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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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久々の遥かの更新です。
お初の景望。ちょっとシリアス。秋に鎌倉にいた頃の話です。
糖度は、む〜、話に登場する果物の甘さのみと思われます(笑)
し、自然の甘みってヤツ? ←(苦しすぎる言い訳)
景時さんが、私好みにヘタレてます。

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「青空の迷宮(ラビリンス)」
 突き抜けるような青空の下、景時は、ばさりと水を絞った布を広げた。物干し竿に掛け、ぴんと引っ張って、しわを伸ばす。
「天気はいいし、風もあるし、今日は、ほんとに洗濯日和だな〜」
 鼻歌交じりの景時の手によって、衣類や手ぬぐいなど様々な洗濯物が、次々とそよ風に揺れ始める。
鎌倉に頻発する怪異を探るため、八葉たちが梶原邸に滞在しているため、日々汚れ物が山のように出る。大方の者がうんざりする汚れ物の山も、景時にとっては”腕が鳴る”、”わくわくする”材料だった。
 軍奉行として陣頭に立っている戦場では、将兵の手前、できるはずもなかったが、鎌倉にいる今、好きな洗濯を正に満喫しているという気分なのだった。
 仲間の衣類を、嬉々として洗っている景時だったが、当然のことながら、望美のものに手を触れることはなかった。
「兄上のなさることじゃありません」と、妹の朔にきっぱり言い渡されている。
 朔を含めて、年頃の娘の羞恥心は理解できるつもりだが、陣羽織ぐらいは触らせてくれてもいいのになあと、思うことがある。
 源氏の神子と謳われ、戦場では八面六臂の活躍をする望美だったが、彼女の可憐な姿が泥を浴びるのを見ると、景時の胸はいつも少し痛むのだった。せめて彼女の身を守る陣羽織を、一度ぐらい自分の手できれいにしてあげたい。
 そんな気持ちが、のど元まで出かかったこともあるのだが、朔は恐らくかわいい眉をつり上げて、「だめです」と答えるに違いなかった。
「大体予想ついちゃうよなあ」
 小さなため息をつきながら、たらいの中から次の洗濯物を取り出す。見ると、九郎の着物だった。
「あ〜、ここ、ちょっと泥汚れが残っちゃったな」
 裾に泥が跳ね上がったあとに目を止めて、景時は微笑んだ。頼朝の威光で秩序が保たれている鎌倉にあっても、九郎は日々鍛錬を怠らない。自分の邸から、ほぼ毎日通って来ては、リズヴァーンや望美と剣の稽古に励んでいる。泥汚れは、そんな九郎のたゆまぬ努力の証だった。
「着替えたら、すぐに泥を落として、水に浸けておくように言っとかないと。あ、次は弁慶のか」
 弁慶の衣類には、薬草を煎じた汁が付いていることがある。これも染みつくと、なかなか取れにくい。染みだけでなく、彼の着衣には薬草のにおいも移っていて、何度洗っても、ふっとにおったりする。
 染みついて取れない汚れに、仲間たちの生き様が表れている気がして、景時は目を細めた。そして、ふと思う。俺には、きっと血のにおいが染みついている、と。
頼朝の命に従って、幾度となく手を汚して来た。刀を振るわず、遠距離から銃を使うため、返り血を浴びることは、実際はほとんどなかったが。それでも、命を絶たれたからだから吹きだした赤い血の色は、景時の眼に焼き付いている。
もしかしたら景時は、人の汚れをきれいに洗い流すことで、自分が重ねた罪もかき消えるような、そんな錯覚を抱きたいのかもしれなかった。
(そんなことで、消えるはずもないのに……)
景時が自嘲の笑みを浮かべたその時だった。背後に、ふっと人の気配を感じて、振り返った。
「あれ? 望美ちゃん」
仲間たちとともに探索に出掛けたはずの望美が、そこに立っていた。
「随分早く帰って来たんだね。何か、わかった?」
「ええ、呪詛をひとつ解除できました。みんなはまだ、噂のあるところを調べに行ってます。景時さんは、大倉御所の用事、もうすんだんですか」
「うん。思ったより早く片づいて、帰って来られたから、洗濯してたんだけど。ねえ、望美ちゃん、顔色が悪いみたいだよ? 大丈夫?」
 景時の言葉に、望美は力なく微笑んでみせた。
「みんなも、そう言うんです。帰って休むようにって。鎌倉にも怪異が起こっていて、怨霊がばらまかれるかもしれないって時に、だらしないですね、私」
 頼朝の膝元である鎌倉に来て以来、望美は足を棒にして諸方を探索し、呪詛を解除して来た。
