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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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この度、朱雀阿弥陀さん(リンク参照)に参加させてもらいますので、書いてみました。大好きな東宮さまと、イサト君のお話です。お題の方は、違う朱雀八葉で書こうと思ってますけど。
写真は「あかまんま」と呼ばれるイヌタデです。これを赤飯に見立てて、ままごとをした方、多いんじゃないでしょうか(^-^)道端に生えているのを見て、懐かしくなってお話のモチーフに使ってみました。






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「ままごと」

突き抜けそうな蒼天の下、京は日増しに秋の色を濃くしている。
涼気を含んだ風を頬に受けながら、京の小路を肩を並べて歩く若者が二人。
いや、若者、というより、まだ少年の領域から抜けきっていない。
一人は、燃えるような紅い髪を一つに束ね、下駄を履いた僧兵姿。
激しい気性が、きつい目元と、薄い形のいい唇に現れている。
今一人は、一目で上質と見て取れる絹の装束をまとった貴族らしい少年。
京では珍しい淡い栗色の髪を、陽光に輝かせている。
一見、年齢以外は共通点のない二人連れなのだが、二人の間には、信頼に裏打ちされた自然な空気が流れていて、行き会う者たちも、一瞬、おや?という顔をするものの、季節はずれの蝶に出合ったがごとく、受け入れて立ち去っていく。
この二人こそ、先だって、異世界から召喚された龍神の神子とともに、京の絶望を吹き払い、清新な未来を取り戻した八葉の中で、京の南を守護する朱雀に認められた者たちだった。神子であった花梨は、すでに自分の世界へ帰還し、八葉としての務めも、もう終わったのであるが、二人は同じ朱雀の八葉として結んだ絆を今も大切にし、身分の違いを越えて、親しく交わっているのだった。
「イサト、あの子供たちは何をしているのですか?」
貴族風の少年、彰紋が、連れに問いかけた。身分を隠しているが、実は東宮である彰紋は、いずれ京を統べる身として、民の生活実態を知るよう、努めている。そんな彰紋にとって、庶民の生活の苦労を知っているイサトは、よき案内役であり、教師でもあった。今日、二人して町を歩いているのも、お互いの息抜きと、彰紋の社会勉強を兼ねている。
イサトは、彰紋の示した光景に、目を細めた。
「ああ、ありゃ、ままごと遊びをしてるんだよ。うちの妹もよくやってるぜ」
「ままごと遊び、とは、どんな遊びなのですか?」
「ちっさい女の子が、おっ母さん役、子供役って決めて、そのつもりになって、大人のまねごとをするんだよ。近くに行ってみるか?」
軒下にござを敷き、六、七歳の女の子が二人、古い欠け椀に、小枝の箸を添えて、あどけない声で、食事の風景を再現していた。
「嬢や、ごはんだよ。今日は、あきないで、おあしがいっぱいもうかったから、小豆まんまだよ」
「わあ〜、すご〜い。いただきまあす」
子供役の女の子が椀を受け取り、食べるふりをすると、桃色の粒のような物が、はらはらと、その小枝の箸の先からこぼれた。
「あの桃色のものは、何ですか?」
「あかまんま、だな。ほら、そこに生えてるだろ。その花をしごいて、ままごとの飯にするんだよ」
イサトが指した彰紋の足下には、桃色の小さな花が棒状に集まった草が、群生していた。
「まあ、小豆まんまなんか、正月か、祭りの時ぐれえしか、庶民は口にできねえからな。あの子たちも、たまに食べた味を思い出しながら、やってるんだろうぜ」
「……そうなのですか」
彰紋が、何を思ってか、唇をきっと結んで、草を眺めていたその時、女の子の甲高い声が響いた。
「もう、おさとちゃんったら、そんなにこぼして。あかまんまがたりなくなっちゃうじゃない」
