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この話は、ほんとは先月のマルセルの誕生日辺りにアップしたかったのですが、今になってしまいました。(今日はランディの誕生日だっての!)
マル×ロザ、ヴィク×ロザは、私的にはアンジェに於ける推奨カップリングだったりします。(オフでコピー誌、作ってます)こちらの方でも、少しずつ小話を載せて行きたいと思っております。
写真は、今回の話の中で、ある役割を果たす桜草です。それでは、つづきから、どうぞ。


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「春の鍵」

 湿った土をそっとすくい上げると、手の中でぱらぱらとほどけた。植物が存分に根を張り、養分を吸収できる肥えた土の感触を楽しみながら、マルセルは先代の緑の守護聖カティスの言葉を思い出していた。
「この庭の土は特別だぞ。俺はもちろん、歴代の緑の守護聖が、自分なりの研究と労力をつぎ込んで、作り上げたものだからな」
 金色の瞳を、いたずらっぽく輝かせながら、カティスは言ったものだ。
「植物を育てるには、まず宇宙最高の土と言っていいだろう。実際、ある地域の汚染された土壌を回復させるために、ここの土を少し持っていって、梳き込んだこともある。まあ、薬みたいなものだな。たっぷり注ぎ込まれた緑のサクリアで活性化した土の中の微生物が、徐々に周りの土壌をも変えていった。その土地は、今では、毎年豊かな収穫を期待できる畑になったさ」
「そんな宝物みたいな土を、僕なんかが引き継いでも大丈夫でしょうか」
 少し不安になったマルセルの頭を、カティスはくしゃりとかき混ぜた。
「おまえの気持ちを、愛情を、土に注げばいい。そうすれば、土も植物も応えてくれるさ」
(カティス様……)
 その手の温もりを、けっして忘れないとマルセルは思った。カティスの庭を、思いを継いで、できるだけ立派な緑の守護聖になろうと誓ったのだ。
 その誓い通り、職務の合間を見ては、マルセルは庭の手入れをし、また歴代の緑の守護聖が書き残した土の作り方や植物の病気、栽培に関する覚え書きにも目を通して、勉強した。
 そう、この庭は単なる庭ではなかった。宇宙の各地から集められた栽培植物の見本園であり、試験場でもあった。作物の品種改良まで手がけた守護聖もおり、この庭で生み出された病虫害に強く、育てやすい新種のトウモロコシは、今や全宇宙に広まり、栽培されていると、覚え書きに記されていた。 
 この庭のそうした意義を、無論十分わきまえていたが、多くの人の愛情を注がれ、丹精されたこの場所で過ごすのが、マルセルは単純に好きだった。
 書物の中に先人の知恵を見出すように、マルセルはこの庭の植物たちの姿から、カティスの、歴代の守護聖の思いを、尽きぬ興味をもって読み解くことができたのだ。
 少々いやなことや、思い通りにならないことがあっても、この庭で土に触れていれば忘れられる、マルセルにとって、そういう場所となっていたのだが。
 先ほどから、何度ため息をついただろうか。心にかかった霧を晴らすことはできなかった。
(ロザリア……)
 いとしい乙女の花のような笑みが、目に浮かぶ。だが、その笑みを、マルセルは随分長いこと見ていない。自らに課せられた職務に、懸命に取り組む女王補佐官の横顔。それが最近、マルセルがロザリアのかんばせの上に見るものだった。
(僕は……僕じゃ、君を笑顔にはできないの?)
 思わず手の中の土をぐっと握りしめた。土は、彼の意のままに形を変える。
だが、人の心は愛をもってしても、意のままにはならないことに、マルセルは気づき始めていた。
 
