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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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ええと〜、この小話は、いつもと趣が違います。
いえ、よそ様のブログで拝見した妄想話が面白くて
ウケたもので、自分もちょっと18日の記事に書いた
ネタを広げてみよっかな〜などと思った結果、
こうなりました。
パラレルワールドといいますか、そういうのが嫌いな方は、
スルーして下さい。舞台設定が、メルヘンですので〜。

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「未来のための音色」

 そのヴァイオリンの音色を聴いた時、思わず彼は足を止めた。
ふと立ち寄った、ある小国の収穫祭のメインステージに、音楽の妖精に愛されたその少女の姿はあった。
「なんて……なんて、清らかな音色なんだろう」
 観衆の中で男は、指一つ動かせず立ちつくしていた。、最後の一音まで、男を虜にして、演奏を終えると、少女は収穫の女神を模したドレスをつまんで、愛らしく微笑んだ。観衆の喝采と、歓声がどっとわき上がる。
「姫さま、ばんざ〜い」
「カホコ姫さま〜、アンコール!」
 最初人々の口からバラバラに発せられていた”アンコール”という言葉は、次第に一つの大きな叫びとなった。
「アンコール! アンコール!」
 少女は怒濤のようなアンコールに臆する様子もなく、ちょっと小首を傾げて考えていたが、納得したように微笑み、再び弓を取り上げた。
 流れ出したのは、陽気なポルカの旋律。人々を踊らせ、笑わせ……そして少女は舞台から姿を消した。男の心に、あまりにもあざやかな印象を残して。

