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永泉のキャラクターソング「白・曼珠沙華」を思い出しつつ、書きました。ウチの近辺では、もう彼岸花=曼珠沙華は、軒並み枯れてしまったのですが、まあ10月いっぱいは、ぎりぎり許容範囲かな、と。





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「白い炎」

暗雲は、吹き払われたはずだった。
京を覆い尽くそうとした穢れは、鬼の首領とともに滅したのだから。
 気が整い、龍神の守護を取り戻した京は、以前にも増して美しく活気のある都になりつつあった。それなのに。その繁栄から取り残されたかのように、ひっそり御簾のうちで泣き暮らす者があるーー。
それが京に平安を取り戻した、龍神の神子、そのひとだという事実が、一層永泉の胸を痛ませた。
(どうして、神子がこんなことに……)
清浄な神気を身にまといつつも、少女らしい朗らかさや愛らしさを振りまいていたあかねが、別人のようにうち沈む様は、正視に耐えない。また神子と八葉の間の分かちがたい絆によって、あかねの心が闇の中でもがいているのは感じられるのに、どうすることもできない自分が、責められてならない。
自責の念に囚われているのは、他の八葉たちも同様。それをまたあかねも感じ取っているようだった。詳細はわからないにせよ、自分の揺れ動く心の裡を感知する八葉たちに会うのを、あかねは次第に拒むようになった。
だが永泉だけは、辛うじて、御簾越しにではあったが、あかねの気配に接することができた。
それは、あかねが彼の奏でる笛の音を好んだためだった。その音色を聴くと、わずかながらあかねの心が慰められる、と。藤姫からそう伝えられ、都合のつく時には、神子に笛を聴かせてほしいと乞われて、永泉が断ろうはずもなかった。
そうして今日も永泉は、あかねの元を訪れた。
「神子、永泉です。お加減はいかがですか?」
御簾越しに声を掛けても、いらえはない。ただ奥の方で、わずかに身動きする気配がした。
(神子は、いらっしゃるのだ)
それだけ確かめられればよいと、そのわずかなあかしを胸に抱き締めるような気持ちで、永泉は笛の準備をした。
「では、神子。つたない笛ですが、少しでもお心が慰められれば、と思います」
愛用の笛の感触を唇で確かめ、永泉は心を込めて、吹き始めた。清澄な調べが流れ始めた、その時だった。
「みごとなものだな」
聞き覚えのある嘲笑を含んだ声が、遠いこだまのように響いた。
「その声は……まさか。いいえ、そんなことはあり得ない!」
「くっ、音に対する感覚が鋭敏なのが、おまえの取り柄ではないか。この声を聞き違えるのか。それとも、自分の耳にさえ、自信を持てぬのか?」
毒をしたたらせつつ続けられる言葉とともに、影のような姿が永泉の前に現れた。
「ア……アクラム!? そんな!? 龍神の力で消え失せたはず」
「いかにも。だが、皮肉なものだな。神子が私に会いたいと望むがゆえに、その龍神の力で、私はこうしてこの空間に現出し得るのだ。もっとも、神子も懸命に己を抑制しているので、実体ではなく、影のようなものに過ぎぬのだがな」
「そのようなことがあるはずがありません。神子がおまえに会いたいと望むなど」
「事実なのだから、仕方なかろう? 何なら、試してみるか? 少なくとも、おまえたち八葉よりも、神子が私に会いたがっているのは、確かなことだぞ」
言いながら、アクラムは滑るように移動し、あかねがその奥にいる御簾をすり抜けて入って行った。
「す、すり抜けた!?」
 常識を越えた怪異な光景に、唖然とする永泉を挑発するように、アクラムの声が響く。
「来るがいい、天の玄武。そして、己の目で確かめるがよい」
はっとして永泉は、弾かれたように立ち上がった。アクラムからあかねを守らねばという危機感が、日常のきまりごとを破らせた。
「神子、ご無礼をお許し下さい!」
御簾をまくり上げ、中に飛び込んだ永泉は見た。久しぶりに見るあかね。その姿は、今にも消え入りそうにやつれ、視線は宙に頼りなくさまよっていた。傍らには、先ほどよりくっきりとした輪郭となったアクラムがおり、あかねは、その身をできればアクラムに寄り添わせたいという風情で、ゆらゆら頼りなげに、座ったまま揺れていた。かつてのはつらつとした少女の片鱗さえないその姿に、永泉は胸を突かれた。
