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この間からやっていた月森の小話が、
やっと上がりました。時間食った割に、短いですが^^;
妄想に走るよりは、割とゲームに沿った話になってると
思います。

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「想い、空へ」

 
 子供の頃から、空の色が好きだった。自分の出す音が、目指す水準になかなか届かず、苛立つ時。遥かに遠い高みを目指して、きりきりと張りつめた時。
頭上に広がる青空を見上げれば、心の掛けがねが、コトリと外れて、楽になれる気がした。翼はなくとも、伸びやかに、心は空を駆け上がれる。そんな憧れを思い描くことができた。
 そして……香穂子を意識するようになってから、一層空が好きになったような気がする……。
 練習室の窓から見える空に、ふとその目が吸い寄せられた月森は、我知らず小さなため息を吐いた。すると傍らで、音をさらっていた香穂子が、びくんと肩を震わせた。
「わ、やっぱりこの弾き方……解釈じゃ、おかしいかな?」
 ため息の意味を取り違えた香穂子は、手を止めて、月森を見つめた。自分のちょっとした所作に、香穂子が反応したことに、月森は少々驚いた。
「いや、そうじゃない。悪くない解釈だと思う」
 言いながら、月森は香穂子の顔に、不安と焦りを読み取った。吉羅理事長から突きつけられた、クリスマスコンサートの条件は、かなり厳しいものだった。正直今の香穂子のヴァイオリンの技量からすれば、相当の努力をしなければならないだろう。しかし、コンサートは、何としても成功させなくてはならない。学院が分裂、移転しては、リリが学院に与えた音楽の祝福は失われ……。またリリは、はっきりとは言及しなかったが、音楽の魔法とともに、学院内に息づいているファータたちに、どんな悪影響が及ぶかしれなかった。
「何としても」という使命感、責任感が、香穂子の肩にのしかかっている。 
 そして今も、自分の演奏レベルを上げるために、これまで練習して来たのとは比較にならないほどの難曲に取り組んでいる。不安と闘いながらも、技術を向上させるために、懸命にハイレベルな曲に取り組む香穂子の姿は、月森に敬意を起こさせた。だが、技術にとらわれていては、それが香穂子の音楽の、最大の魅力である、伸びやかさが失われてしまうとも、感じていた。
 現に、自分のちょっとした態度に、過敏に反応するほど、香穂子は張りつめている。彼女らしい演奏をさせるためには、その緊張をときほぐす必要があるだろう。
「香穂子、場所を変えないか。そうだな、天気もいいし、屋上にでも」
 そう促すと、香穂子は素直にうなずき、移動の準備にかかった。うつむいたその頬の線が、丸みを失っているのに気づいて、月森は、はっと胸をつかれた。
(何とかしてやらなくては……)
 強い思いが、つき上げて来る。
 香穂子が、存分に伸びやかに弾けるように。そして、そうすることこそが、コンサートの成功につながると、月森は確信していた。
 屋上に上がると、抜けるような青空が、視界に広がった。晩秋から初冬へと移ろいゆく狭間の、ひやりとした風が頬を撫でる。人影が少なく、空を仰ぐことのできるこの屋上は、月森の気に入りの場所だった。そして……香穂子も恐らくそうなのだろう。ここで、彼女が一心に練習している場面に、よく出合ったものだ。
 コンクール参加者として出合った春の頃、月森はそんな香穂子に、ほとんど関心を持てなかった。日頃演奏を耳にするヴァイオリン専攻の学生たちと比べても、特に優れた弾き手とは思えなかった。ところがそんな凡庸な印象は、演奏を聴くたび、セレクションが進むたびに、塗り替えられることになった。香穂子は、目を見張るほどの長足の進歩を遂げた。
 きっかけは魔法のヴァイオリンであったにせよ、セレクションの後半からは、香穂子自身の努力と、リリが見いだした音楽の才能が、ぐんぐん花開いて行く様を、月森は目の当たりにすることになった。
 そうして、香穂子のヴァイオリンを認め、またその音楽の中に、自分にはない魅力を発見していく過程で……いつしか香穂子個人に、惹かれるようになっていった。
 ヴァイオリンが好き、と、てらいなく笑う香穂子は、同じ曲を演奏しても、自分とはまったく異なるものを、その楽曲の中に見ているようだった。血豆ができるほどに練習する動機を、“ただ好きだから”という感情的理由で語る香穂子は、月森の理解を超えていた。
 だが、とりとめのない言葉より、彼女の音楽が、何よりも雄弁に月森に訴えかけて来た。音楽は、しあわせをもたらすものである、ということを。そして、それを表現できるがゆえに、リリは香穂子を選んだのだ、ということを。
 そんな香穂子の音楽を、間近に聴けるのも、後数カ月のことだ。ウィーンへの留学が、いよいよ本決まりになった今、月森にとって、香穂子と過ごす一時ひとときが、貴重だった。
(香穂子と、離れたくない……!)
 留学は、自分で決めたこととはいえ、そんな思いが時折胸を支配する。だが、音楽しか選べないことを、月森は自覚していた。何よりも、香穂子よりも、音楽を……。
