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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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開設3周年を期して、”3”つながりで創作を書いていこうという
企画の第一弾です。(詳細はこちら
Sさんからご提案を頂きました「遥か3」の景時さんのお話。
(私信>シリアスになりました^^;)

※フリー期間は終了しております。

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「月光の夜に……」


 月明かりが、屋内にも入り込んで来る。夏の終わり。夜気の中にも、一佩けの冷気が混じりこんでいるようだ。日中、容赦ない日光にさらされた身には、月光に青く染まった情景と、少しの涼感が好ましい。
 髪を少しかき上げて、ひんやりとした夜風をうなじに当てると、望美は目を細めた。
(気持ちいい……。もう少し、こうして風に吹かれていたら、眠れるかも)
 風のもたらす涼をより感じられるように、髪を手で束ね持ち、濡れ縁をゆっくり歩く。冷たい木の床の感触も、足に心地いい。夜もおそい時間なので、足音を立ててはいけないと、思った。
(そうっと、そうっと……)
 心の中で唱えながら、進んでいく先に、人影を認めた。中庭に向かって、腰掛けているその姿に、少し驚いて、ギイと床板をきしませてしまった。
(あっ……!)
 音、立てちゃったと思った時、座っていた人物が、首を回してこちらを見た。
「……望美ちゃん? どうしたの、こんな時間に? 眠れないの?」
 やさしい声音は、景時のものだった。
「あ、はい、そうです。景時さんも、ですか?」
「俺? うん、そうだな。月があんまり明るかったから、ついここで時間を過ごしちゃってね」
 ゆるく微笑む口元も、望美に向けるまなざしも、穏やかだったが、昼間見せる明るい顔とは、少し違うように見えた。
「ここ、座る? よかったら」
 目で、隣の位置を示されて、望美は素直にうなずいた。
「はい」
 景時の隣に腰を下ろし、真似をして、足を庭の方に投げ出すと、さあっと夜風が吹き渡って来た。
「あ……風が気持ちいいですね」
 吹き乱される髪を手で押さえ、先ほどと同じように束ね持つ。望美のそんなしぐさを見て、景時は何やらごそごそと、かくしや、いつも腰に提げている小袋を探り始めた。
「ああ、あった。これ、使う?」
 景時が、望美に差し出したのは、なめし革を編んで作った紐だった。
「これで、髪を結わえるといい」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、俺が結んであげるよ。はい、あっち向いて」
 促されるままに、望美は、座ったまま腰をずらし、景時に背を向けた。
 すると、景時の指が、望美の輪郭をなぞり、耳をかすめて、首の後ろで、そっと髪をかき上げた。
 やさしい指の感触は、少しくすぐったくて。また、景時が自分に触れているということに対して、望みの動悸は速くなった。
(やだ、ドキドキする……)
 居たたまれない、けれど、もう少し続いてほしい。
 矛盾した気持ちと鼓動に、望美が耐えていることに、景時は、気づいたのか、気づかなかったのか。低い声で、ささやいた。
「きれいな髪だね……」
「景時さん……」
 頬がかっと熱くなるのを感じて「自分でやります」と、言おうとした時、景時が続けた言葉に、望美ははっとした。
「……朔も、昔は、こんなきれいな長い髪だった……」
「景時さん……」
「……もう少しでできるから、あっちを向いていて」
 肩をそっと押されて、望美は顔と身体を元の向きに戻した。だが、その前にちらと見えた景時の哀しげな目の表情が、胸に刺さった。
 背を向けていても、髪をいたわるように扱っている気配が、伝わってくる。
 (朔の髪も、こんな風に結んであげていたのかしら?)
 そんな考えが、ふと頭をよぎる。胸に湧き上がったもやもやした感情を、望美は恥じた。
(……何、これ? もしかして、やきもち? 私ったら……!)
 望美の心が、そんな風に揺れ動いている間も、景時の、独り言のようなささやきは続く。
「ねえ? 女の子にとって、髪は大切なものだよね? 口に出しはしなかったけど、朔も自分の髪が好きだったし、大切にしてた。華やかに装って、自分をきれいに見せるのも好きで……そんな朔を見ているのは、俺も楽しかった。
 けれど……あの男、黒龍に出会って……彼が姿を消した時、朔は何もかも、捨ててしまった。きれいな髪も、装いも……女としてのしあわせを、すべて彼のために……」
 とつとつと語りながら、景時の指が、そっと望美の髪を梳く。柔らかな触れ方なのに、いや、だからこそ身体がぞくりとざわめき、望美は懸命にそれを悟られまいと、膝を堅く閉じ合わせた。
 すると、ふと景時の手が止まった。その指のぬくもりが髪を離れると、望美は緊張を解いた。ほっとした……。だが、何か物足りない。……また矛盾していた。
 そんな望美の様子を、景時は鋭敏に感じ取ったようだった。
「……」
「景時さん……?」
 黙り込んでしまった景時を、振り向こうとすると、押しとどめられた。
「え……?」
「あっちを向いていて。俺を見ないで……」
 低く押し殺した声音は、かえって底に激しいものをたたえているようで……。望美は思わず身を竦ませた。それでも、景時の顔を見たかった。彼が今、面に出しているに違いない、その心のうちを。
 だが、振り向くなと言われてしまって、せめてもと、背中に意識を集中した。景時の気配を、心を、できうる限り、背中から感じ取るために。
 ゆるゆると気配が動き、束ねられた髪が持ち上げられるのを感じた。
「きれいな髪……。なのに、この髪を振り乱して、君は戦ってる……。源氏のいくさと運命をともにして……。それは君自身のため? ……それとも誰かのため? ……君も、いとしい男のためなら、何もかも振り捨てるんだろうか」
 言葉が途切れた。景時は、祈るように、望美の髪に面を伏せ……口づけたのかもしれなかった。
(景時さん……!)
 振り返って、今、景時がしたことを、確かめたい衝動が、こみ上げる。肩を回しかけた時、更に低いささやきが洩れて来た。
「……もし、俺が……」
 言葉の末尾は宙に消えた。こらえきれなくなった望美は、思い切って、景時の方を向き直った。
「……!?」
 景時の表情が、驚きへと移り変わる前に、望美は見た。深く、痛ましい哀しみが、あらわに浮かんだその瞳を。
「景時さん……!」
 腕を伸ばして、首にかじりついた。
「うわっ……!」
 いささか間の抜けた声が上がったが、武人らしい堅い腕が、望美の身体を受け止めた。景時の胸板に密着した時、望美は彼の鼓動も、自分のそれと同様に、早鐘のように打っているのを感じた。
「景時さん、景時さん……!」
 名前を呼びながら、しがみつき、身体をすり寄せる。すると一瞬、景時の腕に抱き締められ、唇が耳たぶをかすめた気がした。だが、望美が吐息をつく間もなく、やや強引に身体を引き離された。
「ごめん……。俺、ちょっと月の光に酔っちゃったみたいだ……。だから……今、俺が言ったことは、気にしないで?」
 辛うじて、口元に笑みを貼り付けていたが、目には痛みが宿っていた。
「景時さん……! 私、私は……!」
 言い募ろうとする唇を封じるように、人差し指を押し当てると、景時は冗談めかして、言った。
「ほら、こんな夜中に、そんな声出したら、みんなが起きちゃう。……ダメだよ、望美ちゃん」
 笑みを浮かべながら、瞳に圧するような力をこめて、もう一度「ダメだよ」と繰り返した。
「景時さん……」
「……ごめんね? 君の心を乱してしまって……。今夜のことは、君は忘れた方がいい……」
 そう言うと、景時は、望美の目の前で、素早く指の形を変え、印を切った。
「……何を? 景時さん……?」
 望美の全身からふうっと力が抜けた。目の前にいるはずの景時の顔がぼやけ、遠のいていく。視界が大きく揺らぎ、意識が薄らぐ中で、望美の耳はとらえた。
「ごめんね……。俺には……君の手を取る資格なんかないのに……」
 哀しい言葉に「そんなことはない」と反論したかった。だが、それを口に出すより先に、望美は、夜の海のような無意識の中へ沈みこんでいった。

