管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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かなり前に書いた、友雅×あかねのお話です。
思いだしたので、載せておきます。
これを書いた頃は、Webを意識していなかったので、長いです^^;
(注)・話のラストに近い部分に、15禁程度の性描写があります。
・頼久さんが、ちょっと可哀相なことになっているので
「彼がしあわせじゃ なきゃ、いや!」 という方は、スルーされた方がよいかと思われます。
以上の点、大丈夫だと思われる方のみ、つづきから どうぞ。
思いだしたので、載せておきます。
これを書いた頃は、Webを意識していなかったので、長いです^^;
(注)・話のラストに近い部分に、15禁程度の性描写があります。
・頼久さんが、ちょっと可哀相なことになっているので
「彼がしあわせじゃ なきゃ、いや!」 という方は、スルーされた方がよいかと思われます。
以上の点、大丈夫だと思われる方のみ、つづきから どうぞ。
「照る山の……」
「神子様、庭のもみじが色づき始めましたわ」
藤姫が差し出した、黄色から赤へと葉の色が変わりつつある一枝を、あかねは喜んで受け取った。
「わあ、きれい! そっかー、朝晩冷えて来たと思ったら、もうそんな季節なんだ」
「ええ、これから時雨の降るたびに、色が濃くなって、やがて小倉山のもみじも真っ赤に染まることでしょう」
「小倉山って、歌にもよく詠まれているもみじの名所だよね。たしか百人一首にも歌が……」
「その通りですわ。神子様、随分お勉強が進まれたようですわね」
「いや、それほどでも。でも巴さんの教え方が上手だから、随分とこっちの巻物も読めるようになったよ。元の世界に帰ったら、古典の試験で満点取れそう」
巴というのは、藤姫があかねに付けた女房の名である。宮仕えの経験もある中年のしっかりした婦人で、あかねにこの世界での貴婦人としての教養を身に着けさせるべく、日夜心を砕いている。
「お勉強が進んでおられるのは、もちろんけっこうなことですけれど、それ以上に、最近の神子様は、以前にも増して美しくおなりですわ」
楽しげに話すあかねを、まぶしげに見ながら、藤姫が言った。
「やだ、急にそんなこと言われたら、照れるじゃない」
「いいえ、ほんとうのことですわ。女の私でも見とれてしまうぐらい。ふふっ、おしあわせですのね」
「もう、藤姫ちゃんたら!」
藤姫の言葉の言外のニュアンスに、あかねは頬を染めた。確かに、恋ほど乙女を美しくする妙薬はない。龍神を召喚し、京を鬼の脅威から救った後、八葉の一人、橘友雅と生きることを選んで、この世界に残ったあかねだった。貴婦人になるための訓練も、彼にふさわしい女性になろう、と思えば自然身が入るし、楽しかったのである。
と、その時、側仕えの女房が文を持って来た。
「あかね様にお文が届いております」
清楚な萩の一枝が添えられた文を見た時、あかねの顔はぱっと輝いた。それを見た藤姫は、心得顔で言った。
「では、私、そろそろ失礼致しますわ。今日鷹通殿が新しい絵巻物を届けて下さるとのことですので、夕刻にでもご一緒に眺めましょう。では……」
「あ、藤姫ちゃん……」
するすると退室する藤姫を、あかねは呼び止めようとしたが、心の半分はすでに文の方へ行っていた。恋人の移り香が染みた文を、大切そうに胸に押し当てると、端近の光の入る場所に移動し、わくわくしながら開いた。
ようやくに読み慣れて来たこの世界の書体。あかねには、まだ字の善し悪しの鑑賞はできかねたが、藤姫や巴に言わせると、友雅は相当な達筆らしかった。もっともあかねにしてみれば、友雅が筆を執って書いたというだけで、慕わしく好ましいものであることは、言うまでもない。
ところが、期待に輝いていた顔が、文の内容を読み進むうちに、次第に曇り始め、夕刻、藤姫が絵巻物を携えて、再び部屋を訪れた時には、あかねは一見してわかるほど打ち萎れていた。
「神子様、どうなさったのです?」
「ああ、藤姫ちゃん。うん……友雅さんと明後日会う約束をしてたんだけどね、何でも急に帝が小倉山に行かれることになって、お供をしなくちゃならないから、こっちに来られないって……」
