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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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三周年記念フリー、第三弾、ラストです。
ええと、Dさんのご要望「神南で!」ということでしたので、
書いてみたんですけど。
需要あるんでしょうか、芹沢くん^^;
個人的に、彼のことは”あずき執事”と呼びたいです。

※フリー期間は終了しております。

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「そっと手を当てて」


 廊下を歩きながら、放課後行われる部会のことを、芹沢は考えていた。
(茶菓子は、後援者からの差し入れのフィナンシェがあったな。そろそろ茶葉の補充もしておかないと……)
 頭の中で備品をチェックし、段取りを確認する。不手際があると、この神南高校のカリスマと呼ばれる部長から、ずけりと指摘される。二百人に及ぶ管弦楽部を束ねる東金は、人の上に立つ立場が、自然体で身に着いていると同時に、プライドを刺激する物言いというのを、心得ている。そればかりではない。東金の言葉にぐさりと刺された後、副部長の土岐によって追い討ちをかけられる。一見フォローのように見せかけつつ、その実傷口の周りに塩を振りまくような、遠回しの皮肉を受け止めると、更に落ち込んでしまう。
 この二段攻撃を回避するためには、手抜かりがないよう、努めるほかなかった。
 ピアノの演奏を認められて、この二人とのアンサンブルの一翼を担うようになってから、細々とした用事を振られるようになった。“執事”とまで陰で呼ばれていることを、芹沢自身、承知している。だが、二人の傍にいることで、“引っ張り上げられている”という気がするのも確かだった。
 東金の目に止まらなければ、自分は全国大会の舞台に立つこともなく、平々凡々と、高校生活を送ることになっていただろう、とも。
 とはいえ、東金のムチャ振りに、戸惑わないわけではない。一般的男子高校生に、専門店並の紅茶を淹れる技術や知識は、普通必要ないだろうと、しごく基本的な疑問が、頭をよぎることもある。だが抗議が通用する相手ではないし、割り振られた仕事を抜かりなくこなす方が、現実的というものだった。
 無意識に、ぶつぶつと仕事の内容を口に出しながら歩く芹沢を、呼ぶ者があった。
「芹沢先輩!」
 はっとして、顔を上げると、そこには一年の女子部員の姿があった。
「えっと、君、一年の……?」
 名前が思い出せない。何度か口を聞いたことはあると思うが、大所帯の管弦楽部部員のすべてを、芹沢は把握しているわけではなかった。
「浅井です」
「ああ、浅井さん。俺に何か?」
「あの……これ、よかったら、受け取って下さい!」
 花の絵の付いた紙ナプキンに包まれたものを、差し出された。とりあえず受け取り、ナプキンを開いてみると、作られてからさほど時間が経っていないと思われるカップケーキが出て来た。
「これは?」
「今日、調理実習で作ったんです。それで……その……芹沢先輩に食べてもらえたらって思って……」
 頬を染め、声をうわずらせているその様子から、懸命さは伝わって来た。
「そう、じゃあ、もらっておくよ。ありがとう」
 あっさり言うと、彼女はきゃっと嬉しげな声を上げ、頭をぺこんと一つ下げると、くるりと背を向けて走り去って行った。
(つまり、これは好意のあらわれと受け取って、食べればいいんだよな。う〜ん、でも……)
 さっき昼食をすませたばかりだし、今は無理だと思った。後で食べるとして、教室のロッカーの中にでも入れておくのが適当だろうが、部会の準備を昼休み中にすませておかねばならないし、教室に一旦戻る時間が惜しい。
(仕方ない、このまま部室に持って行くか)
 そう大きな物ではないが、何となく面倒だなと思いながら、口の開いた包みを直していると、また声を掛ける者があった。
「お安くないな、芹沢」
 高圧的な物言いに、反射的に肩がびくんと上がる。
「ぶ、部長!」
 声の主は、今の芹沢にとって、地震、雷並みに畏敬の対象である、東金であった。(ちなみに、芹沢ランキングで、東金の次に位置を占めるのは、土岐である)
「あの、今から部会の準備をしようと……」
 聞かれてもいないのに、言い訳モードに入った芹沢を、東金はからかうように、斜め上から見下ろした。
「ふん、そうだな。大切な部会の準備より先に、女からのプレゼントを受け取っていたと、こういうわけだな?」
「違います、そんなつもりは……」
「まあ、いい。ちょっと見せてみろ。ほう、手作りの菓子か。かわいいもんじゃないか」
「はあ……」
「まあ、俺は素人の作った菓子を食べる気にはならんが、おまえは後輩からの可愛らしいアプローチを無下にはしないことだな」
 と、人を食ったような笑みを浮かべた東金だったが、ふと何ごとかを思い出したように視線をさまよわせた。
「そういえば……あいつは、素人なのに、プロ並みだったな……。菓子も弁当も……」
 そうつぶやき、切なげに眉を少し寄せた。そして無言で踵を返し、足早に立ち去って行ってしまった。後に残された芹沢には、東金の胸のうちが手に取るようにわかっていた。
(あ〜、メールしに行ったんだな、小日向さんに)
 全国大会のステージに向かって、全力を傾けていたこの夏。決戦の地、横浜で出会った少女の顔が、頭に浮かんだ。東金が、その少女、小日向かなでのヴァイオリンに惚れ込み、この神南高校の管弦楽部へと引き抜きたがっていることは、主立った部員なら誰でも知っている。
(もっとも、部長が気に入ってるのは、ヴァイオリンだけじゃないだろうけど)
 小さく肩をすくめた芹沢だったが、その時自分が何をしようとしていたか、はたと思い出した。昼休みの残りがもうあまりないという現実に、青ざめながら、部室へと急いだ。
 