 男の名はカジという。ヴィオラ一つを背に担ぎ、曲を奏で、詩を歌うことを生業とする吟遊詩人である。裕福な地方貴族の出であるが、地位や名誉よりも、音楽と詩に奉じることを誓って出奔し、諸国をさすらい歩いて早や数年。
 しかし彼の音楽も、詩も、多くの人の心を動かすことはできなかった。どうやら彼の音楽や詩は、土を耕し、羊を追う、素朴な人々には、少々難解に過ぎるのだった。
「兄ちゃん、そんな訳のわかんないのより、もっと陽気な曲をやっとくれ」
何度となく言われた言葉。仕方なく不本意ながら奏でる、単純明快な曲に、
興が乗るはずもなく、わずかな礼金をもらって、糊口をしのぐ日々だった。
「僕の音楽は、詩は、誰にも理解されないし、求められもしない……。僕は間違っているんだろうか」
 答えの出ない苦悩を抱え、破れ、疲れた身と心を引きずってたどり着いたこのセイソウ国で、カジはかの少女の音色に出合ったのだった。
 少女の名と身元は、すぐに知ることができた。音楽の妖精の祝福を受けたといわれるセイソウ国の一の姫カホコ。可憐な容姿と、たぐいまれなヴァイオリンの音色、そして温かな人柄で、国民の崇拝を、女神のごとく一心に集める姫君だったのである。
「違いすぎる……僕とあの人じゃ……」
 憧れの前に、突きつけられたあまりに厳しい現実に、打ちひしがれるカジ。しかし、心に食い込んだカホコ姫の音色と、愛らしい面影を、消し去ることはできなかった。どうしてもあきらめられなくて、カホコ姫の住む城を見上げるヨコハマの街に居続けるカジに、耳寄りな噂が飛び込んできた。
 城で、庭師の手伝いを募っているという。庭師でも、何でも、少しでも姫のそばに近づけるならば! 早速城に向かい、庭師の手伝いをしたい旨を申し出た。
 庭師は、カナザワという、見るからにやる気のなさそうな無精ひげの男だった。競争率は意外に高かったが、カジが秘かに持参した外国産のタバコが効力を発揮した。吸ったことのないタバコの香りに惹きつけられたカナザワが、あっさりカジの採用を決めたのだ。
 カナザワは、見た目通りのやる気のない男で、庭木の手入れもサボりがちだったが、温かい心を持っていた。カジのカホコ姫に対する思いを知ると、
「まあ、運を試してみろや、若者!」と、カホコ姫に近づける絶好の仕事を、与えてくれた。それは、毎朝咲いたばかりの新鮮な花を、この城の二人の姫の胸元を飾るコサージュにして、届ける仕事だった。
 カジは、それから毎朝、露をとどめた花を、カホコ姫への思いを込めて束ね、そして思いの一端を託した詩をしたためて、そっとカホコ姫の花束の間に忍ばせた。そんなことが二週間も続いたある日、カジに待ちに待った吉報が訪れた。カホコ姫が、コサージュを作っている庭師に会ってみたいと言い出したのだ。
 胸を躍らせて、姫の居間に向かうカジ。そこには……憧れ続けたカホコ姫の姿があった。姫は、あの祭りの日と同じように、愛らしく微笑みながら、言った。
「あなたが、庭師のカジなの?」
「はい、さようにございます、姫さま」
「すてきなコサージュを、いつもありがとう。私も、妹のショウコ姫も喜んでいるわ。ところで、聞きたいんだけれど、あなた、いつも私の方にだけ、詩を書いたカードを添えているでしょう?」
「はい……」
「あの詩には……その……私のヴァイオリンに対する思いが綴られているけれど、あなたは音楽がそんなに好きなの?」
「はい……」
 カホコ姫は、うつむき加減のカジの様子を見つめて、なにごとか考えている風だったが、ふと思いついたように言った。
「手を見せて」
「は?」
「手を見せて、と言ったの」
 カジは、言われるままに姫の方へ手を差し出した。その手を取って、姫は表を向けたり、裏に返したりして、仔細に眺めた。間近に姫がいて、自分の手を取っているという事態に、カジの胸は高鳴った。姫は、やがて得心がいったように肯くと、カジの手を離した。
「いきなり、こんなことをして、ごめんなさい。でも、これでわかったわ。あなた、何か弦楽器をやっているでしょう? ヴァイオリンか、それともヴィオラを?」
 姫にみごとに見透かされて、カジは一瞬言葉を失った。姫は更に言葉を重ねた。
「どうなの?」
「はい……ヴィオラを弾きます」
「やっぱりね。ただの庭師にしては、詩を見る限り、随分教養があるみたいだし。手を見たら、相当弦楽器を弾き込んだ手だし。あなた、本当はどこかの宮廷の伶人だったのではないの?」
「いえ、そのような立派なものでは……。諸方を巡り歩く、しがない吟遊詩人でございます」
「まあ、そうなの! しかも、ヴィオラ! では、今度来る時は、楽器を持っていらっしゃい。私、今、妹と一緒にアンサンブルの練習をしているの。一度合わせてみたいわ」
「そ……そんな、めっそうもございません。僕には……そんな姫さまの音色と合わせられるような才能は……」
 思わぬ展開に、慌てるカジに、カホコ姫はにっこりとした。
「相当弾けるはずよ。あなたの手が証拠だわ」
 こうしてカジにとって、夢のような日々が始まった。庭師から宮廷楽師の身分に取り立てられ、折りに触れて、カホコ姫と練習をともにできるようになったのだ。あの日以来、焦がれ続けた姫の音色を間近に聴き、しかも自分の音を合わせられることは、カジにとって、これ以上望むべくもないしあわせだった。
 しかし、日が経つにつれ、そのしあわせに、陰りがつきまとうようになった。それは、カホコ姫の周りに集う、他の楽師たちとの才能の差を、カジが思い知らされるようになったためだ。
 祖父の代から宮廷楽師の筆頭を務めるツキモリ。一般庶民の出ながら、ピアノの腕に於いては、並ぶ者のないツチウラ。そしていつもぼうっとしているのに、ことチェロに関しては、高い技術と才能を秘めたシミズなど、個性的で、才能に恵まれた彼らと肩を並べるには、自分はあまりにもお粗末だと感じる。
 やはり楽師の一人で、式典の折りのファンファーレを担当する、トランペット吹きのヒハラには「楽しくやろうよ!」とばんばん肩を叩かれたが、当然それではカジの苦悩は収まらなかった。何よりも……音楽の妖精に愛でられたカホコ姫の傍に立つのに、自分はふさわしくないと思えて仕方がない。
しかし、そんな自分であるのにもかかわらず、カホコ姫はカジのヴィオラと音を合わせることを望むのだった。
「カジの音は、私の音にぴたりと重なって、いいハーモニーになるわ」
 そう言って微笑むカホコ姫の傍を離れることなど、もはや自分にはできない、とも思うカジなのだった。
 そんなある日、とんでもない事態が持ち上がった。セイソウ国の君主であり、姫の叔父にあたるキラ王が、カホコ姫の縁談を持ち出したのだ。相手は、セイソウ国に国境を接する大国ユノキの第三王子アズマ。あまりに一方的に進められる縁談に、抗議するカホコ姫に、キラ王は冷笑するように言った。
「姫は、我が国の現状をおわかりか? 前国王、つまり隠退されたあなたの父王の放漫な施政のために、国庫は破綻の危機に瀕している。この弱体化している時に、大国ユノキに武力を盾に、脅しでもかけられようものなら、下手をすれば領土を割譲、もしくは属国にされるかもしれない。あなたがユノキの王子と結婚すれば、まあ武力行使は免れる。両国間に平和が保たれる間に、財政を立て直し、国力を蓄える。あなたに、そうして時間稼ぎをしてもらえば、この国は救われると、こういうわけだ」
「そんな……! この国は音楽によって、世界にしあわせを広めるよう、妖精に特に祝福を受けた国。その一の姫たる私を、人質にするつもりですか?」
「その理屈が、現実の政治の場面に、通用するとでも思うのかね?」
「ええ! 音楽のもたらすしあわせは万国共通のもの。そして、音楽を広めることは、この国の使命であり、魂です。それを……全世界に示すことができたなら、この国の独立は守れるはずです」
「ふん、ならば、その魂とやらを、示してみせてくれたまえ。妖精に愛でられし、あなたの音楽の才能をもって。ちょうど三日後、縁談をまとめるために、アズマ王子がやって来る。王子の前で、その演説を、もう一度ぶってみることだな」

