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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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お誕生祝い第二弾〜。
「VD2011」に提出したものです。
スナさんが、思いがけず、きらっきらのイメージイラストを描いて下さって、
大喜び。太っ腹にも、その素敵イラストを、下さったので、同時にアップ
させて頂きますv

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「一粒の想い」


 分厚い本を、持ち運びのできる分だけ、ランディは積み重ねた。
「よいしょっと。この作業にも、結構慣れてきたな。前より、一度に運べる数が増えたし」
 一度、どれだけ持ち上げられるか、限界に挑戦してみようか。そんな考えが、ちらと頭をかすめたが、他人の大切な蔵書を、もし傷つけでもしたら、申し訳ないと、思い直した。
(それにしても、今に始まったことじゃないけど、すごい数だよな)
 そこそこ広い部屋のあちらこちらに、本が、さながら地層のように積み重なっている現状を見渡して、苦笑した。
 新しい書庫が要るはずだと、納得しつつ、先ほど作った本の束を持ち上げようとした時。
「あ〜、ランディ、助かりますよ」
 これら膨大な本の持ち主が姿を現した。
「お茶の用意ができましたよ。一息入れませんか〜」
「あ、ありがとうございます、ルヴァ様」 
 本だらけの部屋から、ルヴァの執務室に移動する。そこもまた、本だらけなのだが、さすがに整理がなされているのと、執務机の他に、来客用の小卓がしつらえられている点が違っていた。
 小卓の上には、ルヴァが好む緑茶の茶器が、二人分セットされていた。椅子に掛けると、ルヴァが慣れた手つきで、急須から茶を注ぎ、すすめてくれた。
「さ、どうぞ〜」
「いただきます」
 ランディが、日頃飲み付けている飲み物といえば、コーラか、運動の後の水分補給に、がぶ飲みするスポーツドリンクの類いだったが。ルヴァの穏やかな笑みに見守られながら、熱いお茶を少しずつ啜るのも、悪くないと思えた。
「今日は、いいお茶請けが、手に入ったんですよ〜」
 にこにこしながら、ルヴァが差し出したガラスの器の中には、白やピンク、オレンジなど、淡い色をした、小さな粒状のお菓子が入っていた。
「何ですか、これ?」
 初めて見るものだったが、色や小さな突起が出ている形が可愛らしい。手に取って見ると、硬かった。
「金平糖というものです。砂糖でできてるんですよ〜」
「へえ〜」
 すすめられるままに、口に含んでみると、やさしい甘味がした。ぽりぽりと噛めば、イチゴの香りが広がった。
「あ、これ、もしかして、色によって、味が違うんですか?」
「そうですよ〜」
「あ、やっぱり。じゃあ、こっちの黄色いのは何の味かな? おいしいなあ」
「職人さんの手作りですからね。この小さな粒を、二週間かけて作るんですよ〜」
「えっ、ほんとですか?」
「ええ。大きなフライパンみたいな釜に、核になるけし粒を入れて、少量ずつ蜜をかけては、かき混ぜる工程を、何度も繰り返すうちに、突起ができて、少しずつ大きくなっていくんだそうです。職人さんが、粒を育てるような感じでね」
「天候や気温によって、出来具合が変わってくるので、火力や蜜をかける量を調節する必要があるのですが。それを見極めるのが、また長年培われた経験と技術なんですね〜」と、ルヴァは、金平糖を手のひらに転がして、微笑んだ。
 その笑顔と、ほの甘い金平糖の味は、あたたかく少年の心に染みた。
 

 それから作業を再開し、忙しく数時間は過ぎた。夕刻「手伝ってくれたお礼に」と手渡された一袋の金平糖を携えて、ランディは帰路についた。
「……こんな小さなお菓子を作るために、毎日熱い釜の前に立ってる人がいるんだなあ」
 袋から、一粒取り出して、目の前にかざしてみた。
「星みたいだ……」
 かざした先、薄く闇のベールをまとい始めた天空には、ほんものの星が、一つ、また一つと輝き始めていた。その光は、ランディに、ある人物のことを思い出させた。
(そう、いつかの夕方、こんな風に、増えていく星を見ながら、君を送って行ったっけ……)
 “もう遅いから、早く送り届けなくちゃ”
 “楽しい時間が終わらなければいいのに”
 正反対の気持ちが、せめぎあっていた、あの時。胸の中に、小さな小さな何かが生まれたのだろう。……今も、胸の奥に、確かにそれがあるのを、感ずるから。
(でも……今は、まだダメだな)
 ランディは、ゆっくりと首を振った。
(まだ、君には……)
 時間を掛けたいと思った。
 日々、彼女の笑顔を見るたび、声を聞くたび、胸は熱くなるけれど。
(……そうだな。いつか、この金平糖みたいに、小さくても確かな形になったなら……)
(君に、一粒の想いをあげたい……。そうしたら、君は、受け取ってくれる、かな?)
 と、ここまで思いを馳せたところで、ランディは、一人、赤面した。
(うわ〜〜、何、考えてんだろ、俺!?)
 袋から手のひらに、金平糖をざっと振り出すと、口の中に放り込む。
(職人のなせる技なんだ、コレは。俺のような未熟者が、そんな、どうこう……)
 かりこりと噛み締めながら、自分に言い聞かせるうちに、駆け上って来た熱と甘さで、頭がぐらぐらして来た。
(ダメだ、ダメだ、こんなだから、ダメなんだ〜〜っ!)
 幸いにも、夜の色は、次第に濃くなり……。染まった頬も、動揺も、すべてを押し隠してくれるようだった。夜空で光を増しつつある星だけが、その高鳴りと、戸惑いをそっと見下ろしていた。