 ここでは戦場での望美を知らない多くの御家人たちの目が光っている。いつも以上に緊張して、慎重にふるまうよう、望美は心がけていた。頼朝の耳に、少しで望美の悪評が届けば、それは彼女を軍列に加えた九郎や弁慶、景時の立場を悪くするのではないかと考えたからだ。
 口には出さない望美のそんな思いを、しかし仲間たちは何となく見透かしているようだった。現に今、望美を見る景時の目にも、いたわりがこもっていた。
「望美ちゃん、毎日のように遠出して疲れてるんじゃない? 床を取るように朔に言ってくるから、少し横になったら、どうだい?」
 そう言う景時の背後には、白く洗い上げられた洗濯物が、心地よさそうに風に舞い、頭上には光がみなぎった青空が広がっていた。穏やかな日常そのものの光景。望美は、ふっと肩の力が抜けるのを感じた。
「いえ、そこまでしてもらわなくても……。それより、お日様が気持ちいいし、ここで景時さんが洗濯してるの、見ててもいいですか?」
「え? それはかまわないけど。あ、じゃあ、ちょっと待ってて」
 ちょっと面はゆげに、頬を掻いた景時だったが、ふいに何かを思いついたように、上着を翻して走り去って行ってしまった。
「あ、景時さん〜」
 取り残されて望美は、景時の背中を見送るしかなかった。洗濯物が満載の物干し竿、青く高い空。それらは変わらず望美の目の前にあったが、景時の姿がないと、あまり意味がないことが胸に迫ってきた。心地よさそうに鼻歌を歌いながら、そこにいる彼を見ていたかったのだ、と。
 何か拍子抜けしたような気分で、ぼんやりたたずんでいると、景時が小走りに戻ってきた。
「ああ、待たせちゃってごめんね〜。これを探してたもんだから〜」
 言いながら景時は、腕に抱えていた蓙を広げた。
「はい、ここに座るといいよ〜」
「わざわざ探してくれたんですか。ありがとうございます。景時さん」
「こんなことで礼には及ばないよ。今日はいい天気だから、たまには、のんびりひなたぼっこしたらいいよ」
「景時さん……」
 望美が、景時自身や歩き回っている仲間に、気遣いやうしろめたさを感じないように、明るく笑って、ことを運ぶ。景時のそんなやさしさが、胸にしみた。
「さあさあ、座って〜。こんなのもあるよ〜」
 望美を蓙に座らせると、景時は熟れた柿を何個か望美に見せた。
「わあ、大きな柿! どうしたんですか、これ? まさか市まで買いに行ってくれたとか……」
「違うよ〜。裏庭の柿が、今年もよく実ってね。家の者がちょうど取ってるところだったから、持って来たんだ。好き?」
「ええ」
「それはよかった。ちょっと待ってね」
 景時は小刀を取り出し、手早く皮を剥いて、望美に差し出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。景時さんは?」
「うん、俺も食べるよ〜。隣、いい?」
「もちろん!」
 望美の横に腰を下ろすと、景時は自分の分の柿を剥き始めた。その器用な手元を眺めつつ、望美は橙色の果肉に歯を立ててみた。熟した果肉は舌の上で柔らかく崩れ、甘みが口の中に充満した。      
「おいしい」
「でしょ? 桃栗三年、柿八年ってね〜。うちの爺やが毎年肥を入れて、大事に育ててるんだよ〜」
 言いながら景時も、がぶりと柿を齧る。
「うん、今年の柿もうまい! 」
目元からも口元からも、笑いをふりこぼすような景時のそばにいると、焦りや不安が溶けていく気がする。彼を見習って、望美も柿にかぶりついてみた。
「ほんと“うまい”ですね」
 これもまねして言うと、景時は声を立てて笑った。
「そうやって食べるのが一番うまいんだけど、ちょっと汚れちゃったね」
 景時の指がすっと伸びて来て、望美の口元にはみ出した果肉をぬぐい取った。
「やだ、そんなに付いてますか?」
「うん。ちょっと待ってて。手ぬぐい、取って来るよ」
 景時は、腰軽に立ち上がると、母屋へと向かった。戸の内側に身を入れ、望美からは見えないところに来ると、今し方望美の口元に触れた自分の指を、そっと口に含んでみた。指に付いた果肉はもちろん甘い。だが、景時が味わいたかったのは、その甘さではなかった。
(望美ちゃん……)
 朱く濡れた唇、わずかに触れたやわらかな感触……。血塗れた自分が触れることは許されない、いとしい少女のほのかなぬくもりを、せめて……。
 ほんのわずかなひととき、胸の中の想いを解放した後、景時はふだんの自分を顔に貼りつけた。心を表に見せぬことには、すでに熟練している。何も気取らせない顔で、望美の元へ戻ると、手ぬぐいを差し出した。
「はい。水で絞って来たから、これで拭くといいよ」
「ありがとう、景時さんって、ほんとやさしい……。朔がうらやましいな」
「え〜? ふがいない兄貴だって、朔、いつも怒ってるよ〜」
 頭を掻きながら言う景時を、望美は見つめていた。
(うらやましいけど……私たちは兄妹じゃない。だから……好きになってもいいですよね?)
