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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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何とか14日中にアップすることができました。
って、後三十分だけど^^;
過去、公開、未公開含めて何本か頼久さんの出てくる話を書いてます。
その中で大抵可哀相なことになっている頼久さんへのお詫びの気持ちで
今回書いたのですが……。ギャグになってしまいました^^;
(とりあえず、今回はしあわせなはず。でも、糖度、低っ!)
現代ED後のねつ造話です。

あ、以前に書いた頼久さんのギャグ話を読んでみたいと思われる方は、
お友達の小倉どらさんのサイト「幸せな休日」さんへ、お運び下さいませ。
差し上げたギャグ話を展示して下さっています。

では、つづきから どうぞ^^

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「チョコレート騒動顛末記」


 久々に冬の青空が広がったその日、頼久は初めてその門をくぐった。
「ここが、神子殿の学校か……」
 まだ京で怨霊と戦っていた頃、あかねが、つれづれに、自分の世界では、高校という場所で学問をする高校生なのだと、話してくれたことがあった。その時は具体的な想像もできないまま「そういうものなのか」と、思っただけだった。
 だがこうして、あかねを愛するがゆえに、京を捨て、彼女の世界に生活するようになった今は異なる感慨が湧く。あかねが、ここで一日の大半を過ごし、青春を謳歌しているのだと思うと、何とも慕わしいような、興味深いような気持ちがするのだ。

  応龍の力によって、この世界へ来て、まだ一月余り。
 本来なら、戸籍も住所も存在しないため、相当不安定な立場となるはずの頼久だったが、応龍の力は、彼に時空を超えさせただけではなく、現代にとけ込んで生きてゆける適当な身分までも用意した。それは主に剣道や柔道などの道着や防具、竹刀などを扱う小規模な会社の新入社員というものだった。
  この世界に来ると同時に、はめ込まれたこの情況に、当初は戸惑った頼久だったが、職場に通ううちに、武士であった自分の経験、知識がそれなりに生かせる仕事であることに気づいた。真剣こそ扱わないものの、木刀や竹刀に触れるのは、やはり馴染みがあるだけに落ち着く気がする。
  そしてまた、現代に於いても、武道をもって自分の心身を高めようとする人間がいるという事実は、頼久をおおいに慰めたのだった。
 更に、頼久にとって好都合だったのは、この会社があかねの通う高校の剣道部、柔道部と取引があったことだ。直属の上司に、挨拶回りに行けと手渡されたリストの中に、あかねが通う高校の名前を見つけた時は、思わず胸が高鳴った。
 しかし上司は、運転免許を取ってくれないと困ると渋面を作った。免許を取れば、車で取引先に納品に回ってもらうのに、と。そう言われて頼久は即座に決意した。必ずや近いうちに、免許を取ることを。
  上司はそんな頼久を「やる気満々だね、期待してるよ、源君」と励ましたものだ。ぽんと肩を叩かれて、自分の動機に、仕事に必要だという以外に、あかねに一目でも会いたいという、いささか不純な動機が含まれていることを、頼久は秘かに恥じたのだった。
 もっとも頼久が「せめて、一目なりと……」と思うだけの理由はあった。社会人と高校生では、京にいた頃とは違って、毎日会うというわけにはいかない。そしてこれまた頼久の意志とは無関係に、住まいが会社の独身寮になっていたもので、あかねを気軽に招くというのもできかねた。風紀を乱すと見なす行動には、寮母が厳しく目を光らせているためだ。
 応龍が与えてくれた環境は、かなり行き届いたものといえたが、あかねへの一途な思いから、未知の世界へ来た頼久にしてみれば、彼女に会えない辛さは、身に染み入るほどだった。
(神子殿……)
 眠れぬ夜に、まだ慣れない部屋の天井を見ながら、あかねの面影を思い描くことも、しばしばだった。
 