 翌朝、何とも冴えない気分で、ランディは、聖殿の回廊を歩いていた。
(あ〜あ、もったいないことしたなあ……)
 後悔ばかりがわき上がってくるが、誰のせいでもない、自分のせいなのだから、どうしようもなかった。
 昨日ルヴァがくれた金平糖が、わざわざ取り寄せた、かなり貴重なものだということは、ランディにも見当がついた。星の形をして、一色ごとに味が違って。眺めるだけでも楽しかったのに。
 処理できない気持ちに任せて、ろくに味わうこともせずに、袋の中のほとんどの粒を、食べてしまった。
(もっと、大事に食べればよかったなあ……)
 残念に思うと同時に、昨夜の自分の行動が、悔やまれてならない。そんなわけで、いつになく元気のない足取りで歩いていた彼を、後ろから呼ぶ者があった。
「あ〜、ランディ」
 振り返ると、そこには、いつも通り穏やかな笑みを浮かべたルヴァがいた。
「あ……おはようございます、ルヴァ様」
「はい、おはようございます。おや〜? 何だか元気がないように見えますが、からだの具合でも悪いんですか?」
「そ、そんなことはないです」
「そうですか〜、ほんとに?」
 ルヴァは、気遣わしげに、眉をひそめたが。まさか金平糖を一気に食べてしまったがために、落ち込んでいる、などと、貰った本人に言えるはずもない。
「なんでもないです、ほんとに……」
 問われて困っているという風情が、つい顔に出てしまった。すると、遠慮深いルヴァは、それ以上追及するのをやめて、話題を切り替えた。
「それならいいんですが……。あ〜、そうそう、もし、よかったら、都合のいい時に、私の執務室に寄ってもらえますか?」
「あ、はい。わかりました」
 ランディがうなずくと、ルヴァは、ほっとしたように笑って、実に楽しげに言った。
「そうですか! いえね、昨日、あなたがおいしそうに金平糖を食べているのを見て、私もまた食べたくなっちゃって。お店の出してるネットワーク情報を調べてみたんですよ。そうしたら、季節限定のものとか、いろんな種類の金平糖があるじゃないですか。あなたと一緒に、どれを注文するか、選ぼうと思って……。って、ランディ? どうしたんですか?」
 うつむいて、肩を震わせるランディ。ルヴァは心配して、そっとその肩に手を掛けた。
「やっぱり、からだの調子が……」
「違いますっ!!」
「え、ええ〜〜っ??」
 突然がばっと顔を上げたランディに、手を掴まれて、上下にぶんぶん振られて、ルヴァは目を白黒させた。
「ルヴァ様っ! ありがとうございますっ! 俺、もうずっと、ルヴァ様についていきますっ!」
「は、はあ〜。それは、どうも」
 ランディの言葉の背景を知る由もなかったが。すっかりいつもの勢いを取り戻した様子を見て取って、ルヴァはにっこりした。
「よくわかりませんが、いつものランディに戻ったようですね? よかったです。では、また、後で寄って下さい」
「はい! うかがいます!」
「うんうん、楽しみにしてますよ〜」
 ぺこりと頭を下げたランディに、あたたかいまなざしを向けると、ルヴァは自分の執務室に向かって、歩み去って行った。
 その背を見送り、ランディは、しゃきっと背筋を伸ばした。
「よおし、金平糖のために、俺も、今日一日、頑張るぞ〜〜!」
 気合い十分。足取りも軽く、執務室へ向かう彼の顔には、もはや一片の憂いもなく。
 どうやら、一粒の想いを育てて、意中の人に贈る日は、まだまだ遠く、先のことになりそうだった。

                              (終わり)


        



「ランエン小話」に、拍手パチパチ、ありがとうございましたv
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