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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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お誕生祝い、第三弾です。

やっと終わた〜〜。

何か、無用に長くなってしまったのですが、
私なりのランディのイメージは書けたかなと
思います。
内容的には。ランディ×エンジュというより、
エンジュ×ランディかもw


これをもって、今年のランディお誕生祝いは、
終了と致します。
残念ながら、周りにあんまりランディ・ファンいないんで、
自己満足そのものなんですけど。
楽しんで頂いた方がいたらいいな^^

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「君に言える日のために」
 

 あまり多くのことはできないと、思っていた。自分の中に、確かに風のサクリアが存在するのを感じるけれど、それをどのように使うのがいいのか、正しい判断ができる自信がない。だから、首座である光の守護聖をはじめ、年長の守護聖たちに、相談という形で、頼ることになる。無論、それは間違ったことではない。宇宙に於けるサクリアの調和は、生きとし生けるものすべてに関わる。判断を誤れば、大きな災厄さえ、引き起こしかねない。だからこそ、未熟な自分は、経験を積んだ守護聖たちに、判断を仰がなければならないし、指示に従うべき、と理解はしている。
(けど……)
 ランディは、考える。
(けど、いつまでも、頼ってばかりってわけにはいかないよな)
 年長の守護聖たちは、ランディが、少ない経験の中から出す意見や提案にも、耳を傾けてくれる。「それは違う」と諭されたりはするが、若輩の言うことだからと、聞き流されてしまうようなことはなかった。
 それでも、納得できない時もある。「それは違う」はランディの中にも、確かにあるからだ。
 「なぜ?」
 「それで、ほんとうにいいのか?」
 口に出す場合もあれば、ぐっと飲み込む場合もある。抱いた疑問は、心の隅にメモしておく。やらねばならない、手掛けねばならない事柄は、日々発生するし、まず目の前のことに対処せねばならないから、過ぎた事例の中で感じた疑問を始終意識するわけではない。
 けれど、時折、一人の時間ができた時など、胸に刻んでおいた疑問が、思い起こされる。治らない傷口のように、痛みと苛立ちを伴って。
 そんな時は、ゼフェルの気持ちが、少しわかる気がする。彼には、納得できないことが、多すぎるのだろう、と。
 疑問は、ずっと疑問のままであることもあれば、後々答えが見えて来ることもある。考え、動き、また考える。その繰り返しの中で、自分なりの答えを見つけてゆく。それが経験というものなのだろう。
(けど、もう少し、役に立つ提案ができるようにならないとな)
 そのために、以前は苦手だった読書も、心がけるようになった。知識が少しずつ増えるにつれ、世界の広がりや複雑さを感じて、“まだまだ”という思いは、かえって強くなった。
「俺って、結局、まだまだひよっこですよね」
 誰にともなく洩らしたつぶやきを、拾ってくれたのは、オリヴィエだった。
「ねえ、ランディ、何も焦ることはないんだよ。あんたには、あんたのいいところが、あるんだしさ」
 気遣ってくれるのは、ありがたかったが、自分の“いいところ”というのが、今一つよくわからなかった。
「俺のいいところって、何なんでしょう?」
 すると「そういう、計算も裏もない、どストレートなところ」という答えが返ってきた。
 どうも、あまり褒められている気がしなかったが、自分と違って、直球以外に、様々な隠し球を持っているオリヴィエに、それ以上聞いても、煙に巻かれてしまいそうだった。
 複雑な表情を浮かべるランディに、オリヴィエはくすりと笑みをこぼすと、「まあ、ほどほどに頑張んな」
 肩をぽんと叩いて、行ってしまった。
(ほどほどって、どのぐらいなんだろう?)
 これまた、量りかねたが、考えても答えは出そうになかった。だが、迷いながらでも、前に進むしかない。そして“前へ進む勇気”こそ、ランディがこの宇宙にもたらせるものであり、求められている力なのだった。


