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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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「遙か2阿弥陀企画」さんに投稿したものです。
規定をよく読んだら、自分のサイトに掲載することについて、
特に規制はないということなので。
季節ものの要素もありますので、上げておきます。

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「優しい人」


 一日いちにちと日が長くなり、風冷たい中にも、春の気配が忍び入り始めた

ある日、紫姫の館の花梨のもとを訪れた彰紋が言った。

「花梨さん、もし宜しければ、明後日の吉日、若菜摘みにご一緒しませんか?」

「若菜摘みって?」

「郊外の野に山菜を摘みに行くのです。つくしやふきのとうなどを」

「楽しそう。うん、行ってみたい」

「では明後日の朝、お迎えに参ります。昼餉はこちらでご用意しますので」

「わあ、ピクニックみたいだね」

「ぴくにっく、とは?」

「ああ、ええと〜。お弁当をもって、景色のいいところへ行くことだよ。外で

食べるお弁当っておいしいよね!」

 その花梨の説明に、傍らにいた深苑が渋い顔をした。

「遊びに行くのではないぞ。土の中から萌え出た新芽は、強い生命力を持って

いる。それを食すれば、無病息災でいられると考えられているがゆえ、摘みに

行く、宮中行事の一つだ」

「そんな大変なことなの?」

 目を丸くする花梨に彰紋は笑いかけた。

「僕が個人的に出掛けるのですから、宮中行事ではありませんよ。それに花梨

さんに、外の空気を吸って気晴らしして頂きたいと思ったから、お誘いしたん

です」

「なあんだ、よかった〜」

 ほっとしたように、ころころと笑う花梨を、彰紋はいとおしそうに見つめた。

そんな様子を傍目で見ながら、深苑はぼやいた。

「……まったく、彰紋さまは神子に甘すぎる」

 深苑の横で、紫姫は微笑む。

「兄さまったら! お二人ともあのように睦まじく、おしあわせそうなのです

から、よいではありませんか」

「あやつが東宮妃になるという、ことの重大さをまるで理解しておらんのが、

問題なのだ」

「それは……。でも、今すぐ神子さまに理解してもらおうとは、彰紋さまは思

ってはいらっしゃらないのではないでしょうか。さあ、お二人のおじゃまにな

らないよう、私たちは下がりましょう」

「……」

 紫姫に促されて、深苑は憮然とした顔で歩き始めた。室を出る前に、もう一

度振り返った視線には”大丈夫なのだろうか”という、二人を案ずる気持ちが

こもっていた。

二日後の朝、彰紋は約束通り、花梨を迎えに来た。袿は羽織らず、短めの袴

をきりりと履いた軽装は、彰紋を常より少年らしく見せていた。そんな彰紋に

ちょっと新鮮な印象を受けたのだが、花梨はうまい言葉が見つからず、

「そういう格好をしていると、いつもと雰囲気が違うね」

とだけ言った。

「今日は野を散策するので、このようにしたのですが、おかしいですか?」

「ううん。いいと思うよ。う〜んと、いつもよりやんちゃな感じ?」

「やんちゃ?」

「あ、ええと、元気っていうか活発っていうか」

「そうですか」

「あ、いつもが元気がないって意味じゃないよ? ただ、彰紋くん、落ち着い

てるから、ちょっと意外な一面が見えた気がしたの」

 頬を赤らめながら、懸命に言う花梨が、彰紋にはいとおしく思えた。常に東

宮としてどう見られるか、身の処し方には注意を払っている彰紋だったが、そ

れと、いとしい乙女の瞳に自分がどう映るのか、気にするのとでは、まったく

質の異なるものであることを実感していた。

 花梨に潤んだ艶のある目で見つめられると、胸が甘くおののいた。花梨に接

するたびに、自分の中に呼び覚まされる生き生きした感情を、彰紋は戸惑いつ

つも、喜びをもって受け止めていた。

(花梨さん……あなたは僕の胸に、いつもあたたかい息吹を吹き込んでくれる

んです……)