「神子!」
悲痛な永泉の呼びかけに、あかねははっとして、朦朧とした視線の焦点を合わせた。そして永泉の姿を認めると、顔を背け、くずおれるように、泣き伏した。
「見ないで! 私を見ないでー!」
「神子!」
思わず、そばへ駆け寄り、そのからだを助け起こした。
「神子、神子! どうぞ、お気を確かに」
永泉の腕の中で、あかねは子供のように、いやいやをした。
「いや! 離して! 私には、神子と呼ばれる資格なんてないの!」
「何をおっしゃいます、神子! あなたは、この京を救った方。神子と呼ぶ方は、あなたの他にはいません!」
激しく泣き続けるあかねを、懸命になだめようとする永泉を、嘲り笑うかのような声が響く。
「まあ、そうだな。自らが滅ぼした鬼の首領を慕うあまり、幽界から呼び戻すなど、神子にあるまじき仕儀だな」
その言葉に、永泉はきっとなって、アクラムを振り返った。
「おまえは……京を穢しただけで飽きたらず、神子を苦しめるために、冥界から舞い戻って来たのですか」
「だから、違うと言っている。神子が望んだがゆえに、私は今ここにあるのだ」
「そ、そんなはずはありません」
 怒りで頬を朱に染めた永泉の袖を、あかねがとらえた。色を失ったその唇が、ゆるゆると動き始めた。
「……アクラムの言う通りなの」
「今、なんとおっしゃったのですか、神子」
聞き返した永泉の目から、脅えるように顔を背けたが、あかねの口からは、水があふれるように、言葉が次々と出てきた。
「私……私、アクラムがいなくなってから、辛くて、悲しくて……。だって、私が龍神を呼んで、アクラムを消してしまったんだもの。もう会えない、声も聞けない。いいえ、会えなくても、同じ空気を、どこかで吸っていてくれるなら、それでよかったのに。その可能性を、私がたたきつぶしてしまった。もちろん、アクラムが京の人を苦しめたのはわかってる。だからこそ、戦った。滅ぼした。でも……それでも、私はアクラムに、どこかに……どこかにいてほしかったの! そんな私に神子の資格なんかあるわけない。あるわけないの」
壊れた機械のように、同じことを繰り返し続けるあかねを、永泉はしっかりと抱えた。
「神子……!」
内なる苦しみのために、身もだえするそのからだを抱き締めた時、永泉が秘かに育んできたあかねへのいとおしみが、触れたその腕から奔流のように注ぎ込まれた。
   アナタハ ワタシノ ユイイツムニノ ソンザイ
   アナタノ スベテヲ ワタシハ ミトメ アイスル
言葉には決してなされない思い。だが、その強い思いが、あかねの中の何かを呼び覚ました。
「永……泉さん……」
「神子、大丈夫ですよ。数ならぬ身ですが、私はここにおります。神子が私に生きる意味を教えて下さったように、ご自身を確かめる鏡として、ここにおります」
あかねは自分を見つめる瞳の中に、永泉の寄せるまったき信頼を見た。
「永泉さん……!」
「神子の……魂の輝きを私は知っております。惑わされないで。どうぞ私を信じて下さい」
そんな二人を揶揄するかのように、アクラムは言った。
「ほう? それが神子と八葉の絆というものか。それとも、神子が私を求める欲より、天の玄武の欲の方が勝ったか。いずれにせよ、興味深い力だな」
「お、お黙りなさい。今、はっきりわかりました。己が復活するために、神子の罪悪感とやさしさにつけ込んで、あたかもそれが神子自身の望みであるかのように、幻惑させたのでしょう? 神子は……本当の神子の気持ちは、そんなことを少しも望んではいない。神子の清らかなお心を汚し、苦しめたおまえを許すわけには参りません」
あかねを背にかばい、アクラムに対峙する永泉の全身からは、見えない白い炎が噴き上がっていた。
「……」
アクラムは、ちょっと気圧されたように口をつぐんだが、やがて皮肉な笑みをその唇に上せた。
「……なるほど、面白い。おまえがこれほどまでの気力を持っていようとは、思わなかったぞ、天の玄武。だが、その燃ゆる炎には、一点の欲も本当にないのか。神子を欲しないのか。純白は汚れを知らぬゆえに、一滴の墨で、たちまち真っ黒に染まるぞ。心するがいい」