 エンジュに出会ったのは、そんな風に、自分の使命や力について、模索しているさなかだった。お下げ髪の似合う、澄んだ瞳の彼女に「ランディ様、風のサクリアをどうぞお授け下さい」と望まれる時、「どうしたら、いいでしょうか?」と相談を持ちかけられる時、そんな迷いは見せられないと、感じた。彼女に託したいと願えば、サクリアは自然にからだからあふれ、宝玉のように、彼女のブローチに封じられた。
「ランディ様、ありがとうございました」
「頑張れよ、俺、いつでも応援しているよ!」
 封じられたサクリアを抱いて、星の海を巡ってゆくエンジュに、いつも励ましの言葉をかけた。
「はい、頑張ります!」と、いつも大きく頷く彼女が、執務室を立ち去る時に、ほんの少しためらいを見せるようになったのは、いつの日からだったか。
「どうしたの? まだ、何か用事があるのかな?」
 聞いてみると、はっとしたように顔を上げ、首を振る。
「いいえ! ……何でもないんです。失礼します」
「ああ、気をつけて帰ってくれよな」
 そんなことが、何度か重なって。ある日、ランディは、一通のメールを、エンジュから受け取った。
『週末、セレスティアへご一緒しませんか』
 内容を確認して、まず頭をよぎったのは、(何で、俺?)という思いだった。これまで経験した女王試験を通して、守護聖の力をよく働かせるために、女王候補と交流し、お互いの理解を深めることの重要性は、理解していた。そうして言葉を交わし、ともに宇宙の未来を考えた女王候補たちは、今やそれぞれの宇宙で、女王と、その補佐官になっている。
(女の子って、急に変わるんだよな)
 さなぎから、蝶が羽化するように、鮮やかな成長を遂げた彼女たちの姿は、ランディの胸に、強い印象を残している。
 エンジュは女王候補ではないが、宇宙の発展に関わる特別な使命を帯びた少女である。その使命を果たす力を、きっとこれから大きく開花させるに違いない。
(やっぱり、彼女も突然立派になっちゃうんだろうな……)
 何だか寂しいような思いがよぎったが、それはともかくとして、聖獣の宇宙で、ユーイという新たな風の守護聖が見つかっている今、自分より彼と交流を深める方が、効果的では? と思えた。
 『俺より、ユーイを誘えば?』と返信しようとして、でも、もしかしたら、守護聖になりたてのユーイでは、対応がおぼつかない相談があるのかもしれないと、考え直した。それ以前に、単純に、エンジュが息抜きをしたいというのなら、日頃頑張っている彼女を楽しませてあげたい、とも。
(何で、俺?)の答えは、結局出なかったが。快活で、笑顔の愛らしいエンジュと、休日を過ごすのは、なかなか魅力的ではあった。そうしてランディは、OKの返事を出したのだった。


 予想通り、楽しい一日になった。活発なエンジュは、明るい笑い声を立てて、生き生きと動き回り、傍にいて飽きなかった。日も暮れて来た頃に「楽しかったね。そろそろ船まで送るよ」と告げると、彼女は寂しげな表情を浮かべた。
 別れがたい気持ちは、ランディも同じだったが、あまり遅くまで引っ張り回しては、翌日に響く。だが、エンジュの沈んだ様子は、ランディの心を揺らした。
「少し遠回りして、あっちの静かな小径を、通って行こう」
 口に出してから、ちょっとまずかったかなと、思った。夜に向けて、ライトアップしてゆく、にぎやかなセレスティアの風景を眺めながら、楽しい気持ちいっぱいで帰る方が、エンジュはよかったかもしれない、と。
 だが、エンジュは、こっくりと頷いた。
「はい、ランディ様」
 夜風にざわめく木々の葉ずれを聞きながら、ゆっくりと歩いた。日はすでにとっぷりと暮れて、早く送り届けなければならないと思う反面、足を急がせる気にはなれなかった。
 木立を抜ける小径の出口が見えて来たところで、ランディは足を止めた。
「今日は、ありがとう。楽しかったよ」
 感謝を伝えると、エンジュは首を振って、微笑んだ。
「いいえ、私こそ、ほんとうに楽しかったんです……」
 語尾が小さくなるとともに、エンジュの顔に、憂いが浮かんだ。日頃の快活さに似ないそんな表情を、ランディは、これまでも、時々目にして来た。
「エンジュ? どうしたの?」
 そう問い返せば、彼女は「いいえ、何でもありません」と笑顔で答えるのが常だった。だが、今日は少し違っていた。エンジュは、澄んだ瞳を、まっすぐにランディに当てた。
「私……まだ帰りたくない。ランディ様と一緒にいたいんです」
 思いもよらぬ答えに、ランディの心臓は、跳ね上がった。
(えええ? いや、それは、マズイんじゃないか……)
 思いっきり動揺していることを、悟られないよう、少し顔を背けながら、何とか平静に言葉を押し出した。。
「それは、ちょっと違うんじゃないかな……」
 するとエンジュは、睫毛を伏せて、小さく頷いた。
「……そうですよね。ワガママ言って、すみません」
(ああ、また……)
 悲しそうな顔……。ランディの胸も、きゅっと痛んだ。
(どうして彼女は、時々こんな……?)
 そう思いながらも、頭の中で、忙しく掛けるべき言葉を探す。
「今日は、もう終わりだけど、また一緒に出掛けよう? 今度は、俺からメールするよ」
 その一言が、あっという間に空気を塗り替えた。
「はい、ランディ様」
 花がほころぶような笑顔を見て、ランディは、心底ほっとした。
「じゃあ、行こうか」
 ゆっくりと歩を踏み出す二人を、森が吐き出す夜の空気が、押し包んでいた。


