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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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今月頭から、ぶつぶつつぶやいていた「エトワール小話」です。
やっとできました。てか、どんだけ時間かかってるんだ、自分^^;
ともあれ、これで心おきなくこの週末「遙か4」をプレイすることが
できます。そう言えば、「ネオアン」の放送日でもありますね、うほほ〜い♪

「アンジェおさわり切望同盟」さんという、名前だけで心が萌え立つ企画の阿弥陀に参加させて頂きます。(こちら成人対象ですので、ご注意下さい)
こちらへの原稿と、後、季節物の原稿を近々アップできたらと思います。
それから夏のイベント参加の準備体制かな。
とりあえず今週末は、レッツ、エンジョイ! です^^


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「たとえば、胸があたたまる時」

 ピィン……という起動音とともに、渦巻く星雲や若い星々の群れが眼前のスクリーンに浮かび上がった。神鳥の宇宙から、最新の技術を移植して建設された王立研究院の観測室。聖獣の宇宙の各地から送られて来た様々なデータを解析し、数値でも映像でも、目に見える形にして表示できるシステムが整っている。
 レイチェルは、毎日のようにこの場所に足を運んでいた。それは女王補佐官という彼女の立場からして、至極当然のことではある。
だが、それだけではない。女王試験の直前まで王立研究院に身を置いていた彼女にとって、王立研究院の空気はなじみ深いものだった。そこで生のデータを目にすると、彼女が全力を注ぐ対象である聖獣の宇宙が着実に発展していると確信できたのである。
 そう、女王アンジェリークが、いまだ深い帳の奥から出られない今、生まれて間もない聖獣の宇宙を守り育むことは、自分の双肩に掛かっていると、レイチェルは深く自覚していた。この観測室で見られるデータは、強い責任感と、それに伴う緊張、不安を和らげてくれる、今のところ唯一のものだったのである。
「……で、こちらが、聖地から3時方向になりますXX2星系の様子です」
 研究院で補佐的役割を務めているエイミーの操作で、次々と映像が切り替わる。伝説のエトワール、エンジュの働きのおかげで、徐々にサクリアが解放され、守護聖も集まりつつある。しかし、いまだサクリアの届かない星系に広がる、活性化しない暗黒星雲を見ると、まだまだ先は長いと思わずにはいられなかった。
 ほうと小さなため息をついて、肩を落とした時、足音が近づいた来た。
「今日のデータは閲覧できましたか、レイチェル?」
 名を呼ばれてレイチェルは、はっと背筋を伸ばした。
「ああ、エルンスト。今、見ているところだよ」
「ようこそ、エルンスト様」
 二人の少女の挨拶に、エルンストは薄い笑みをもって応えた。彼もまた、神鳥の宇宙の主星の王立研究院から、鋼の守護聖として、この地に迎えられて間もない。どうやらここは気持ちの落ち着く場所であるようだった。スクリーンを見上げるその表情は、心なしか和らいで見える。
「この星系の数値データは、ありますか? ああ、ありがとう」
 エイミーから資料を受け取り、目を通すエルンストの様子は、研究員そのままだった。
「なるほど。こちらのVX1星系に、後およそ20ほど、鋼のサクリアを流現すれば、その影響がVX2星系にまで波及して、相乗効果が得られそうですね。エンジュに進言してみましょう」
