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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
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自分の作品を載せるサイトを持ったら、好きなキャラのお誕生祝いをしようと、思ってました。ところが、ブログとはいえ、そうなった今、日常生活に追われ、10月の葉月王子の誕生日を外し、11月に入ってからの、九郎もクラヴィスも終わってしまいました。(悔しいので、九郎かクラヴィスのどっちかは、書いちゃおうか、とも思いますが)
 せめて加地と思いましたが、それも遅刻になってしまいました。後半部分、気に入らなくて加筆しました。自分としては、かなりすっきりしましたが……全然甘くありません。どうか、笑って流して頂きたく……。

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「贈る気持ち」

図書室の窓は大きくて、明るくて。降り注ぐ日差しが、ぽかぽかと心地いい。お弁当を食べてお腹はいっぱい。机の上には古典の教科書。眠くなる条件はそろっていた。こくんこくんと頭が揺れ始めた私の肩を、ぽんと誰かがたたいた。
「日〜野ちゃん!」
元気いっぱいの声に、私の意識は呼び戻された。
「あ……天羽ちゃん」
「舟漕いでたけど、大丈夫〜?」
言いながら、天羽ちゃんは私の隣の席に腰を下ろした。クラスは違うけど、春のコンクール以来、すっかり仲良くなった彼女は、今は大切な友達のひとり。遠慮のないしぐさで、私の手元をのぞきこんだ。
「ふむふむ、『方丈記』だね〜。普通科の期待の星は、昼休みにヴァイオリンの練習ではなく、古典の勉強に打ち込んでいた、と」
「打ち込んでいたというより、打ち負かされそうになってたんだけどね。あ〜あ、6時限目、テストだっていうのに、ちっとも頭に入んない」
「あはは〜、みごとに付け焼き刃だね〜。笹崎センセイ、点、辛いのに〜」
天羽ちゃんは、うくくと笑いながら、私のノートの横に広げられた、もう一冊のノートに目を留めた。
「あれ、これ、誰のノート? あんたの字じゃないね」
「加地君が貸してくれたの。」
「ふ〜ん……って、加地君もテストじゃない。ノート借りちゃって、彼、困らないの?」
「だから、昼休み中に写して返そうと。もっとも、加地君は『僕は大丈夫だから、時間まで目いっぱい使って』って言ってくれたけど」
「ははあ〜、さすが文学少年は余裕だね。ところで、そんな加地君にもちろん感謝してるよね?」
「そりゃあ、してるよ〜。隣の席ってだけじゃなく、アンサンブルでも、お世話になっていること数知れず」
「じゃあ、その加地君の誕生日が、明後日だって知ってる?」
「え〜、そうなんだ〜? う〜ん、ここはお祝いしとかないと、だね」
「そうそう、こういうことは、やっぱり外しちゃダメだからね。何か、喜びそうなプレゼントでもしてあげたら」 
「プレゼント、かあ〜。ううん、どうしたらいいんだろう?」
 真剣に悩み始めた私を、励ますように天羽ちゃんは言った。
「まあまあ、そんなに難しく考えなくても、あんたがあげるプレゼントなら、加地君、何でも大喜びだって」
その時、昼休み終了のチャイムが鳴って。天羽ちゃんは、頑張って、と笑顔を残して、行ってしまった。後に残された私は、思いきり考え込んでしまった。
「……古典以上の難問だよ……」
 
というわけで、より優先順位の高い問題が発生したので、せっかくの加地君のノートもむなしく、テストはさんざんだった。
学校から帰る道すがらも、ずっと考えてみたんだけれど、やっぱり難しい。まず第一に、加地君のおうちはどうやら裕福で、なんでも持っている人であること。持ち物にこだわりがあるらしいこと。(正直に言うと、加地君の持ち物の趣味は、時々私の理解を超えるけど……)
……にもかかわらず、加地君が、私のあげる物なら、なんだって大喜びするのはわかっている……。これがまた、困るんだ。私にしてみれば、普通に受け取ってくれたら十分なのだけれど、彼の場合、とんでもなく多様で、文学的な美しい言葉が、なだれを打って、返って来そうだから……。
それが、加地君の困ったところ。彼の絶大な讃辞が向けられるのは、当初は私の魔法頼みのヴァイオリンの音色に対して、だったのに、何だかそれが私自身への過大評価へと拡大している気もするし……。
ええと、つまりファータを見てしまったにせよ、ごく平凡な女の子だという自覚のある私にとって、そういう評価を、美しい言葉で語られるのは、非常に落ち着かないというか、いたたまれないというか。あれほど空気を読むのがうまい人なのに、どうして私が困っているのがわからないんだろう。
まあ、そういう困ったところはあるにせよ、加地君が私に何くれとなく力を貸してくれ、助けてくれているのは、事実。特にアンサンブルに関しては……私のヴァイオリンに寄り添うように、彼はヴィオラを弾いてくれる。彼のカンのよさのおかげで、私の音がちょっと突き抜けてしまっても、他とのバランスが修正されるので、安心して弾くことができた。
そんな加地君に対するお礼の気持ちは、形に表さなくちゃ。いろいろ考えた挙げ句、私はお菓子を手作りすることにした。
感謝の心を込めて。食べたらなくなるから、じゃまになることもないし。そういう答えをどうにか帰り道で見つけて、帰宅したら、おあつらえ向きのナイスな食材があった。ようし、これを使って、本番までに一回試作して。(試作品は家族に食べさせたらいいし)明日はラッピング用品を買いに行こう。


