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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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秋の初めに思いついた話です。
もう少しほのぼのした話になるはずだったのですが、
おかしいなあ^^; ていうか、やっぱり加地は、
内面がぐるぐるしてますからね〜。

誕生日祝いというには、めでたさがみじんもないので、
「ぐるぐる小話」としておきます。

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「焦がれるままに」
 
 一陣の風が、前髪をかき乱す。軽くかきあげながら、頭上を仰ぐと、色変わりを始めた木の葉が、ざあっと揺れていた。水分を含んだ夏の葉ずれとは違う乾いた音。
「秋、だなあ」
 加地葵は、ひそりとつぶやいた。星奏学院に転校して、そろそろ二月になる。転校当時は、まだ夏の熱をとどめていた日差しも、いつしかすっかり穏やかになり、冷涼な空気に織り込まれている。
 音楽科と普通科を備えた星奏学院の敷地は、相当に広く、町中とは思えないほどの豊かな緑と、そして何より音に溢れている。音楽科の生徒たちの誰彼が奏でる音色が、日々聞こえるのは当然としても、何かそれだけではない特別な空気が学院内に漂っているのを、加地は肌で感じていた。
「そりゃ、おまえさん、猫神様がいるからだ」という音楽科教師の金澤の戯れ言は、まあ置くとしても、見えない何かが、確かにあるような気がする。
 そして、その“魔法”とでも呼びたいような不思議な空気は、加地の耳を、心をとらえた少女に、いかにも似つかわしかった。
 “魔法”を信じていたのは、もうずっと幼い頃のことだ。だが、街角で初めて日野香穂子の演奏を聴いた時、自分は魔法にかかったのだと思う。その清らかな、自分ができれば奏でたかった音色に、あらがいがたく引きつけられてしまった。
 そうして、香穂子の音楽を、姿を求めて、転校して来て、身近に彼女に接するうちに、どうやら彼女の持つ魔法に、一層強くとらわれてしまったようだった。
 この学院を満たす不思議な空気を、波紋のように震わせる香穂子の音色。それを生み出す細い指、真摯に音楽に取り組む姿、そして屈託のない笑み。もはや心に食い込んでしまった。恋わずにはいられなかった。
 吉羅理事長の設定する目標を達成するため、香穂子ともにアンサンブルを組むようになったのは、信じられないほどの幸運だった。傍にいるだけでなく、役に立つことができるのだから。
 思い描く理想とはほど遠い自分の演奏、それゆえに苦しみの種ともなっているヴィオラだったが、香穂子に必要とされるのは、嬉しかった。
 息がかかるほど近くで、香穂子の傍にいて、彼女の音楽に触れられる喜び。しかし、そこに自分の音を絡めていくのは、加地にとって、時として苦痛につながるものだった。
 香穂子自身のみならず、彼女の周りには、音楽の女神に接吻された、才能ある奏者が、アンサンブルメンバーとして、寄り集まっていた。自分とはレベルが違いすぎる、自分の居るべき場所でない。すでに何度もそう思っていた。それでも……香穂子の傍にいたい。
 喜びと苦痛の両極端に揺れる中、秋は深まっていく。
ヴィオラを携え、森の広場を歩く加地の足下でかさこそと落ち葉が鳴った。人目につかない場所を探して、一人で練習をするつもりだった。次にメンバーと音を合わせる時には、昨日つっかえた箇所を、こなせるようになっていなくてはならない。自然のままの木々や灌木が点在する森の広場は、そうした秘密の練習場所を探すのに、うってつけだった。
(今日は、ひょうたん池のあたりにしようか)
 目星を付けている場所がある。加地はひょうたん池の傍にたどり着くと、心覚えのある灌木の茂みに分け入った。そこには灌木と、さらに立ち木に囲まれたちょっとした草地がある。そこならば、誰にも見られることなく、練習ができる。そういう心づもりで足を踏み入れた加地は、足下にあった何かにつまずいてしまった。
「うわ、わ……!」
 バランスを失った加地は、手をつくべき地面があるはずの場所に、見覚えのある白い制服に包まれた人間のからだが横たわっていることに、狼狽した。
「まずっ……!」
 持ち前の運動神経を生かして、身をひねり、寝ている人物の上に、まともに倒れ込むことと、ヴィオラにダメージを与えることから、何とか免れた。
「あ、痛てて……!」」
