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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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「主任祭2007」に投稿させて頂いた物です。最近、こういう更新ばっかりですが、新しいのは、13日のインテのイベントが終わってからってことで^^;
こちらの企画で、何が「おお〜っ!」だったかというと、懐かしのロキシーのイラストや創作を見られたことです。さすがエルンストファンの集う場所だと、感心した次第^^ ついでに気が強くて奔放なエルンスト姉が登場する創作を見たかったと、贅沢なことを思ってみたり。(ゲームに登場しない設定上の人ですからね〜)
主任といえば「SP2」が原点ですので、舞台設定をそのようにしました。

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「特効薬」

 デスクにコーヒーを運んできた部下が言った。
「主任、体調悪いんじゃないですか? 熱っぽい顔をしてますよ」
「そんなことはない。それより君に任せた新宇宙のD-38ポイントに於けるサクリアの解析データが、まだ出ていない。早急に上げるように」
「は〜い」
 部下は肩をすくめて、自分のデスクに戻って行った。彼女が、それ以上私の体調について、言及しなかったことに、ほっとした。
 実のところ、今朝から39度程度の熱が出ている。視界が時折揺れるような時もある。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
 新宇宙に、次々と新たな惑星が、産声を上げている。新たな宇宙、そして新たな女王が今にも誕生しそうなこの時に、王立研究院の主任たる私が、陣頭指揮に立たないで、どうするのだ? 
……それに、私が彼女の役に立てることといえば、それしかないのだから。彼女が、卵の状態から、大切に育んだ宇宙。その行く末を見守り、必要なデータを提供すること。それが私にできる唯一の協力だ。
……たとえ、それが彼女を”候補”から貴い女王の座へと押し上げ、今のように、おいそれとは会えなくなることにつながるとしても……。眼交を、ほころびかけた花のような笑みがよぎった時、私の意識は遠のいた。遙か彼方から、驚いて、私の名を呼ぶ部下たちの声が聞こえた気がした。
 目覚めた時、私は王立研究院の医務室のベッドの上にいた。入り口からベッドの様子が見えないように設置されている仕切りの向こうに、人がいるらしく、話し声が聞こえた。
「……しますね?」
「……ました」
 まだ、頭がぐらぐらする。熱を下げるための処置が必要だ。ベッドから起きあがるとめまいがしたが、私は仕切りの向こうにいる人物に声を掛けた。
「そこにいるのは、ドクターですか? すみませんが、解熱剤を頂けませんか?」
「あ、目が覚めたんですか」
 私の呼びかけに応えて、姿を現したのは、部下の研究員と……アンジェリークだった!
「エルンストさん、気分はどうですか?」
 心配そうな顔で、アンジェリークがベッドサイドに来た。
「ご……ご心配には及びませんよ。そんなことより、あなたはデータを聞きにいらしたのではないのですか? 申し訳ありません。すぐにご用意しますので」
「いえ、それは、いいんです。研究員の方が、教えてくれました」
「そうなのですか?」
 彼女の後ろにいる部下の方に目をやると、片目をつぶって、親指を立ててみせた。ほんとうに、正確なデータを出したのか、一抹の不安がよぎったが、ここは信頼するしかないのだろう。それよりも、今、ここにアンジェリークがいることが、肝要だ。
「ですから、エルンストさんは、どうぞ体を休めて下さいね。何か、欲しい物はありませんか? あ、さっき、解熱剤って言ってましたよね?」
「いえ、そんな……。あなたの手をわずらわせる訳には……」
 慌てて、アンジェリークの申し出を断ろうとしたその時、部下が口を挟んだ。