 そんな思いをこめつつ、彰紋は花梨の手を取った。

「花梨さんが、気に入って下さったのなら、僕、うれしいです。さあ、では出

掛けましょうか。牛車へどうぞ」

「はい」

 預けられた小さな手から、花梨の自分に寄せる信頼が伝わってくる。その心

地よい温もりを感じながら、彰紋の目は、一瞬なぜか陰りを帯びた。

「うわあ〜、ひろ〜い!」

 牛車から降りて、はるばると広がる野を見渡して、花梨は思わず声を上げた。

「ここは、帝が狩りや野遊びを行われる〆野なのです。今日はお許しを得て来

ましたので、お好きなように過ごして下さいね。……あ、花梨さん!」

 彰紋の言葉が終わるのを待たずに、花梨は解き放たれた小犬のように、野を

駆け回っていた。野花に触れ、立木を見上げ、目まぐるしく動き回った挙げ句、

息を切らせて彰紋の元へ戻って来た花梨は、頬を火照らせて笑った。

「ああ〜、何かひさしぶりに、からだ動かした気がする。気持ちいい〜。連れ

て来てくれてありがとうね、彰紋くん!」

「喜んでいただけたなら嬉しいです」

 京の姫には、まずあり得ない、童のようなふるまい。だが、花梨のそうした

天衣無縫さこそ、彰紋を惹きつけてやまない。

(……僕は、天女の羽衣を奪おうとしているのかもしれない……)