 ヴィオラを胸に抱きながら、草の上に背中から何とか着地した加地は、したたか打ち付けた痛みに顔をしかめた。するとその声と気配で、すっかり寝込んでいたらしいその人物が、むにゃむにゃ言いながら、目を開けた。
「おはよう、志水君」
「ん……。加地先輩? どうして、ここに?」
「それはこっちの台詞。毎度のことながら、ところかまわず寝ていたら、危ないよ。僕、君につまずいちゃったし」
 志水桂一は、ぼうっとした目で、加地の様子をしばらく眺めていたが、もそもそと起き上がり、きちんと膝をそろえて、座った。
「練習……しに来たんですね。すみません……。ヴィオラ、大丈夫でしたか?」
 加地は苦笑した。ヴィオラのことをまず心配するのが、志水らしい。
「何とかね。じゃあ、僕、もう行くよ。起こしちゃって、ごめんね」
 言いながら、ズボンをぱんぱんとはたき、加地は立ち上がりかけた。と、その時、志水の目に突然光が射した。
「……待って下さい」
「え?」
「ほら……聞こえてきた……」
 志水の嬉しげな表情と言葉につられて、加地はうっかり立ち去り損ねてしまった。言われるままに、耳を澄ませてみると、草むらから、澄んだ虫の音がわき上がってきた。よくわかる鈴虫だけではない。何種類かの、名前もわからない虫の声が重なって、意図的にハーモニーを奏でているようにさえ思えた。
 耳を傾けていると、心が静かに凪いでくるような、ひそやかで、飾りのない音……。結局志水と一緒にその場に座り込んで、聞きほれながら、加地はつぶやいた。
「……ほんとだね」
 すると志水は、熟した実が弾けるように、笑った。いつもつかみどころのない、別の世界に浮遊しているような彼が、お菓子をもらった子供のように、無邪気に見えた。
「……加地先輩が、虫の声、聞いてくれる人で、よかったです。ありがとうございます」
「いや、お礼を言われるほどのことじゃ……。そうか、ここで虫の声を聞いてたんだね」
「はい。聞いてるうちに、気持ちよくなって、眠っちゃったんです。……虫の声だけじゃなくて、風の音も、葉ずれも……みんな心地よい……音楽です」
 この音楽の精のような少年には、周囲のすべてが、歌いかけているように感ぜられるのだろう。しかも、彼はそうしてとらえた音を、自分の表現として、編み直す才を持っているのだ。加地は、ほんの少し胸の奥がよじれるのを感じた。
「そうだね。実際、少しでも雌の気を引こうと、雄が勝負を賭けて、出してる音なんだけどね」
 少々トゲのある物言いに対して、志水は夢見るような瞳を少し見開き、小首を傾げた。
「ああ……そうですよね。だから、きれいな音ってだけじゃなく、心に迫ってくるのかもしれない。……僕は、誰かのために、そんなに一生懸命チェロを弾いたことは、ないと思います。……加地先輩は、どうですか?」
「……」
 加地は、思わず言葉に詰まった。……ふわふわ現実から遊離しているようでいて、どうしてこれほどまでに核心を突いて来るのだろう。かろうじて体勢を立て直し、ことさら余裕のあるような笑みを、口元に貼付けてみせた。
「僕? さあ、どうだろうな。仮に一生懸命弾いたとしても、僕の音じゃ、相手の心に響かないんじゃないかな」
 すると志水は、真面目な顔をして言った。
「そんなことは……ないと思います。ええと……うまく言えないけど、加地先輩の音には、情感がこもっていると、思います……」
 もう、たくさんだ、と加地は思った。これ以上、音を通して、心を見透かされては、かなわない。……実際、どんな鳴く虫の雄よりも、浅ましく香穂子に恋い焦がれているのだから。しかし、いまだ恋の苦しみなど知らない、世界から音楽を受け取る器そのままであるような、この少年に、自分の心のうちを開陳するのは、プライドが許さなかった。
 加地は、とびきり明るい笑みを作って、志水に向けた。
「ありがとう。志水君にそう言われると、自信持っちゃうよ。じゃあ、僕、そろそろ行くね。一緒に虫の声、聞けて楽しかったよ」
 志水が言葉を挟む余地などないトーンで畳み掛けると、加地はさっさと立ち上がった。
「あ……加地先輩……」
 追いかけてくる志水の視線を振り切り、肩越しに手を振った。
「じゃあ、またね」
 それだけ言い残すと、加地は身を翻して、茂みの中を泳ぐようにかき分けて行った。
 加地が別れの一言を言った瞬間、ぶつっと加地と自分との回線が断ち切られたと、志水は感じた。彼は、もう自分と話していたくないがために、立ち去ったことが、何となくわかった。
「……気を悪くさせちゃったのかな」
 志水は目を伏せた。
「……ただ、加地先輩のヴィオラ、好きだって言いたかっただけなのに……」
 微風に揺れる梢から、はらはらと葉が舞い落ちて、志水の肩にそっと止まった。自然は、どこまでも彼にやさしかった。