 それを聞いた彰紋は、腰をかがめ、手早くあかまんまを幾本も摘み取ると、女の子たちの元へ歩み寄った。
「はい、これで足りますか?」
見慣れない若者の出現に、女の子たちの顔に、一瞬おびえが走ったが、彰紋の柔和な笑みと言葉に、安心感と親しみを覚えたらしい。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「どう致しまして」
「そうだ、お兄ちゃんも、いっしょにすわって。小豆まんま、ごちそうするから」
「え、あの……」
女の子に手を引っ張られ、とまどった彰紋は、思わずイサトを振り返った。
「いいじゃねえか、遊んでやれよ」
イサトは、白い歯をこぼして、言った。
その様子を見た女の子が、彰紋とイサトを見比べながら、言った。
「あっちのそうへいのお兄ちゃん、ともだち? じゃあ、そうへいのお兄ちゃんも、来てよ」
「俺もかよ? まあ、いっか」
苦笑しながら、イサトもやって来て、天地の朱雀は、ござの上に座った。女の子たちが、小さな手で、あかまんまの花をしごいてご飯にするのを、見よう見まねで彰紋もやってみた。花の色が指先に染みつくようだ、と思った。
イサトは、自分の幼い妹と女の子たちがだぶるのだろう、やさしく言葉を掛けながら、器用な手で、すばやく大量の花のご飯を作っている。東宮として、御所では気を張ることの多い彰紋にとって、めったにないような、心安らぐひとときだった。
花のご飯が十分な量になると、母親役の女の子が言った。
「じゃあ、そうへいのお兄ちゃんが、お父さんで。こっちのお兄ちゃんが、お客さまね」
「おう、いつでも、いいぜ」
「ええと、僕はお客さま役、なんですね」
女の子はうなずくと、澄まして言った。
「あんた、おかえり。おや、お客なの。どうぞ、こちらへ。なんにもありませんけど……ごはんでも、たべてってくださいよ」
女の子の大人さながらの言い回しに、彰紋は笑いそうになったが、イサトが(ここは、笑っちゃダメなんだぜ)と目で言うのをくみ取り、顔を引き締めた。
「おう、かかあも、こう言ってるからよ。まあ、ゆっくりしてけ」
イサトの言葉を受けて、
「では、お言葉に甘えて、ごちそうになります」
 差し出された椀を両手で包み込み、箸でていねいにすくって、口に運ぶまねをする。
「とても、おいしいです」
 そう言うと、女の子たちは喜んで、くすくすと、こらえきれない笑いをこぼした。
「さあさあ、どうぞおなかいっぱいたべてくださいよ」
「はい。ありがとうございます」
「かかあ、俺にも一杯くれよ」
「はいはい、たんとありますからね」
そんなやりとりがえんえんと続いて。小一時間ほども、彰紋とイサトは、ままごとに付き合わされる羽目になった。ようやく解放された頃には、すでに陽が傾き掛けていた。
イサトは寺へ、彰紋は御所へ、それぞれ帰らなくてはならない時間だった。
それぞれの帰路に着く分わかれ道まで、また肩を並べて二人は歩き始めた。
「やれやれ、あの子供らに、すっかり付き合わされちまったな」
軽く伸びをしながら、イサトが言うと、
「ふふっ、でも、楽しかったですよ」
彰紋が微笑んで答えた。
「お手玉も教えてもらいましたしね。ええと、こんな歌でしたっけ?」
彰紋は、教わった歌を歌いながら、お手玉を投げる動作を、イサトにしてみせた。
「そうそう、うまいじゃん」
「ありがとう。そう言えば、あのお手玉、随分古びたものでしたね」
 布がすり切れて薄くなり、糸もほどけかけた女の子たちのお手玉を、彰紋はふと思いかえした。
「ああ、大体、古着の端ぎれに、豆とか詰めて作るんだけどよ。親に、新しいのを作ってやるゆとりがないんだろうさ」
「そうなのですか……」
彰紋は、憂わしげに眉をひそめた。そうこうしているうちに、二人はわかれ道までやって来た。
「じゃあ、今日はここで。またな、彰紋」
「ええ、イサト。また、会いましょう」
軽く手を挙げ、足早に去っていく友の後ろ姿を追いながら、彰紋はしばし物思いにふけりながら、その場にたたずんでいた。
