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このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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「アンジェリーク阿弥陀企画」さんに提出したものです。
企画が終了したので、自分ところにも載せておきます。(ていうか、載せるの忘れてました^^;)
デュエット設定、大神官×リモージュという、我ながらなかなかチャレンジャーな
カップリングです(笑)
「これもアリだろ」ということで〜。
コミックスの大神官、リオ君には彼女がいるので、別の人ということで、
一つ宜しく^^
企画が終了したので、自分ところにも載せておきます。(ていうか、載せるの忘れてました^^;)
デュエット設定、大神官×リモージュという、我ながらなかなかチャレンジャーな
カップリングです(笑)
「これもアリだろ」ということで〜。
コミックスの大神官、リオ君には彼女がいるので、別の人ということで、
一つ宜しく^^
「Dear My Angel」
風の吹く丘で、ある日、息子に問われた。
「ねえ、父さん、天使様って、ほんとうにいるの?」
まだ幼い彼を抱き上げ、私は答えた。
「ああ、いるさ。この場所で、父さんは初めて天使様に出会ったんだ。そうだな、今のおまえより、もう二つ三つ年は上だったかな」
「ほんとう? 天使様って、どんな人? 話してよ、父さん!」
息子が大きな目を、更にまんまるく開いて、せがんだ。
「どんな人って……そうだな」
胸に深く刻まれた忘れがたい思い出を、息子にどのように伝えるか、私は言葉を探した。
「ふわふわの金の髪をして、白く輝く翼を背に戴いた、とても可愛い少女だったよ……」
口に上せた時、私の心は遠い昔のあの日へと戻っていった。そう、あの日もこの丘には、柔らかな風が吹き、日差しが緑の草地をあたためていたのだった……。
子供の頃、私は祖父母と暮らしていた。母はものごころの付かないうちに他界し、父は諸方を回る行商人で、一度旅に出たら、数か月、帰って来ないことも少なくなかった。祖父母は私にやさしかったが、年よりで、気力も体力もあまり残っていなかった。日々の糧を得るために働くのが精いっぱいで、私にかまいつけるゆとりもあまりなく、私は不意にほったらかしにされて、孤独を感じることも少なくなかった。
そんな孤独の中で、私は身の回りにある木や草や小動物に話しかけたりするくせがついた。そうして毎日話しかけているうちに、わずかながら、物言わぬ自然物の意思を感じ取ることができるようになったのだ。村の子供たちは、そんな私を変わり者扱いし、親がいつも傍にいないことも含めて、しばしばからかう材料にした。
その日も、村の子供たちにからかわれ、私は悔しさ、悲しさを抱えて、村はずれの丘に登った。人前で、無様に泣きたくなんてなかった。人気のない丘で草地につっぷして、声をはなって泣いてた、その時だった。
「どうしたの? 何か悲しいことがあったの? 」
頭の上の方から、きれいな声がした。きれいで……そして、春の日だまりみたいにやさしい声。思わず振り向いて、声を掛けてくれた人を捜した。……けれど、あたりを見回してみても、丘にいるのは、私ひとり。小さなハチが一匹、花から花へと飛び回りながら、かすかな羽音を立てているだけだった。
「上よ。う・え」
その呼びかけにつられて、空を見上げた私の目に飛び込んで来たのは……天使様だった。
金色の髪に赤いリボンをして、光に透ける真っ白な翼を広げ、にっこり笑いながら、天使様はゆっくり空から舞い降りて来た。ぽかんと口を開けて見とれる私の前に立つと、天使様は私の目の高さに身をかがめて言った。
「こんにちは、坊や。私はアンジェリークっていうの」
「アンジェリーク……それはこのあたりの言葉で、天使って意味です。ああ、あなたは、やっぱり天使様だ!」
興奮した私がそう言うと、天使様はちょっと困ったような顔をした。
「いいえ、私は天使ではないわ。ええと〜、宇宙の女王様に、このエリューシオンの育成を任されているただの女の子なの」
「エリューシオン?」
「うん。私が付けた名前」
風に金の髪をなぶらせながら、天使様は微笑った。
「私が……大好きなこの大陸に付けたの」
……その時、私は悟ったのだ。あの広くて青い空の向こうに、私たちを見守り、愛してくれる大きな力があるのだということを。天使様は、そこからつかわされて来たのだということを。
天使様は、それから宇宙の女王様のことや守護聖様のことを、できるだけわかりやすいように、話してくれた。それらの意味を、私が十分理解したのは、ずっと後のことだったが、そうした理屈よりも何よりも、目の前にいる天使様の姿から、私は大きな力、愛の意志の存在をを信じられたのだった。
それから天使様は、私の話を聞いてくれた。リュートという名前、住んでいる場所、そしてなぜ泣いていたのか、そのわけを。村の子供たちに、からかいの標的にされることを話すと、天使様はちょっと眉を曇らせたが、私の肩にそっと手を掛けた。