で、迎えた当日。教室で、おはようのあいさつを交わした後、私は、努めてさりげなく用意したプレゼントを取り出した。
「加地君、今日、お誕生日でしょ。おめでとう、これ受け取ってくれると嬉しいんだけど」
 努めて無造作に手渡したプレゼントを見て、加地君は表情豊かな目をまん丸に開いて、私とプレゼントを見比べた。
「これ……誕生日プレゼント? 僕、もらっていいの?」
「もらっていいっていうか、もらって欲しいの」
「うわあ、夢みたいだ。君が僕のためにプレゼント用意してくれるなんて。しかも、このラッピング。もしかして、何か手作りのもの?」
 うっ……バレたか。いや、仕方ない。だって店員さんのように、うまく包めないし。
「ええと〜、まあ、そうです。口に合うかどうかわかんないけど、味が落ちないうちに、早めに食べてね」
「ほんとに、手作りなんだ? 感激だなあ。僕、もう、サンタは信じないけど、たまさかに人生に舞い降りる幸運の女神なら、信じられそうだ……」
ほうっておくと、延々と続きそうなので、ちょうど先生が教室に入って来たのをしおに、加地君の言葉なだれを押しとどめることにした。
「ほら〜、先生、来たから、はやく、それしまって! 没収されたら洒落になんないでしょ!」
私の言葉に、加地君ははっとしたように、机の中に包みを入れた。そして、私の目をまっすぐに見つめて、極上の笑みを浮かべて言った。
「ありがとう、ほんとうに嬉しいよ」
胸のあたりが、なぜかきゅっと痛んだ。……心臓に悪い笑顔だ、ほんとに。
 心臓に悪いことは、それだけでは、すまなかった。それからの数時間、私は朝一番にプレゼントを渡したことを、後悔する羽目になった。隣の席なものだから。加地君が授業中も時々そうっと机の中からプレゼントを引き出して、嬉しそうに眺めているのが、丸わかりなんだもの。
 それをやった何回目かに、たまりかねて、私は言った。
「ちょっと〜、加地君、やめなって。授業中でしょ」
 すると加地君は、臆面もなく答えた。
「だって、嬉しくて仕方ないんだよ。目の前に置いて眺めて、しあわせを噛みしめたいのを、今ありったけの自制心で我慢してるんだ」
  ……いや、だから、そんなキラキラした瞳で、語尾に音符の付きそうな勢いで言われたら、私、どうしたらいいの? ばくばく言い出した心臓から、急ピッチで送られた血液が、全身を熱くするのを感じた。……いたたまれないったら、もう……。机に突っ伏したくなったけど、気力を振り絞って、私は加地君に告げた。
「お願いだから、やめて……」
「え?」
 加地君は、心底不思議そうな顔をして、私の顔を見返した。
「普通にしてて。ね?」
 それだけ何とか言うと、私は心の落ち着きを取り戻すために、意識を教科書に集中した。加地君が、しばらくそんな私の様子を見ているのを感じたけれど、あえて彼の方を見なかった。もしかしたら、もしかしたら、悲しそうな顔をしてる……かも。そう、お気に入りのおもちゃを捨てられた子供みたいな……。一瞬思い浮かべたそんな表情が、ほんとに加地君の顔に浮かんでいたら、と思うと、怖くて見られなかった。
 そんなわけで、昼休みになると、私は友達を誘って、とっととカフェテリアへと退散した。5、6時限目が、選択制の芸術の授業で、隣に座っていなくてすむのが、ほんとうにありがたいと思った。


