管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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「この花のように」
「おはようございます、ティムカ様。……あら?」
その日、水の守護聖ティムカ様の執務室を訪れた私の前に 現れたのは、ご当人ではなく、守護聖補佐の人だった。
「ティムカ様は、今、テラスにいらっしゃいます。ご案内致 します」
案内されたのは、聖殿の廊下の片側に、等間隔で設けられ ている扉の一つ。
「こちらです」
促されて、扉を開いてみると、そこは光と緑にあふれた広い テラスだった。色とりどりの花がこぼれ落ちそうな鉢の間に、 捜していた人の後ろ姿があった。いつもすらりと伸びている 長身をかがめて、何か作業をしている様子だった。
「ティムカ様」
声を掛けると、落ち着いた動作で振り返った。
「ああ、エンジュ。すみません、席を外していて」
「いいえ、私の方こそ、おじゃましてしまって。何をしていら したんですか?」
「この花に水をやっていたんですよ」
言いながら、ティムカ様は体をずらして、私に見えるように して下さった。そこには、見たことのないラッパのような形の 花の鉢があった。
「きれい。近くで見ていいですか?」
「ええ、どうぞ」 ティムカ様は、鉢を持ち上げると、私の近づく方へ向かって 置いて下さった。傍で見てみると、鉢の縁に沿って数本の支柱 が立てられ、それを結ぶように輪がいくつかはまっていた。 その支柱と輪に、つるがからみつき、ラッパのように広がっ た部分は空色で、中心部は白い、涼やかな花がいくつも咲いてい た。
「先日神鳥の宇宙へ行った折りに、ルヴァ様が下さったのです よ。朝顔という花だそうです」
「朝顔……。初めて見ました」
「ええ、実は私も。ルヴァ様に見せて頂くまで、知りませんでし た。朝開いて、夜にはしぼんでしまうのですけれど、 次々咲くのが楽しみで、毎朝見に来てしまうんです」
そうしてティムカ様は、こういうのが明日咲くんですと、蕾を 示して下さった。蕾は、空色をかいま見せている もうすぐ咲きそうなものもあれば、まだ固く巻いたものもあり、 これからまだまだたくさん花を開きそうだった。
「原産地では、暑い夏の盛りに咲くのだそうです」
そう言うと、ティムカ様は目を遠くにさまよわせた。 私は、ふとティムカ様に守護聖になって頂くべく、 白亜宮の惑星を訪ねた時のことを思いだした。 あの惑星が亜熱帯性の気候で、まばゆいばかりの日差しが 降り注いでいたことを。
気候が一定に保たれた聖地には、あの灼けつくような 日差しも、からりとした暑さもない。 ティムカ様の小麦色の肌は、あの日差しのもとで、培わ れたものなのに。 大切なものを、失わせてしまった、という責任の重さに、 今更ながら胸が詰まりそうになった。 ティムカ様は、そんな私の思いを読みとったようだった。 黒曜石の瞳が、やさしく私を見つめた。
「ねえ、エンジュ。この花は、毎日生まれ変わって、 私の気持ちをさわやかにしてくれます。 ルヴァ様は、きっと私にこの花のようであれと、 そういうお気持ちで贈って下さったのだと思うのですよ」
「え? どういうことですか?」
「私たちの聖獣の宇宙は、日々成長をしています。 その成長を助け、調和へ導くのが、私たち守護聖の役目。 ことに水の守護聖である私の使命は、涼やぎをもたらす ことです。毎日を精一杯生きている人々に、この花のように、 新鮮な涼やぎを贈れたら、すてきだと思いませんか?」
「ティムカ様……」
「見て下さい、エンジュ」
ティムカ様は、つるの中にところどころに付いている、 緑色の丸いものを指した。
「これは、種ですよ。こんな美しい花を咲かせて、 次世代への種も残す……。私も、そんな風な仕事ができ たらと、願っています」
ここでティムカ様は、軽く息を吸い込み、少しの間、 言葉を探しているようだった。普段は落ち着きを深く たたえたティムカ様の瞳が、輝きを増して、私に注がれる。