  そういうわけで、仕事にかこつけて、あかねのいる場所へ行けるというのは、頼久にとって、幸運というほかなかった。
(この学校のどこかに、今神子殿はいらっしゃるのだ)
 目的を果たすべく、グラウンドを横断して、剣道場へ向かって歩きながらも、ついきょろきょろとあかねの姿を捜してしまう。放課後のグラウンドでは、陸上やサッカーなどの部活動が行われていたが、長身の頼久の姿は、生徒たちの、とりわけ女子の目を引いた。
「誰、あれ? かっこいい〜〜」
「新任の先生とか? だったら、超ウレシイよね」
 あちらこちらで、そんなささやきが交わされるのを、まったく意に介さず歩を進める頼久に、声を掛ける者があった。
「頼久? 何、やってんだ、こんなところで」
 聞き慣れた声に振り返ると、果たしてそこには、森村天真の姿があった。コートを着込み、マフラーを巻いて、これから下校するという風情だった。
「天真か。いや、仕事で来た。剣道場はあちらでいいのか?」
「ああ、そうだけどよ……」
 ささやきが、更に広がる。
「見て〜、森村君と話してる〜。知り合いなのかな〜?」
「イケメンが並んで立ってるのって、イイ眺め〜〜」
 天真の方は、意に介さず、とはいかなかった。自分たちを遠目に見て、ごちゃごちゃ言っている女子たちを、ギロリと睨め付けると、改めて頼久をつぶさに眺めた。
(まあ、タッパはあるし、確かにかっこいいかもな。うっとおしい長髪も切ったし、スーツなんか着てるし……)
「天真、なんだ? 私の姿に何かおかしなところがあるのか?」
「いや、なんでも」
 頼久に、軽く唇を尖らせて答えながら、天真は内心続けた。
(おかしなところがないってのが、また腹立つっての!)
「私は、もう行くが……。神子殿は一緒ではないのか?」
 ためらいがちに聞く頼久を横目で見て、やっぱりそこかよ、と天真は思った。まあ、こいつは、わざわざあかねのために、こっちの世界にまでやって来たのだからと頭ではわかっていても、正直他の男とあかねが恋仲になるなどということは、面白くないし、認めたくもない。
「今日は、早めに帰ったぜ。明日の準備があるからって、そわそわしてさ」
「明日の準備? 何かあるのか?」
「何かあるのかって、そりゃおまえ……」
 バレンタインじゃねえかよ、と言いかけて、天真ははたと気づいた。バレンタインの何たるかを、頼久が知らないことを。そしてあかねが、そわそわして用意する本命チョコは、ほぼ間違いなく頼久に贈られることを。
 めらめらと黒い炎が、天真の胸の中に立ち上った。
「天真? どうかしたのか?」
「……頼久、一つアドバイスしてやる……」
「あどばいす、とは?」
「ああ、もお、めんどくせえな! 忠告してやるつってんだよ! いいか、明日はバレンタインデーだ。こっちの世界じゃ、女が男にチョコを贈る日だ!」
「ちょこ……ああ、あの甘い菓子か」
「そう、それだ! んで、あかねもおまえにチョコをくれるだろうけど、その時、いいか! 好きな女からのチョコは、なるべくそっけなく受け取るのが、礼儀だ。覚えとけ!」
「……神子殿からの贈り物を、そっけなく受け取るのか? それはかえって失礼に当たるのではないのか?」
「ふだんはそうでも、バレンタインに関しちゃ、それが流儀っつうか、掟なんだよ! いいか、にしょにしょ鼻の下伸ばして受け取るんじゃねーぞ!」
(想像するだけで、ムカつくんだよ、このぉ〜!)
 という本音は口には出さず、天真は頼久の鼻先に指を突きつけて、ぴしりと決めつけると、足音も荒く立ち去っていった。
「おい、天真。……何を怒っているのだ? まあ、いつものことか」
 頼久は、少々立ち話が長すぎたと反省しつつ、本来の目的を果たすべく剣道場、そして柔道場へと向かった。行く先々で、女子生徒の熱い視線が注がれたことは言うまでもない。しかし頼久は、そうした視線を無頓着にやり過ごし(視線に殺気が含まれていれば、即座に反応しただろうが、そうでなければ女子高生のおしゃべりなど、小雀のさえずり程度にしか、頼久は受け止めていなかった)無事業務命令を済ませた。
 頼久の礼儀正しさを気に入った剣道部の顧問の教師が、備品の注文をしてくれることになったのは、思わぬ収穫だった。明日商品カタログを持参する旨を約した時、ちらちらと様子をうかがっていた女子生徒たちが、一斉に色めきたったのだが、それにも頼久は無頓着だった。
 ただ、仕事の成果が得られたことと、明日はあかねに会えるかもしれないということだけを考えつつ、頼久は高校を後にしたのだった。

