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「遙か4」にかまけながらも、ちまちま書いていた彰紋さまのお話です。
ええ、世間が遙か4一色に染まろうとも、我が栄光の東宮様は、永久に不滅です!(って、字面にすると、つくづく変なセリフですよね〜。永久に不滅って……。馬から落馬するに近い気がする・苦笑)

ええと、実は写真の都忘れを見て、考えたネタです、二月ほど前に(汗)
従って、ちょっと時期がズレちゃったのですが、まあ、まだ夏本番ではないので、ぎりぎりOKかなということで、載せておきます。舞台設定は現代ED後です。






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「紫の痛み」

 梅雨のはしりの、しのつく雨が降る光景を眺めながら、彰紋は待っていた。今たたずんでいる校舎の昇降口からは、グラウンドが見渡せる。この雨のせいで、いつもは運動部の生徒たちの活気にあふれたグラウンドも人影がない。
 どんよりした雲の向こうで、次第に日が傾きつつあることを見て取って、家路を急ぐ生徒たちが、足早に横切っていくだけだった。
 雨はほぼまっすぐに降っていたが、時折風に流されて、屋根の下にいる彰紋の足下に降りこんでくる。最近ようやく足に馴染んできた靴に、細かい水滴がぽつぽつはね上がるのを、何となく見下ろしていると、視界のすみを鮮やかな色彩がかすめた気がした。
 その色彩……深い紫色が少し気になって、彰紋はその色をした物が何なのかを、目で探した。すると……。
(ああ、こんなところに花が。少しも気づかなかった)
 雨に濡れて、いきいきと葉を広げる植え込みの木々。その根方に植えられたものの、さして手入れもされずに放置されている草花の中に、それは咲いていた。
 傘を広げ、屋根の下から歩み出して傍へ寄ってみる。雨と彰紋の視線を受け止めるように開いた花は、野菊のようで、そうではない。
 その花びらの深い紫は、彰紋がかつて内裏でよく目にした絹の色合いを思わせた。父である院の袖や、兄帝の腰に巻かれていた帯の色に似ている……。
 そう思った時、彰紋の胸をやるせない痛みが刺した。……自分が振り捨てて来た京で、父や兄は今どうしているだろうか。
 権力の中枢にあって、貴い存在と仰がれながら、自分の意思ではなく、後ろ盾や周囲にいる人間によって、生き方を決められる存在。血肉を分けた親子でありながら、それぞれが背負う物のために、対立せざるを得なかった二人。
 そんな権力の檻から、自分だけが逃れて、今ここにいる。……ただ自分だけのしあわせを求めるために。目頭に苦い涙が滲んでくる。この場所に今いること、それ自体がもはや後戻りのできない選択の結果。そうして、どれほど思っても、もうこの手を差し伸べることは叶わない。
 見つめる花の紫が、涙でぼやけかけたその時。
「彰紋くん? 何、してるの?」
 待ち人の、柔らかな声が、名を呼んだ。はっとして、指先で目尻を拭い、笑みを作りながら、振り返った。
「花梨さん」
 華奢な少女は、またたく間に彼の傍へやって来て、明るい色の傘の下から、彰紋に笑いかけた。
「待たせちゃって、ごめんなさい。委員会、長引いちゃって……」
 かつて京で龍神の神子と呼ばれ、彰紋をこの世界に誘った少女は、清らかさはそのままに、しかし京にいた頃よりも、ずっと伸びやかに見える。
 彼女が京を救うために龍神を呼び、天空に駆け上がったあの時、彰紋は誓ったのだ。もし天女が再び舞い降りて来るならば、けしてその手を離すまいと。
 そして、その誓い通り、自分はその手を取って、ここにいる……。
「どうしたの? ええと、私の顔に何か付いてる?」
 見つめる彰紋の瞳の強さに戸惑ったのか、少女は少し不安げに小首を傾げた。小鳥のようなそのしぐさに、彰紋は微笑まずにはいられなかった。
「いいえ。その傘の色が映えて、あなたがきれいで……見とれてしまいました」
「もう、急にそんなこと言ったら、照れるよ」
 頬を染める少女に、そっと肩を並べて寄り添う。苦難を乗り越え、自分に新しい未来を見せてくれた彼女を、不安にさせてはいけない。そんな思いを込めて、その肩にそっと触れた。
「ほんとうのことですよ。さあ、帰りましょう」
「うん」
 こっくり肯いた少女は、それまで彰紋のからだで、彼女の視線からは隠れていた、あの花に目を止めた。
「あ、都忘れ。こんなところに咲いてたんだね」
 彰紋は驚き、もう一度花に目をやった。
「この花は……都忘れというのですか」
「うん。ええとね、昔、政争に敗れて、都から遠く離れた場所に流された帝が、この花に気持ちを慰められたっていう話があるんだよ」
「そうなのですか……」
 雨の中で、凛と咲く、紫の花。その色は、遠い、もう帰るべくもない京を思い起こさせた。
 けれど……彰紋は、傘を持つ手をぎゅと握った。けれど、その名は都を忘れよと……。しばし目を閉じた後、彰紋は花を見つめながら、心で語りかけた。
(……都を、京をしのぶのは、おまえのその色を見る時だけにとどめておくよ……)
「彰紋くん? ぼんやりして、どうしたの?」
 少女の小さな手が、心配そうに軽く腕に掛かる。彰紋は、笑みを広げて、花ではなく、彼女の目を見つめた。
「いいえ。ただ、とても愛らしい花だと思ったもので……。でも、花梨さんの方が、もっとすてきですね」
 言いながら、少女の手をそっと自分の手の中に収めた。
「……隣にいてくれるあなたの方が、どんな花よりも、僕には……」
「また、そんな恥ずかしいことを〜〜」
「ほんとうのことですよ」
 見つめ返す少女の瞳から、不安の色が消えるのを確認しながら、彰紋はことさら明るく言った。
「さあ、帰りましょう? 少し冷えて来ましたよ」
「うん」
 二人寄り添い、歩き始めた。彰紋の胸に刺さった紫の色は、恐らく消えることはない。だが、その痛みごと、この身をずっといとしい人のそばに……。
 そう願う彰紋の胸のうちを見透かしたように、少女はふわりと笑った。
「このまま、ずっと、こうして一緒に歩いていられたらいいのに、ね?」
 彰紋は足を止め、傘を少し傾けて、少女の正面に立った。
「ええ。僕はずっとあなたと歩くために、ここにいるんです」
 少女の瞳は一瞬とまどいに見開かれたが、すぐにその上に睫毛が伏せられた。その額に唇を軽くつけながら、彰紋は、胸の中で繰り返した。
(僕は……あなたと、ここにいます)
 しばらくして少女は、羞じらいに身じろぎし、そっと彰紋の胸を押しやった。そして小さな声を上げた。
「あ、雨、やんだみたい」
「ほんとだ。やみましたね」
 厚ぼったく垂れ込めていた雲が切れて、空が顔を覗かせている。
 傘を閉じて自由になった少女の手が、彰紋の手の中にすべりこんで来る。
「帰ろう? こっちの道から」
 はにかみながら、遠回りになる道を指す少女に、彰紋は微笑み返した。
「ええ、帰りましょう。ゆっくりと……」
 小さな手に、ぎゅと力がこめられる。そのぬくもりに、胸の痛みが薄らぐのを彰紋は感じる。
「明日は、晴れるといいね」
 少女の無邪気な言葉が、耳に届く。手の中の少女のぬくもりを、彰紋はそっと握り返した。
「ええ、きっと晴れますよ」
 心からの笑みで答えた時、彰紋は確信していた。自分はこの手を取ったことを、けして後悔はしない、と。
 その胸の確かな思いを裏付けるように、空は夕闇を流しながら、澄んで、広がり……。この上なくやさしい紫色に、世界を染め上げてゆくのだった。
                              (おわり)