「……私がそういう仕事ができるよう、守護聖としての 使命をまっとうできるよう、ずっと見ていて下さい ますか?」
……その輝きに吸い込まれそうになりながら、 私は肯いた。
「はい、ティムカ様……」
とびきりの笑顔とやさしい言葉が、返って来た。
「ありがとう、エンジュ」
「いいえ、そんな、私こそ」
次の言葉が出なくて、うつむいて黙ってしまった。 ティムカ様も同じなのか、しばらく無言の、でもやわらかな 時間が流れた。 と、私の耳に、ティムカ様の声が降ってきた。
「この種が熟したら、あなたに差し上げますよ。育てて下さ いますね?」
「はい」
顔を上げ、しっかり肯いた私の前に、ティムカ様のしなやか な指が差し出される。
「では、約束」
絡めた小指のぬくもりとともに、ティムカ様の思いが、 じんわり私に伝わる。温かく深い思いが。 指を離すと、ティムカ様は一瞬照れたような笑みを浮かべ、 いつもの守護聖の顔に戻った。
「では、執務室に戻りましょう。ご用件をうかがいますよ」
「あ、はい!」
私も、エトワールに戻らなくては。でも、でも、その前に 一つだけ。
「あの、ティムカ様」
「はい?」
「明日の朝も、ここへ朝顔を見に来てもいいですか?」
黒曜石の瞳が、また輝いた。
「もちろん、どうぞ」
それだけ言うと、そそくさと私に背を向けた。
「では、参りましょう。今日一日、始まったばかりですか らね」
「はい!」
そのまっすぐな背を追う前に、私はそっと朝顔の花に顔を 近づけた。
「いっぱい、いっぱい咲かそうね」
この花のように、私も毎日新しい力を、聖獣の宇宙に届け よう。 扉を出るところで、ティムカ様が、私を振り返った。
「どうかなさいましたか、エンジュ?」
「今、行きます!」
今日一日と、広がりゆく未来に向かって、私は駆けだした。
(終わり)
どうも私は、恋愛まっただ中より、なれそめを書くのが好きな ようで……。いつもラブ度が高くなりません^^; 少しでも楽しんで頂けたなら、幸いです。
「おはようございます、ティムカ様。……あら?」
その日、水の守護聖ティムカ様の執務室を訪れた私の前に 現れたのは、ご当人ではなく、守護聖補佐の人だった。
「ティムカ様は、今、テラスにいらっしゃいます。ご案内致 します」
案内されたのは、聖殿の廊下の片側に、等間隔で設けられ ている扉の一つ。
「こちらです」
促されて、扉を開いてみると、そこは光と緑にあふれた広い テラスだった。色とりどりの花がこぼれ落ちそうな鉢の間に、 捜していた人の後ろ姿があった。いつもすらりと伸びている 長身をかがめて、何か作業をしている様子だった。
「ティムカ様」
声を掛けると、落ち着いた動作で振り返った。
「ああ、エンジュ。すみません、席を外していて」
「いいえ、私の方こそ、おじゃましてしまって。何をしていら したんですか?」
「この花に水をやっていたんですよ」
言いながら、ティムカ様は体をずらして、私に見えるように して下さった。そこには、見たことのないラッパのような形の 花の鉢があった。
「きれい。近くで見ていいですか?」
「ええ、どうぞ」 ティムカ様は、鉢を持ち上げると、私の近づく方へ向かって 置いて下さった。傍で見てみると、鉢の縁に沿って数本の支柱 が立てられ、それを結ぶように輪がいくつかはまっていた。 その支柱と輪に、つるがからみつき、ラッパのように広がっ た部分は空色で、中心部は白い、涼やかな花がいくつも咲いてい た。
「先日神鳥の宇宙へ行った折りに、ルヴァ様が下さったのです よ。朝顔という花だそうです」
「朝顔……。初めて見ました」
「ええ、実は私も。ルヴァ様に見せて頂くまで、知りませんでし た。朝開いて、夜にはしぼんでしまうのですけれど、 次々咲くのが楽しみで、毎朝見に来てしまうんです」
そうしてティムカ様は、こういうのが明日咲くんですと、蕾を 示して下さった。蕾は、空色をかいま見せている もうすぐ咲きそうなものもあれば、まだ固く巻いたものもあり、 これからまだまだたくさん花を開きそうだった。