 カティスの後を受けて守護聖に就任してから、いくらも経たないうちに、新たな女王を選出するための試験が行われた。そんな宇宙の大きな節目の中で、マルセルは恋を知った。
 相手は女王候補の一人、ロザリア=デ=カタルヘナ。まっすぐに女王の御座を見つめていた彼女が、意外にもマルセルの瞳を見つめ返してくれた時には、天にも昇る心地だった。
 けれど女王試験が終わった時、ロザリアとの別れも訪れるのだと思っていた。ロザリアが女王に即位すれば、もはや手の届く存在ではなくなるし、女王になれなかったとしたら誇り高い彼女は、一切から身を退くことが予想できたから。
 ところが彼女は新女王アンジェリークの補佐官になるという第三の選択をした。親友アンジェリークの支えになるために。そして……マルセルの傍にいるために。
「女王補佐官として歩む私を、ずっと支えて下さいますわよね、マルセル様?」
 頬を染めたロザリアにそう告げられた時には、自分が手にした幸運が信じられなかったものだ。宇宙の女王を支えるという共通の使命の下に、ロザリアと寄り添って歩けることになったのだから。
 かくして新女王の時代が幕を開け、ようやく新体制も軌道に乗り始めた今日この頃だったが、マルセルの心にはずっと心配ごとのもやがかかっていた。それはロザリアが、自分の職務に献身的なあまり、根を詰めすぎているように見えることだった。
(ロザリアには、いつも笑っていてほしいのに……)
 守護聖の自分は、女王を支え、宇宙の調和のために、サクリアを使う、そうした職務に励めば、ロザリアを助け、喜ばせることにもなると思っていた。
 だが、宇宙が発展するにつれ、そうではないことが次第に見えてきた。マルセルや他の守護聖がサクリアを注げば注ぐほど、生まれ変わった宇宙は、それを貪欲に吸収して変貌を遂げ続け、結果としてロザリアの仕事量をどんどん増加させることになったのだ。
 女王アンジェリークは、激しい宇宙の変革をしっかり受け止め、土台まで揺るがぬよう、しっかり支えている。だが、何事に於いても、急激な変化が起これば、あちらこちらにほころびが生じるものだ。そのほころびを繕い、微調整するのが、他ならぬロザリアの役目なのだった。
 各地の王立研究院から吸い上げられたデータや、神殿から届けられる民の声は聖地の王立研究院で分析されるが、それを元に適切な対応を考え、女王や守護聖たちに提案する。
 重要な事案に関しては、守護聖たちに意見を求めたが、基本的にこまごました事例については、ロザリアが自分で判断して、指示書を作っていた。その指示書は、彼女の完全主義を反映して、いつも隙のない仕上がりだった。
(でも……)
 とマルセルは思う。
(でも、ロザリアは笑っていない)
 もちろん宇宙の発展は重要事項だが、それよりも彼には、ロザリアの心身の健康が案じられる。周りにいる年長の守護聖たちも、女王アンジェリークも、膨大な仕事量を、完璧なまでにこなすロザリアに、そこまでしなくてもよいと、たびたび注意を促してはいる。だが彼女は、昂然と頭を上げて言うのだ。
「いいえ、大丈夫ですわ。今、宇宙が大きく成長するこの時期に、しっかり土台を築かないでどうするんですの? 私のからだのことなどより、もっともっと宇宙のことを気に掛けて下さいませ」
 たおやかな細いからだの中に潜む誇りと強い意志。それこそがロザリアなのだ。それはよくわかっている。けれど、他の人間の言葉はいざ知らず、思いを通じ合わせた自分の言葉は耳に入れてほしいと、マルセルは思わずにはいられなかった。
 ロザリアが補佐官になってからというもの、プライヴェートに会うことができたのは数えるほどだったが、マルセルはその少ない機会を宝石のように抱き締めて、精いっぱい彼女への思いをこめてきた。
 だから数日前、やっと会えたロザリアに「宇宙もだいじだけれど、君が倒れてしまったら、僕には何の意味もない」と告げた時、返って来たいつも通りの言葉に、マルセルは落胆してしまった。
「いいえ、マルセル。大丈夫ですわ」
 青ざめた頬で言われても、少しも信用できない。自分に会う時ぐらい、補佐官であることを忘れて、思い切り寄りかかってほしいのに。ロザリアがそうしようとしないのは、それほど自分が頼りないからなのだろうか。
 自分への不甲斐なさとやるせなさ、そしてロザリアへの恋しさが、何度もマルセルにため息をつかせるのだった。