エルンストがデータに対する自分の見解を述べた時、それを断ち切るような声が響いた。
「その必要はねえよ」
 一同は顔を挙げ、声のした方向を見て、一人の少年が室の入り口にたたずんでいるのを認めた。
「これは、ゼフェル様」
「いらっしゃい、ゼフェル様」
 神鳥の宇宙の鋼の守護聖ゼフェルは、異口同音に発せられた呼びかけに反応するでもなく、遠慮のない様子で室内に入って来て、エルンストの手にある資料を覗き込んだ。そして紅玉の瞳に強い光をきらめかせて言った。
「なるほどな、このデータを見た感じだと、確かに後20鋼の力を送ればいいかもしんねえ。でも、必要ねえ」
 その無遠慮な態度が、カンに触ったのだろう。エルンストが不快そうに眉をしかめながら問うた。
「お言葉ですが、ゼフェル様。何を根拠に必要ないとおっしゃるのですか? このように客観的なデータが出ているというのに」
「20ぐらいだったら、この中心にある母星と、その周辺にある星の住民が、自力で発展させて、サクリアの量も、文化レベルも引き上げられる。それぐれえのポテンシャルはあるだろう」
「しかし、後たったの20送れば、飛躍的に発展するのが目に見えているのに何ら手を加えないのですか? 女王陛下の一刻もはやい復活を促すことこそ急務であるのに」
エルンストの反論に、ゼフェルの眉が険しく寄せられる。
「おめえ、この星の上に、人間が生きてるってこと、ちゃんとわかってっか? 俺たちが送るサクリアは、肥料みたいなもんだ。耕して育てて、収穫するのは、住んでる人間なんだ。それがわからねえようじゃ、話になんねえ」
 吐き捨てるように言うと、足音も荒く、ゼフェルは室を出ていった。
「あ、ゼフェル様! ごめん、エルンスト、エイミー、とりあえず私はゼフェル様の後を追っかけてみるよ」
 そう言い置くと、レイチェルは慌てて駆け出した。
後に残されたエルンストとエイミーは、顔を見合わせた。エルンストは、太い息を吐いた。
(……優秀な頭脳を持ちながら、あの方は、どうしてあのように粗暴なのだろう)
 手元のデータを、改めて眺めてみた。自分の判断にほぼ間違いないと確信が持てた。
「エイミー、エンジュを呼んでもらえませんか」
「はい、承知致しました」
 エンジュの端末に連絡を入れるエイミーの姿を見守りながら、エルンストは考えた。
(とにかくこの宇宙を早く安定に導かねば……)
 聖獣の宇宙が健全に発展することを願うのは、無論のこと。それとともにエルンスト自身は、あまり自覚していなかったが、その思いの底に、レイチェルへの心やりがあった。
 聖獣の宇宙に来て、久しぶりに再会した時に、エルンストはかつて見たことのないレイチェルの張りつめた様子に、内心驚いたものだった。生来の快活さと気丈さで、努めて外には出すまいとしていたが、親友でもある女王アンジェリークへの心配と、女王不在の中で、宇宙を守り育む責任感で、相当心労を抱えていることが、エルンストには見て取れた。
(レイチェルのためにも、一刻も早い育成を)
 そんな思いを胸に、エルンストは再びスクリーンを見上げていた。 


「ゼフェル様!」
 足早に去っていく後ろ姿に、レイチェルは呼びかけた。
「……なんだ、追っかけて来たのかよ」
 レイチェルの方を振り向いたその顔は、一見不機嫌そうだったが、瞳の色はやや柔らかくなっていた。
「……その、聖獣の女王の復活が遅れてもいいと思ってるわけじゃねえんだ。ただ、その……なんだ。生まれたばかりの宇宙だからこそ、甘やかすよりも、人間がてめえで発展させられるようにした方がいいんじゃねえかと、そう思っただけだ」
 きまり悪そうに、視線を外しながら語られる言葉に、ゼフェルの真意をくみ取って、レイチェルは微笑み返さずにはいられなかった。
「だったら、エルンストにも、そう言って下さればいいのに」