「原産地では、暑い夏の盛りに咲くのだそうです」
そう言うと、ティムカ様は目を遠くにさまよわせた。 私は、ふとティムカ様に守護聖になって頂くべく、 白亜宮の惑星を訪ねた時のことを思いだした。 あの惑星が亜熱帯性の気候で、まばゆいばかりの日差しが 降り注いでいたことを。
気候が一定に保たれた聖地には、あの灼けつくような 日差しも、からりとした暑さもない。 ティムカ様の小麦色の肌は、あの日差しのもとで、培わ れたものなのに。 大切なものを、失わせてしまった、という責任の重さに、 今更ながら胸が詰まりそうになった。 ティムカ様は、そんな私の思いを読みとったようだった。 黒曜石の瞳が、やさしく私を見つめた。
「ねえ、エンジュ。この花は、毎日生まれ変わって、 私の気持ちをさわやかにしてくれます。 ルヴァ様は、きっと私にこの花のようであれと、 そういうお気持ちで贈って下さったのだと思うのですよ」
「え? どういうことですか?」
「私たちの聖獣の宇宙は、日々成長をしています。 その成長を助け、調和へ導くのが、私たち守護聖の役目。 ことに水の守護聖である私の使命は、涼やぎをもたらす ことです。毎日を精一杯生きている人々に、この花のように、 新鮮な涼やぎを贈れたら、すてきだと思いませんか?」
「ティムカ様……」
「見て下さい、エンジュ」
ティムカ様は、つるの中にところどころに付いている、 緑色の丸いものを指した。
「これは、種ですよ。こんな美しい花を咲かせて、 次世代への種も残す……。私も、そんな風な仕事ができ たらと、願っています」
ここでティムカ様は、軽く息を吸い込み、少しの間、 言葉を探しているようだった。普段は落ち着きを深く たたえたティムカ様の瞳が、輝きを増して、私に注がれる。
「……私がそういう仕事ができるよう、守護聖としての 使命をまっとうできるよう、ずっと見ていて下さい ますか?」
……その輝きに吸い込まれそうになりながら、 私は肯いた。
「はい、ティムカ様……」
とびきりの笑顔とやさしい言葉が、返って来た。
「ありがとう、エンジュ」
「いいえ、そんな、私こそ」
次の言葉が出なくて、うつむいて黙ってしまった。 ティムカ様も同じなのか、しばらく無言の、でもやわらかな 時間が流れた。 と、私の耳に、ティムカ様の声が降ってきた。
「この種が熟したら、あなたに差し上げますよ。育てて下さ いますね?」
「はい」
顔を上げ、しっかり肯いた私の前に、ティムカ様のしなやか な指が差し出される。
「では、約束」
絡めた小指のぬくもりとともに、ティムカ様の思いが、 じんわり私に伝わる。温かく深い思いが。 指を離すと、ティムカ様は一瞬照れたような笑みを浮かべ、 いつもの守護聖の顔に戻った。
「では、執務室に戻りましょう。ご用件をうかがいますよ」
「あ、はい!」
私も、エトワールに戻らなくては。でも、でも、その前に 一つだけ。
「あの、ティムカ様」
「はい?」
「明日の朝も、ここへ朝顔を見に来てもいいですか?」
黒曜石の瞳が、また輝いた。
「もちろん、どうぞ」
それだけ言うと、そそくさと私に背を向けた。
「では、参りましょう。今日一日、始まったばかりですか らね」
「はい!」
そのまっすぐな背を追う前に、私はそっと朝顔の花に顔を 近づけた。
「いっぱい、いっぱい咲かそうね」
この花のように、私も毎日新しい力を、聖獣の宇宙に届け よう。 扉を出るところで、ティムカ様が、私を振り返った。
「どうかなさいましたか、エンジュ?」
「今、行きます!」
今日一日と、広がりゆく未来に向かって、私は駆けだした。
(終わり)
どうも私は、恋愛まっただ中より、なれそめを書くのが好きな ようで……。いつもラブ度が高くなりません^^; 少しでも楽しんで頂けたなら、幸いです。
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