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いつもお世話になってる、おぐらどらさんへの、差し上げものです。
短い話ですが、割と真っ向から、譲くんの心情に、迫ってみました。

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「あなたを呼ぶ時」

 幼い頃は“望美ちゃん”と呼んでいた。
隣家に住む、一つ年上の少女。明るくて、ちょっとおてんばで……。
家族ぐるみのつきあいがあったから、兄と俺と、三人でよく遊んだ。

“先輩”と呼ぶようになったのは、制服を着るようになってからだ。
「今日から、譲くん、後輩だね」
 中学の入学式の日、ぶかぶかの真新しい制服に着られた俺に、彼女は明るい笑みとともに言った。
「ま、帰宅部の望美が、先輩風吹かせられる相手は、おまえぐらいのもんだよな」
 学ランの前を全開にして、着るというより、引っ掛けた感じの兄が、茶々を入れた。
「何よ〜、いいじゃない〜」
 頬を膨らませる彼女を「この間、潜った時に見たフグみたいだ」と、からかっていたっけ。
 
 春の朝には、もう一つ苦い思い出がある。
 今でもよく覚えている……。
 それまで、ほぼ毎朝、三人で小学校へ通ったのに。真新しい制服に身を包んだ兄と彼女は、その朝から違う方向へと歩き出したのだ。
「じゃあね」と手を振って、俺に背を向けた彼女。遠くなる二人の後ろ姿。ランドセルを背負った俺だけが、置き去りだった。
 
 たった一つの年齢の差。だが、その差で、きっぱりと線引きされる場面が、幾度となくあった。
 俺は、いつも追う立場だった。二人の、特に彼女の背中を見て来た。
 何に阻まれることもなく、彼女の隣を、無造作に歩ける兄が、うらやましかった。
 そして、彼女にとっても……。俺は、いつまで経っても、一つ下の、弟みたいな幼なじみだった。
「譲くん」
 俺を呼ぶその声は、いつも明るく、やさしかった。兄と違って、俺は彼女を困らせたり、振り回したりしない。俺を見る彼女の目は、年下だけど、時にはちょっと頼ってしまう、出来のいい弟、というものだった。
 “弟みたいな俺”に、安心しきっている彼女。
 子供の頃はともかく、成長してからは、そんな彼女の心を揺さぶって、認識を改めさせたくなる衝動に、時々駆られた。けれど……そのたび、辛くも踏みとどまった。
 今あるポジションは、俺だけのものだと、自分に言い聞かせて。
 彼女が俺に寄せる安心と、信頼。それは、幼い頃から、ともに過ごした年数の中で、育まれたもの。
 だが、一旦不用意な行動を起こしたら、それを失うのは、一瞬のことだろう。
 秤にかければ、答えは明白。俺は、失わないことを、ずっと選ぶだろう。
 ……たぶん、それに耐えられる限り……。

 中学から高校にかけて、いつの間にか、人目を引く美しさを身に着けた彼女には、俺の同級生からも、憧れの目が向けられた。
 そんな中、“先輩”と、俺は彼女を呼ぶ。同級生たちと同じように。
 彼女は、俺を “譲くん”と呼ぶ。名字ではなく、名前で……。
 同級生たちとのその差異は、俺に少しだけ優越感を与え、慰められた。
 それがたとえ、いつも彼女の隣を、時には前を、堂々と歩ける兄の圧倒的優位の前では、ほとんど意味のないものであったとしても。

“先輩”は、また、隠れ蓑ともなった。年の差による節度と、ほどほどの親しみのあるこの呼び方は、俺の小暗い感情を覆い隠し、彼女に気づかせなかった。
 そう、彼女がもし気づいた時、その瞬間、俺は“弟のような、幼なじみ”ではなくなる。

“先輩”……誰でも使用可能で、安全で……、けれど、彼女をそう呼ぶ時、俺の胸は、いつも高鳴っていた。
 
“気づかれずに、このまま”
“いつかは変えたい”
 相反する想いが、常に交錯していた……。


 それから血で血を洗い、怨霊が跋扈する異世界に飛ばされて。
 とんでもない場所には、違いなかった。
 けれど……決して、悪いことばかりじゃない。
 兄のいないこの場所で、俺だけが彼女を守れる。

“先輩”
 この世界で、あなたがこれまで知らなかった力を発揮し、まばゆい光をまとって、“神子”と、祭り上げられようとも。

“先輩”
 あなたは、今までも、これからも、ずっと俺の焦がれる、ただひとりのひと。

 俺の弓で、あなたを守れるなら。
 俺の作る料理で、あなたを癒せるなら。
 あなたのために、できることは、なんでもする。

 だから……夜毎見る悪夢は、ただそれだけのものであるように……。
 ずっと、あなたの傍にいられるように……。
 今日を生き抜いてみせる。

 この矢よ、当たれ!
 あなたを、守るために……!

                            (終わり)
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