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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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第三話です。

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(姫を守る力がないのなら……実力をつけるしかない!)
 そう思い決めたカジは、寸暇を惜しんで、ヴィオラの練習に全精力を傾けた。コンサート本番まで、残された日にちは後三週間足らず。このわずかな期間で、他のアンサンブルメンバーに比べて、見劣りしない演奏ができるだけの力を備えなくてはならない。
 カジは、アンサンブル練習はもちろん、最低限の睡眠、食事のために割く時間の他は、あたう限りを個人練習に費やし、死にものぐるいで、ヴィオラに食らいついていった。
 そんなある日、カジは宮殿の庭園の一角で、ひとり、練習をしていた。猛練習の甲斐あって、以前ツキモリに指摘された箇所は、弾きこなせるようになっていた。だが、まだだ、まだ足りないという焦りからは逃れられない。一通り曲をさらって、更に弾きこもうとしたその時だった。
「お〜、頑張ってるな、若人」
「カナザワさん!」
 声を掛けて来たのは、かつてカジを宮殿の庭師として採用してくれたカナザワだった。宮廷楽師となってからも、カジはカナザワの人柄を慕って、時折酒やタバコを持って会いに行っていた。カナザワはいつもカジを温かく迎え、食事をともにすることもあった。
だが、コンサートに向けての練習が始まってからは、そのことでいっぱいいっぱいで、すっかり足が遠のいていた。
「ここんとこ、お見限りじゃないか。寂しいぞ、このこの〜」
「わあ、すみません」
「いいさ、わかってるよ。コンサートの練習が大変なんだろう」
「ええ、まあ……」
 カジは、無意識にヴィオラをぐっと強く握り直していた。カナザワは、そんなカジの思い詰めた様子に、眉をひそめた。
「おまえ〜、顔色悪いんじゃないか? いくら若いからって、根を詰めすぎると、毒だぞ〜?」
 カナザワのいたわりに、カジの張りつめていた気もつい弛み、他のアンサンブルメンバーの前では、決して言わない本音がこぼれた。
「……今の僕じゃ、他のメンバーと差がありすぎるんです。こんなものじゃ、まだまだ足りないんです」
「……まあ、落ち着けや」
 カナザワは、焦燥感を滲ませるカジの肩を両手で軽く抑えるようにした。
「無論、音楽家にとって、技術があるに越したことはないけどな……。でも、技術さえあれば、いい音楽になるかっていえば、そういうわけでもないだろう。弦楽器のことはよくわからんが……。姫がおまえをアンサンブルメンバーに選んだのは、その辺りが理由なんじゃないか?」 
「けど、カナザワさん……」
「ん〜、姫君の割には少々おはねが過ぎるが、カホコ姫はこと音楽に関しちゃ、妖精の申し子といわれるに恥じない感覚を持ってるぜ。そりゃあ、確かなことだ」
 カジに語りながら、カナザワは、その確信の根拠については、注意深く伏せた。
(何せ、この国の誰にも明かしたことがない、俺が歌手だったっていう前身を見抜いたんだからな)
「練習を一緒にやってるんだったら、それぐらい、おまえにもわかるだろ? 自分を信じられないんだったら、姫を信じな。おまえの……いとしいひとをな」
「カナザワさん……」
「まあ、あんまりがちがちに気張るなよ、な? かえっておまえの持ち味がなくなるぜ? おっと、ちょっと長話が過ぎたか? そろそろ戻って仕事を終わらせないと、厨房のおばちゃんが晩メシ出してくれないからな。俺、行くわ」
そう言ってカナザワは、ぽんとカジの肩を叩き、たまには息抜きにでも来いと笑顔を見せて、歩み去っていった。
 残されたカジの中に、疑問がわきあがる。
「……姫は、ほんとうに僕を必要としてくれるんだろうか」
 目を伏せ、自分の内部に沈み込もうとする手前で、カジはふと人が近づく気配を感じた。顔を上げて、木立の中を近づいてくるのが誰かを認めた時、カジは軽い驚きを覚えた。
「ツキモリ、どうしてここへ?」
例によって、にこりともしない謹厳な表情のツキモリだったが、カジの目の前まで来た時、わずかに揺らぎを見せた。
「カジ……。その……すまない、立ち聞きするつもりはなかったんだが、君とカナザワさんの話を聞いてしまったんだ」
「……」
「その……俺の言葉など、君にとって意味を持たないかもしれないが、君はわずかの間に急速に上達した。努力の跡が手に取るように見える。それが……君の姫への個人的な感情に起因するものだとしても、俺はその点を評価するし、君と一緒にいいアンサンブルを作り上げたいと思う」
「ツキモリ……」
「俺が言えるのは、それだけだ。……じゃあ、また明日」
探したけれど、うまい言葉が見つからなかったと、その表情が語っていた。それでも言うだけ言ったとばかりに、さっさと踵を返そうとするツキモリを、カジは呼び止めた。
「待って、ツキモリ!」
 振り返ったツキモリに、カジは笑いかけた。
「ありがとう……意味がないなんてことないよ。君に認めてもらえるのは、すごく嬉しい」
カジの言葉に、ツキモリは照れたのか、かえって仏頂面になった。
「別に……俺は思ったことを言っただけだ。感謝されるようなことじゃない」
 ぶっきらぼうに言うと、居心地が悪そうに、元の方へ向き直った。まっすぐな背、迷いのない足取り。遠ざかるツキモリの背を見送りながら、カジはくすりと笑った。
「意外と面白いんだな、ツキモリって」
……けれど、彼のように迷いなく、自分の進む道を信じられたならと、うらやましくもあった。
「……どうあがいたって、ツキモリみたいにはなれない。それでも……」
 手にしたヴィオラを、相棒を見下ろした。
「今の僕は、弾くしかないんだ……」
 カジは唇を噛みしめた。弓を構えた。真摯な思いを乗せて、ヴィオラが再び歌い始めた。


