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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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私にしては、珍しくちゃんと誕生日に
間に合いました。えっへん。(威張るほどのことかいっ)

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「緑の朝に」


 窓から差し込む光が、まぶたの裏まで侵入し、彼を眠りの世界から呼び起こした。
「ん……? 朝か?」
 目をなんとかこじ開けたが、まだまだ眠り足りないからだが、彼を引き戻そうとする。
「あ〜〜。くそっ。でも、もう起きねーと……」
 銀色の髪をかき混ぜながら、身を起こすと、彼は大きなあくびを一つした。昨晩はベッドに入らないまま、夜を明かしてしまった。そんな彼の周りの床には、目下製作中のマシンの部品やら、それを組み上げるための工具やらが散らばり、朝の光を鈍く反射している。

 それらは傍目には、雑然としているが、頭の中の青写真に従って、作業は順調に進行しており、数式のように、彼には筋道立って見えるのだった。。
「後は……ここだな。続きをやれるのは、多分晩だろ。あ〜、ちくしょ! 会議なんてものがなきゃ、もう少し先に進められるのに」
 ぶつぶつ言いながら、彼は次に作業を再開する時のために、工程を確認し、必要な材料や道具を調べた。
「まあ、こんなもんだろ。さあて、顔を洗って、したくしねえと」
 ゆっくりと床から立ち上がった時、窓の外から、彼を誘うかのように、小鳥の澄んださえずりが聞こえた。窓辺に寄って、開け放つと、湿気と新緑のにおいを含んだ新鮮な空気が、どっと流れ込んできた。
「……ふあ……」
 軽く伸びをしながら、窓から外を見やった。今、彼がいる二階の窓は、邸の裏側に面していた。そこには、ちょっとした木立が、自然のままに残されているが、一番近い木の梢に、小鳥の巣が掛かっているのが、よく見えた。親鳥は、雛のために、巣を出たり入ったり、忙しく活動していて、その声が彼のところまで届いたのだった。
 小鳥の様子をしばらく観察し、そして更に遠くへ視線を投げた。ゆるやかなうねりを見せる丘陵と、緑の一層色濃い木々、そして点在する瀟洒な建物といった風景が広がっていた。彼が身を置く聖地は、平穏と、伸び上がる緑が象徴する生命の息吹に、あふれていた。
 それを眺めているうちに、ふと寂しいような感情が、胸に浮かび上がって来た。
「遠くへ、来ちまったな……」
  窓辺に肘をつき、口の中でつぶやいた。

 彼の生まれ育った工業惑星では、これほどの緑を目にすることは、まずなかった。灰色ののっぺりした工場群や、複雑に絡み合うパイプが露出したプラント。空気清浄化システムや浄水が整備され、常に稼働してはいたが、それでもどこか空の青さも灰色がかっていて、日と場所によっては、工場から排出されるパルプや食品用の香料のにおいが、鼻をついたりした。
 けっしてきれいな場所とは言えなかったが、そこで生きて、働く人々が、彼は好きだった。灰色の作業服に身を包んだベテランの工員が、目の前で鮮やかな手つきで工具を扱い、火花を散らしてみせた。その目尻のしわの深い笑顔と、真っ黒な手。
 機械類を扱うことにかけては、それぞれ自負のある仲間たちと、改良を重ねたエアバイクで駆け上がった空は、寝ぼけたような青だった。スピードを競い、マシンのカスタマイズを語り、肩をぶつけあって笑い崩れた、工場裏の空き地。
 そうしたものは、この聖地には、片鱗すら見られなかった。距離的にも、時間的にも故郷は、あまりにも遠くなってしまったのだった。

 彼は、小さくため息を吐いた。あの日々に、もう戻れないことは、重々承知している。この地で、自分にしかできない使命があることも。時折、自分一人の思いでは、どうしようもない現実に、やるかたのない怒りが湧くこともあったが……自分のやれることをやるしかないと、思い決めている。
 しかし、そうして覚悟を決めていても、今日のこの美しい聖地の朝の風景は、彼に失ったものの大きさを思い出させ、やるせない思いにさせた。