「ねえ、木も草も、このエリューシオンの自然に生きているものは、みんなとてもやさしいわ。そのやさしさを感じ取れるって、素晴らしいことだと思う。それに比べて、人の心は思い通りにならないことが多いでしょう。けれど、心を閉ざしてはダメ。人と人とが心を結びあって、しあわせを作りだしていけるんですもの」
そして私の胸のあたりを指さした。
「あなたのここには、いいものがたくさんある。それを外に出していけば、きっとわかってくれる人がいるわ。私、あなたを見守ってる。ほんの少し勇気を出して、ね?」
そう言って、天使様が微笑みかけてくれた時、私は胸の底から力が湧いてくるのを感じた。その言葉をお守りのようにして、それから少しずつ村の子供たち、そして大人たちの中へはいっていけるようになったのだ。
それからも時折、この丘で、私は天使様に会うことがあった。前に会った時から、数週間ぶりという時もあれば、半年、一年と間が空くこともあった。その間にエリューシオンは、次第に美しく豊かになり、私の背もどんどん伸びていった。けれど天使様は、初めて会った時のままだった。軽やかな金の髪も、くるめく緑の瞳も、愛らしく、そして温かい笑顔も。
あれは確か……14、5の年頃だったか。久しぶりに会った天使様は、珍しく沈んで見えた。
「天使様、今日は何だか元気がないですね?」
草地に並んで座っていた時、私の呼びかけに、天使様は、はっとしたように、顔を上げた。
「ご……ごめんなさい。私、ぼんやりしちゃって」
「天使様……」
よく見ると、目の下にうっすらと隈をはき、胸の中に何か苦しい思いを抱えているのが、感じられた。そんな顔を……私は前にもどこかで見た気がした。そう、あれは近所に住んでいたやさしいお姉さんが、すっかりふさぎ込んでしまった時のこと。母親が村のおかみさんたちを相手に洩らしていた。
『まったく、恋の病に付ける薬はないね!』
大好きなお姉さんのことが心配だったから、私はそっとおかみさんたちの話に耳を傾けていた。そして”恋の病”を治すためには、”思いを通じ合わせる”ほかはないという結論と、その手立てを聞き取ったのだ。
天使様も……きっと”恋の病”にかかってる、それを治すために、僕ができることは……。しばらく考えを巡らせた後、私の頭にひらめくものがあった。
「? どうしたの、リュート?」
私が急に立ち上がったので、天使様は驚いて、目を丸くした。
「すぐに……すぐに戻って来ますから、ここで待っていて下さい。お願いです」
私の唐突なこの言葉に、天使様は少し面食らったようだったが、それでもにっこりして答えてくれた。
「わかったわ、じゃあ、待ってるね」
「ありがとうございます!」
頭を一つ下げると、私は大急ぎで村に戻り、あちらこちら駆け回って、必要と思われるものを村のみんなに分けてもらった。そうして集めたものを大きなバスケットにしっかり詰めこむと、できる限り急いで、丘へ向かった。丘の頂上に着いた時は、もう日が傾きかけていたけれど、天使様は私を待っていてくれた。
「ごめんなさい、天使様。長いこと待たせちゃって」
息を切らせて、走って来た私を天使様は笑顔で迎えてくれた。
「ううん、随分急いで走って来たのね。大丈夫?」
「大丈夫……です。それより、これを」
私はバスケットを差し出した。
「なあに?」
「村で……、エリューシオンで獲れた新鮮な卵にバターに小麦粉です。持って行って下さい」
「まあ、そうなの? 嬉しい! このためにわざわざ村に戻ってくれたの? ありがとう、リュート!」
天使様は喜んで受け取ってくれた。私は、息を何とか整えながら、一番肝心なことを告げた。
「その材料で……お菓子を作って下さい。天使様の想いを込めて……届けて下さい、大好きな人に」
私のこの贈り物の意味を悟ると、天使様はぽうっと耳まで赤く染めた。私の推測は間違っていなかったのだ。天使様は、けれど、辛そうに微笑んで言った。
「ありがとう、でも……。思ってはいけない人なの……」
「そんなことない。昔、天使様は僕に勇気を出すこと、自分を伝えることの大切さを教えてくれました。人と人とが心を結びあうことで、しあわせが作り出せるんだって。だから、天使様、僕たちエリューシオンの民が心を結びあわせて、この大地で育てた材料を、あなたのおかげで得た恵みを使って下さい。……きっと想いは届きます!」
私が言葉を重ねるうちに、天使様の大きな瞳から、涙があふれ出した。
「ありがとう、ありがとう、リュート。あなたの心、エリューシオンの人たちの努力の成果、無駄にしない。私、頑張るわ!」
「ええ、頑張って下さい! 天使様には……僕たちがついています!」
そう言って、にぎり拳を作って見せると、天使様は涙の中から、にっこり笑ってくれた。私の大好きな笑顔だった。
「うん!」
大きく肯いて、バスケットを抱き締めるように抱えた天使様と別れた後、私は胸が疼くのを感じた。天使様が好きな人と想いを通じ合わせる……それは私が初めて会った時から胸の中で育ててきた初恋に、ピリオドを打つことに他ならなかったからだ。それでも……天使様が、ずっとあの輝くような笑顔でいてくれるなら、と思った。その晩は……眠れなかった。
それからまた何年かが過ぎて。私は、エリューシオンの大神官となって、大陸の民と天使様を繋ぐ架け橋の役割を任じることになっていた。その頃、豊かに発展しつつあったエリューシオンの各地で、竜巻や大雨による洪水、干ばつなどの自然災害が発生し、民たちの中に大きな不安が広がっていた。