そう告げるうちに、アクラムの輪郭はぼやけ、霧が次第に分散するように、薄くなっていった。
「こたびはとりあえず退くが、いつか私は必ず立ち返ってくる。京は我が物、その事実を愚民どもに思い知らせるためにな……」
かき消える寸前に、高らかな哄笑が、響いたような気がした。目の前の一幕に呆然としていたあかねと永泉は、はっと我に返って、お互いの顔を見合わせた。永泉は、あかねの頬と唇に血の色が戻っているのを認めた。その桜色の唇がほころんで告げた。
「助けてくれて、ありがとう。永泉さん」
「神子……。私自身には何の力もありません。神子ご自身の清らかさこそが、私に力を与えて下さるのです」
あかねはかぶりを振った。
「永泉さんが、私を信じてくれたから、私は自分を取り戻すことができたの。ほんとうにありがとう」
「……よかった。神子が、笑顔を取り戻して下さって」
感極まった永泉の目には、涙が浮かんできた。しかし、その喜びの中でも、永泉はアクラムが最後に投げた言葉を反芻していた。
(一点の欲も本当にないのか)
永泉は、そっと唇を噛みしめた。
(ない、とは言えない……。私のこの思いが、欲が、いつか神子を汚してしまうかもしれない)
「永泉さん?」
黙り込んでしまった永泉の顔を、あかねが心配そうに覗き込んだ。魂の色がそのまま現れている瞳、少女らしいやわらかな輪郭、唇……。
(この貴き人を……私はあたう限りのすべてをもって、お守りしよう)
そう胸に誓った時、その身にまとう白き炎は、一層高く天にも届けとばかりにかぎろい立った。
その炎が、あかねの心の眼に、何よりも美しいものと見えていることを、永泉は知らない。
彼はあかねに微笑みかけた。
「藤姫が、ずっと心配されていましたよ。もう大丈夫だとお知らせしなくては」
「そうですよね。ああ、すごく心配かけてたんだろうな、私」
「ことの経緯もお話された方がいいでしょうし、藤姫の元へ参りましょうか」
「はい」
久しぶりに御簾の外へ出たあかねは、庭から差し入って来る日差しに、目を細めた。
「わあ、何だか、久しぶりにお日様の光を見た気がする。それに、空気もおいしいし」
「……やっといるべき場所へ戻って来られましたね。神子が取り戻した清らかな気が巡る世界へ」
永泉の言葉に、あかねは感謝をこめて、彼を見つめた。
(ありがとう……)
と、その時、渡廊の向こうから、また庭の枝折り戸の向こうから、急ぎ足で複数の人間がやってくる物音がした。
「きっと八葉の方々ですよ。神子が元に戻られたのを感じて、集まって来られたのでしょう」
「ああ〜、みんなにも心配かけてたんだよね……」
その言葉を言い終えないうちに、あかねは複数の声で名を呼ばれた。
「おい、あかね!」
「神子殿!」
たちまちのうちに、八葉たちに取り囲まれ、一斉に祝福、いたわり、慰めを受けるあかねから、永泉はすっと離れた。控えめな、それがいつもの彼の位置だった。あかねは、目の端でそんな永泉の動きを追いながら思った。
(そうして、目立たないところで、いつも私を見ていてくれたんだよね。私、もうわかっちゃった、永泉さんの本当の気持ち)
胸が、ぽっと熱を持つのを、あかねは感じた。ひたむきに燃える白い炎が、誰にも知られぬまま、もう一つの胸にも宿った。
白く……熱く……。それは”欲”なのか”愛”なのか。その答えを見出す二人の旅路の第一歩が、今踏み出されようとしていた。
                              (終わり)



短い話の割に難産でした^^; 落としどころが見つからなくて。
永ちゃんが何をもって立ち向かうかっていうと、きっとあり得ないほどの清らかさじゃないかな〜、と。 ラストで他の八葉たちについて描写しようかと思いましたが……永ちゃんを特化するためにあえて省略。(だからと言って、他キャラがどうでもいいというわけではありません〜。私、どっちかって言うと、オールキャラスキーな人です) アクラムの突きつけた命題についての答えは、皆さんの心の中で。(なんちゃって、シリアス・苦笑) ああ〜、言い訳だらけで、みっともないっす……ショボンorz


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