「主任、勝手にここの薬を出すわけにはいきませんから、僕がドクターを捜してきますよ。確か今日は、ルヴァ様のところに行ってるはずですから」
「そうですか、では頼みます。ついでに、ビタミンCのサプリメントとうがい薬、市販のでいいですから、頭痛薬を買って来て下さい。非ピリン系の物でお願いします」
「わかりました」
 部下は大きく肯くと「おとなしく寝ていて下さいね〜」と笑顔を残して、出て行った。
「エルンストさん、ええと、そうだ、喉が渇いていたりしませんか?」
 アンジェリークは、ベッドサイドに腰掛け、私を見つめて言った。
「いえ、大丈夫ですよ、アンジェリーク。私などにかまうより、あなたには大切な使命が……」
 帰ることを促そうとする私の言葉を、耳に入れる様子もなく、アンジェリークは、すっと立ち上がった。
「でも。唇が乾いて白くなってますよ。お水、持ってきますね。ええと、給湯室はこっちでしたっけ?」
「アンジェリーク!」
 私の呼びかけは、宙に浮いただけだった。小鳥が飛び立つように軽やかに彼女は部屋を出ていき、水差しに水を張って来た。そして私の傍まで来て、ちょっと考える風をすると、戸棚を調べて吸い飲みを見つけだした。
「はい、エルンストさん、どうぞ」
 水を満たした吸い飲みが、アンジェリークの手ずから、私の口元に差し出された。そうまでされて、拒む訳にもいかなかった。
「すみません。ごやっかいをかけてしまって」
「いいえ、とんでもない」
 アンジェリークの手元から、吸い飲みを通して、水が私の乾いた喉を潤していく。その水は……不思議なほど涼やかで、甘くさえ感じられた。
「……どこのメーカーのミネラルウォーターですか?」
「え? 給湯室にあった普通の飲料水ですけど。ミネラルウォーターの方がよかったですか」
 ”失敗したかな”とでも、言うように眉をひそめる彼女に、私は慌てて言葉を付け加えた。
「ああ、違うのです。あまりにおいしい水だったもので。お尋ねしてみただけなのです」
「そうなんですか? よかった〜」
 ほっとしたように、笑顔になるアンジェリーク。そんな彼女の微笑みは、私の喉だけではなく、全身を潤していくようだった。
「あ、そうそう、リンゴもあるんですよ」
「リンゴ、ですか?」
「ええ、さっき給湯室へ行く時に、廊下を歩いていたら、研究員の方が下さったんです。”主任に”って」
 アンジェリークは、赤いリンゴを取り出して見せた。
「すりおろした方が、食べやすいですよね」
 彼女の手の上で、リンゴはつやつやとみずみずしく、輝いて見えた。


 それからしばらくして、部下がドクターを連れて戻って来た。
「主任、ただいま戻りました。これ、頼まれていた薬とサプリメントです。あれ、アンジェリークさんは?」
「ありがとう。代金は後で払います。アンジェリークには、帰ってもらいました」
 薬を受け取りならがら答えると、彼は素っ頓狂な声を出した。
「え〜、なんだ〜、そうなんですか〜?」「
「彼女は大切な試験の最中です。いつまでも私のことで貴重な時間を使わせるわけにはいかないでしょう」
「せっかくなんだから、もっといてもらえばいいのに」
「何を言っているのです、彼女は女王候補なのですよ……」
 アンジェリークの立場について、きちんと再認識させようと、説諭し始めた私を、ドクターがさえぎった。
「まあまあ、それにしても、結構元気そうじゃないか」
「でも、主任、さっきいきなり倒れちゃったんですよ。ドクター、お願いしますよ」
「ほいよ。あ〜、エルンスト君。その大切な女王候補さんのためにも、早く快復する必要があるんじゃないのかね?」
 ドクターの言う通りだ。私はおとなしくドクターの診察を受けた。体温をまず測定し、聴診器を当てたり、喉の様子を見たりした挙げ句、ドクターは肯いた。
「ふむ、まあ風邪だね。しかし、熱は下がっているようだし。三、四日、安静にしとればいいだろう。解熱剤をのんだのかね?」
「いいえ、水分と、ビタミンを少々摂取しただけです」
「ほう、そうかね?」
「あ、ビタミンって、もしかしてリンゴですか? 解析担当の女の子が、実家から送って来たって配ってたヤツ」
「まあ、そうです」
「へえ〜、主任、リンゴ、自分で剥いたんですか?」