「あいつの、何もかも計算ずくで考えようっていう態度が、気に入らねーんだよ! 大体、なんだぁ? いっぺんは守護聖になることから逃げかけたくせによ〜」
 ゼフェルの言いぐさに、レイチェルは苦笑しながら答えた。
「データがすべての発想の元になるのは、これまでの人生の三分の二を研究員として過ごして来たんだから、しょうがないかな。大目に見てやって下さいよ。そのうち守護聖としての思考法を学習するでしょうから。それに守護聖就任前のアレは言わない約束でしょ〜? それ言うなら、ゼフェル様だって、時々脱走してるじゃないですか」
「バ……っ! 俺のは、そのぉ、実況検分だっ! それに俺は、逃げたいところをぐっとこらえて、守護聖やってんだ!」
「はいはい。もちろん、そうですとも」
 反論をあっさり受け流されて、ゼフェルはぷいと横を向いた。ロザリアといい、ビミョウに逆らえない気にさせられるのは、もしかして女王補佐官の特性なのかと、胸の中でつぶやいてみる。
 そんな手強い聖獣の女王補佐官が、更に言った。
「ところで、ゼフェル様、今日は何のご用でいらしたんですか?」
「それは、そのぉ〜、ちょっと体が空いたし、こっちの宇宙のことも、ちっとは気にしてやった方がいいかと思って……」
「つまり、心配して、わざわざ来て下さったんですよね? ありがとうございます」
 レイチェルがにっこり微笑んで切り返すと「うっ」とも「ぐっ」ともつかない声をもらして、ゼフェルは黙り込んでしまった。
「じゃあ、せっかく来て下さったんですから、あの頭のかた〜いエルンストに、一つ守護聖としての心得でも指導してやって下さいよ」
 促すように差し伸べられたレイチェルの手から、飛びすさるようにして、ゼフェルは言った。
「いや、今日は、もう、帰る……!」
「え〜? もう帰っちゃうんですか?」
「帰るったら、帰る!」
 肩を怒らせ、足音も荒く、歩み去っていくゼフェルの後ろ姿に、レイチェルは呼びかけた。
「また、来て下さいね〜」
 顔だけこちらに向けて、ゼフェルは口を盛大にへの字に曲げてみせたが、後ろ向きに片手を挙げて応えた。
 その背を見送りながら、レイチェルは苦笑した。
「素直じゃないんだから。ああ、でも、ちょっと失敗したかな。ほんとにエルンストにアドバイスしてあげてほしかったのに。私もロザリア様から、補佐官としての心得を教わらないと……」
 心の底に、安定した発展を続けている神鳥の宇宙の守護聖であるゼフェルに、頼ってしまいたい気持ちもあることを、レイチェルは自覚していた。けれど、そんな弱みを見せたくはない。であればこそ、ゼフェルに対して、あえて軽くいなしてみせた部分もあるのだった。唇をきゅっと引き結び、頭を振った。
「もっと私がしっかりしないと……。アンジェリークから預かっている宇宙なんだもの!」
 女王補佐官たるに相応しい資質と気概を十分備えたレイチェルだったが、踏み出したばかりのその道に於いて、時に誤ることがあるのは、むしろ当然である。後で彼女は、この時不安を素直に表して、ゼフェルをしっかり引き留めておけばよかったと、悔やむことになるのだった。


 その朝、レイチェルは、エイミーからの緊急連絡を受けた。
「レイチェル様! 朝早くに申し訳ありませんが、至急王立研究院までおいで下さい!」
 通信コンソールのモニターに映し出されるエイミーの声と表情が、ただならぬ事態の発生を物語っていた。
「何事なの? 簡単にでいいから、説明して」
「VX星系で、資源を巡っての小競り合いから、緊張が高まって、紛争へ発展しそうな兆候が見られます」
「了解! すぐ行くよ。行ったら、すぐに情況把握できるように、データを揃えといて!」
「承知致しました!」