 翌日、加地君から「感謝感激雨あられ」的な言葉が浴びせられるのを、私は覚悟していた。(いや、彼の口から出てくる言葉は、もっと文学的で、そんな陳腐なものじゃないんだけど。私の国語力では、そうとしか言えない)
ところが加地君は、にこやかに朝の挨拶をし、さらっと「昨日はありがとう」と言っただけだったので、な〜んだ、と拍子抜けしてしまった。でも、そう、これが私の望んだ”普通”の状態なんだから、ほっとするはず……なんだけど。心にふうっと冷たい風が吹くようなこの感じは何なんだろう。
もしかして……寂しい? そんな……勝手にもほどがあるっての! そう自分に言い聞かせ、ブルーに傾きかけた気持ちを、立て直した。
 加地君が普通にしてくれるなら、自分でもよくわからない感情の波が起こらなくて、結構じゃない。上がったり、下がったり、そんなのには慣れていない。理事長就任式のコンサートまで、もうあんまり日がないんだし、落ち着いて集中して、アンサンブルの完成度を上げていかなくちゃ。
 と、こんな風に、気持ちを切り替えた私だったけど、後に自分の甘さを思い知らされることになった。私の心穏やかな日々は、どこへ行ってしまったんだろう。そう思わせられる、小さな、でもキツイできごとが起こったのは、加地君に誕生日プレゼントを渡した四日後のことだった。
 放課後、練習室に向かって歩き出した時、廊下の先を歩いていく加地君の後ろ姿を見つけた。一緒に練習しようって誘おうかな。そう思って、後を追っていたら、加地君のまっすぐな背中の後ろに、ぱさりと落ちた物があった。それに気づく気配もなく、どんどん前を進んでいくので、私は慌ててその落ちた物を拾い上げ、加地君に追いついた。
「加地君、これ、生徒手帳、落としたよ」
「え? ああ、ありがとう、日野さん」
 振り向いた加地君に手渡そうとした時、ちょっと距離を測り損ねて、また生徒手帳を落としてしまった。
「ああ、ごめん」
 言いながら、拾おうとした時、生徒手帳のページの間から、床の上にばらけた物に、私は見覚えがあった。
「加地君、これ、もしかして……」
 加地君は、すっと手を伸ばして、生徒手帳を自分で拾うと、大切そうにそれを挟み直し、にっこりして言った。
「うん、そうだよ。君がこの間、プレゼントに添えてくれたカード」
「やっぱり、どうりで見覚えが……じゃなくて! なんで生徒手帳に挟んでるの?」
「だって、君が初めて僕にくれたカードだもの。いつでも見たい時に、見られるようにしたいじゃない」
 無邪気に言いながら、加地君は胸ポケットにそれを収めた。
「いつも、ここにね……」
 うう……そんな大切そうに、撫でないで……。私はどんなリアクションを取ればいいの? 固まってしまった私を覗き込んで、加地君はだめ押しをした。
「ダメ? こんな風にしちゃ?」
 だから、お願い……そんな切なそうな顔しないでってば。ダメなんて言えるわけないじゃない。
「いや……ダメってことはないけど」
 すると、加地君はぱあっと花が咲いたみたいに笑った。
「あ、よかった〜。じゃあ、ずっと大事にさせてね? 君からのプレゼント、ほんとに嬉しくって、写真も撮っちゃった」
「しゃ、写真?」
「うん、ほら、これ〜」
 言いながら、加地君は携帯電話を取り出し、ぱぱっとボタンを押して、写真データの画面を出した。そこには……私があげたプレゼントの開封前、開封後、そして中身のスイートポテトがお皿に載っている状態が、段階を踏んで写されていた。
 う〜ん、やっぱり包装は素人くさいし、スイートポテトは、もう少し焦げ目を付けた方がよかったかも。
 と、それを見て、一瞬自分のした作業を冷静に反省してしまった……けど、問題はそこじゃなくて!
「加地君、お願いだから……」
「ん? 何?」
「恥ずかしいから、今すぐこんな写真、消して〜〜〜!!」
「え〜、せっかくの記念なのに〜」
「ダメったら、ダメ!!」
「だって、17歳に初めて日野さんからもらったプレゼントなんだよ? いつまでも思い出を留めておきたいじゃない」
「お、思い出は胸だけに留めておいて〜〜」
「う〜ん、そうか。じゃあ、胸の中の特等席にしまっておくね」
「そ、そう胸の中にしまっといて! んで、今、私の目の前でその写真は消して!」
「ふう〜、そこまで言うなら仕方ないね」
 加地君は、渋々写真を消去した。名残惜しそうなその様子を眺めているうちに、私の頭にふとある考えがひらめいた。
「ねえ、もしかして、あのスイートポテト、まだ食べてないとか言わないよね?」
 すると加地君は、携帯の画面から目を上げて、にこにこしながら言った。
「食べてるよ〜、いっぺんに食べるともったいないから、観賞しながら、味わいながら、少しずつ」
 私の中で何かがぶちキレた。
「観賞って……あげてから何日経つのよ? スイートポテトは、見る物じゃなくて、食べる物でしょ! 味が落ちるじゃない! 田舎のおじいちゃんが畑で丹精して育てたお芋で作ったのに! おいしく食べてくれなきゃダメじゃない!」