「まあ、それは残念ですわね」
友雅は、武官の中でも、帝の側近と言ってもよい地位にある。本人はひょうひょうとふるまってはいるが、宮中行事やまつりごとが立て込む折りには、なかなかに忙しく、体が空かないのもままあることだった。
年齢の割に怜悧な藤姫には、そのあたりを推察することはできた。が、あかねがこんなにもがっかりする気持ちは、恋を知らない少女としては、正直ぴんとは来なかった。ただかいま見る大人たちの恋愛模様や、物語から、そんなものかと思い合わせ、また、もしかしたら自分が亡母を慕うようなものかも、などと想像したりして、あかねを理解しようと努めた。
「小倉山、でしたら、少し時期は早いですが、紅葉賀が行われるのでしょう。友雅どのは常に帝のお側近くに仕えておいでですから、外すわけにはいかないのでしょう」
藤姫の言葉に、あかねは朝の会話を思い出し、部屋の隅に壷に挿して飾った紅葉の枝を見やった。そして色づく紅葉の下で、正装した友雅が、りりしく帝の側に控えている図を、思い描いてみた。それはたいそう美しい絵ではあったが、そこにいる友雅は自分一人のものではなかった。
「そう…だよね。友雅さんには大事な仕事があるんだもんね。仕方ないよね……」
「神子様……」
ますますしょげてしまったあかねを元気づける言葉を、藤姫は必死に探したが、幼い彼女にはいかんともしがたかった。
(どうしたら、いいのかしら……)
手をこまねいているところへ、御簾越しに声が掛かった。
「神子殿、失礼致します、頼久です」
「あ、頼久さん」
心ここにあらず、と言った風情だったあかねが、とりあえずこの呼びかけに反応したので、藤姫はほっとした。
「頼久、神子様にご用なの」
「あ、姫様もお渡りでしたか。用というほどのものではないのですが、本日所用で洛中に出ましたところ、イノリに会いまして、神子殿への伝言をことづかりました」
「イノリ君が? 何だろ? 頼久さん、かまわないから、どうぞお入りください」
「では……失礼致します」
貴婦人がいる御簾の内側には、本来親しい身内の男性以外は、入れないことになっている。屋敷に仕える武士である頼久を入れるなど、一般的な貴婦人のたしなみからすれば、言語同断の行為である。だが、そうと知っていても、あかねはその慣習をあえて破り、藤姫もそれについてとやかく言うことはなかった。
あかねが京に来たのは、怨霊との戦いのさなかだった。八葉たちと気を一にして、敵に立ち向かわねばならない時に、そんな形式は無用のものだった。そのため、八葉たちもほとんど遠慮なしに、御簾越しではなく、じかにあかねと言葉を交わしてきたのだった。
戦いも終わり、まして貴婦人を目指す今のあかねにとって、そうした元々のしきたりにも馴染まねばならないところだが、共に苦難を乗り越えてきた八葉たちに対して、今更隔てを設けることなど、彼女にはできるものではなかった。
「それで、頼久さん、イノリ君の伝言って?」
あかねに促されて、膝を着き、礼の姿勢を取っていた頼久は目を上げた。
「”つるさんの所の赤ん坊が昨夜生まれた”と。それだけ言えば、神子殿にはわかる、とイノリは申しておりましたが」
「あ、そうなんだ〜。よかったあ〜」
手を打って喜ぶあかねに、藤姫が尋ねた。
「神子様、よろしければ、お話頂けませんか。つるさんというのは、どなたですの?」
「あ、うん、イノリ君のおうちの近所に住んでる人だよ。この間仕事の様子を見せてもらった時に、紹介してもらったんだ」
「で、その女性がお産をした、と、そういうことですか」
あかねの弾んだ様子に、頼久もつり込まれたようだった。
「そうなの。つるさんって、色が白くて、とってもかわいい感じの人だから、生まれる赤ちゃんもすごくかわいいだろうなあって、みんなで話してたの。ねえ、藤姫ちゃん、私、赤ちゃん見に行ってもいいかな」
「それは、もちろん。でも今日はもう時間がおそいですから、明日になさいませ」
「あ、そうだね、もう日が暮れちゃうもんね。そうするよ」
あかねにうなずきかけた藤姫は、頼久の方を向いた。
「頼久、明日神子様にお供しなさい」
「かしこまりました」
「え、でも〜、頼久さんだって仕事があるんでしょう。私が遊びに行くのにつき合ってもらっちゃ、悪いよ」