 モニターの中のエイミーが消えると、レイチェルは手早く外出の準備を整えた。動悸が早鐘のように高まっている。
 エンジュがサクリアを運んでくれるようになってから、アンジェリークと共に願ってやまなかった人類が聖獣の宇宙に誕生した。以来、ただ自然にあるがままだった星々に、とりどりの文化文明が花開きつつある。そこに暮らす人々の幸福だけを願って、帳の奥で懸命に宇宙を支えているのに、戦争が勃発したりしたら、アンジェリークがどれほど悲しむかしれない。
 焦燥に苛まれながら、王立研究院に駆けつけたレイチェルを、エイミーと、
すでに聖地に参集している3人の守護聖が迎えた。その3人とは、鋼の守護聖エルンスト、風の守護聖ユーイ、炎の守護聖チャーリーである。
「レイチェル様、お呼び立てして、すみません」
「緊急事態にそんなのは言いっこなしだよ、エイミー。ところで、エンジュは? もしかして、聖地にいないの?」
「エンジュは、一昨日、宇宙に飛び立っています」
「まさか、危険な地域に行ってないよね?」
「アウローラ号からの通信によれば、昨日の時点で紛争の中心地である母星に降りたってはいますが、すでに離れて、聖地に向かって航行中とのことです」
「そう、よかった。今は影響のない場所にいるんだね。じゃあ、VX星系の現状のデータを見せてくれる?」
 レイチェルがエイミーの差し出すデータを受け取ろうとしたその時だった。
「レイチェル……」
エルンストが緊迫した面もちで、口火を切った。
「ああ、エルンスト。ちょっと待ってね。今、このデータに目を通すから。その上でアナタの見解を聞かせて?」
「いえ、レイチェル……。原因の推測はついているのです。恐らく当該星域で鋼のサクリアが急激に増加し、住民の技術発展への欲望が加速したためです。そして、それは私が独断でエンジュに鋼のサクリアの流現を依頼したために、引き起こされたことなのです」
「どういうこと?」
「先日、ここにゼフェル様がいらした時のことを覚えていますか?」
 その一言で、レイチェルには附に落ちた。そう、あの時ゼフェルは、VX星系に、20の鋼のサクリアを送ることに異を唱えたのだ。民が自力で発展させるに任せろと。
「……あの時、後20あればって言ってたけど……もしかしてそれ以上に送ってしまったの?」
「いえ、私はエンジュに少しだけ鋼のサクリアを拝受しました。しかし、それが呼び水になったかのごとく、現地で鋼のサクリアが増大して……。それに伴って、民の欲求も増加して、更なる技術発展のために、他の星の天然資源にまで目をつけるようになったようです。……まったく、このような事態になろうとは……。私の見通しが甘かったと言わざるを得ません」
 沈痛な面もちで、頭を垂れるエルンストに寄り添うように、チャーリーとユーイがこもごも言った。
「まあ、同じ情況やったら、俺かて後一押し送ったれと思ったかもしれん。守護聖として、正しい判断ができるかどうかは、これから俺らも身に着けていかなあかん課題や」
「俺も、そう思う。すんだことは後でゆっくり反省するとして、今、どうしたら戦争を避けられるか、手を打つのが先だ」
 レイチェルは拳を握りしめ、後悔や、自責、深刻な事態への憂慮など、胸の中の渦巻く感情を抑えこんだ。
「……確かに、二人の言う通りだね。エルンスト、私たちもっとゼフェル様の忠告をきちんと受け止めるべきだったね。でも、今はそんなことを言ってる場合じゃない。反省より、戦争を回避するのが先だわ。エイミー、VX星系の最新データを出して!」
「承知しました」
 即座にエイミーがコンソールに向かって、キーボードを叩き始めた。数分後、彼女の口から、思いがけない物を見た、驚愕の叫びが上がった。
「あ、ああ〜!」
「ど、どうしたの?」
「何や? もう戦争おっぱじまってもうたんか?」