 その晩、あかねから頼久に電話が掛かって来た。頼久には、携帯電話どころか、電話というもの自体が、いまだ驚きの対象である。しかし、独身寮の事務所で電話の取り次ぎをしてくれるので、遠くから声が聞こえてくるこの不思議な道具にも、どうにか慣れつつあるというところだった。
 五十がらみの寮母のうろんげな視線を浴びつつ、受話器を取ると、あかねの弾むような声が流れて来た。
「頼久さん? 突然で悪いんですけど、明日会う時間を作ってもらえますか?」
「それは、無論。ああ、明日、神子殿の高校に仕事で行く予定があります。授業も終わっている刻限ですので、宜しければ仕事が終わった後で落ち合いましょう」
「わあ、ほんとですか? 嬉しい! じゃあ、明日、楽しみにしてますね!」
 簡単に待ち合わせの場所と時間を打ち合わせると、電話を切った。ほのぼのとした喜びが胸に広がる。
(明日は、神子殿に会える……)
 うれしさを隠しきれずに、軽い足取りで部屋へ向かう頼久の後ろ姿を見送りながら、寮母は、後どれぐらい電話を取り次がねばならないのかと、首を振った。

  翌日、弾む心であかねの通う高校へやって来た頼久は、一歩足を踏み入れるなり、不穏な空気を感じた。
(……なんだ、これは? 殺気……とは違うが?)
 じわじわと頼久を押し包む空気は、さながら獲物を追い込む狩り場のような緊張感をはらんでいた。しかもその空気は、グラウンドを通り抜け、剣道場へと進んで行くうちに、は更に濃密になっていく。
 悪寒と、かつて味わったことのない居心地の悪さを覚えながら、頼久は剣道場にたどり着き、顧問の教師と面会した。部室へと場所を変えて、商品を選んでもらい、注文の手続きを進めている間にも、その何とも言えない居心地の悪さは、続いていた。
(何なのだ? いったい……?)
 仕事を済ませたら、早くあかねと落ち合って、学校から出たいものだと考えていた時、顧問の教師が言った。
「じゃあ、これで頼むことにしよう。納品はいつになるかね?」
「3、4日後には、商品がそろいますので、お届けに参ります」
「ああ、わかった」
「ご注文、ありがとうございました。では、今日はこれにて」
 頼久が一礼して、部屋を出ようとした時だった。
「ああ、ちょっと、君」
 顧問の教師が頼久を呼び止めた。
「はい?」
「君ね、ここを出る時、気をつけた方がいいよ」
 苦笑とともに言われて、頼久の顔が厳しく引き締まった。
「先ほどから、何やら不穏な空気を感じてはいたのですが、やはり何かあるのですか? 失礼ながら、    気持ちの荒んだ生徒が絡んでくる、といったような?」
「いやいや、ウチにはそんな生徒はいないよ。ただ、昨日君が帰った後、女生徒たちが大騒ぎしていたから」
「女生徒? 年端もいかない婦女子が騒ぐからといって、何の問題があると?」
「まあ、今日はバレンタインデーだし、年端もいかない女の子だからこそ、なんだけどね。こっちのドアから目立たないように出た方がいいと思うよ」