 そうして三日後、セイソウ国を訪れたアズマ王子との間に、カホコ姫はある取り決めをかわした。それは、一月後にカホコ姫をはじめとするセイソウ国最高の楽師たちによって、大規模なコンサートを催すこと。そのコンサートで奏でられる音楽で、各国要人の心を深く動かすことができたなら、ユノキ国はセイソウ国との間に不可侵条約を結ぶうえ、他国とも同様の条約を結べるよう働きかける、というものだった。
 カホコ姫は、カジをはじめ、主立った宮廷楽師たちを集めて言った。
「みんなの協力をお願いしたいの。この国の魂を守るため、力を貸してちょうだい」
「もちろんだよ、姫さま!」
「俺も、ユノキの言いなりになるのは、本意ではない」
「そう、ですね。頑張りましょう」
「お姉さまのために……私、やってみます」
 ヒハラやツキモリ、シミズにショウコ姫が力強く肯く中、ツチウラがぼそりと感想を洩らした。
「力を貸すのは無論だが。それにしても、あのユノキの王子相手に、よくそんんな駆け引きができたもんだな」
 カホコ姫は、ツチウラの言葉に、アズマ王子との緊迫した一幕を思いだした。
『随分、生意気をいうじゃないか。この俺を、ユノキを相手に。そこまで言うのなら、見せてごらん。セイソウの音楽の魂っていうのをね。楽しませてくれたなら……ごほうびを考えてやってもいいよ』
唇を噛みしめ、姫は言った。
「アズマ王子は……相当なフルートの名手と聞くわ。音楽を愛する心を彼も持っている。もしかしたら、彼も音楽の力を信じたいのかもしれないって気がするの」
「ふうん、そんなものか? まあ、何にせよ、姫があの王子を相手に、みごとにしてのけたってのは、事実だよな。期待には応えてみせるぜ、必ず、な」
 一同が決意を固め、意気を上げる傍らで、カジはひとり黙っていた。カホコ姫がそんなカジを不審に思って、声を掛けた。
「カジは? カジも、もちろん力を貸してくれるわよね?」
 問われて、カジは姫の顔を見返した。カホコ姫の瞳は、不安に揺れ、すがるように濡れていた。その瞳に、カジは胸を突かれた。
(こんな……こんな顔を姫にさせちゃいけない。自信がなくたって、なんだって、僕は姫のために、ここにありたい!)
「もちろんです、姫……。僕があなたに協力しないなんて、あるわけないでしょう?」
 カジの言葉に、カホコ姫は、ほっとしたように、微笑んだ。
「よかった……。じゃあ、早速曲を決めて練習を始めましょう。この国の未来のために!」
姫の言葉に、一同は唱和した。
「この国の未来のために!」
その後に、カジは心中で、誓いを付け加えた。
(僕の、守りたいすべて、カホコ姫のために!)
 コンサートまで、後、わずか一月。セイソウ国の運命と、一人の男の恋を賭けた戦いが、火ぶたを切った瞬間だった。
                            (第二話へ つづく


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