 志水と別れた後、加地は胸に広がる苦さを噛み締めていた。彼の前で、どんどん惨めになってゆく自分。だが、志水からは遠ざかることができても、自分自身からは逃げることはかなわないのだ。
「くくっ……。あはは……はははっ!」
 自嘲の笑いが、のど元をこみ上げてくる。志水が無意識に指摘したように、今の自分は、香穂子のためだけに、弾いている。ヴィオラの弾き手として、アンサンブルメンバーとしてなら、彼女に必要とされることを、実感できるからだ。それが情感豊かだとは、お笑いぐさだった。
 ……でも。爆発的な笑いにしばし身を委ねた後、それを何とか身のうちに収めながら、加地は思った。でも、みじめだろうが、お笑いぐさだろうが、自分は香穂子を恋わずにはいられない、と。
「魔法というより、呪縛、かな」
 目の端ににじんできた涙を拭いながら、独りごちた。しかし、そんな風に名付けることに、何の意味もなかった。自ら進んで身を供している以上、むしろ加地の方が、それに執着しているのかもしれなかった。
 風に乗って、誰かの奏でるヴァイオリンの音が、運ばれて来る。
「……あれは彼女じゃないな」
 香穂子の音なら、ほんの1フレーズでも、この耳でとらえる自信がある。
「そこだけは、志水君にだって、負けないんだけどな」
 くすりと笑うと、ふと手にしたヴィオラが目に入った。自分の思うに任せない、それでいて離れがたいもの。香穂子と、自分との、架け橋。加地は、ぐっとヴィオラを握り直した。
「さあ、練習、練習!」
 胸にせき上げる様々な思いを飲み込んで、加地は歩き始めた。
そうして彼が去った後、場をかき乱した、激しい感情の余波が収まるのを待ちかねたように、虫が鳴き始めた。一瞬とて無駄にはできない。その命、絶えるまで、夜を込めて、鳴きしきるのだ。ただ、焦がれるままに……。
                             (終わり)



虫が死に絶えるまでに、アップできてよかったです^^
アンコールのしみきゅんルートで、垣間見える加地のほの黒さが、
反映されています。
こんだけヤツのぐるぐるした内面に、まともにつき合ったのは、
初めてだと思います。
うう、ヤツの呪縛から逃れるために、仏壇の前に座りたい気分です。
(何のこっちゃ)
この次書くのはイタ明るい話にしたいです。



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