 いつもやさしい景時。だが、そこから一歩踏み込もうとすると、こちらが踏み込んだ分だけ、後ずさりをするように感ずる。……まるで何かにおびえるかのように。その心のうちに、いつか入り込むことができるのだろうか。一点の曇りもない青空を見上げて、望美はため息をついた。人の心は、この青空とは対照的に、複雑に入り組んでいる。入り口さえ見つからぬ迷宮のように。
「もう一つ、どう?」
 傍らの景時が、また笑いかける。その笑顔が好きだった。けれど、それだけでは、もう満足できない自分がいるのを、感ずる。そんな想いを少しでも伝えられたら……。もどかしい胸のうちとは裏腹に、口をついて出たのは、無難な言葉だけだった。
「はい、いただきます」
 波立つ気持ちをぶつけるように、受け取った柿に思いきってかぶりついてみた。よく熟した柿なのに、どこか苦かった。果肉と一緒に、望美は自分の意気地のなさへのいらだちを噛み締めていた。
 
 秋晴れの日が、続いている。
「ああ〜、今日も洗濯日和なのに〜」
 身支度を整えながら、景時はひとりごちた。今日もまた、望美やほかの八葉たちと別行動で、大倉御所へ出向くことになっている。最近、こうして呼び出される回数が増えていた。出仕するたび、望美や八葉たち(特に九郎)の動静、探索の進行状況について、頼朝に尋ねられた。
 頼朝が、底深い瞳の奥で、何を考えているのか、景時には伺い知れない。だが、時に昏い光がその瞳に宿るのを見るたびに、景時は背中にぞくりと慄えを覚えるのだった。
 頼朝は、確かに何かを決断するための材料を集めている。その決断はきっと、望美や八葉たちにとって、よい結果を導くものにはなりえないと、景時は直感している。いつ、その時が来るのか……。そしてその時、自分は……?
 薄い氷の上で、かろうじて保たれている日常。心の中で暗い天秤が揺れる。
 胸の中に、薄暗い霧のような不安を抱えながら、景時は、門に向かって重い足を進めた。
 と、その時、ふっと物干竿に目が行った。そこには昨日、望美と一緒に柿を食べた時に、彼女が口を拭くのに貸した手ぬぐいが掛かっていた。あの後、ざっと水洗いをして、ここに干しておいたのだ。
 そばに寄って、手に取ってみる。手ぬぐいは、もうすっかり乾いていたが、白い地にうっすらと柿の汁の染みが浮かんでいた。
(望美ちゃん……)
 無邪気に柿にかぶりついて、“うまい”と言った笑顔が、まなかいに浮かんだ。そっとその染みに唇を押し当ててみた。するとあの時、望美の唇に触れた指に染みた甘さが、よみがえってくる気がした。
(望美ちゃん……!)
 いとしい少女とともに過ごした時間のかけらを、景時は胸に抱き締めた。深い谷間に咲く小さな花に触れるように、そっと……。それは誰も触れ得ぬ彼だけのものだった。
 いくつかの吐息をこぼした後、景時は現実に立ち戻った。手ぬぐいを折り畳んで、胸元のかくしに忍ばせ、再び歩き出した。
 どこまでも澄みきった青空が、頭上に広がっている。だが彼は、もう空を見上げようとはしない。昏い迷宮の中へ、彼は足を踏み入れようとしていた。その先にあるはずの未来への出口を探して……。       (終わり)
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