 自分の心からの願いを入れて、京にとどまってくれた花梨を、宮中という籠

の中に入れ、東宮妃という人目にさらされる立場に置くことは、彼女の伸びや

かさを損なうことになるのではないだろうか。さりとて一度宮中に上がった、

後ろ盾のない女性たちが、日々のくらしにも困窮しがちになるという現実を、

彰紋は自分の目で見て知っていた。

 東宮妃という公的な身分につかせれば、この京に於ける花梨の一生はまず保

障されるだろう。自分のために、それまで生きてきた世界を捨ててくれた花梨

に対して、報いるためにはそれしかないと思えたりもする。

 どうすれば、もっとも花梨をしあわせにできるのか。それがこのところ彰

紋が考えあぐねてやまないことだった。

「彰紋くん、どうしたの?」

 ふと黙り込んでしまった彰紋の顔を、花梨が心配そうに覗き込む。

「いえ、何でもありません」

「ほんとに?」

「ええ、ほんとうに。さあ、若菜を摘みましょう。紫姫と深苑殿におみやげを

持って帰らなくてはね」

「うん」

 それから二人は、野をそぞろ歩いて、つくしやふきのとう、ぜんまいやのび

るを摘んだ。都会育ちの花梨にとって、初めての経験だったが土の中からもっ

くりと伸び上がった若菜に触れると、京を流れるよい気がふき出したものであ

るということが感じられた。

 彰紋にそれを告げると「やはりあなたは、神子なのですね」と微笑んだ。

実際、花梨が歩めば歩むほど、その清浄な気が、周囲を浄化し、活性化され

ていくのを、彰紋は感じ取っていた。

 やはり……人の理で縛ることができないひとなのだ、そんな思いも胸に兆し

てくる。花梨への愛情と、それを公に認められた形にするために横たわる現実

との間で悩む彰紋の横顔を、花梨がそっと見つめていることに、彼は気づかな

かった。

 一日を野で過ごし、籠が若菜でいっぱいになった頃、彰紋は言った。

「そろそろ風が冷たくなって来ました。帰りましょうか?」

「うん。ありがとう、彰紋くん。すごく楽しかった」

「僕の方こそ。一日をあなたと過ごせて、しあわせでした」

「……ほんとうに?」

「ええ、もちろん。……花梨さん?」

 心から肯いた彰紋は、自分を見つめる花梨の突き詰めた表情に、驚いた。

「……彰紋くん、この頃時々辛そうな顔をしている。それは私のせいなんでし

ょう?」

「何を言うんです? そんなことは……」

「この世界に来てちょっとしか経っていない私だって、周りの人の様子を見て

いればわかるし、書物だって少しずつ読んでる。……彰紋くん、私を妃にする

ことで悩んでいるんでしょう?」

「花梨さん……」

 ずばり言い当てられて、彰紋は思わず言葉に詰まってしまった。その彰紋の

表情に、自分の推測が当たっていたことを確信した花梨は、深く肯いた。

「やっぱりね……。彰紋くんはやさしいから、私に心配させないようにって考

えたんだろうけれど……。でもね? 自分の意志でここに残った以上、覚悟は

しているんだよ。だって、彰紋くんが東宮だっていうことは事実なんだし、そ

のために苦しんできたのを、知ってるし。あなたを選んだ時点で、わかってい

ることじゃない」

「……でも、僕は僕の立場にあなたを巻き込んで苦しませることは……」

「いや、だから、それ、無理な話でしょ。彰紋くんの立場に巻き込まれないっ

てことは、彰紋の人生にかかわらないってことだよ? それじゃあ、私、何の

ために京に残ったのか、わからない」

「花梨さん……」

 花梨は、唇を引き結んで、しばらく言葉を探した後、再び胸のうちを吐露し

始めた。

「……ねえ、私がなんでこの世界に呼ばれたんだと思う? 私、ずっと考えて

た。だって何の意味もなく、連れて来られたっていうのなら、納得できないか

ら。八葉のみんなや紫姫、深苑くんと出会えて、今でも信じられないけど、京

を救うことができて……。で、私、思ったの。偉そうかもしれないけど、私が

違う世界から来た人間だからこそ、この世界の人たちでは行き詰まってしまっ

たのを、変えられたんじゃないかって」

「……確かに、そうかもしれません。僕たちでは、京の気を動かすことも、院

と帝の対立を収めることもできなかった……」

「でしょ? 院や帝がずっと前からのやり方で京を治めてきて、それで京の危

機を招いてしまったんだったら、そのやり方も変えた方がいいと思わない?」

 彰紋は、花梨の思わぬ言葉に、瞠目した。

「そういう考え方も……あるのですね」

花梨は、彰紋を勇気づけるように、笑顔を見せた。

「……彰紋くんは、東宮。つまり次の世代の人でしょ? その彰紋くんの傍に

私がいたら……きっと変えられるよ! 私、傍にいて手伝うよ! だから、一

緒にしあわせになろう?」

 花梨の言葉に、彰紋は頭を殴られたような衝撃を覚えていた。花梨がそこま

で考えて、京に残ってくれたということに。そして自分の立場を理解したうえ

で、今の行き詰まった京の政治を変えようとまで言ってくれたことに。

 心の奥底が揺さぶられて、涙となってあふれてきた。

「ど、どうしたの? 私、変なこと言った?」

 慌てて花梨は、袂から取り出した懐紙で、彰紋の涙を拭おうとした。その手

を取って、彰紋は自分の頬に押し当てた。

「……ありがとう、花梨さん。あなたは、やはり天が僕に下さった天女です

……」

 

それからほどなくして。二人は籠を抱えて、手を繋いで、牛車へと向かった。

「紫姫、喜んでくれるかなあ。ああ、そうだ、これだけ採れたんだったら、他

の八葉のみんなにもお裾分けできるよね?」

「そうですね。皆さんにお届けするよう、手配しましょう」

「いい気がこもってるし、きっと食べたらみんな元気になるよ! ああ、そっ

か……」

 花梨は、ふっと黙り込んだ。

「花梨さん?」

「……だから宮中行事になってるんだね。若菜にいい気がぎゅっと詰まってる

ってこと、知ってたんだ」

「そうですね、先人の知恵、ですね」

 花梨は、にっこり笑って、彰紋を見つめた。

「いいことは、残さないとね?」

 そう無邪気に言い放つと、花梨は彰紋の手を離し「これも、おみやげ」と、

すみれの花を摘み始めた。天真爛漫のようでいて、ものごとの本質をとらえ

る聡明さを備えている。このひとを得られたのは、まさに天の恵みだと、彰

紋は改めて思った。

「キレイだよね〜」

 手の中のすみれの花を見せて笑う花梨の肩を、彰紋はしっかりと抱き寄せた。

「彰紋くん……?」

「……しあわせになりましょうね」

 彰紋の腕の中で、花梨は小さく肯く。

「うん……。だから、一人で抱え込まないでね。私じゃ、まだまだ頼りないか

もしれないけど、一緒に悩んで、一緒に考えようね?」

「はい」

 匂いのいい花梨の髪にあごを埋めながら、彰紋は応えた。

「はい、ずっと一緒に……歩いてゆきましょう」

 この手に抱いた貴い輝きをけっして手放すまい。彰紋の誓いを後押しするか

のように、花梨の腕が彼の背中にそっと回された。

「……大好きだよ、彰紋くん」

 お互いの胸に満ちる思いがあれば、どんな困難をも乗り越えていける。手に

手を取って、怨霊と戦い抜いた日々が、その証。

夕まぐれの風の冷たさに、ふと花梨が身をすくめたのを、彰紋は見逃さなか

った。

「冷えてきましたね。帰りましょう」

「うん」

今日が暮れても、明日に向かって歩き出せる。確かな足取りで、二人は春の

野を後にした。東の空にのぼり始めた月に見送られて……。

                              (終わり)

    
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