頼久は微笑んだ。
「神子殿のお供をする以上に大切な仕事など、私にはありません」
「頼久の言う通りですわ、神子様」
至極当たり前のように言う頼久と藤姫を前に、あかねはそれ以上の反論を飲み込んだ。
「そう…。じゃあ、お願いしようかな」
「では、明日お迎えにあがります」
「神子様、お誕生のお祝いの品などは、どう致します?」
あかねが”頼む”と言った瞬間、嬉々としてことを運ぼうとする二人の様子に、あかねは内心小さなため息をついた。
(もう、そろそろ普通に扱ってほしいんだけどな…)
頼久が退出した後、あかねは鷹通から贈られた絵巻物を眺めていた。官僚らしく、漢文を好む鷹通にしては珍しい、四季折々の情趣あふれる風景画に、和歌のそえられた目にも美しい絵巻物だった。以前に、これらは大変興味深い書物です、と、難解な漢文の書物をどっさり届けて来たことを思えば、格段の進歩(?)ではある。
傍らで一緒に眺めながら、藤姫が和歌の解説をしてくれたので、絵に伴う作者の感慨をも、あかねはよく理解できた。概ね、あかねはうなずきながら話を聞く側だったが、ある場面に来た時、それは逆転した。それはこの絵巻物の作者である国司の妻が、夫の任地であった紀伊の風景を描いた場面に来た時だった。藤姫は浜辺に寄せる波の絵を見て「これは何なのでしょう? 私にはわかりませんわ」と言ったのである。
あかねはちょっと驚いたが、藤姫がまだ幼い深窓の姫であれば無理からぬこと、と思い、説明を試みた。年齢より大人びた藤姫に、少しは年長者らしく、物を教えてやれるのも、うれしかった。
「これは波だよ。海の水が繰り返し浜辺に寄せて来るんだよ」
「まあ、では、これは水ですの? 白く描いてありますのに」
「それは、ええと……ほら川の水だって、岩にぶつかって跳ね上がると白く見えることがあるでしょう? それと同じで、この水は動いて泡だってるから、白く見えるんだよ」
「水とはこんなに激しく動くものなのですか……」
しげしげと絵に見入る藤姫に、あかねは寄せる波の音や、潮の香り、海の広大さを伝えようとした……が、海というものを概念としてすら知らない藤姫に、とうてい説明しきれるものではなかった。
「……ごめん、うまく説明できない。一度ほんとの海を見たら、藤姫ちゃんにもどんなものかわかってもらえるんだけどなあ」
藤姫は微笑みながら首を振った。
「いいえ、とても楽しいお話でしたわ。私はこの邸から出ることは、ほとんどありませんし、まして遠い紀伊の海を実際に見ることは、恐らく一生ないと思いますけれど、こうして絵を眺め、神子様のお話を伺っているだけで、思いを馳せることができますわ。神子様はほんとうに私の知らないことを、たくさんご存じですのね。これからもいろいろなお話を聞かせてくださいませね」
「あ、うん、それはいいんだけど……」
あかねは言葉に詰まった。あかねが藤姫の年頃には、夏には海水浴に連れて行ってもらって、思うさま泳いだり、浜辺で遊んだりしたものだ。だが、藤姫は……。藤姫は恐らく、一生知ることはないのだろう、泳いでいて、うっかり飲んでしまった塩辛い海水の味や、裸足の足の裏を焼く熱い砂の感触、波のまにまに浮かぶことの心地よさを。
庶民ならいざ知らず、京の貴族の姫たる藤姫が海に入るなど、想像外であるし、また藤姫自身がまずそんな体験を受け入れることはできないに違いない……。そう思うと、重い十二単に身を包んだ、人形のように愛らしい藤姫が何かいたわしくて、あかねはその小さな肩を抱きしめずにはいられなかった。
「神子様? どうなさいましたの?」
あかねの行動にとまどって、小さく問う藤姫にあかねは微笑んだ。
「ううん、ごめんね? 藤姫ちゃんが私の話を聞いて喜んでくれたから、うれしくなっちゃったの」
「ええ、神子様とお話するのは、とっても楽しいですわ」
藤姫は安心したように、あかねの胸に頭をもたれさせた。幾重にも重ねられた手触りのいい絹の感触……しかし、それを通してなお伝わってくるぬくもりは……人形ではなかった。
その時、あかねの胸にふっと影が落ちた。
(……藤姫ちゃんは、お姫様だけど、お人形じゃない。この世界で確かに生きている生身の女の子なんだ。でも、私は……? 私はこんな風にこの世界を自分のものとして生きていくことができる? ほんとうに?)
