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九郎さんのお誕生日に、大幅に遅れたうえに、やはりめでたさ満開とはならなかったお話です。
せめて花を飾っとこう。(BL要素はありません)

(加地の時にも、花ぐらい飾ってあげればよかった^^; でもあの話に似合う写真って……。う〜ん、キリギリス? イヤ過ぎます……orz 何のこと〜? と知りたくなった方は、こちらを参照下さい)




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「静けき、一夜」

 秋の短い日は落ちて、群青色の闇が下り始めている。九郎は、庭に面した濡れ縁に座して、訪問者を待っていた。
 庭木は宵闇の中で、黒い影となりつつあり、根方にわだかまる草むらからは、虫の声が降るように聞こえてくる。誰が植えたのか、萩や桔梗などの花々の色も、ぼんやりとうかがえる。九郎は、苦笑した。
(俺はめったにこの邸には帰らないのにな)
 源氏の兵を率いて各地を転戦する九郎が、この堀川の私邸に滞在するのは、月に数日、という程度だろう。そのわずかな日数の間も、源氏の総大将として、御所での行事に顔を出したり、兵の教練を行ったりして過ごす。九郎には、庭を観賞する時間も、またそういう風流な趣味もなかった。眺める主もないのに、それでも花は咲いている。
 兄、頼朝のために、ただ戦場を駆ける。そのことに、これまで何の疑問も抱かなかったのに、今、ふと胸にすきま風が吹くような思いがするのは、なぜなのだろう? 眼交に、一人の乙女の姿が、浮かぶ。戦場では羅刹のように勇猛であるにも関わらず、月を仰ぎ、散る花を惜しむ白龍の神子。彼女は言った。「この世界に来るまで、私はいくさを知りませんでした」と。
 いくさのない世界……それこそ、兄、頼朝が築こうとしている理想郷ではないか。そう問うと「さあ、それはどうかわかりません」とあどけないほどの笑みを見せた。その瞳に、自分には想像さえできない、平穏な世界のかたちを隠して。
 折しも天空に上ってきた円い月が、さえざえとした光を注ぎ始める。この月を、あいつも眺めているだろうか……。
 思い馳せる望美は、京で起こる怪異を追って、諸方を訪ね歩いているはずだ。いくつかの政務が立て込んだために、ここ数日望美のいる京邸に行く時間が取れず、彼女の顔を見ていない。
 こんな静かな秋の晩、もし、あいつが、今側に居たら、月の光に満ちるこの庭を見て、何を話すだろう。きっと虫の音に耳を傾け、夜気のなかに潜む土や草、花の匂いを楽しむことだろう、あいつなら……。
 九郎は、ふと思いついて、近習を呼んだ。九郎の命に、近習は一瞬意外そうな顔をしたが、一礼して、実行するために退がっていった。
 それからほどなくして、待ち人が現れた。九郎のもとへ通された弁慶は、目を丸くした。
「これは、珍しい……。僕のために、花まで用意してくれたんですか?」
 濡れ縁には、弁慶が座るための円座、そして酒の用意がなされており、さらに花瓶には、菊の花がふんだんに生けられていた。
「庭の菊が、今、盛りだったんでな。たまには、こういうのもいいだろう」
 弁慶は円座に腰を下ろし、九郎が差し出す杯を受け取りながら、ゆるく笑った。
「ふふっ、九郎に花を愛でる趣味があるとは、知りませんでしたよ」
「からかうな。で、怪異の探索の方はどうだ? 進んでるのか?」
「そうですね……。いくつか有力な情報が上がってきています。後は、その真偽を確かめて、ほんとうに呪詛によるものなら、つぶしていかないとね」
 杯をなめる弁慶の眼の奥に、ちかりと刃のような光が宿る。その怜悧な頭の中で、どんな考えを巡らせているのか、長年の付き合いをもってしても、すべてははかりかねる。ただ九郎は、弁慶のやさしい顔に似合わない剛毅な一面を知っている。心の奥底深くに何か打ち立てているものがあるということも。
 弁慶のその揺るぎなさは、男として、友として、信ずるに値すると、九郎は感じている。第一、戦場で、信用できない人間に、背中を預けるわけにはいかない。死線を共にすると決めた相手には、全幅の信頼をする、それが彼のあり方だった。
 弁慶の顔を見ずに、九郎がひそりと聞く。
「望美は、どうしている?」
「元気ですよ。倦まず、労を惜しまず、歩き回っています。あの華奢なからだのどこに、そんな力があるのか、いつもながら驚かされますね」