天使様は、私たちを見捨てはしなかった。そして、進むべき道しるべを示してくれた。この大陸を、そして外に広がる大きな宇宙と、そこに生きるすべての命を救うために、中の島を目指せと。
私たちは、この大きな目的のために、天使様が教えてくれたように、心を結び合った。幾度かの失敗の末、海を渡り、中の島にたどり着くことができた。私たちが中の島に上陸したのとほぼ同時に、この星のもう一つの大陸フェリシアの民も到着した。
その瞬間、不思議なことが起こった。中の島から輝かしい光が一閃、天空に駆け上がったかと思うと、すさまじいスピードで、幾千もの星たちが移動し始めたのだ。その現象は、一昼夜続き、私たちは飽かずに空を眺め続けた。
そうしてめまぐるしい星の動きが終息し、天空が揺るがぬ落ち着きを取り戻したその時、私たちは実感した。宇宙は、大陸は無事救われたのだ、と。
苦難を乗り越えることで、エリューシオンの民も、そして今フェリシアの民とも、心を一つにすることができたのだ。この中の島に、協力して新たな天使の家を建てることを約束して、私たちはそれぞれの大陸へ帰ったのだった。
宇宙の歴史が新たなページをめくった日から、数週間が経って。ようやくお祭り騒ぎも落ち着いて来た頃、あの丘に建てた天使の家で、私はいつも通り祈りを捧げていた。するとそこへ天使様が舞い降りて来た。
「リュート」
「天使様!」
天使様はすべてが洗い流されたような、晴れ晴れとした顔で言った。
「ありがとう、リュート。あなたたちが頑張ってくれたおかげで、この宇宙も、大陸も救われたわ」
「いいえ。私たちこそ、天使様のお導きのおかげで、掛け替えのないこの大陸を守ることができました。ほんとうにありがとうございます」
「私も、大好きなこの大陸が、これからもずっとあり続けると思うと、ほんとうに嬉しいわ」
天使様は、ちょっと寂しげにうつむいた。
「天使様?」
「……今日は、リュート、あなたとこのエリューシオンにお別れを言いに来たの」
私の胸は刺されたように、痛んだ。……わかっていたことだった。もう天使様は、このエリューシオンだけの天使様ではなくなるのだ。でも……天使様のためには、それは喜ぶべきことなのだ。私はかろうじて笑顔を作ってみせた。
「そうですよね。天使様は、エリューシオンだけでなく、宇宙すべての女王様になられるんですよね。おめでとうございます!」
すると天使様は首を振った。
「いえ、違うの。女王になることは、辞退したの。新しい女王陛下には、もう一人の候補、ロザリアが即位することになったの」
「何ですって? 一体どうしてですか? だって、これまでそのために大陸の育成をなさって来たんでしょう?」
驚いて問い返した私に対して、天使様は目を泳がせ、しばらくためらうように黙っていたが、やがてきゅっと唇を結んだ。
「リュートには、嘘をつきたくないから……。ついちゃいけないと思うから、お話するね。ええと、ずっと前に、私に大きなバスケットでお菓子の材料をくれたのを覚えている?」
「覚えています」
「あの時……私が好きだった人は、守護聖様で……。せっかく応援してもらったんだけど、私、失恋しちゃったの。それで、こういうの、ほんとに情けないんだけど、女王になったら、近くにいる分、ずっとあの方を思い切ることができない。第一、近くにいると言ったって、女王と守護聖という立場で、臣下として仕えてもらったって……。想像するだけで耐えられないから……女王になることはご辞退したの。ごめんね……リュートの、エリューシオンのみんなの努力と期待を、こんな個人的な理由で裏切って」
天使様は、すまなさそうに、目を伏せた。私は、天使様がそんなことで心を痛めているのを見るに忍びなかった。
「天使様は、私たちを裏切ってなんか、いません。天使様のおかげで、私たちはこの大陸に、子孫にまでわたる幸福の礎を築くことができたのですから。……それよりも、これまでエリューシオンのために、力を尽くして下さった分、天使様ご自身にしあわせになってもらいたいんです」
「リュート……ありがとう」
天使様の目から、大粒の涙があふれ出した。私は、ポケットを探って、そっとハンカチを差し出した。きっといろんな辛い思いに苛まれていたのだろう。涙はなかなか止まらなかった。その様子は、捨てられた子犬のように頼りなげで、いたわしくて……。私は……天使様の震える小さな肩を抱きしめたい衝動を、懸命に抑え込んでいた。
しばらくさめざめと泣いて、気持ちが収まったのか、天使様の様子がようやく落ち着いて来た。
「ごめんなさい……。ハンカチをすっかり濡らしてしまったわ」
「いいのです、そんなことは」
ハンカチを手の中で、丁寧に折り畳みながら、天使様は言った。
「このハンカチ、もらってはダメ? うちに帰っても、これを見て、リュートのこと、大陸のこと、思い出せるように」
「もちろん、そんな物でよければ、差し上げますが……。そうですか、お役目を終えられた今、うちに帰られるんですね」
「うん、うちに帰って、ただの女の子に戻るわ。何か今となると、当たり前のように、リュートに天使様って呼ばれるのも恥ずかしいけれどね」
えへへと照れ笑いをする天使様は……確かに普通の少女だった。その愛らしい笑顔を見た瞬間、私の頭にある途方もない考えが閃いた。
(そんなことが……許されるのだろうか? だが……このまま天使様がうちに帰ったら、生涯会うことはない……!)