 窓を閉じ、わき上がるような緑の風景から目をそらした、その時だった。トントントンっとせわしく部屋のドアをノックする音がした。
「あ〜? 朝っぱらから、大きな音立てるんじゃねえっ。頭に響くだろうがっ」
 怒鳴るように言うと、ドアが開いて。誰かがさっと部屋に走り込んで来た。
「おはよう、ゼフェル! そしてお誕生日、おめでとう!」
 弾んだ声とともに、色とりどりの花を集めた花束を、手に押し付けられた。
「おま……マルセル! ンだよ、この花はっ!」
「何って、お誕生日のお祝いに決まってるじゃない」
 年下の友人は、少し唇を尖らせて言った。だが、そのすみれ色の瞳は、きらきらといたずらっぽく輝いていた。
「そうだよ。マルセルがせっかく用意したんだ。文句より、お礼を言うのが先だろう」
 その隣で、くもりのないまっすぐな目をした、もう一人の友人が言った。
「よけいな口挟むな、このランディ野郎! 大体男が男に花って、どうなんだよ! ……ん? ああ、ああ、わかった。わかったから、マルセル、んな顔すんな! ……その、ありがとよ」
 ためらいがちに、押し出した不器用な礼の言葉。彼の口からそれを聞くと、友人たちはにっこりと笑い、そして……。
「おいっ、おいっ! おまえら、何だよ!」
 両脇から、二人に腕を取られて、彼は慌てた。
「ふふっ! 今日は執務の予定が、びっしりだからね。朝のうちに、公園のカフェテラスで、お祝いしようと思って。お誕生日にふさわしい、スペシャル朝食メニューを用意してもらうように、お願いしてあるんだ!」
「……スペシャル朝食メニューだと! 朝から、そんなに食えるかよ!」
 思わず言い返したが、友人たちは一向に耳を貸す気はなさそうだった。
「ゼフェル、朝食は一日の始まりのエネルギー補給に、しっかりとらないとダメだぞ! そうだ、たっぷり朝食を食べるんだから、公園までジョギングして行こう! 部屋にこもって機械いじりばかりしてると、体力が落ちちゃうからな」
「冗談じゃねええっ! おめーの運動馬鹿に、つき合ってられっかよ。こちとら寝不足だってのに、手え離しやがれ、くそっ!」
 しかし、友人たちは、彼の抵抗をものともせず、がっしり腕を抱え込んで離さなかった。
「あ、お花は、執事さんに生けてもらおうね」
 年下の友人は、花束を取ろうとして、彼が両腕を掴まれた状態で、落とさないようにしっかりと、束になった茎の端を握っていたことに気づいた。
「ふふっ。ゼフェルってば、やっぱりやさしいね」
「バッ……!! 何、言ってやがんだ!」
  にこにこしながら、花束を小卓の上に置くと、年下の友人は、晴れやかに言った。
「じゃあ、行こうよ!」
「そうだな。カフェテラスに向かって、レッツゴーだ!」
「……マジかよ。勘弁しろよ」
 元気はつらつ、といった風情の友人二人に挟まれて、彼はげんなりと肩を落とした。だが、友人たちの気持ちに触れて、胸にはじんわりと温かみが広がっていくのを感じていた。
「……ちっ! しょうがねえ。つき合ってやっから、手え離せよ」
 その言葉に、友人たちは、目を見合わせて、くすりと笑った。
「素直じゃないなあ、ゼフェルは」
「うるせえっ! 言っとくが、ケーキはなしだからな!」
「え〜? 主役なのに〜? でも、甘いものが苦手なのは仕方ないよね。食べなくてもいいから、ろうそくを吹き消すのはやってよ」
「へっ! そんなガキくせえまねができっかよ!」
「ゼフェル、何を言ってるんだ。ろうそくは、誕生祝いの基本だろう!」
「だあ〜〜〜! やってらんねえぜ、ったくよ〜!」
 少年たちのにぎやかなやりとりは、部屋から出て、廊下に移っていった。恐らくカフェテラスまで、延々途切れなく続くことだろう。

(結局、今もそう悪くはねえな)
 胸の中でそんな思いをかみしめる。誕生日の朝だった。
                             (終わり)



ゼフェルメインの話は、これが初書きだったりします。
彼は割と口調が特徴的でやりやすいはず……なのですが、
イマイチこなれていないような^^;
ツンデレも、難しいなあ〜。
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