少し力を込めたら折れそうな華奢な藤姫のぬくもりを受け止めながら、あかねの心は次第に不安へと傾いていった。
(……私、藤姫ちゃんみたいな貴族のお姫様にほんとうになれるんだろうか)
胸に兆した不安は、棘のようにあかねの心に食い込んでいった。
翌日、あかねは頼久に付き添われて、イノリの住む京の下町へと向かった。あかねは牛車に乗るよりも、自分の足で歩く方を好んだので、頼久は油断なく周囲に気を配りながら、彼女の傍らを歩いていた。人混みにあっては彼女をからだでかばい、石段があれば手を貸そうとする。頼久が自分を大切にしてくれるのはうれしい反面、そこまでお姫様扱いしてくれなくても、という思いがあかねにはある。
「ねえ、頼久さん」
「はい、神子殿」
「えっと〜、かばったり守ったり、気を遣ってくれるのはうれしいんだけど、……なんて言うのかなあ、私は頼久さんにもっと普通にしてほしいなあ」
「?? と、おっしゃられますと?」
「だから〜、こうして歩いていたら、いろんな人がいたり、お店があったりするじゃない? そういうのを一緒に楽しく眺めたり、話しながら歩けたらなあって」
「……申し訳ありませんが、神子殿。おっしゃることが私にはよく理解しかねます。神子殿に万が一のことがないよう、お守りするのが私の使命。それをするなとおっしゃられましても……」
こういう答えが返ってくることを半ば予測はしていたが、あかねはちょっと理不尽な怒りのようなものを覚えて、唇を尖らせた。
「頼久さんは、役目だから、使命だから一緒にいてくれるだけで、私と歩いても楽しくないんだ?」
頼久は、胸に手を当て、目を伏せた。
「……神子殿、ご気分を害したのでしたら、お詫び申し上げます。何分、不調法なもので……神子殿を楽しませることもできず……」
「だから〜、そうじゃなくって〜。私たち、ずっと一緒に戦ってきた仲間、お友達でしょう? 頼久さんの方が年も上なんだし、“神子”としてでなく、元宮あかねっていう普通の女の子として接してほしいの」
あかねの言葉に、頼久は困惑したように眉をひそめ、さらに深々と頭を垂れた。
「……神子殿は、私の主です。この剣を持って全力で主をお守りするのが、武士としての私の生き方です」
「……生き方ね。そう言われたら、もう引き下がるしかないんだけど。いいわ、困らせてごめんなさい」
あかねは、くるりと踵を返して頼久に背を向け、すたすたと歩き始めた。
「神子殿、お待ち下さい!」
後を追う頼久の目に、せつなげな色がにじんでいたことを、あかねは知るよしもなかった。その目は言っていた。「あなたは私が触れてはならない人なのですよ……」と。
低い屋根の粗末な家並みの間を、あかねはもの慣れた様子ですいすいと歩いていく。そんな彼女に町の住民たちも実に気軽に声を掛けてくる。
「おや、あかねちゃん」
「こんにちは、元気だった?」
「ああ、元気さ。イノリなら、さっきつるさんの所へ行ったよ」
「ありがとう。私も今から行くところなの」
そこここから、掛けられる言葉に、にこやかに応じるあかねの姿を、頼久はあっけに取られて眺めていたが、たまりかねてあかねに問いかけた。
「神子殿は、このあたりによく足を運ばれるのですか」
「うん。っていうか、イノリ君のところへ遊びに来るうちに、ご近所の人たちとも顔見知りになったの」
「さようでございますか…」
心なしか、藤姫の館にいる時よりも、神子殿は生き生きして見える……と頼久は思った。鬼が撒いた穢れが浄化され、京に平穏が戻った現在、自然頼久も八葉としてあかねの側にいるよりも、本来の武士としての務めを果たす時間の方が長くなっていた。そうして側を離れている間に、神子殿は自分なりに京に馴染んでいったのだろう、と頼久は思った。
「着いたわ、ここがつるさんのおうちなの」
粗末ながらもこぎれいな一軒の前であかねは足を止め、枝折り戸を軽く叩いて来意を告げた。
「こんにちは、つるさん。あかねです。お祝いに来ました」
中からは細いやさしげな女の声でいらえがあった。
「どうぞ、入って……。あかねちゃん」