いつも心に呼び起こしていたあの声が、また聞こえた。
『ほんの少し、勇気を出して、ね?』
私は、腹をくくった。
「では……ただの女の子に戻るあなたに、私は伝えたい言葉があります。聞いて下さいますか?」
「リュート? ええ、もちろん」
緑の瞳が何事かともの問いたげに、私を見上げた。この瞳に、どれほど私は魅せられたかしれない。その輝きををまっすぐに見つめて、私は告げた。
「私は……あなたをお慕いしています。この丘で初めてお会いした時から、ずっと……。あなたを離したくない……。どうか、あなたの育てたこのエリューシオンで、私とともに生きては下さいませんか?」
瞳が大きく見開かれた。しばらく言葉もない様子で、天使様は呆然と私の前にたたずんでいたが、やがてその瞳の中に、ゆっくり私の姿が映りこんでいくのを、私は見届けた。
「リュート……」
「はい」
「ありがとう。私、私、言葉にしてもらって、初めてはっきりわかったけど、知っていたかもしれない。あなたが、ずっと私のことを大切に想っていてくれたこと……」
「はい」
次の瞬間、収まっていたはずの涙が、見る見る盛り上がってきて、私は慌てた。
「て……天使様。すみません、いきなり不躾なことを言って……」
「いいえ、違うの。嬉しいの。私の居場所が、ここにあったんだって」
「……それは?」
あふれる涙の中から、天使様は微笑んだ。
「私……ここにいたい! 大好きなエリューシオンに! 大好きなあなたの傍に!」
「天使様……」
胸いっぱいにふきこぼれそうな熱い思いに、震えながら私は呼んだ。
「私の……アンジェリーク!」
こうして天使様は、私の腕の中へ舞い降りて来た。エリューシオンは、以後もますます美しくなっていっている。天使の家は、今は女王陛下に感謝を捧げるための教会となっている。しかし、エリューシオンの民は、この美しい大陸を育んだ天使様の思い出を、ずっと大切にしていて、そのため、私は時々言われることがある。
「大神官様、奥様は、昔エリューシオンの空に現れて、私たちを導いて下さった天使様に、よく似てなさいますね」
そんな時、私は、内心苦笑しながら、答える。
「そうでしょう? 私もあの時のことが忘れられなくて、海を渡って、よく似た娘を捜し当てたんですよ」と。
息子には、成人した時に、ほんとうのことを話そうと思う。だが今は、必要ないだろう。息子にとっては大好きな母親である以外、何者でもないのだから。
肩車をした息子の小さな手が、私の首に巻き付いて来る。
「じゃあ、天使様って母さんみたいだね?」
「そうだよ。でも、母さんは、天使様以上だ、そうだろう?」
「うん! でも、僕も天使様に会ってみたいなあ。会えるかなあ?」
私は、息子の手に、自分の手を重ねた。
「会えるさ、きっと!」
「うん! 僕、天使様にいつか会えるように、女王様にお祈りするよ。あっ、母さんだ! 母さあん!」
ほっそりした姿が、丘を登って来る。
「二人とも、ここにいたのね、捜したわ」
金の髪、緑の瞳、輝くような笑顔。……いとしい私の天使様。あの日、あなたが教えてくれた通り、勇気を出してよかった。息子とあなた……掛け替えのない宝が、今私の手にあるのだから。
夕日が赤く照り映える中、風がさあっと頂上から吹き下ろしてくる。なびく髪を押さえながら、妻が言った。
「風が冷たくなって来たわ。もう、帰りましょう?」
私は答えた。
「そうだね、帰ろう。私たちのうちへ」
丘から見下ろすと、村の家々に灯りがともり始めていた。あの灯火の一つひとつに、ささやかなしあわせがあるのだ。私は妻の手を自分の中に収めながら、心の中で、これまで何千回、何万回と言った言葉を繰り返した。
(ありがとう、私のアンジェリーク……)
妻の手が、私の手を握り返した。わかっている、とでも言いたげに……。
「母さん、もうお腹ぺこぺこだよ、今日のご飯、何?」
息子の言葉に、妻は笑って答えた。
「あったかいシチュウよ」
家は、もう目と鼻の先だった。あの菩提樹の向こうを曲がって、橋を渡って。私たちの家にも、灯りをともそう。あたたかい光を……。
(終わり)
ということで、幻の大神官ラブラブエンディングでした(笑)
風の吹く丘で、ある日、息子に問われた。
「ねえ、父さん、天使様って、ほんとうにいるの?」
まだ幼い彼を抱き上げ、私は答えた。
「ああ、いるさ。この場所で、父さんは初めて天使様に出会ったんだ。そうだな、今のおまえより、もう二つ三つ年は上だったかな」
「ほんとう? 天使様って、どんな人? 話してよ、父さん!」
息子が大きな目を、更にまんまるく開いて、せがんだ。
「どんな人って……そうだな」
胸に深く刻まれた忘れがたい思い出を、息子にどのように伝えるか、私は言葉を探した。