 花園の中を、軽い足取りで、カホコ姫が歩いていく。その後に付き従いながら、カジは思った。歩いているというより……まるで蝶が舞ってるみたいだ、と。あこがれてやまないこの姫は、妖精から音楽の才のみならず、透明な羽を授かったのではないだろうか。カジには、光の粉をまき散らすその羽が、見える気さえした。
 花々の間を通り抜けていく、その愛らしい姿を目で追っていると、柔らかな髪と、ドレスの裾をふわりと広げて、姫が振り返った。
「カジ、こっちよ!」
 手招きする姫の傍へ急いで行くと、姫は花芽をたくさんつけた木の幹に、腕を絡ませていた。
「この木ですか、僕に見せたい物というのは」
「そう、これ。アーモンドの木よ。コンサートの頃には、きっと花盛りになると思うから……それでコサージュを作ってほしいの。私、それを付けて舞台に上がるわ」
「アーモンドの花……」
 カジの脳裏に、以前に温暖な南方の国で見た、淡いピンクの雲のような、アーモンドの花盛りの光景が甦った。確かに、あの花ならカホコ姫を飾るのに、ふさわしい。きっと春の女神のようになることだろう。
「わかりました。お作りします」
 カホコ姫は、手を打って喜んだ。
「よかった〜。カジが宮廷楽師になってから、カナザワが頑張ってコサージュを作ってみてくれたんだけど、やっぱり彼には、向かないみたいなの」
 そうだろうなと、カジは姫の言葉に納得した。むしろあのカナザワが、コサージュなどというめんどうな物を作ろうとしたという、そのこと自体、驚天動地ものだ。そう思うと、カジの口元から、自然に笑みがこぼれた。するとカホコ姫は、目を見開き、食い入るようにカジを見つめた。
「姫? どうかしましたか? 僕の顔に何か付いていますか?」
 カホコ姫は、大きく首を横に振った。
「ううん、違うの。何だかカジの笑顔を久しぶりに見た気がしたの。最近、カジは一生懸命練習していて……音もどんどんよくなって来てるんだけど、いつも厳しい顔をしてるような気がして。だから……」
 カホコ姫は、花がほころぶような笑みとともに言った。
「だから、カジの笑顔が見られて、うれしいなって思ったの」
「姫……」
 無邪気な言葉と笑顔。それがどれほどカジの心に食い入るのか、カホコ姫は自覚していない。胸に打ち込まれた恋の楔の痛みに耐えるため、わずかに強ばったカジの表情に気づかぬまま姫の言葉は、更に続く。
「考えてみたら、あなたはもともと楽師になろうと思って、宮殿に来たわけじゃないし。コンサートにしろ、この間のアズマ王子とのことにしろ、私があなたを巻き込んでしまったんだし……。もしかしたら、不本意なことをさせてしまってるんじゃないかって……」
 語尾が次第に小さくなって消えていく。それに対してカジは慌てて言葉を返した。
「姫、それは違います! あなたがご自分を責めることなど一つもないんです!」
 カジの強い語調に、姫がうなだれていた顔をあげた。 
「カジ……?」
 あふれそうな思いを、ぐっと瀬戸際で食い止めると、カジは姫を見つめて言った。
「あなたが楽師になるように、言って下さった時、僕はうれしかった。あなたは、僕が口には出せない心の望みを叶えて下さったんです。あなたの……どこまでも澄んだあなたの音は、僕の魂を洗いきよめてくれる……。その音を傍で聴くだけじゃなく、共に奏でることまでできる……。これまで生きて来た中で、一番のしあわせです……!」
(そう、僕が……僕が勝手にあなたの音に、あなたに惹かれただけ……。ただ、それだけのことなんだ……!)
 拳を握りしめ、つい噴きだしそうになる言葉を噛みしめた。カホコ姫は……光が射し込んだかのような表情で、そんなカジを見返した。
「ありがとう、カジ……。私、もしかしたら、あなたをひどく苦しませてるんじゃないかって思ってた……。でも、そうじゃなく、望んで私の傍にいてくれるのなら、ほんとにうれしいわ。だって、私も、カジの音が大好きだから」
「そ、そんな……」
「あら、そんなに意外なこと? カジの音は……いつだって私の音に寄り添って、支えてくれる、華やかな彩りを与えてくれる。だから、あなたの音と合わせるのは、心地よくって……。カジがいてくれて、よかった……ほんとに……」
「姫……」
カジは……姫を抱き締めたい衝動を辛うじて抑えこみ、代わりに地に膝を付き、頭を垂れた。
「もったいないお言葉です……。ありがとうございます」
カホコ姫は身をかがめ、カジの手を取って、立ち上がらせた。
「……なら、ずっと私の傍で弾いていてね?」
「……はい」
「約束よ?」
「はい……!」
 カジの誓いの応えを聞くと、咲きこぼれるように、カホコ姫は笑った。
「約束を破ったらひどいわよ? 百……ううん、千個のコサージュを作らせるから、覚えてらっしゃい」
「はい、姫」
 笑いながらカホコ姫は、それこそ蝶が舞うようにかろく、花園の中を踊り回った。それを追いかけながら、カジは心の中で叫んでいた。
(姫……ついていきます。あなたが望んで下さるのなら、どこまでも……)
 飛び立つような喜び。しかしその裏には、一抹の悲しみが貼りついていた。
(たとえ、あなたが望むのが、僕の音だけだとしても……)

