばやたこ焼きを つまみながら、のんびりしていた。
「うん、楽しかった〜。演歌を人前で弾いたのも初めてだったし」
「ああ〜、そりゃ、こういう場所だったら、クラシックより演歌 だろ」
「おチャイコ節もダメ?」
「おまえ、この場で愁情たっぷりに弾く勇気あるのかよ?」
「ない。断言できる」
「だろ?」  
 場内には、中庭で始まった盆踊りの音楽が、流れている。
「ここはやっぱり、ズンドコ節だぜ」
 櫓の方に目をやると、盆踊りに引っ張り出された王崎先輩が、 見よう見まねで、
ぎこちなく踊っていた。
「あはは〜。王崎先輩も踊ってる〜」
「盆踊りのレベルが、ヴァイオリンほどじゃないのは、 残念だな。
天は二物を与えずってところか?」
「でも、先輩、楽しそう〜」
 私たちの周りには、車いすのお年寄りや、お母さんに連れ られた小さな子供たちが、笑顔で行き交っている。車いすを 押している職員の人が、身をかがめてお年寄りに話しかける 様子と、手を引きながら子供の様子を見守るお母さんのしぐ さが、よく似ているのを私は発見した。
(大丈夫? 楽しんでる?)
このにぎやかで、なごやかな空間で、そんないたわりが込 められた動作。
 そう言えば、コンクール中、王崎先輩は、よくそんな言葉 をかけてくれたっけ。
(楽しんでる? 日野さん)
 そう思ったら、胸が熱くなって、こんな言葉が口をついて 出た。
「ん〜、ここは王崎先輩ワールドだね」
「なんだ、それ?」
「うまく言えないけど……。みんなで楽しもうっていう、 やさしさが流れてる世界?」
「ふん、ちょっとクサいけど、いいところ、突いてるんじゃ ねえか?」
 土浦君の目が、よしよし、という感じで注がれるのが、 ちょっと照れくさい。
同じ年なんだけどなあ。
 その時、曲の切れ目になって、王崎先輩がようやく盆踊り の輪から脱出してきた。
「ああ〜、参ったよ。踊らされちゃって」
「お疲れさまっス〜」
「先輩、やっぱり来年は浴衣着用ですね。弾いて踊れる ヴァイオリニスト!」
 「そんなこと言うんなら、来年は日野さんにも着てもらうよ」
「ってことは、当然土浦君もですよね?」
「はあ〜? 俺は、勘弁しろよ」
「じゃあ、浴衣じゃなくて、お祭りのはっぴにする?」
「てめえ、いいかげんにしろよ!」
  私と土浦君のそんなやりとりを、王崎先輩はにこにこして 見ていた。
「よかった。夏休みなのに、無理言って来てもらったけど、 楽しんでくれてるみたいで。来年も都合がついたら、 来てくれるよね?」
  この笑顔で言われたら、まず逆らえない。
「はい、来ます」
「俺も来ますよ。ただし、普通の服で」
「ありがとう。もうすぐ盆踊りが終わるから、そろそろ 準備しよう」
「はい!」
 最後は、私たちが弾く「上を向いて歩こう」に合わせて、 みんなが合唱して、
締めくくった。みんなの歌声が、夜空に 吸い込まれていくみたいだった。
 帰り道でも、その気分が残っていて。 つい「上を向いて歩こう」を口ずさんでしまった。
「……いい晩だったな」
 隣を歩く土浦君が言った。家が同じ方向なので、途中まで 一緒。
「うん、何か、王崎先輩の魔法にかかったみたい」
「魔法か〜。確かにな。あの人がファータに選ばれたのって、 納得できるな」
(自分も楽しみたいし、人にも楽しんでもらいたいんだ)
王崎先輩先輩の言葉が、耳に甦ってくる。
「私……。私はどうなんだろう?」
「は?」
 ……私の音楽に、そんな魔法はあるんだろうか。
いきなりリリに選ばれて、魔法のヴァイオリンを渡されて、 それも壊れてしまったけど。
コンクールが終わっても、 私は、まだヴァイオリンを続けている。
 そんなことを考えてたら、土浦君の手が、ぽんぽんと 私の頭を叩いた。
「俺は、好きだぜ。おまえの音。魔法があるとかないとか考えなくても、
おまえの音が好きなヤツがいて、おまえ自身 がヴァイオリンが好きなら、
それで十分だろ?」
「……うん」
「じゃあ、俺、こっちだから、この辺で。また、新学期にな」
 今度、おチャイコ節を合わせようぜ、と笑って手を挙げて、 土浦君は角を曲がって行った。
 土浦君の言葉をもう一度噛みしめるうちに、私は思いきり、 首を縦に振っていた。
うん! そうだよね、好きだから続け る、それでいいんだよね。
まだ、このからだに残る、今日弾 いた、みんなで楽しんだ音楽の余韻。
これからも、そんな音 楽を奏でていけたらいい。
 家路をたどる私のそばを、夜風が吹きすぎていく。その涼 しさに、私は夏の終わりを感じた。
そう、夏が終わっても、 秋が過ぎても、冬が来ても、私はずっとヴァイオリンを弾い ていたい。
来年の夏もきっと……。
 空高く昇ってきた月を仰いだ。これからは自分で自分に、 音楽の魔法をかけていくのだ、と。
 いつの間にか、家の前まで来ていた。遠くから、どこかの 盆踊りの音楽が流れてきた。
すると、笑いが込み上げてきた。
「問題は土浦君だよね」
  来年の夏祭りで、どうやって土浦君に浴衣、 もしくははっぴを着せるか。
本人の怒り顔を思い浮かべると、 笑いが止まらなくて。
玄関先で出迎えたお母さんが、怪訝な 顔をした。
 音と、笑顔にあふれた、忘れられない夏の晩……。
                                (終わり)                           


実は、ご近所の老人ホームで、毎年夏祭りがあって、 地域住民にも開放されているので、おじゃましています。 いつにも増して、ラブ度の薄い話ですが、自分の萌え ポイント、織り交ぜつつ書いたので、楽しかったです。>
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