「ふわふわの金の髪をして、白く輝く翼を背に戴いた、とても可愛い少女だったよ……」
口に上せた時、私の心は遠い昔のあの日へと戻っていった。そう、あの日もこの丘には、柔らかな風が吹き、日差しが緑の草地をあたためていたのだった……。
子供の頃、私は祖父母と暮らしていた。母はものごころの付かないうちに他界し、父は諸方を回る行商人で、一度旅に出たら、数か月、帰って来ないことも少なくなかった。祖父母は私にやさしかったが、年よりで、気力も体力もあまり残っていなかった。日々の糧を得るために働くのが精いっぱいで、私にかまいつけるゆとりもあまりなく、私は不意にほったらかしにされて、孤独を感じることも少なくなかった。
そんな孤独の中で、私は身の回りにある木や草や小動物に話しかけたりするくせがついた。そうして毎日話しかけているうちに、わずかながら、物言わぬ自然物の意思を感じ取ることができるようになったのだ。村の子供たちは、そんな私を変わり者扱いし、親がいつも傍にいないことも含めて、しばしばからかう材料にした。
その日も、村の子供たちにからかわれ、私は悔しさ、悲しさを抱えて、村はずれの丘に登った。人前で、無様に泣きたくなんてなかった。人気のない丘で草地につっぷして、声をはなって泣いてた、その時だった。
「どうしたの? 何か悲しいことがあったの? 」
頭の上の方から、きれいな声がした。きれいで……そして、春の日だまりみたいにやさしい声。思わず振り向いて、声を掛けてくれた人を捜した。……けれど、あたりを見回してみても、丘にいるのは、私ひとり。小さなハチが一匹、花から花へと飛び回りながら、かすかな羽音を立てているだけだった。
「上よ。う・え」
その呼びかけにつられて、空を見上げた私の目に飛び込んで来たのは……天使様だった。
金色の髪に赤いリボンをして、光に透ける真っ白な翼を広げ、にっこり笑いながら、天使様はゆっくり空から舞い降りて来た。ぽかんと口を開けて見とれる私の前に立つと、天使様は私の目の高さに身をかがめて言った。
「こんにちは、坊や。私はアンジェリークっていうの」
「アンジェリーク……それはこのあたりの言葉で、天使って意味です。ああ、あなたは、やっぱり天使様だ!」
興奮した私がそう言うと、天使様はちょっと困ったような顔をした。
「いいえ、私は天使ではないわ。ええと〜、宇宙の女王様に、このエリューシオンの育成を任されているただの女の子なの」
「エリューシオン?」
「うん。私が付けた名前」
風に金の髪をなぶらせながら、天使様は微笑った。
「私が……大好きなこの大陸に付けたの」
……その時、私は悟ったのだ。あの広くて青い空の向こうに、私たちを見守り、愛してくれる大きな力があるのだということを。天使様は、そこからつかわされて来たのだということを。
天使様は、それから宇宙の女王様のことや守護聖様のことを、できるだけわかりやすいように、話してくれた。それらの意味を、私が十分理解したのは、ずっと後のことだったが、そうした理屈よりも何よりも、目の前にいる天使様の姿から、私は大きな力、愛の意志の存在をを信じられたのだった。
それから天使様は、私の話を聞いてくれた。リュートという名前、住んでいる場所、そしてなぜ泣いていたのか、そのわけを。村の子供たちに、からかいの標的にされることを話すと、天使様はちょっと眉を曇らせたが、私の肩にそっと手を掛けた。
「ねえ、木も草も、このエリューシオンの自然に生きているものは、みんなとてもやさしいわ。そのやさしさを感じ取れるって、素晴らしいことだと思う。それに比べて、人の心は思い通りにならないことが多いでしょう。けれど、心を閉ざしてはダメ。人と人とが心を結びあって、しあわせを作りだしていけるんですもの」
そして私の胸のあたりを指さした。
「あなたのここには、いいものがたくさんある。それを外に出していけば、きっとわかってくれる人がいるわ。私、あなたを見守ってる。ほんの少し勇気を出して、ね?」
そう言って、天使様が微笑みかけてくれた時、私は胸の底から力が湧いてくるのを感じた。その言葉をお守りのようにして、それから少しずつ村の子供たち、そして大人たちの中へはいっていけるようになったのだ。
それからも時折、この丘で、私は天使様に会うことがあった。前に会った時から、数週間ぶりという時もあれば、半年、一年と間が空くこともあった。その間にエリューシオンは、次第に美しく豊かになり、私の背もどんどん伸びていった。けれど天使様は、初めて会った時のままだった。軽やかな金の髪も、くるめく緑の瞳も、愛らしく、そして温かい笑顔も。
あれは確か……14、5の年頃だったか。久しぶりに会った天使様は、珍しく沈んで見えた。
「天使様、今日は何だか元気がないですね?」