「そうか……」
 言葉がとぎれた。ふっと月を仰ぎ見る九郎の横顔を、弁慶は注意深く見守った。九郎自身は、自覚していないかもしれないが、望美をかなり気にかけていることに、弁慶はとうに気づいていた。九郎の中での望美の収まりのいい位置づけは、師を同じくする兄弟弟子、というところだろうが、恐らくそれ以上の存在にふくらみつつあるのだろうと、弁慶は見ている。
 兄の役に立とう、認められようというその一心だった九郎の中で、何かが変わり始めている。花を飾り、月を仰ぐ、そんな行動にも、その変化を見て取ることができる……。
 弁慶は、微苦笑を刻んだ。
(まあ、実際、この二人には、似通っている部分があるな……)
 純粋で、一途で、弁慶から見れば、その心の動きが、つぶさに読み取れる九郎。しかし、戦場にある彼は、常に弁慶の予想を上回った。柔軟な機略、末端の一兵に至るまで惹きつけ、束ねる魅力。格別の、抜きん出た将の器だと思う。
 そしてまた、望美も一種特別な人間である。たおやかな女人であるにも関わらず、思いもかけぬ力を発揮するのは、龍神の力を十二分に受け取れるだけの器だからなのだろう。
 どちらにも惹かれる。目が離せない。
弁慶は、きゅと唇を結んだ。……願わくは、自分の胸に秘めた目的と、この二人の歩む道が、ずっと重なり合っていてほしいと。しかし、ただひたすらに、まっすぐに突き抜けていく二人の推進力が、常に情勢に適合するものではないということを、弁慶は判じていた。
 ……いつか、二人と違う道を選ぶことがあるかもしれない。その時、二人の澄んだ瞳に、自分への怒りと悲しみ、蔑みが浮かぶとしても……。
「弁慶? 何を考えている?」
 九郎が気遣わしげに、見つめている。出会った頃と少しも変わらない直ぐなまなざし。弁慶は、それを慈しむような気持ちで、微笑み返した。
「いえ。リズ先生に弟子入りすれば、僕も君たちのように、人並みはずれた力を発揮できるようになれるのかなと思って」
「なんだ、それは。リズ先生は、確かに素晴らしい剣の師だが……おまえは人に教えを乞うような人間ではないだろう」
「そうですか。僕だって、道を指し示して欲しい時がありますよ」
 食い下がってみせると、九郎は、この上もなく明るい笑みを向けてきた。
「仮に指し示してもらったとしても、おまえは、おまえの信ずる道にしか、行かないだろう? それでいいんだ」
「九郎……」
 揺るぎない信頼と友愛。その笑顔の、あまりの屈託のなさに、ほんとうに自分がどんな道を選んでも許されるのではと、幻想を抱きそうになる。一度信じると決めた者には、惜しみなく、迷いなく……。それが九郎の大きさなのだ。
 この男に“友”と呼ばれるのは、しあわせなことだと弁慶は思った。じわりと広がる熱い思いを、胸の底に深く沈めながら、弁慶は口の細い瓶を、そっと手に取った。
「……今夜は、よい月ですね」
 九郎の酒杯に、注いでやりながら、弁慶は言った。
「ああ、見ろ。月をとらえたぞ」
 杯に映り込んだ月を、弁慶に見せて、九郎は莞爾として笑った。
「いつだったか、こんな夜に、どっちが先に潰れるか、飲み比べしたことがあったな」
「そうですね。確か……僕の勝ちでしたね」
「それは、違う。俺は、おまえが俺より先に床に臥すのを見たぞ」
「いいえ、九郎の方が先です」
「強情なヤツだな。潔く負けを認めろ」
「それはこっちの台詞です……。何だったら、今からもう一度やり直して、どっちが強いか、はっきりさせましょうか」
「面白い。望むところだ」
 隔てのない言葉とともに、酒が酌み交わされる。杯を重ねるにつれ、九郎の頬に、次第に朱が射してくるのを、弁慶は微笑みながら眺めていた。
(九郎……今、君とともにあるこの時間を、何があったとしても、僕は覚えていますよ……)
 花生けの、白菊の花びらが、ほろりとこぼれ落ちる。煌煌とした月が天空をめぐる。ずっと後に、何度も二人が胸に呼び戻すであろう、秋の一夜が、しんと冷たく、深まってゆく……。
                             (終わり) 



弁慶さんという人は、私にはなかなか解釈の難しい人なのですが、表には出にくいけれど、とても情の深い人なんだろうと思います。

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