 一斉に皆がモニターを覗き込もうとするのを制して、エイミーは言った。
「ち、違います! 今スクリーンに転送しますが……母星の闇のサクリアと水のサクリアが増加しています!」
「なんですって?」
 スクリーンに大写しになった、母星の定点観測地からのデータでは、確かに闇、水のサクリアが増大し、住民のストレスを表す値が急速に低下して、危険値を脱しつつあった。
 エイミーは、続いて現地の放送電波を傍受し、音声化、自動翻訳の処理をして、スクリーンに送った。現地の報道番組で、女性キャスターが淡々とニュースを読み上げている映像が大きく映し出された。
『……辺境星域の天然資源開発、採掘権を巡って緊張が高まっていた母星と、N星の間で、首脳同士による直接会談の場が持たれることが、このほど明らかになりました。対立より融和、共存を望む世論が両惑星で高まり、それを受ける形で開催されることになった模様です。武力行使ではなく平和的手段で問題が解決されることが、両惑星市民の最大の望みであることは言うまでもなく……』
観測室に歓声が響き渡った。。
「やった〜! 戦争にはならへんのやな」
「ええ、どうやら最悪の事態は回避されたようです」
「よかった、ほんとうによかった……」
 レイチェルとエイミーが抱き合って喜ぶ横で、ユーイだけが、事態を今一つ飲み込めずにきょとんとしていた。だが、スクリーンを見上げ、首脳たちの笑顔の会見と、市民が歓呼を上げる様を見て、納得した。
「みんな、嬉しそうだ。うん、よかったな」
 と、その時、観測室の入り口に現れた人影が声を放った。
「おい、おまえら。たく、喜ぶのはいいけど、いつもこううまく行くとは限らねえっての」
 軽く揶揄するような、しかしどこか笑みを含んだような言葉の響き。
「ゼフェル様、それにエンジュ!」
 一同の驚きの声に迎えられて、二人は室に入って来た。ゼフェルの傍らで、 エンジュが微笑む。
「皆様、今、戻りました」
 レイチェルが二人の元へ駆け寄った。
「よかった、無事に聖地に帰って来てくれて。VXの母星に行ったと聞いて、心配していたのよ。ところで、どうしてゼフェル様と一緒なの?」
「ふん、その辺りは、後でゆっくり解説してやるからよ」
 ゼフェルはにやりと笑うと、エルンストの方に呼ばわった。
「おい、エルンスト! こっちへ来やがれ。守護聖の心得っつうもんを、じっくり講義してやっからよ!」


 数分後、ゼフェルとエンジュの口から、一同は事の次第を聞くことになった。
 あの日、レイチェルと別れて以降も、ゼフェルはそれとなくVX星域の動向に注意を払っていた。そして、たまたま神鳥の宇宙にエンジュが訪れた際に、鋼のサクリアがVX星域に流現されたことを聞いた瞬間、胸騒ぎを覚えた。
 それは、守護聖としての経験に基づく直感と呼ぶべきものだったのかもしれない。とにかく危機感を覚えたゼフェルは、聖獣の宇宙のデータを確認し、ある程度の推測を立てた上で、エンジュに闇、水のサクリアをそれぞれ拝受するように勧めた。
 現在、聖獣の宇宙で解放されているサクリアは、鋼、風、炎の三つである。それゆえにこの三つが連動して活性化しやすい情況ともいえる。炎も風も、急速な進歩を促す性質を持っている。それが過度に作用しないよう、逆の性質を持つ闇、水のサクリアをもって、バランスを図る必要があるのではと、ゼフェルは考えたのである。
 こうして闇、水のサクリアを、できうる限りエンジュに拝受させた後、ゼフェルはその足でアウローラ号に同乗し、VX星系に向かったのだった。
「行ってみて、特に問題ないようだったら、そのままほっとくつもりだったんだけどよ……」