草地に並んで座っていた時、私の呼びかけに、天使様は、はっとしたように、顔を上げた。
「ご……ごめんなさい。私、ぼんやりしちゃって」
「天使様……」
よく見ると、目の下にうっすらと隈をはき、胸の中に何か苦しい思いを抱えているのが、感じられた。そんな顔を……私は前にもどこかで見た気がした。そう、あれは近所に住んでいたやさしいお姉さんが、すっかりふさぎ込んでしまった時のこと。母親が村のおかみさんたちを相手に洩らしていた。
『まったく、恋の病に付ける薬はないね!』
大好きなお姉さんのことが心配だったから、私はそっとおかみさんたちの話に耳を傾けていた。そして”恋の病”を治すためには、”思いを通じ合わせる”ほかはないという結論と、その手立てを聞き取ったのだ。
天使様も……きっと”恋の病”にかかってる、それを治すために、僕ができることは……。しばらく考えを巡らせた後、私の頭にひらめくものがあった。
「? どうしたの、リュート?」
私が急に立ち上がったので、天使様は驚いて、目を丸くした。
「すぐに……すぐに戻って来ますから、ここで待っていて下さい。お願いです」
私の唐突なこの言葉に、天使様は少し面食らったようだったが、それでもにっこりして答えてくれた。
「わかったわ、じゃあ、待ってるね」
「ありがとうございます!」
頭を一つ下げると、私は大急ぎで村に戻り、あちらこちら駆け回って、必要と思われるものを村のみんなに分けてもらった。そうして集めたものを大きなバスケットにしっかり詰めこむと、できる限り急いで、丘へ向かった。丘の頂上に着いた時は、もう日が傾きかけていたけれど、天使様は私を待っていてくれた。
「ごめんなさい、天使様。長いこと待たせちゃって」
息を切らせて、走って来た私を天使様は笑顔で迎えてくれた。
「ううん、随分急いで走って来たのね。大丈夫?」
「大丈夫……です。それより、これを」
私はバスケットを差し出した。
「なあに?」
「村で……、エリューシオンで獲れた新鮮な卵にバターに小麦粉です。持って行って下さい」
「まあ、そうなの? 嬉しい! このためにわざわざ村に戻ってくれたの? ありがとう、リュート!」
天使様は喜んで受け取ってくれた。私は、息を何とか整えながら、一番肝心なことを告げた。
「その材料で……お菓子を作って下さい。天使様の想いを込めて……届けて下さい、大好きな人に」
私のこの贈り物の意味を悟ると、天使様はぽうっと耳まで赤く染めた。私の推測は間違っていなかったのだ。天使様は、けれど、辛そうに微笑んで言った。
「ありがとう、でも……。思ってはいけない人なの……」
「そんなことない。昔、天使様は僕に勇気を出すこと、自分を伝えることの大切さを教えてくれました。人と人とが心を結びあうことで、しあわせが作り出せるんだって。だから、天使様、僕たちエリューシオンの民が心を結びあわせて、この大地で育てた材料を、あなたのおかげで得た恵みを使って下さい。……きっと想いは届きます!」
私が言葉を重ねるうちに、天使様の大きな瞳から、涙があふれ出した。
「ありがとう、ありがとう、リュート。あなたの心、エリューシオンの人たちの努力の成果、無駄にしない。私、頑張るわ!」
「ええ、頑張って下さい! 天使様には……僕たちがついています!」
そう言って、にぎり拳を作って見せると、天使様は涙の中から、にっこり笑ってくれた。私の大好きな笑顔だった。
「うん!」
大きく肯いて、バスケットを抱き締めるように抱えた天使様と別れた後、私は胸が疼くのを感じた。天使様が好きな人と想いを通じ合わせる……それは私が初めて会った時から胸の中で育ててきた初恋に、ピリオドを打つことに他ならなかったからだ。それでも……天使様が、ずっとあの輝くような笑顔でいてくれるなら、と思った。その晩は……眠れなかった。
それからまた何年かが過ぎて。私は、エリューシオンの大神官となって、大陸の民と天使様を繋ぐ架け橋の役割を任じることになっていた。その頃、豊かに発展しつつあったエリューシオンの各地で、竜巻や大雨による洪水、干ばつなどの自然災害が発生し、民たちの中に大きな不安が広がっていた。
天使様は、私たちを見捨てはしなかった。そして、進むべき道しるべを示してくれた。この大陸を、そして外に広がる大きな宇宙と、そこに生きるすべての命を救うために、中の島を目指せと。
私たちは、この大きな目的のために、天使様が教えてくれたように、心を結び合った。幾度かの失敗の末、海を渡り、中の島にたどり着くことができた。私たちが中の島に上陸したのとほぼ同時に、この星のもう一つの大陸フェリシアの民も到着した。
その瞬間、不思議なことが起こった。中の島から輝かしい光が一閃、天空に駆け上がったかと思うと、すさまじいスピードで、幾千もの星たちが移動し始めたのだ。その現象は、一昼夜続き、私たちは飽かずに空を眺め続けた。