 今、じょうろでたっぷり水をやった苗床からは、たくさんの新芽がかたまって盛り上がるように顔を出している。
(少し間引かないとな)
 そう考えながら、身をかがめた時、ふと傍らの花壇に咲いている花が目に入った。桜草だった。
(あ……)
 その可憐な姿は、マルセルに今は遠い故郷を思い起こさせた。寒さが少しずつほどけ始める時分、他の花に先駆けて一番に咲く桜草を、毎年姉とともに野原に探しに行き、母に捧げたものだった。その姿から”鍵の花”とも呼ばれる桜草を見ているうちに、マルセルの心にひらめくものがあった。
(この花を……ロザリアに贈ろう)
 蕾をたくさん付けた株を、根が傷つかないようにそっと掘り出し、あたたかい色の素焼きの鉢へと移し替えた。そうして館へ持ち帰り、きれいな紙で鉢を巻き、カードを書いた。
  
  『ロザリアへ 
  桜草がきれいに咲いたので、贈ります。
  僕の故郷では、春一番に咲く花で、この花を見ると冬が
  終わったんだって、いつも元気をもらいました。
  きっとこの宇宙のあちらこちらで、この花は咲いていると
  思います。
  君がこの宇宙を愛していることを、よくわかっているつもりです。
  でも、宇宙だって君を愛している。
  だから、宇宙から自然から、元気をもらって下さい
                           マルセルより』

 鍵の花が、他のことを顧みられなくなっているロザリアの心の扉を開いてくれるように。願いを込めて、使者へと託した。果たしてロザリアは、花に込めた思いをわかってくれるだろうか。

 贈り物をした翌日は、日の曜日。守護聖にとっても、補佐官にとっても、職務を行わない休日だった。朝から庭に出たマルセルは、何度も作業の手を止めて、邸の門を見やった。ロザリアからの使者を、応答を、彼はずっと待ちわびていた。
 礼儀を重んじる彼女のことだから、贈り物に対して何の返礼もしないなどという非礼は、まずあり得ない。ところが、昨日陽も高いうちに使者を送り、帰って来た使者から、確かにロザリアの邸に届けたという報告を受けたにもかかわらず、いまだ何の反応も見られない。
 もしかしたら、ロザリアにとって、自分が特別な存在であるというのは、とんでもない勘違いだったのかもしれないと、思い始めたその時だった。
 がらがらという馬車の轍の音に、振り返ったマルセルは見た。馬車から、ロザリアそのひとが降り立つのを。
「マルセル!」
 ロザリアは澄みとおった声で彼の名を呼んだ。そして補佐官の礼服ではなく、からだにまといつくような軽やかなワンピースを、少したくし上げながら、彼に向かって駆けて来た。
「ロザリア!」
 数瞬後、マルセルが差し伸べた腕の中にロザリアはいた。頬を染め、息を弾ませながら、ロザリアは告げた。
「お花を……ありがとう。見ていたら、どうしてもあなたに会いたくなって、矢も盾もたまらなくて、来てしまいましたの」
「ロザリア……」
 胸の中につきあげてくるような喜びを覚えながら、マルセルは腕の中の弾むような温もりをふわりと抱き締めた。同時に、ロザリアの腕が背中にそっと回されるのを感じた。溶けてしまいそうなしあわせ……。離れていた時間の分、このしあわせを少し貪りたくなって、マルセルが腕につい力をこめると、ロザリアは「痛いですわ」と笑った。
 そうして、少し身を離し、マルセルの瞳を見つめながら言った。
「ほんとに、もう……。あなたといると、私、飴細工みたいに溶けてしまいますの。それがわかっていたから、この宇宙の基盤ができるまでは……あ……」
 皆まで言わせず、マルセルはロザリアの唇を自分のそれで塞いだ。強引に引き寄せられて、わずかに抵抗するように、からだがびくりと跳ねた。一瞬だけ唇を離して、マルセルはささやいた。
「溶けてしまえば、いいじゃない……」
 ロザリアの体温が、かっと上がった。熱くなったからだは、やわやわとマルセルの腕に委ねられ、再び落ちてきた唇を受け止めた。
 長いくちづけからようやく解放されたロザリアは、頬を朱に染めて言った。
「もう……ひどいですわ、マルセル」
 マルセルはわざと唇を尖らせて見せた。
「だって、ロザリアが職務にばかりかまけて、僕をほうっておくからいけないんだよ。君が青い顔をして、一生懸命仕事をしているのを見ていて、どんな思いをしていたか、わかる? ……でも、君がそこまでやりたいっていう気持ちをじゃましちゃいけないって思ったから、ずうっと我慢したんだよ?」
「マルセル……」
 冗談めかして言った言葉に、それでもロザリアはせつなげに眉をひそめた。マルセルは、両手を伸ばしてその頬を包んだ。
「……だから、休みの日ぐらい、こうして溶けちゃってよ? 次の日にはちゃんと補佐官に戻れるよう、僕も手伝うから」
 かぎろいたつすみれ色の瞳に魅入られながら、ロザリアはそれでも精いっぱい抗弁した。
「ほんとに、手伝って下さいますの?」
「ほんと、約束!」
 マルセルはこっくりとうなずいてみせた。
「だから、ねえ? 今は僕だけ見つめて?」
 瞳をとらえたまま、マルセルの額がこつんとロザリアのそれに当てられる。高鳴る動悸と羞恥に耐えかねて、ロザリアが思わず目を閉じると、またそっと唇が重ねられる。
(ああ、もう……)
 頭の芯がくらくらするような酩酊感を覚えながら、ロザリアは思った。
(これだから、あなたに会うのをずっと我慢して、職務に打ち込んでいたのに……!)
 明日、自分をちゃんと立て直すことができるだろうか。それに関して、マルセルはほんとうに当てになるのだろうか。疑念が頭をかすめたが、どこかへ霧散してしまった。
ただ、この時だけは。こうして萌え立つ緑の中、二人の思いを押しとどめることなく、あふれるままにしていたかったのだ。