それから一週間ほど経ったある日、イサトの元へ、彰紋からの使いが来た。洛中で彰紋が持っている別邸に、出向いてきてほしい、とのこと。東宮である彰紋に、イサトの方から会いに行くには、しち面倒なことがいろいろ起こって来るので、彰紋の方から、このような使いや、文が届くのが、常だった。
イサトが寺での仕事を終え、約束の刻限に別邸を訪ねてみると、彰紋は離れにいるとのことだった。家令に促されて、そちらへ回ってみると、萩や桔梗の秋の花がとりどりに咲き乱れる庭に面した濡れ縁に、彰紋は腰掛けていた。その手からは、赤いお手玉が投げ上げられて、くるくると宙を回っていた。
「ひとつとや、ひとよひとよにめぐりあいて……」
 柔らかく歌う数え歌も聞こえる。
(あいつ、大分練習したな)
 頬に笑いを矯めながら、その名を呼ぶと、彰紋が笑顔でこちらを見た。
「ああ、イサト。よく来てくれました」
「おう、お手玉、随分上達したじゃねえか」
「ええ、やってみると、楽しくて」
目で促されて、彰紋の隣に腰掛けてみて、イサトは目を丸くした。彰紋の傍らに置かれたかごには、とりどりの布で作られたお手玉が二十個ほども入っていたからだ。
「随分、こしらえたんだなあ」
「ええ、周りの女房たちが作り方を知らなかったもので、裁縫方で端ぎれをもらって、厨で下働きをしている女の子たちに頼んで作ってもらいました」
彰紋のことだから、厨まで自分で足を運んだのだろう。下働きの少女たちは、さぞかし驚いて、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたに違いない。その様を想像して、イサトはくくっと喉の奥で笑った。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもねえ」
「実は、そのお手玉のことで、お願いがあって、来てもらったんです。僕は、これからしばらく宮中行事が立て込んでいるので、京の街へ出ることができないもので。どうか、このお手玉をあの女の子たちに届けてもらえませんか。あの時、ごちそうしてくれたお礼にね」
「よし、引き受けた。こんなきれいなお手玉を見たら、きっと喜ぶと思うぜ」
イサトは一つを手に取り、布地の美しい模様を眺め、中の詰め物の感触を楽しんだ。そして、ふと気づいて、彰紋に問うてみた。
「彰紋、この中身、もしかして……」
「ええ、小豆なんです。少しですけれど、あの子たちが、お父さん、お母さんと一緒に、ほんものの小豆まんまを食べられるといいと思って。ああ、イサトの妹さんの分もありますから、どうぞお持ち下さいね」
「彰紋……。わかった、だいじに食べるように伝えるぜ」
「ええ、宜しくお願いします」
彰紋のかげりない笑顔を見ながら、イサトは思った。
こいつなら、きっと、ほんとうに京のことを考える、いい帝になってくれるだろう、と。そんなイサトの心中を、言い当てるかのように、彰紋は言った。
「いつか、どこの子供でも、お腹いっぱい小豆まんまを食べられるような、そんな京にしたいです」 
「……おう、頼んだぜ」
心打たれて、鼻の奥が熱くなったのを、彰紋に悟られないように、イサトはぶっきらぼうに言って、そっぽを向いた。
そんなイサトに向かって、彰紋は言葉を継いだ。
「僕には、まだ知らないことが、たくさんある。民の心をくみ取れるように、イサト、これからも力を貸して下さいね」
「おう」
とうとう赤くなってきた鼻を隠すために、イサトはからだごとあさっての方向に向いてしまった。
その背を見ながら、彰紋は思う。意地っ張りで、気性が激しい分、誰よりもやさしい深い情のある友。東宮としての責務は、あまりにも重いけれど、この友が傍らにいてくれるなら、自分は京の明るい未来を思い描き、信じることができる、と。
二人の上に広がる空は、どこまでも青く、まっすぐな志を祝福するかのように澄み渡っていた。
                           (終わり)




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