そうしてめまぐるしい星の動きが終息し、天空が揺るがぬ落ち着きを取り戻したその時、私たちは実感した。宇宙は、大陸は無事救われたのだ、と。
苦難を乗り越えることで、エリューシオンの民も、そして今フェリシアの民とも、心を一つにすることができたのだ。この中の島に、協力して新たな天使の家を建てることを約束して、私たちはそれぞれの大陸へ帰ったのだった。
宇宙の歴史が新たなページをめくった日から、数週間が経って。ようやくお祭り騒ぎも落ち着いて来た頃、あの丘に建てた天使の家で、私はいつも通り祈りを捧げていた。するとそこへ天使様が舞い降りて来た。
「リュート」
「天使様!」
天使様はすべてが洗い流されたような、晴れ晴れとした顔で言った。
「ありがとう、リュート。あなたたちが頑張ってくれたおかげで、この宇宙も、大陸も救われたわ」
「いいえ。私たちこそ、天使様のお導きのおかげで、掛け替えのないこの大陸を守ることができました。ほんとうにありがとうございます」
「私も、大好きなこの大陸が、これからもずっとあり続けると思うと、ほんとうに嬉しいわ」
天使様は、ちょっと寂しげにうつむいた。
「天使様?」
「……今日は、リュート、あなたとこのエリューシオンにお別れを言いに来たの」
私の胸は刺されたように、痛んだ。……わかっていたことだった。もう天使様は、このエリューシオンだけの天使様ではなくなるのだ。でも……天使様のためには、それは喜ぶべきことなのだ。私はかろうじて笑顔を作ってみせた。
「そうですよね。天使様は、エリューシオンだけでなく、宇宙すべての女王様になられるんですよね。おめでとうございます!」
すると天使様は首を振った。
「いえ、違うの。女王になることは、辞退したの。新しい女王陛下には、もう一人の候補、ロザリアが即位することになったの」
「何ですって? 一体どうしてですか? だって、これまでそのために大陸の育成をなさって来たんでしょう?」
驚いて問い返した私に対して、天使様は目を泳がせ、しばらくためらうように黙っていたが、やがてきゅっと唇を結んだ。
「リュートには、嘘をつきたくないから……。ついちゃいけないと思うから、お話するね。ええと、ずっと前に、私に大きなバスケットでお菓子の材料をくれたのを覚えている?」
「覚えています」
「あの時……私が好きだった人は、守護聖様で……。せっかく応援してもらったんだけど、私、失恋しちゃったの。それで、こういうの、ほんとに情けないんだけど、女王になったら、近くにいる分、ずっとあの方を思い切ることができない。第一、近くにいると言ったって、女王と守護聖という立場で、臣下として仕えてもらったって……。想像するだけで耐えられないから……女王になることはご辞退したの。ごめんね……リュートの、エリューシオンのみんなの努力と期待を、こんな個人的な理由で裏切って」
天使様は、すまなさそうに、目を伏せた。私は、天使様がそんなことで心を痛めているのを見るに忍びなかった。
「天使様は、私たちを裏切ってなんか、いません。天使様のおかげで、私たちはこの大陸に、子孫にまでわたる幸福の礎を築くことができたのですから。……それよりも、これまでエリューシオンのために、力を尽くして下さった分、天使様ご自身にしあわせになってもらいたいんです」
「リュート……ありがとう」
天使様の目から、大粒の涙があふれ出した。私は、ポケットを探って、そっとハンカチを差し出した。きっといろんな辛い思いに苛まれていたのだろう。涙はなかなか止まらなかった。その様子は、捨てられた子犬のように頼りなげで、いたわしくて……。私は……天使様の震える小さな肩を抱きしめたい衝動を、懸命に抑え込んでいた。
しばらくさめざめと泣いて、気持ちが収まったのか、天使様の様子がようやく落ち着いて来た。
「ごめんなさい……。ハンカチをすっかり濡らしてしまったわ」
「いいのです、そんなことは」
ハンカチを手の中で、丁寧に折り畳みながら、天使様は言った。
「このハンカチ、もらってはダメ? うちに帰っても、これを見て、リュートのこと、大陸のこと、思い出せるように」
「もちろん、そんな物でよければ、差し上げますが……。そうですか、お役目を終えられた今、うちに帰られるんですね」
「うん、うちに帰って、ただの女の子に戻るわ。何か今となると、当たり前のように、リュートに天使様って呼ばれるのも恥ずかしいけれどね」
えへへと照れ笑いをする天使様は……確かに普通の少女だった。その愛らしい笑顔を見た瞬間、私の頭にある途方もない考えが閃いた。
(そんなことが……許されるのだろうか? だが……このまま天使様がうちに帰ったら、生涯会うことはない……!)