 
 何とか無事に部会を終えて、後輩に指示を出しつつ、後片付けをしている芹沢のところに、土岐が近づいて来た。
「芹沢君、お疲れさん」
「あ、副部長、お疲れさまです」
「悪いけど、一昨年と昨年の遠征費の内訳と、今年の見積もり、まとめといてくれる? 打楽器パートから、楽器の追加購入の要請が来てるけど、遠征用の予算から回せるか、千秋と検討してみるから」
「わかりました」
「よろしく、頼むわ」
 こんな風に、柔らかい笑み付きで、土岐にものを頼まれて、断れる人間はまずいないだろうと、芹沢は思った。ことに女子なら、頼まれたこと自体が喜びになるぐらいだ。男の自分は、あいにくとそういうテンションにはなれない。というより、下手を打った時、同じ笑い方で言われる遠回しの皮肉への恐怖が勝る。芹沢にとって、土岐の微笑は、危険注意報にほかならなかった。
 忘れないように、頼まれごとを、手帳にメモする芹沢の手元に、土岐はふと目を留めた。
「おや? ええブレスしてるね? ちょっと見せてもろてもええ?」
「はあ」
 芹沢の手首には、天然石を連ねたブレスが、はまっている。最近、パワーストーンに凝り出した母親が作ったものだった。その効果については、芹沢は半信半疑であったが、母親がうるさいので、仕方なくこのところずっと身に着けている。
「ふうん……。カーネリアンにタイガーアイ、水晶……。配色もなかなかええな。もしかして、プレゼント?」
「はあ……」
 母から押し付けられたものだとは言えず、あいまいな返事をした。すると土岐は、勝手に拡大解釈をした。
「ふふっ、芹沢君も、隅におかれへんね。しかし、女のコて、こういうもんが好きやんなあ……。パワーストーンとか、隕石のかけら、とか……」
 土岐は、ふと遠くの何かを見るように、視線を浮かせた。そして、シャツの胸元を、何かを確かめるように掴んで、ため息を吐いた。
そして「ええっと……そしたら、芹沢君、さっきのこと、宜しく」と、取って付けたような、気の入っていない挨拶をすると、行ってしまった。その背を見送りながら、芹沢は思った。
(あ〜、都々逸をやりに行くんだな)
 横浜から帰って以来、土岐が沈みがちなことは、傍にいれば見て取れた。人目につかないところで、もの憂げに、都々逸を口ずさんでいる場面も、何度か目撃している。
「声にあらわれなく虫よりも 言わで蛍の身を焦がす」
 医者でも、草津の湯でも治せない病にかかっているのは、ほぼ間違いなかった。土岐の思い人が誰なのか、芹沢には見当がついていた。というより、他に誰がいるのだと、確信さえしていた。
「……ふう」
 芹沢は、太く深いため息を吐いた。波立つ心を落ち着かせるように、シャツの胸ポケットから、携帯電話を取り出してみる。待ち受け画面には、大切に飼っているハムスターの写真が設定してある。
「ミルキー……」
 いとおしげに、写真のハムスターをそっと撫でると、自然とこの夏のできごとが甦って来る。
『うわ〜、可愛い! それ、芹沢君のハムスター?』
 弾んだ声で、日だまりのような笑顔で、待ち受けを見た小日向かなでは言ったのだ。
 出会った頃、「花」がないと東金が断じた彼女は、全国の頂点を目指して研鑽を積むうちに、見違えるほどの成長を遂げた。最後に栄冠をつかみとったその姿は、さながら大輪の花だった。
 それだけでも、十分すぎるほどだが、そのうえ愛らしさと、気配りを兼ね備えた彼女に、周りにいる男どもは軒並み夢中になっていた。東金も、土岐も、例外ではなかった。この二人が、口ではかなでを揶揄したり、煙に巻いたりしながらも、その実彼女と過ごす時間を、おおいに楽しんでいたことを、芹沢は知っている。
 芹沢自身も、ご多分に洩れず、かなでに惹かれていた。だが、衆目を常に惹き付ける華やかさを持ち合わせた東金、土岐と比べて、いわば裏方の役割の自分に、かなでが目を向けることはないだろうと思っていた。
 ところが、東金の派手な男っぷりよりも、土岐の妖しい色気よりも、かなでの心をとらえたのは、一枚のハムスターの写真だったのである。
 そう、かなでは無類の動物好きだった。実家でも、たくさんの生き物を飼育していたとのこと。寮で生活している今、身近に動物を置くわけにはいかず、しきりに残念がっていた。