 私の剣幕に、加地君は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。そして、たちまち眉を寄せて、悲しそうなすまなさそうな表情になった。
「ごめん、日野さん。僕が間違ってた。君からプレゼントをもらえるなんて、そんなしあわせなことは、もう二度とないような気がして……。だって、君、僕が嬉しがったら、困るみたいな感じだったし。だから、大事に大事に、二度とないしあわせを味わおうって思ってたんだけど、それってかえって、君の気持ちを受け取り損ねてたんだね。ほんとうに、ごめん!」
 ぺこんと頭を下げられて。私は思わず、はあ〜っとため息をついた。
「……もういいよ、わかってくれたんなら」
「ほんとに、許してくれる?」
「うん。それに何だったら、来年も再来年もプレゼントあげるから、そんなにオーバーに考えないで、ね?」
「来年も、再来年も……」
加地君は嬉しそうに繰り返したけれど、語尾を途切らせ、ふっと視線を宙にさまよわせた。
 ど、どおしたの? 今度はそんな泣き笑い……みたいな……。
「ねえ、日野さん。それは違うでしょう」
「え、ええ、違うって?」
「……君はやさしいから、僕を喜ばせようとする……。けどね、僕は……たぶん、来年も再来年も、君の傍にいられる資格があるかどうかわからない」
「……ごめん。わかるように、言ってくれる? 資格って何?」
加地君は一瞬私を見たけど、また目を伏せてしまった。
「君は……間違いなくミューズに愛されてる人だ。その証拠に、普通ならとうてい乗り越えられないような壁を、その才能と努力で乗り越えて、前に進んで来た。そして、これからも、きっと、ぐんぐん羽ばたいていく人だよ。……僕がどれだけあがいてもついていけないほどに。だから、先の約束なんかしてくれなくていいんだよ。僕は、今、こうして君の傍にいられるだけで……過ぎるほどにしあわせなんだから」
……どう答えるべきか、私は全力で考えていた。理性と言葉で、何とかこの局面を乗り切ろうと。けど……何にでも限界ってものがあるよね。感情が……ついに限界を超えた。
トン! 思い切り踏み鳴らした床が小気味いい音を立てた。加地君の肩がびくりと跳ねた。目を逸らさせないよう、私は加地君の正面に陣取った。
「日……日野さん?」
「今から言うこと、目を逸らさないで、耳の穴かっぽじって、よく聞きなさいよ? どうして”今”だけって決めつけるの? 先のことはわからない。でも、わからないからこそ、手を打ったり、努力したりできるんじゃないの。……私は、私はね、加地君に来年も再来年も、傍にいてほしいと思ってる。だから、たとえあなたがしなくても、傍にいてくれるよう、努力するわよ? い〜い?」
 一気に言った。息が上がって……目に涙が滲んできた。
「……よくも、よくも、こんなことを言わせたわね! もう、知らない!」
  踵を返して、その場を去ろうとした時、加地君の手が私をつかんだ。
「待って、日野さん」
「……」
「ご、ごめん。君がそんな風に思ってくれてるなんて、思いもしなかった」
「……」
「僕は……」
  言葉が途切れた。
「僕は……?」
  加地君の方を見ずに、聞き返した。
「僕も君の傍にいたい」
  はあ〜〜。思い切りため息が出た。……それにしても、言うつもりのなかった言葉まで、口をついて出ちゃった。ていうか……これが多分本音なんだよね。加地君の方を振り返ってみたら、泣くのを我慢するように唇をきゅっと結んでいた。まったく……しょうがない人。一息吸ってから、ゆっくりと確かめた。
「……なら、私を捕まえとくよう、努力することね」
「はい……」
「スイートポテトは、家に帰ったら、速攻で食べてね」
「はい……」
「……じゃあ、いいわ」 
 この一言を言った途端、肩の力がどっと抜けた。びりびりした空気がほどけた。加地君は、私からちょっと顔を背けた。涙を指で拭ったんだと思う。 
……それにしても、疲れた。見た目すっきり、頭脳も明晰、人づきあいもスマートなこの人が、これほどとんでもないヤツだなんて、クラスの何人が知ってるだろう。これからもきっと、傍にいたら、ずっとこんな風に怒ったり、泣いたり、心がかき乱されるんだろうな。
先が思いやられる反面、私の心はもう答えを出していた。これも、もしかしたらファータを見たことから巻き込まれた運命のうちかな、と。
 平々凡々だった高校生活に、突然入り込んで来た音楽。それからいろんな出会いがあって。息つく間もなく、次々と乗り越えるべき壁が立ちはだかって。 ……それでも、ヴァイオリンはいつも私の努力にこたえ、壁を乗り越えさせてくれた。加地君も、きっと、ファータが引っ張ってきたそんな運命の一部、だよね。
 そう思うと、心の底から熱いものが湧いてきた。
「よし、これから、練習に付き合ってくれる?」
 加地君は、目を上げて私を見つめ、にっこり笑って言った。
「もちろんだよ。僕が、君の役に立てるのなら、何だってするよ」
 心強い言葉。加地君のヴィオラの音色は、いつだって私を支えてくれる。だから……今度も、きっと頑張れる。だって、ヴァイオリンだけじゃなく、サポートしてくれる味方がいるんだもの。