 顧問の教師の言葉に、頼久はきっとなった。
「お気遣いはありがたく存じますが、私は婦女子から逃げ隠れするような真似はしたくありません」
「まあ、確かに普通はそう……って、君! ああ、行っちゃった」
 それ以上、教師の言葉を耳に入れず、堂々と正面のドアを開けて、部室を出た頼久だったが、数分と経たないうちに、教師が心配してくれたその理由を思い知る羽目になった。
 始まりは「あ、出てきたよ!」というような小さな叫び声だったと思われる。それを合図に、頼久はあっという間に女子生徒の一群に囲まれた。
「み、な、も、と、さあん」
「いや〜ん、近くで見ると、ほんと、かっこいい〜〜!!」
「チョコ、受け取ってください!」
「彼女、いるんですかぁ? 私、立候補していいですかぁ?」
 多方向から一斉に質問され、チョコを無理矢理押しつけられ、頼久は何が何やらさっぱり情況が読めずに、唖然とした。そう、武士団の若棟梁として、男たちの間でずっと生活してきた頼久が、頭に血の上った若い娘の恐るべき情熱やパワーのことなど、知ろうはずがなかった。
 しかし、そこは頼久である。最初の衝撃からどうにか立ち直り、冷静になって形勢を立て直そうとした時に、まず頭に浮かんだのは、あかねとの約束だった。
「き……君たち、私はこれから人との約束がある。すまないが、通してくれ!」
「え〜〜〜?」
「約束って、もしかして女〜? ひどぉ〜い!」
 ひどいのはどっちだと言い返したいところだ。団子状態になった女子生徒たちのために、身動き一つ取れない。しかし男相手ならともかく、かよわい婦女子相手に力を振るうのは、頼久の信条に反する。
 困り果てていたその時、頼久は気づいた。あかねが少し離れたところから、青ざめた顔でこちらを見ていることに。
「み……神子殿!」
 娘団子をどうにか押し返しつつ、あかねのそばへ近づこうとした頼久だったが、あかねは思い切り傷ついた顔をして、くるりと背を向けて走り去ってしまった……!
「神子殿〜〜〜!!」
 ようやく会えたあかねが、悲しげに自分の前から去って行ってしまった。このできごとは、あの折りアクラムに立ち向かった時のような怒りと、底力を呼び起こした。
「君たち!」
 びしりと声音を張る。そのむち打つような厳しい響きに、さしもの女子生徒たちも、びくりと縮みあがって、騒ぐのをやめた。
「婦女子たるもの、人の立場を思いやり、心配りをすることを怠らないものだ。私には約束がある。通してくれと言っている!」
 かっと燃えるような目で、一同を見回すと、女子生徒はおずおずと道を開けた。
「では、失礼する」
 そう言い残すと、後を振り返りもせず、頼久は風のように駆け出した。あかね、ただ一人の姿を求めて。その背中を目で追いながら、女子生徒たちは深いため息とともにつぶやいた。
「はあぁ〜、す・て・き」