 
 目覚めた時、望美は自分に割り当てられた部屋の、床の中にいた。差し込む朝の光に目を細めながら起き上がると、頭の中に霧がかかったように、はっきりしない。
「ん……、何かすっきりしないな」
 昨晩は、暑くて寝苦しかったような気がする。睡眠不足なのかも……。そんなことを考えながら、軽く頭を振ってみた。すると、髪が一つに束ねられていることに気づいた。
「あれ? 私、こんな風にしたっけ?」
 頭の後ろに手を回してみると、覚えのない革の紐で、髪が結わえられていた。その結び方は、緩みなく、しっかりと巻かれていて……自分でやったとは思えないほどだった。
「……あれ……? な……んで……?」
 その紐に触れているうちに、なぜか胸が詰ってきた。理由のわからないせつなさに追い上げられて、涙が溢れ出した。
 一体、どうしたというのだろう? 覚えてはいない、悪い夢でも見たのだろうか? その時、望美は、かすかなこだまのような声を聞いた。

「……ごめんね」

 哀しい言葉だと思った。一体誰が、何を、詫びるというのだろう?
 その声には、確かに聞き覚えがあるようなのに、何一つ思い出せない……。
 けれど、透明な捺印のように、望美の中に、何かが刻まれていた。

「……ごめんね」

 その声の響きを探すうち、望美の瞳は、無意識に追うようになった。
……景時の姿を。
 紅葉の舞う山道で。雪が散らつく戦場で。
 革紐は、望美の首にいつも掛けられ、胸元にしまわれるようになっていた。

 月を見上げるたびに、こみ上げるせつなさ。。
 その正体を知るには、望美は戦い続けねばならなかった。

 そして、景時も。
 あの夜、望美とぶつけ合うことから逃げた、自分の想い、自分の弱さと向き合わねばならなかった。

 月が満ちる……。
 互いの運命を重ねるために、決断をする時が、次第に近づいていく……。

                           (終わり)




夏の熊野では、まだここまでは、という感じですが……。
すんません、景時さんに、こんなことをして欲しかっただけです。

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