彰紋さまは、責任感の強いお方ですので、現代に来たからと言って、はい、そうですかとは、なかなか割り切れないのではないかという気がしたもので、こういう話になりました。

都忘れの逸話は、承久の乱の際に敗れ、佐渡島に流された順徳上皇のものとされています。
この承久の乱後というのが、現代版になった由縁です。花自体はもっと以前からあったのかもしれませんが、なんつっても、この名前でなきゃ、意味がありませんから〜。
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はじめまして
コマツバラさん、はじめまして。
おさわり阿弥陀企画のリンクからお邪魔しました。

わたしも東宮様が永遠に不滅なぐらい大好きですので、アンジェを通してコマツバラさんの東宮様創作を拝見できて、大変嬉しかったです。

どの八葉も京を後にすることに躊躇いはあったと思いますが、東宮様の葛藤はそれはもう大変だったでしょう。そんな東宮様の苦しさと前向きさが伝わるお話、素敵でした。都忘れの使われ方がとても巧妙で、とても素晴らしい書き手さんだなぁと憧れてしまいました。

またお邪魔させていただきますので、どうぞよろしくお願いします。
マリ 2008/07/09(Wed)19:52:02 編集
いらっしゃいませ
マリさん、感想コメントを付けて頂き、ありがとうございます^^
おさわり阿弥陀企画さんの方から、いらしたとのこと。
(こちらの提出作品も、頑張って仕上げねば、ですね)
ということは、アンジェの作品を期待されたのだろうと拝察しますが、
東宮様や色サマの作品にまで、お目を留めて下さり、大変嬉しく思い
ました。
ええ、東宮様も色サマも大好きなのです〜。拙いなりに思いをこめた
作品に、共感して頂けて、嬉しいやらありがたいやらで、
マリさんのコメント欄に後光が射して見えます〜。
当方ご覧の通りのごった煮状態で、お気に召すものが、
いつもあるかどうかわかりませんが、宜しければまたお立ち寄り下さい
ませね^^
東宮様は、永久に不滅です!(鼻息)


【2008/07/09 23:44】
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