「いや、その……アンジェリークがやってくれたんです」
「へえ〜」
「ほお〜」
 部下とドクターが、顔を見合わせて、意味ありげに目配せをした。
「な、なんですか、その反応は。彼女は、ただ私を気遣って、好意でしてくれただけのことです」
「もちろん、そうでしょうとも」
「若いモンはいいのう〜」
「ドクター〜〜〜!?」
 私の抗議を取り合う様子もなく、ドクターはさっさと私の薬の処方箋を書くと言った。
「ほれ、処方箋だ。これを調剤薬局で受け取って、後は今日はさっさと寝むことだな。もっとも……」
ドクターはにやりと笑った。
「一番の妙薬は、女王候補さんの看護かもしれんがの」
「……」
 毒気を抜かれて、もはや抗議する気力も失せた私に、部下が笑顔で言った。
「主任、お宅まで送りますよ」
「しかし、まだ仕事が……」
「なら、早く治るように、もう一度アンジェリークさんを呼びましょうか?」
「それは、ダメです! 君は何を言ってるんですか! これ以上、彼女にやっかいをかけるわけにはいきません!」
「じゃあ、アンジェリークさんに心配をかけないためにも、完治するまで家でちゃんと休養して下さいよ」
「……わかりました」
 こうして、私は研究院に入って以来、初めて病欠をすることになった。風邪は、ドクターの見立てより早く、二日ほどで完治した。早く職場に復帰できたことを喜びつつ、自分のデスクに座ると、部下が声を掛けて来た。
「主任〜、もういいんですか?」
「ええ、完治しました。君にもいろいろ世話になりました。ありがとう」
「いえ、どう致しまして〜」
「ところで、私が休んでいた間のデータを早速見せてもらえますか?」
「あ〜、はいはい」
 部下はちょっと肩をすくめると、データのRomを持って来た。
「はい、これです」
「どうも、ありがとう」
私の横について、データの補足説明をしてくれるよう、彼には頼んだ。私が質問し、彼が答える。そうして、順調に仕事が進み始めた時、ふっと彼は、こんなことを言い出した。
「それにしても、快復、早かったですね〜。この前、高熱でぶっ倒れたのに」
「迷惑をかけて、すみませんでした。ここの数値は、どうなってるんです?」
「ああ、そこはこっちと換算したものです」
「なるほど」
 無駄話よりも、仕事に更に集中しようとする私に……彼は爆弾を落とした。
「もしかして、休んでいる間にも、特効薬の女王候補さんが来たとか〜?」
……不覚にも、言葉に詰まってしまった。かっと頬に血がのぼるのを感じた。
「あれあれ? 図星ですか? へえ〜、そうなんだ?」
「君……いいかげんにしなさい」
「はいはい〜、誰にも言いませんよ〜、もちろん。今日のところは」
「君!」
 彼はにやにやしながら、私に顔を近づけた。
「主任〜、僕、個人的にちょっとお願いがあるんですが。後で聞いてもらえますよね?」
「……わかりました」
 こうして私は、彼に口外しないよう約束させる代わりに、業務後の宴席にかり出される羽目になってしまった。なんでも聖地職員の女性たちと、会合をするらしい。応諾して数時間後、彼は喜色満面という感じで言った。
「やあ〜、主任が来るって言ったら、合コン参加希望者急増で、さばききれないぐらいでしたよ〜。ぱあっと楽しく盛り上がりましょうね!」
……私はげんなりした。彼は、今後要注意人物として、慎重に対応する必要がある。私は決意を固めた。今度の土の曜日に……その……アンジェリークとささやかな快復祝いをするために、一緒に過ごすことは、けっして彼には悟らせまいと。
 と、その時、いつものように、女性の部下がお茶を運んできてくれた。
「主任、今日はコーヒーはダメですよ、病み上がりなんだから。ホットミルクにしました」
湯気のあがったマグカップを受け取ると、私はなぜか心の底が温かいもので満たされ、足下からエネルギーが湧いてくるような感覚を覚えた。
 今日も一日職務に精励しよう。宇宙と……そして、アンジェリークのために。
                           (終わり)
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