いつも心に呼び起こしていたあの声が、また聞こえた。
『ほんの少し、勇気を出して、ね?』
私は、腹をくくった。
「では……ただの女の子に戻るあなたに、私は伝えたい言葉があります。聞いて下さいますか?」
「リュート? ええ、もちろん」
緑の瞳が何事かともの問いたげに、私を見上げた。この瞳に、どれほど私は魅せられたかしれない。その輝きををまっすぐに見つめて、私は告げた。
「私は……あなたをお慕いしています。この丘で初めてお会いした時から、ずっと……。あなたを離したくない……。どうか、あなたの育てたこのエリューシオンで、私とともに生きては下さいませんか?」
瞳が大きく見開かれた。しばらく言葉もない様子で、天使様は呆然と私の前にたたずんでいたが、やがてその瞳の中に、ゆっくり私の姿が映りこんでいくのを、私は見届けた。
「リュート……」
「はい」
「ありがとう。私、私、言葉にしてもらって、初めてはっきりわかったけど、知っていたかもしれない。あなたが、ずっと私のことを大切に想っていてくれたこと……」
「はい」
次の瞬間、収まっていたはずの涙が、見る見る盛り上がってきて、私は慌てた。
「て……天使様。すみません、いきなり不躾なことを言って……」
「いいえ、違うの。嬉しいの。私の居場所が、ここにあったんだって」
「……それは?」
あふれる涙の中から、天使様は微笑んだ。
「私……ここにいたい! 大好きなエリューシオンに! 大好きなあなたの傍に!」
「天使様……」
胸いっぱいにふきこぼれそうな熱い思いに、震えながら私は呼んだ。
「私の……アンジェリーク!」
こうして天使様は、私の腕の中へ舞い降りて来た。エリューシオンは、以後もますます美しくなっていっている。天使の家は、今は女王陛下に感謝を捧げるための教会となっている。しかし、エリューシオンの民は、この美しい大陸を育んだ天使様の思い出を、ずっと大切にしていて、そのため、私は時々言われることがある。
「大神官様、奥様は、昔エリューシオンの空に現れて、私たちを導いて下さった天使様に、よく似てなさいますね」
そんな時、私は、内心苦笑しながら、答える。
「そうでしょう? 私もあの時のことが忘れられなくて、海を渡って、よく似た娘を捜し当てたんですよ」と。
息子には、成人した時に、ほんとうのことを話そうと思う。だが今は、必要ないだろう。息子にとっては大好きな母親である以外、何者でもないのだから。
肩車をした息子の小さな手が、私の首に巻き付いて来る。
「じゃあ、天使様って母さんみたいだね?」
「そうだよ。でも、母さんは、天使様以上だ、そうだろう?」
「うん! でも、僕も天使様に会ってみたいなあ。会えるかなあ?」
私は、息子の手に、自分の手を重ねた。
「会えるさ、きっと!」
「うん! 僕、天使様にいつか会えるように、女王様にお祈りするよ。あっ、母さんだ! 母さあん!」
ほっそりした姿が、丘を登って来る。
「二人とも、ここにいたのね、捜したわ」
金の髪、緑の瞳、輝くような笑顔。……いとしい私の天使様。あの日、あなたが教えてくれた通り、勇気を出してよかった。息子とあなた……掛け替えのない宝が、今私の手にあるのだから。
夕日が赤く照り映える中、風がさあっと頂上から吹き下ろしてくる。なびく髪を押さえながら、妻が言った。
「風が冷たくなって来たわ。もう、帰りましょう?」
私は答えた。
「そうだね、帰ろう。私たちのうちへ」
丘から見下ろすと、村の家々に灯りがともり始めていた。あの灯火の一つひとつに、ささやかなしあわせがあるのだ。私は妻の手を自分の中に収めながら、心の中で、これまで何千回、何万回と言った言葉を繰り返した。
(ありがとう、私のアンジェリーク……)
妻の手が、私の手を握り返した。わかっている、とでも言いたげに……。
「母さん、もうお腹ぺこぺこだよ、今日のご飯、何?」
息子の言葉に、妻は笑って答えた。
「あったかいシチュウよ」
家は、もう目と鼻の先だった。あの菩提樹の向こうを曲がって、橋を渡って。私たちの家にも、灯りをともそう。あたたかい光を……。
(終わり)
ということで、幻の大神官ラブラブエンディングでした(笑)
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