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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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お誕生祝い第一弾。
「アンジェおさわり切望同盟」に提出したものです。
”触りたい部分”がテーマで、私が頂いたお題は「頣(おとがい)」
でした。

拍手


「閉じこめたい」


「そう、この本なんか面白いよ」
 私の隣でランディ様は、書架に手を伸ばした。
リヴル・バランスの書棚は、 見上げるほどに高くて、ぎっしり本が並んでいる。ランディ様が、贈り物の園 の中でも、特にこの店がお気に入りだと知った時、ちょっとびっくりした。
「シリーズ物でね、俺、新刊が出るの、楽しみにしてるんだ」
  取り出した本を、私に広げてみせてくれる。その様子は、心底楽しそうで、 どこから見てもアウトドア派のこの方が、ほんとうに本が好きなことが伝わってくる。
「あ、あの上の方の棚にあるの、探してたヤツだ。ちょっと、ごめん」
 そう言い置くと、ランディ様はその場を離れて、はしごを取りに行った。書 架に立てかけ、するすると登っていく様を見ると、趣味の一つだというロック クライミングも、こんな風にやってるのかなあと、思う。
 でも……。
 言えない思いに胸が疼く。
 でも……私を置いて、あまり高みに登 らないで。 零れ出しそうな言葉を、飲み下した。
 いいえ、そうじゃない。ほん とうはわかっている。ランディ様は、元々高みにいる方で、ほんとうならただ の女の子の私が、こんな風に傍にいられるわけがないってこと……。
  それでも私たちは、肩を並べて歩き、屈託なく笑って、一緒にカプリコン広 場でハンバーガーを食べたりもした。
 そうしてランディ様と時間を過ごすたびに、その時だけでも私は意識的に忘 れるようにした。ランディ様が守護聖様で、ただのひとじゃないってことを。

「ようし、見つけたよ」
 本を片手にランディ様が、危なげなくはしごから降りて来た。見上げるほど の高みから、私の元へ。
 とんっと床に降り立つと、いつも通りの目線。私より 頭一つ分高い辺りから、明るいスカイブルーの目が、私に笑いかける。
「今日は、これを買って帰るよ。夜読むのが、楽しみだなあ。ああ、でも、夢 中になって、夜更かししないようにしないとね」
 白い歯がこぼれる口元に見とれ、そこから顎、そして首の線を目でなぞって みる。  そうして気づいた。私の背丈って、ちょうどランディ様の頤に届くか届かな いぐらい。ということは、もしも、もしもよ? そっと身を寄せたなら、私の からだは、ランディ様の頤の下に、ぴったり納まるかもしれない、パズルのピ ースがはまるみたいに。
 その場所は、きっとあたたかくて居心地がいいに違いない。

「どうしたんだい? さっきから黙っちゃって。あ、ごめん、俺本にばかり気 を取られて、君を退屈させちゃったかな?」
 ランディ様が、すまなさそうに、私の顔を覗き込む。いいえ、そうじゃない。 私が、あなたといて退屈なんて、するわけがない。
 そう口に出して言おうとした時、足先にコン、コンと何かが続けざまに当た った。あれ? と思った次の瞬間、私はその何かを踏んづけ、そしたら、それ が足の下できゅるっと転がって、思い切り前につんのめってしまった。
「エンジュ、危ない!」
 ランディ様の声が響くと同時に、腕が伸びて来て……。私は、さっき思い描 いた居心地のいい場所に、抱きとめられていた。
 あたたかい腕、あたたかい胸。そして、私の頭のてっぺんが、ランディ様の 頤に触れている。ランディ様が息を呑むのが、わかった。胸に寄せた頬からは、 鼓動が速まるのが、伝わって来た。
 すっぽり納まった腕の中。私は触れた場所全部で、ランディ様の体温を感じ ていた。しなやかな筋肉が、私をしっかりと受け止めて。
 でも、ほわりとあたたかい。

 その場所は、想像した以上に居心地がよくて、ずっとそうしていたか ったけれど、ランディ様は小さく息を吐くと、私の肩をそっと押して離した。
「大丈夫、エンジュ? ああ、これのせいだね」
 床に目を落とすと、色とりどりのビー玉が転がっていた。
「どうも、すみません!」
 声のした方を見ると、小さな男の子と、そのお母さんらしい女の人が、少し 離れたところから、こちらに近づいてくるところだった。
「ウチの子がビー玉をばらけさせてしまって。お怪我はありませんでした か?」 _「いえ、大丈夫です。きれいなビー玉ですね」
「ええ。すっかり気に入って、手に持っていたんですけど、うっかり袋を落と してしまったんです」
 ぺこぺこ頭を下げながら、お母さんはビー玉を拾い始めた。私が腰をかがめ て手伝い始めると、ランディ様も「俺も手伝うよ」とにっこりした。
「はい、これで全部かな?」
 ランディ様が集めたビー玉を男の子の袋の中に入れてあげた。
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
 男の子は、しっかりと袋の口を手で握って、しばらく考える風をした。そして 慎重に袋の口を開けた。
「あげる」
 小さな手のひらに、ビー玉を二つ乗せて、私たちに差し出した。
「くれるの? でも、ぼうやの宝物なんでしょう? 大事に取って置いたらいいよ」
「そうだな。俺もそう思うよ」
 私とランディ様は、代わる代わる言ってみた。すると男の子は、ぶんぶん首 を振った。
「でも、あげる」
 私たちは、思わず顔を見合わせた。ランディ様が、小さく肯いた。私 も肯き返し、男の子の手のひらに手を伸ばした。
「じゃあ、もらっておくね。ありがとう」
「ありがとな」
 順番に男の子の手からビー玉を取ると、男の子は私たちを見上げて、嬉しそ うに笑った。そうして、何度も頭を下げるお母さんに手を引かれて、行ってし まった。「ばいばい〜」と元気よく手を振って。

 私の手には、海の泡みたいな青いビー玉が残った。
「いい物、もらっちゃったね」
 ランディ様は、自分の手のひらに、鈍く光る緑色のビー玉を転がして眺めて いる。
「これも、君と過ごした今日の思い出のひとつ、だね」
「そうですね」
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「はい、ランディ様」
 私はビー玉をポケットにしまった。このビー玉に、ランディ様のぬくもりを 感じたあの瞬間を、閉じこめられたらいい。そんな思いで、そっとポケットの 中で握りしめていた。
「次はどこへ行こうか?」
 ズボンのポケットに手を入れたまま、振り向くランディ様の目も、思いを映 して青い、青い、海の色……。                                        
                           (終わり)






ランディの本好き設定が出て来たのは、確かトロワ辺りからだったと
思います。エトワのプレイ中、幾度となく「リヴル・バランス」に
行ったのは、言うまでもありません^^
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