 この誓いは、その後幾度となく、カジの胸の中で繰り返されることになった。姫が求めているのはあくまで自分の”音”。それだけで十分に過ぎる。……透明な羽の生えた、音楽の申し子を地上に引き下ろすなど、許されぬ罪なのだ、と。
 カホコ姫の推察は、半分は当たっていた。カジは、姫の傍にいることを心から望み、それゆえに苦しんでいた。カジが愛しているのは、姫の音だけではなかったから……。
 かたく封じ込めた思いの行く末を、カジ自身もまだ知らない。苦しみと喜びに揺れる中、セイソウ国とカホコ姫の運命を決めるコンサートの日は、刻々と近づきつつあった。  
                            (完結編へ つづく


「まだ引っ張るんかい!」と思われた方、すみません。
もう少しお付き合い頂きたく……。
ちなみに、今回の話に出てきたアーモンドの花が見たい方はこちらへ
 ↓
花言葉:アーモンド

アーモンドの花は、梅、桃、桜と違って、自前ではそうそう撮影できないもので、ありがたかったです。この場を借りて、こちらのサイトオーナー様に敬意を表します。
ここからは蛇足ですが。その昔「ハイクラウン」というチョコレートに、おまけでフラワーフェアリーのカードが封入されていまして、一生懸命集めてました。アーモンドの花のカードは、ことの他愛らしく、お気に入りでした^^

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