「おじゃましまあす」
あかねはいそいそと足を踏み入れた。後に続いて頼久は長身を折るようにして、低い戸をくぐった。
「おう、あかね、来たんだな。頼久も来たのか」
板の間であぐらをかいたイノリが、軽く手を挙げた。イノリの前には、かなり大きい藤かごがあり、その傍らには、色の白いほっそりした若い女が微笑んでいた。
「イノリ君、こんにちは。つるさん、おめでとう! 赤ちゃんは?」
履き物を脱ぐのもそこそこに、あかねは板の間に上がった。頼久は遠慮して、そのまま土間にたたずんでいた。
「ここよ」
つるは、あかねに藤かごを示した。その中にはありあう布に、それでもしっかりとくるまれて、生まれて間もない赤ん坊が眠っていた。
「っわ〜、かわいい〜! 男の子? 女の子? どっち?」
「女の子なの」
「じゃあ、きっと、つるさんに似て美人になるね!」
生まれたての赤ん坊が珍しくて、目を離せないでいるあかねに、頼久は軽く咳払いをして、注意を促した。
「神子殿」
頼久を振り返ったあかねは、すぐに彼の言わんとするところを察した。
「いけない、つい夢中になっちゃって、お祝いを渡すのを忘れるところだったわ」
あかねは、道中頼久が携えて来た包みを受け取ると、つるの方へ押しやった。
「これ、赤ちゃんの着物なの。私、よくわからないから、巴さんに揃えてもらったんだけれど」
「まあ、あかねちゃん……」
包みを広げて、つるは言葉につまった。
「……あかねちゃん、申し訳ないけれど、これは受け取れないわ……」
「どうして? 気に入らなかった?」
驚くあかねに、つるは困ったような笑みを浮かべながら、言った。
「いいえ、とんでもない。こんな上等の産着、見たことがないわ。……ただ、その……私たちには分不相応な物なのよ。あかねちゃんの気持ちはほんとうにうれしい。気持ちだけ受け取らせてね」
「分不相応って?」
ほどいた包みをまた丁寧に包み直すつるの手元と顔を、戸惑いながら見比べているあかねに、イノリが言った。
「……あかね。こんな産着を赤ん坊に着せていたら、つるさんが近所でなんて言われるか、おまえ、考えつくか。何で、ここのうちだけって、やっかまれちまうぜ。それとも、おまえ、この界隈で赤ん坊が生まれるたんびに、同じような祝いをできるのか。それなら、話は別だけどよ」
「い、いえ、そういうわけじゃ……」
「イノリ! 神子殿に対して、言葉が過ぎるぞ!」
「だって、ほんとのことじゃねえか」
つると頼久がほぼ同時に、イノリの言葉に反論したが、あかねは、思わずぐっと膝の上の自分の手を握りしめた。そしてゆっくりと、言葉を押し出した。
「……わかった。私のしたことって、つるさんに迷惑だったんだよね。ごめんなさい……」
「あかねちゃん……」
「神子殿……」
気遣わしげに見つめるつると頼久に、あかねは無理に笑顔を作ってみせた。
「じゃあ、用事もすんだし、藤姫も待ってるから、私、帰るわね」
「あかねちゃん……」
「あかね、あんまり気にすんなよ」
「うん、気にしてない。じゃあ、またね、つるさん」
イノリにうなずきかけ、つるに軽く手を振ると、あかねは立ち上がり、出て行こうとした。
「では、私も失礼する」
頼久も軽く頭を下げると、あかねと共に、つるの家を後にした。
「では、帰りましょう、神子殿。どうなさいました?」
うなだれているあかねの顔を、頼久は気遣わしげにのぞき込んだ。
「……ごめんなさい、頼久さん。先に帰って」
「神子殿、それはどういう……? 神子殿っ!」
「お願い! 少しの間、一人にさせて!」
叫ぶように言うと、あかねはくるりと頼久に背を向け、走り去って行った。
「神子殿!」
突然のあかねの行動に一瞬あっけに取られ、また「一人にさせて」という言葉の意味を考えて、頼久は、わずかの間逡巡したが。
(やはり、お一人にはしておけない……。神子殿、お探し致します)
頼久は、能う限りの速さで、あかねを追い始めた。
(第二話へ)
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