 エンジュとともに、母星に降り立ったゼフェルは、自らが抱いた危機感が、そう大きく外れたものでないことを感じた。革新的なテクノロジーの発展の最中で浮かれる民たちは、更なる豊かさ、便利さを追求する方向へ加速しようとしていた。
 そして、テクノロジーを支えるための天然資源を、母星周辺の星々にも求め、開発を進めようという機運が、高まりつつあった。これこそが、正に危険な兆候だと、ゼフェルには思えた。
「人間には、欲っていうもんがあるからよ。プラスにも働くけど、それも程度問題だからな。他人を犠牲にしてまでって方向で働くのは、マズイからな」
 本来なら聖獣の宇宙の育成に関しては、女王アンジェリーク、もしくは女王補佐官レイチェルに判断を仰ぐべきところだが、あまり猶予のある事態とは思えなかった。
 そのためエトワールたるエンジュと、自分の判断に於いて、闇、水のサクリアの流現を行ったのだった。
「それでも、結構ぎりぎりのタイミングだったみてえだけどな」
 一通り話し終えてから、ゼフェルはちらとレイチェルを見た。
「その辺は臨機応変っつーことだ。越権行為だとか、うるさいこと言うなよ?」
 レイチェルの顔色は心なしか青ざめていたが、それでも何とか微笑んでみせた。
「……わかってます、ゼフェル様。的確な判断と対応をして下さって、ありがとうございます」
 何となく微妙な空気が、場に流れたその時だった。
「そうだな、エトワールの立ち会いがなければ、正しく越権行為だな」
 背後から掛けられた言葉に、ゼフェルは跳び上がった。
「オスカー、てめえ、何しに来やがった? ルヴァまで!」
 神鳥の炎の守護聖オスカーは薄い笑みを浮かべながら、がっしりとゼフェルの肩を押さえた。
「フッ、決まってるだろう。脱走者を捕まえるためだ」
 オスカーの後ろからは、地の守護聖ルヴァが、いつもと変わらぬ温顔を見せた。
「あ〜、皆さん、こんにちは。事態の経過を確認するようにと、ジュリアスから言われましてね〜。おじゃまさせて、もらいました」
「い、いらっしゃいませ、ルヴァ様、オスカー様」
「いや〜、お久しぶりですぅ〜」
「二人とも、わざわざ来てくれたのか。ありがたいな」
 口々に再会の挨拶が交わされる中で、オスカーはもがくゼフェルを取り押さえながら言った。 
「おっと、お嬢ちゃんたち、ろくに話もせずに帰る俺を許してくれ。こいつを一刻も早く連れて帰れというジュリアス様のご命令なんでな。またの機会にゆっくり語り合おうぜ」
 女性陣に向かって、ウィンクをすると、(男連中はほとんど眼中に入れていなかった)オスカーはゼフェルを引きずるようにして、室を出て行った。
「てめえ、オスカー、離しやがれ!」
「ダメだ。俺の貴重な時間と労力を使わせた罪は重いぜ。きりきり歩け!」
 その様を見送りながら、チャーリーがつぶやいた。
「あ〜あ、ゼフェル様、せっかくカッコ良かったのに、台無しやなあ」
「ぷっ、ほんとだな」
 ユーイは吹き出したが、エルンストはゼフェルの姿が廊下の向こうに消えるまで見送り、一礼をしたのだった。


 レイチェル、エンジュ、エルンストから、この一件の一通りの報告を受けたルヴァは、にっこりと微笑んだ。
「はい、大体事情は飲み込めました。後、データのコピーだけ下さいね〜。私も後で十分検証してみたいので」
「はい、ルヴァ様」
 肯くレイチェルの横で、エルンストが深く頭を下げた。
「ほんとうに、このたびは、私の不始末のために、皆様にご迷惑をお掛けして……」
 そんな彼を、ルヴァは温かく見つめた。
「頭を上げて下さい、エルンスト。最初から、完璧な人間などいませんよ〜。サクリアを宿しているとはいえ、私たちも普通の人間なんです。失敗だってします。その過ちを補いあうために、お互いがあるんです。焦る必要はないんですよ。じっくりゆっくり、この新しい宇宙を育てていきましょう?」
 ルヴァはレイチェルへと視線を移した。