 であればこそ、香穂子には、ヴァイオリンを弾き続けていて欲しいと願わずにはいられない。彼女がずっとその道を歩み続けてくれるのなら……再びその音色を聴くこともできる、そしていつか道が交わることもある、と……。
 香穂子の音楽の才能に、情熱に、一縷の望みを賭けたかった。そしてその望みをつなぐためには……。
(こんなところで、挫折して欲しくないんだ)
 ぐっと手を握り込んだ月森の表情は、険しいものになっていたのだろう。
「月森君……?」
 香穂子が、不安げに顔を覗き込む。そのまなざしの揺れを見て取った月森は、まず彼女に、落ち着きと自信を持たせなければと、考えた。
 慈しみをこめて、笑いかけると、ほっとしたように、香穂子も表情を緩めた。
「合奏しないか。曲は、そうだな『アヴェ・マリア』は、どうだろう?」
 月森の言葉に、香穂子は目を丸くしたが、すぐになにごとかに思い当たったようだった。ふわりと微笑むと、ヴァイオリンを構えた。
 聖母に捧げられた、清らかな旋律。月森が弦から引き出す幅のある音に、香穂子の音がぴたりとついて、重なり、からみ合っていく。
 あのコンクールの前の合宿の夜、香穂子が弾いていた曲。心に呼びかけるようなその音に惹かれて、月森は弓を取り上げた。それが二人の初めての合奏だった。後に、香穂子は、頬を染めながら語った。あの晩、『アヴェ・マリア』を弾いたのは、月森がこの曲を練習していた、その演奏に憧れたからだ、と。
 お互いの音楽に惹かれ合う架け橋となった曲、それが『アヴェ・マリア』だった。あれから季節が移るうちに、香穂子の音楽は磨かれ、手探りで二人は想いをつなぎ、今、こうして音を重ねている。
(……君の音楽を、どうか奏で続けてくれ……!)
 そんな願いをこめて、月森は弾いた。誰かのために、音色を想いで染め上げること。それもまた香穂子と出合わなければ、きっと知り得ない音楽だった。
 二人のヴァイオリンの音色は、曲の最後に向かって歌い上げられ、“アーメン”という祈りを乗せて、締めくくられた。余韻がまだ漂う中、月森と香穂子は、そっとヴァイオリンを下ろし、見つめ合った。桜色に頬を上気させた香穂子の唇が、ゆっくりと動いた。
「ありがとう、月森君」
 伝えたかった大切な想いを、香穂子は、確かに受け取ってくれた。言葉はもはや不要、とも思えたが。香穂子の輝く瞳の中に、自分への感謝と信頼を見た時、尽きせぬいとしさが、こみ上げて来た。月森は、手にしていたヴァイオリンを、地面に置いたケースの中に、そっと収めると、それより更に慎重な手つきで、香穂子の頬に触れた。
「月森君……!?」
 香穂子は驚いて、身をすくませたが、月森のまなざしを受け止めると、ふっと肩の力を抜いた。柔らかな頬が、ぬくもりを楽しむかのように、月森の手に委ねられる。そして月森は、苦しいほどに、胸に満ちる想いの一端を、ようやく押し出した。
「その……君の積み重ねた努力と、その成果である君の音楽を、信じてくれ。……俺が、信じているように」
「月森君……」
 香穂子の瞳のふちに、光るものがにじんだ。
「……ありがとう!」
 その言葉に、もはや迷いはなかった。これまでも、二人の間に一本いっぽん、見えない糸を結んで、より合わせて来た。今、また一本増えて、更に強くなったその糸を支えとして、香穂子は、自分の音楽を奏でることができるだろう。
 ……いや、それは糸ではなく、弦に姿を変えたのかもしれない。たとえ海を隔てて遠く離れていても、月森がその弦でつま弾く心の調べを、香穂子は聴くことができるかもしれない。……そんな夢想さえ、信じたくなる一瞬……。二人の心は、確かに響き合っていた。
 月森は、再び空を仰いだ。今日のこの空の色を、幾度となく、きっと胸に呼び戻すことだろう。たとえ、心の弦を信じられなくなる日が来たとしても……。
「月森君?」
 柔らかい声が、名前を呼ぶ。そうすることが、嬉しくて仕方ないように。月森は、ゆっくりと振り返り、かけがえのない時間を共有する少女に、微笑みかけた。
「……練習を再開しようか」
「うん」
 香穂子の音が、今度は確かな自信をもって、広がっていく。この音が出るならば、コンサートは、恐らく成功するだろう。そして……その成功は、まだ見ぬ未来に、きっとつながっていくことだろう。
(君を……君の音楽を、信じている)
 月森の音が、香穂子の澄んだ音とむつみ合いながら、伸び上がっていく。深く、強く、ただ一人への想いをこめて……。忘れ難い、青い空の中へ……。 
                              (終わり)



月森のことは、ほんとにキヨラカな人だと、私、思ってます。
つか、ヨコシマに妄想するのは、方向性として、割とたやすいですが、
キヨラカに妄想って、どんなんだろう? などとアフォなことを考えたり
して。
あ、でも、永泉ネタ書く時は、それやってるかもしれません。
そうか〜と、今、自分の中だけで納得しました。
月森は、またちょっと違う気がしますが……。
今度月森の話を書く時があったら、その辺掘り下げてみるかな。
以上、無駄話でした^^;
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