 不案内な校内だったが、頼久は行き会う生徒に尋ね尋ねして、何とかあかねの居場所へたどり着いた。あかねは人目のない校舎裏の立木に、かくれんぼうの数を数えるような格好で身を寄せて、すすり泣いていた。
「神子殿……」
 そのか細く震える後ろ姿に、頼久の胸は痛んだ。そっと肩に手を掛け、言葉を掛ける。
「神子殿……見苦しい様をお目にかけて、申し訳ありません。どうか、こちらを向いて下さいませんか」
 あかねは涙を飲み込みながら、頼久を振り返った。泣き濡れて赤らんだ頬、細かく震える唇。頼久は抱き締めたい衝動を、どうにか抑制しながら、なおも言葉を継いだ。
「私の不用意ゆえに、神子殿を悲しませてしまうとは……。幾重にもお詫び致します」
 頭を垂れる頼久の首に、あかねはかじりついて来た。
「ううん、頼久さんは少しも悪くないの。私、今まですっかり安心してて、頼久さんが他の女の子から見ても、すてきな人なんだってことを、考えもしなかった……。でも、ああしてたくさんの女の子に囲まれてる頼久さんを見たら……。何だか悲しくって、悔しくって……。逃げだしちゃったんだ。……ほんと、馬鹿だよね」
「神子殿……」
 頼久は、今度はこらえようもなく、あかねの細いからだを抱き締めた。
「私は……私は、あなたのおそばにいたいがために、今、ここにいるのです。あなた以外の女性など、私にとっては必要ない。信じては、頂けませんか」
「うん、信じるよ……。ていうか、頼久さん、私のために、京を捨てて来てくれたのに……。ごめんなさい、こんなことで、泣いたりして」
 ようやくあかねは泣きやみ、頼久を見上げて微笑んだ、そして思いだしたように言った。
「そうだ、ええと、頼久さんに渡したい物があるんだ」
 あかねは、頼久の腕の中からそっと抜け出すと、立木の傍に置いていた布製かばんの中から、リボンを付けた包みを取りだした。
「神子殿……それは?」
「うん、ええとね、今日はバレンタインデーって言ってね、女の子から男の人へ気持ちを込めてチョコを贈る日なんだ。で、私は、頼久さんに……」
 あかねは、包みを頼久に差し出した。
「あんまり上手じゃないけど、手作りしてみたんだ。受け取ってくれる?」
 恋する乙女に、はにかんだ笑顔とともに、こう言われて、舞い上がるなという方が無理というものだ。
「私のために、用意して下さったのですか。ありがとうございます、神子殿!」
 満面の笑みで受け取った瞬間に、頼久は、はっと天真の注意を思いだした。
 慌てて、チョコレートを胸の中に抱えるようにしながら、ばっと地面に膝を付いた。
「申し訳ありません、神子殿!」
「な、なに? 頼久さん。あの、もう女の子に囲まれてたことなら、もう、いいから!」
「そうではなく! 私は今、神子殿に非礼を働きました」
「非礼って、何のこと?」
「好きな女性から、ちょこれーとを受け取る時は、できるだけそっけなくぴしりとして受け取るのが、ばれんたいんの掟だというのに、私はだらしなく笑って受け取ってしまい……」
「なあに、それ? 誰が、そんなこと言ったの?」
「天真が、よく覚えておけ、と」
「天真君〜〜〜? あはは、頼久さん、からかわれたんだよ。そんな掟なんか、あるわけないじゃない」
「そうなのですか?」
「そうだよ〜。ほんとに、天真君ったら、しょうがないんだから」
「では、私は喜んで受け取っても、宜しかったのですか?」
「もちろんだよ〜」
 言いながら、あかねは頼久に手を差し伸べ、その頬を両手で挟んだ。
「頼久さんが喜んでくれて、私もすっごく嬉しかったんだから」
「神子殿……」
 触れ合う温もり、交わす笑みから、お互いの思いが染み渡るようだった。そうするうちに、ふと、あかねがいたずらっぽく笑いながら言った。
「ただ、そうだなあ。一つ掟があるとしたら、頼久さんは、私以外の女の子から、本命チョコはもらわないでね?」
「はああ、本命ちょこ……」
「そう、元々はね、好きな人にチョコの助けを借りて、告白するっていう意味があるの。それが本命チョコで、お世話になってる人に、ちょっとした感謝の気持ちで贈るのが、義理チョコ。だから義理チョコは仕方ないけど、本命チョコは私だけだよ? もちろん、さっきの女の子たちからも、受け取らないでね」
「承知致しました」
 正直、義理チョコと本命チョコの概念は、今の自分には難解に過ぎると思ったが、あかねの望みには、きっと応えようと心に誓う頼久だった。
「じゃあ、せっかく久しぶりに会えたんだし、どこか行こうよ。私、あったかい紅茶が飲みたいな」
「はい、神子殿。お望みのままに」
 それから二人は、目立たないように裏門から学校を出て、あかねの門限まで、心弾むひとときを過ごしたのだった。