 そんなかなでと、ひとしきりハムスターの話題で盛り上がった後、彼女は愛らしい笑顔でこう言ったのだ。
「芹沢君ちのミルキーちゃんや、他のハムちゃんにも会ってみたいなあ。そうだ、よかったら、時々でいいから写メ送ってくれる?」
 こうして、ハムスターのおかげで、芹沢は思いがけずかなでのメールアドレスをGetできたのである。
 そして、夏が終わった今も、メールによる交流は続いている。最近ではハムスターのみならず、お互いの学校生活や音楽についてなど、話題の幅と中身が広がっている。かなでは、今や星奏学院のエース格と認められているが、それに対して、少々引け目を感じると先日告げたところ、こんな返事を寄越してきた。
「芹沢君の安定した伴奏があるから、ヴァイオリンの二人が思い切り弾けられるんだよ。私、そんな芹沢君のピアノ、大好きだよ」
 胸が熱くなるのを感じた。彼女のやさしさが、含まれているのだとしても、認めてもらえるのは、嬉しかった。
(……頑張れば、また全国大会のステージで、彼女に俺のピアノを聴いてもらえるかな)
 胸の中に、目標の灯がともった。小さいが、熱い想いだった。
そんな風に、メールで心を通わせている芹沢とかなでの間に交わされるメールの頻度は、当然東金よりも土岐よりも、高いと思われた。というより、芹沢の見たところ、東金、土岐に対するかなでのメールは、返信が主であるようだった。
 携帯のメールボックスを埋める「小日向さん」の名前。その事実を、東金と土岐が知ったら……想像するだけで、背筋が凍る思いがする。
 であればこそ、芹沢は一層慎重に、つっこまれる隙がないように、振る舞っているのである。
 周囲を見回して、人影がないことを確認すると、芹沢は暗証番号を打ち込んで、ロックしてあるデータフォルダを開けた。そこには、菩提樹寮に滞在している間に撮った、かなでと自分とのツーショットが、保存されている。
(小日向さん……)
 こちらに向かって、こぼれるような笑顔を見せているかなでに、そっと心で呼びかける。
 と、その時。
「おい、芹沢! 何、やってるんだ? アンサンブルの譜面をさらうとさっき言ったろうが!」
 彼女を恋う時間は、張りのある怒声によって、破られた。
 文字通り跳び上がった芹沢だったが、急いで携帯を胸ポケットに収めると、廊下の向こうから、こちらを見ている東金と土岐に向かって、大きく返事をした。
「すみません、部長! すぐ行きます!」
 そんな芹沢の様子を打ち眺めながら、土岐が言った。
「千秋、芹沢君をあんまり追い回したら、可哀想やで。何、考えてんのか知らんけど、ぼおぉ〜っとする時間も必要やろ」
 例によって、薄い笑みを浮かべていたが、“ぼおぉ〜っと”が思い切り強調されていた。
「ふん、小人閑居して不善をなすって言うだろ。アイツはきりきり働かせて、なんぼってことだ」
「やれやれ、千秋に変に見込まれてしもて、お気の毒としか、言いようがないね」
「俺は、アイツのこと、可愛がってるつもりだぜ?」
 もし、東金と土岐が、芹沢の秘密のデータフォルダの中身を知ったなら、「小人閑居して……」どころか、一切暇な時間は与えるまいと思うに違いなかった。(そんな小っ恥ずかしい真似ができるかと、格好をつけてしまったために、かなでとのツーショット写真を、二人は撮っていなかった)
 
 芹沢は、シャツの布地越しに、携帯にそっと手を当ててから、待っている二人に向かって走り出した。
(はあ……頑張ろう)
 ため息がつい洩れるが、それでもついて行こうと思う。
(部長と副部長に、がっちり食らいついていったら、きっとまた全国大会に行ける。その時、俺は、君に恥じない演奏をしたい……!)
 
 まばゆい夏の日に蒔かれた種は、密やかに芹沢の胸の中で、育っていた。ただ一人に向けて、まっすぐに……。

                             (終わり)





これ書いてる途中に、何となく思い浮かんだのは、今やフランス在住のマダ〜ムとなったミポ◯ンの歌でした。
「派〜手〜だ〜ね! 派手もいいけど……」っていうの(笑)
千秋、蓬生さんと付き合うより、芹沢くんの方が、多分楽だろうなと、思います^^
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