「だから、レイチェル。あなたも一人で頑張らずに、私たちを頼ってくれていいんですよ〜。エルンストが今回性急な判断をしたのも、きっとあなたに楽になってもらいたかったからじゃないですかね?」
「……ルヴァ様!」
 エルンストの動揺が、ルヴァの推測の正しさを物語っていた。
「そうだったんだ……。私、一人で全部背負おうとして……それでかえってみんなに心配をかけちゃってたんですね」
 感じやすい瞳にうっすらと涙を滲ませて、レイチェルが言った。
「ええ、あなたの背負う荷物は、あなた一人のものじゃないんです。みんなで分け持っていきましょう? ね?」
「レイチェル様、私も、できる限り、お手伝いします」
「ありがとうございます、ルヴァ様、エンジュ……。あの、ところで、ゼフェル様には今回のことで、厳しいおとがめがあるんでしょうか?」
「ああ〜」
 ルヴァは、くくっと喉の奥で笑った。
「まあ、ジュリアスにこってり絞られるでしょうけどね。あれでジュリアスも、ゼフェル一流のカンの良さと行動力を高く評価しているんですよ。ですから、まあ、心配には及びませんよ」
「そうですか、よかった」
 胸をなで下ろす一同にうんうんと肯きかけ、ルヴァは言った。
「では、私もそろそろ失礼しますね〜。皆さん、お疲れさまでした」
「あ、ルヴァ様、そんな。何のおもてなしもしてません。せめて少し休憩なさって下さい」
 慌てるレイチェルに向かって、ルヴァは首を振ってみせた。
「いえ〜、レイチェル、あなたこそ、休むべきですよ。あなたが倒れでもしたら、それこそ大変ですからね。エンジュ、エルンスト、レイチェルを休ませてあげて下さいね〜。頼みましたよ〜」
「はい!」
「承知しました」
 二人の返事に満足げに肯くと、ルヴァは資料を手に、踵を返そうとした。。
「あの、ルヴァ様!」
 エルンストが、遠慮がちに、しかし思い切ったように彼を呼び止めた。
「何でしょう、エルンスト?」
「一つお尋ねしても宜しいでしょうか。守護聖として……もっとも心得るべきことは、何だとお考えですか?」
「これはまた、考えさせられる質問ですね〜」
 ルヴァは小首を傾げて、しばし答えを探していたが、やがてその瞳に強い光がきらめいた。
「……自分も、宇宙に生きている民も、人間だということを、忘れないってことでしょうかね」
 エルンストとレイチェルは、ルヴァのこの返事に、一瞬言葉を失った。
「おや〜? 二人とも、どうしたんです〜? 何も難しいことではありませんよ〜」
 二人を見比べながらルヴァは言った。どこまでも、ほわりとした笑みとともに……。


 その日の暮れ方、聖殿の裏手にあるテラスから、レイチェルとエルンストは、空を仰いでいた。夜の帳が降り始め、星が一つ、またひとつと天空を飾り始める。
「……あの星の周りに、どんどん新しい命が生まれて、それぞれの人生を歩んでいるんだね……」
 澄み渡った空の美しさに見とれながら、レイチェルが独り言のように言った。
「そうですね……。データでは測れない感情と意志とポテンシャルを持った、それぞれの人生が息づいているのですね……」
 レイチェルは、ふふっと小さな笑いをもらした。
「ねえ、エルンスト、面白いね」
 唐突なその言葉に、エルンストは目を丸くした。
「は? 面白い?」
「人間って……面白いね。そう思わない?」
 強い意志を秘めたレイチェルの瞳が、輝きを放っている。エルンストは、その輝きをしかと受け止め、口元に笑みを広げた。
「……ええ、確かに」
 この新しい宇宙は、これから生まれるたくさんの人生の苗床となっていくのだ。言葉にはしなかったが、この瞬間二人は胸の底からあふれる熱い思いを共有した。
 と、その時、声を掛ける者があった。