 あかねと別れた後は、いつも何とも言えない寂しさを覚える頼久だったが、今日は少し違っていた。何せ、あかねが心を込めて自分のために作ってくれたチョコレートがあるのだ。部屋で味わって食べようと、いそいそと寮に帰って来た頼久に、寮母が声を掛けた。
「ちょっと、源さん」
「あ、寮母殿。ただいま、戻りました」
「ああ、おかえりなさい。え〜と、これ、あげるよ」
 寮母は、ぶっきらぼうに、赤い紙包みを、頼久に差し出した。
「これは……」
「そう、チョコだよ、あんた、いつも掃除手伝ってくれるから、気持ちだけ」
 頼久は、差し出された包みを、しばしまじまじと見つめた。そしておもむろに寮母に尋ねた。
「寮母殿、失礼ですが、寮母殿は女の子ですか?」
「は? 何言ってんだよ、あんたは。こんなおばさん、捕まえて」
「確かに……。では、もう一つお尋ねしますが、これは本命ちょこ、でしょうか?」
「あんたね、あんまりからかうと、しまいに怒るよ! 義理に決まってるだろ!」
「なるほど。では……」
 頼久は、寮母に、にっこりと微笑んだ。
「頂きます」
「あ、ああ。受け取っとくれ」
「ありがとうございました」
 頼久は一礼すると、自室に向かっていった。後に残された寮母は、胸を押さえながら、つぶやいた。
「ほんとに、変わった人だよ。でも、久しぶりに、どきどきしちまった。ああ、心臓に悪い」

 数日後、頼久は納品のために、あかねの高校に訪れた。あの時の一喝が利いたのか、女生徒たちは遠目に見ているだけで、傍へ寄ってこようとしなかったので、頼久はとりあえず安堵した。毎回あのような騒ぎが起こるようでは、あかねのことは無論だが、仕事にも差し障りが出ると、危惧していたからだ。
 安堵すると同時に、頼久は改めて思った。今日は同僚に連れて来てもらったが、できるだけ早く運転免許を取ろう。そうすれば、定期的にこの高校を訪れることができるし、上司も喜ぶ。そうして、運転がうまくなったら、いつかあかねを、どらいぶへ連れて行こう、と。
 そんなささやかな夢を描き始めた頼久が、思いもよらぬ事態が進行しつつあった。この高校の女子たちの間で秘かに「説教王子ファンクラブ」なるものが結成され、婦女子道を極めるために、着々と活動を開始していたのである。「王子に認められる、真の婦女子になるために!」ファンクラブ一同の意気は高い。頼久がその事実に唖然とするのに、長い日にちはかからないことだろう。

 バレンタインのお返しをする、ホワイトデーという日があると、頼久は同僚から教えられた。(もうこの種のイベントに関して、天真の言うことは信じるまいと、心に決めている)あかねの心のこもったチョコレートのお返しに、何を贈ろうかと、今から頼久は頭を悩ませている。
 神子と八葉ではなく、恋人同士になった二人のページは、こうして少しずつ繰られていくのだ。遙かな未来へと向かって……。
                               (終わり)



「遙か1」では、頼久さんは、一番好きなはずなのに、どうしていつも不幸にしたり、ギャグにしたりしてしまうのでしょうか? やっぱり、歪んでるのね、私の愛が^^;(ちなみに永泉も好きです。いじりやすいから・笑)
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