 朝の光が射し込む聖殿の廊下を、マルセルは自分の執務室へ向かって歩いていた。手には分厚い書類の束を抱えている。
「あ……ふ……」
 誰もいないと思って、つい大あくびをした時。
「マルセル」
「うわあ、ジュリアス様、おはようございます」
 マルセルの慌てぶりに、謹厳な首座の守護聖は、軽く咳払いをした。
「化け物に出会ったわけでもあるまいに。もう少しそなたは落ち着きを身に着ける必要があるな」
「はい、すみません……」
「それに、先ほどの大あくび。そんな気の抜けたことで何とする」
「すみません……。昨夜デスクワークしてたら、ちょっと遅くなっちゃって。それで、つい……」
「ほう?」
 ジュリアスの厳しい目元が和んだ。
「最近、ロザリアの仕事を手伝っているそうだな? 一人で仕事を抱え込みがちな彼女のためにも、そなたが成長するためにもよいことだと思う。だが、守護聖としての職務には差し支えぬようにするのだな」
「は、はい。ジュリアス様」
 一言釘を刺すと、ジュリアスはローブを翻して、自分の執務室へ向かって歩き始めたが、ふっとまたマルセルの方へ振り返った。
「そなたは、ロザリアに信頼されているのだな。男子たるもの、その信頼に応えねばならぬな」
 日だまりのような微笑みをマルセルに向けると、ジュリアスは立ち去って行った。そのまっすぐな後ろ姿と、手の中の書類を見比べて、マルセルは軽くため息をついた。
(……まあ、ロザリアも、女性版ジュリアス様みたいなところはあるよね)
 誇り高く、職務熱心な女王補佐官。きまじめで、融通の利かないところもすべて好きだと思う。
(でも、あんまりきりきり仕事ばっかりしていると、また溶かしちゃうからね!)
 胸の中のいとしい面影に向かって、そう宣言すると、マルセルはよっこらしょと書類の束を抱え直した。窓からきらきらと射し込む朝の光は、遠く懐かしい人の目と髪を思い起こさせた。
(カティス様……僕は彼女と一緒に、少しずつ守護聖として成長していこうと思います)
 自分に庭を託し、道を指し示してくれたやさしい先達に心の中でで話しかける。すると、光の帯の中ににっこりうなずく顔が見えるような気がした。
 マルセルの唇に、力強い笑みが浮かんだ。すっくりと背筋を伸ばすと、彼は確かな足取りで、執務室に向かって、歩き始めた。
                              (終わり)


私でも、甘い話が書けるんだ〜と自分でちょっとびっくりしました(笑)
しかし、これがどのキャラでも適用できるかというと、ビミョウです^^;
(たとえば加地。甘くしようと努めてもならないのは、なぜ??)
アンジェの話は、私としては、何というか、いろいろ作り込みたくなるのです。
(ねつ造ともいう・笑)
やっぱり好きってことなんでしょうね。
マルセル×ロザリアも、また書きこんでいきたいです。


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