「二人とも、こんなとこにいたのか、探したぞ」
「何や、二人だけこんなとこで語り合っとって、ずるいなあ〜。俺らもまぜてえや」
「チャーリー、ユーイ!」
 レイチェルは二人の守護聖を喜んで迎えた。
「いい眺めだな。聖殿にこんなところがあるなんて、知らなかったぞ」
 ユーイが興味津々という様子で、辺りをきょろきょろと見回す。
「随分遠くまで見えるなあ」
 手すりに寄って、身を乗り出そうとするユーイに、エルンストがはらはらして声を掛けた。
「ああ、ユーイ。あまり端まで寄ると危険です」
 すると、チャーリーがすかさず茶々を入れた。
「何や、エルンスト、お母ちゃんみたいやなあ」
「お、お母ちゃん!? わ、私がですか!?」
「おお、それ、いいな! エルンスト母ちゃんってのはどうだ?」
「どうと言われましても……」
 本気で困惑した表情を浮かべるエルンストに、笑い声が上がる。和やかに流れる空気の中で、レイチェルはチャーリーとユーイの思いやりを感じていた。恐らく二人は、今回の失敗で自分とエルンストが気落ちしているだろうと考え、努めて気持ちを引き立てようとしているのだ。
 胸の中がじんわりと温かくなるのを感じた。”私はひとりじゃない。この仲間たちと一緒に補佐官として歩いていける”と。
 レイチェルの目頭がじわりと潤みかけた時、ユーイが言った。
「そうだ、肝心なことを忘れていた。今日の晩飯は、アウローラ号でみんなで食べようってことになったんだ」
「そうそう、エンジュとエイミーとネネちゃんが、特製デザートを作ってくれるって。ああ、もう考えるだけで、よだれが出そうや」
 陽気に言いかけたチャーリーは、レイチェルの目に浮かびかけた涙に、恐らく気づいたはずだったが、何も言わずに、ただ傍らに寄り添った。
「……行くで、レイチェル」
「うん!」
 レイチェルが微笑み返すと、チャーリーは盛大にウィンクしてみせた。
「ほな、アウローラ号に向けて、出発〜!」
「さあ、メシだ、メシだ〜! みんな早く行こう!」
 走り出すユーイの背を、慌ててエルンストが追う。
「ああ、ユーイ。せ、聖殿で、そんなに走るものではありません〜!」
 その様子に、チャーリーは目を丸くした。
「何や、ほんまに”お母ちゃん”やな」
「あは、あははは……!」
 レイチェルは、思わず吹き出し、笑い崩れた。
「おいおい、レイチェル〜。ウケてくれんのは嬉しいけど、このレベルでそないに爆笑しとったら、この先、笑い死にすんで〜」
 言いながら、チャーリーはさりげなくレイチェルの背を支えた。
「さあ、早よ行かな、ユーイに全部ごちそう食べられてしまうで、な?」
「うん、行こう!」
 レイチェルは歩き始めた。背中から伝わるチャーリーの手の温もりを感じながら。その胸に、仲間とともに歩んでいく、希望の輝きを宿して。

                                 (終わり)


当初考えてたのは、ゼフェル君とエルンストさんの友情物語だったのですが、例によって、違う方向へ
行ってしまいました^^;
「エトワール」では、守護聖同士の関わりがかいま見えるのは、執務室で鉢合わせした時の会話の切れ端と「他の人の話」ですが、相当呪いおまじないをかけまくらないと、仲良くならないのが難点ですね。それにSP2や天レクの「かばう」コメントのように、三段階ぐらい評価があれば、やりがいがあるのにと思います。
しかし、今回ゼフェル君とエルンストさんの間で、ラブラブフラッシュをしまくった結果、二人の人間味がかいま見えるよいコメントが見られましたので、かなり満足しました^^
結局、作品にはあんまり反映されてない気がしますが(汗)
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