 
そして、数年後、私は知るのだ。加地君が、初めてあげたあのプレゼントの写真を、メモリーカードにも保存していたことを。そして、それから毎年あげたプレゼントも、すべてきっちりがっつり写真に収めていたことを。
 ……ファータが呼び寄せたのは、もしかしたら”おんぶおばけ”だったのかも……。妖精も妖怪も、洋の東西を問わず人を翻弄することにかけては、どっこいどっこいだと、世間一般にはとうてい理解してもらえない事実を思い知る日々。
 ずっと変わらず傍にいて、時に私を支え、時に私の心をかき乱す"おんぶおばけ”には、言いたいけど、言いたくない……。「好き」という私の気持ち……。

                             (終わり)
 


昔懐かしい”おんぶおばけ”は、なかなか可愛かったですね。
いや、そうじゃなく! ゲームよりいささか恋愛段階(?)が進んでしまいました^^; でも、私(だけ)は、かなりすっきりしました。
地日では、他のアプローチもあるかな〜と考えていますが、また機会がありましたら。どっちにせよ、イタイです、きっと……。
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おんぶおばけというか…
子泣きじじいですね。
一度おぶると、だんだん(愛が)重くなる(笑)
改稿作は、泣き落とし入った加地にくらべて、香穂さんの男前度がアップしていて萌えました。
「私を捕まえとくよう、努力することね」なんて、プロポーズにしか思えないのですが!!!
素敵に笑える地日をどうもありがとううございました!

あ、話は変わりますが、そういえばこないだゴーショーグンネタに反応するの忘れてました。懐かしかったです。ロボットに薔薇。いったいどこから出したんだ!?と突っ込んだ記憶が。BGMのクラシックもエヴァよりもずっと前に取り入れていた、ある意味画期的なアニメだったと思います。あれだけ好きだったのに、もうほとんど筋を忘れてしまったので、もっかい見たいです~

ではでは
ちどり 2007/11/19(Mon)17:22:00 編集
エ、エスパーか!?
実は最初「きれいな顔をした子泣きじじい」としておりました。
でも、それではあんまりかな〜と仏心を出して”おんぶおばけ”に。
お見それ致しました〜。

>「私を捕まえとくよう、努力することね」なんて、プロポーズにしか思えないのですが!!!
香穂子さん、勢いで口が滑っちゃったんですよ、きっと。
口は災いの元です(爆)

「ゴーショーグン」に反応して下さって、嬉しいです。
実は私も、レミー島田とブンドル将軍のほのかなロマンスが
あったぐらいしか、物語はもう覚えていないのですが、
オープニングとエンディングは、しっかり歌えます。
ブンドル将軍を演じられた塩沢さんも、北条真吾を演じられた
鈴置さんも、すでに泉下の人になられました。残念なことです。



【2007/11/19 20:11】
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