  じょうろの先から、水は弧を描いて、葉を広げる緑へと、降り注ぐ。上機嫌で、鉢植えの花に水をやっているマルセルの背を眺めながら、ランディは浮かない顔をしている。彼の前のテーブルには、お茶と、マルセルのお手製のクッキーが供されているが、手がつけられないままになっていた。
「どうしたの、ランディ?」
 水やりをすませたマルセルが、テーブルを挟んで、向かい合った椅子に掛けながら、問うた。
「さっきから、ぼ〜っとして。あれ? お茶、飲んでないの? お菓子も食べないなんて! 具合でも悪いの?」
 思いっきり心配顔になったマルセルに対して、(俺がお菓子を食べないって、そんなに不思議なのか)と、いささか微妙な気分になったランディだったが、首を振って、はっきり否定してみせた。
「からだの方は、何ともないよ。そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて? どうしたの? 僕でよかったら、話してよ」
 すみれ色の瞳が、真面目に、思いやりをこめて、ランディに注がれる。
(ん〜、そうだな……)
  果たしてマルセルに、心に掛かっていることを、話してよいものかと、逡巡した。正直、マルセルから、有効なアドバイスがもらえるとは思えない。だが、少なくとも、オスカーやオリヴィエのように、からかわれたりすることはないだろう。
「実はさ、エンジュのことなんだけど……」
 日頃の彼女の態度、そして先日のセレスティアでの別れ際のできごとなどを、かいつまんで話した。マルセルは、黙って聞いていたが、ランディが「彼女が、何、考えてるか、わからない」で話を締めくくったところで、テーブルに突っ伏した。
「ん? どうしたんだ、マルセル?」
 するとマルセルは、テーブルにぶつけたおでこをさすりながら、上目遣いに、ランディを睨んだ。
「何、考えてるか、わからないって……。ランディってば、本気?」
「本気? って、わからないから、こうして考えてるんじゃないか」
「まったく……! 僕、エンジュに同情しちゃうよ! ニブイにも程があるんじゃない!」
「鈍いって、なんだよ! それじゃ、まるで……。まるでエンジュが俺のこと、好き……みたいじゃないか!」
 顔を赤くして、語尾を濁したランディに、マルセルは、ふんと鼻を鳴らした。
「みたい、じゃなくて、そうなの! ほぼ間違いなく!」
「いや……そんなこと、あるはずないよ!」
「なんで? 何かエンジュに嫌われるようなこと、したの?」
「ん〜〜、多分、してないと思う」
「だったら、どうして?」
「女の子にとって、俺より魅力的な人が、彼女の周りには、いっぱいいるじゃないか!」
「そんなの、わかんないじゃない。他の人より、エンジュはランディがいいのかもしれないじゃない」
 喧々諤々となってきた、その時、コンコンと部屋のドアをノックする者があった。マルセルは、こんな時にと、眉根を寄せたが、声を張って、応えた。
「はあい、どなたですか? 今、ちょっと取り込んでるんですけど」
「あ、マルセル様。エンジュです。すみません。お取り込み中なんだったら、出直します」
 二人は、思わず顔を見合せた。まさか、ここで、当人が来るとは……。だが、戸惑う空気が流れたのは、一瞬のことだった。まなじりをきっと上げたマルセルが、素早く言ったのだ。
「ちょうどいいや。本人に聞いたら? ぐだぐだしてるのなんて、君に似合わないよ! エンジュ! かまわないから、どうぞ入って!」
「え? ちょ……! マフヘ……ふがっ……!」
 ランディの抗議の叫びを、強引に手で塞ぐと、マルセルは部屋に入って来たエンジュに、にっこりと笑ってみせた。
「いらっしゃい、エンジュ」
「こんにちは、マルセル様、それに……えっとランディ様、どうなさったんですか?」
 手をふりもぎろうとするランディの口を、全力で押さえながら、マルセルは言った。
「ランディのことは、気にしないで! ところで、エンジュ、僕に用事があって、来たんだよね? それって、急ぎ?」
「いいえ、急ぎじゃありません。あちらの聖地で咲いてる花の種を、マルセル様にお届けするようにって、セイラン様に言付かっただけで」
「ああ、ありがとう! じゃあ、執務机の上に……置いといて……。うあっ……!」
 ようやくマルセルの手を振り放すと、ランディは珍しく本気で怒った顔を、マルセルに向けた。
「……何のつもりだよ? マルセル! 俺は、出て行く! ごめん、エンジュ、そういうことで!」
「君が出て行くんなら、僕が出て行くよ! エンジュ、この鈍ちんの、わからず屋には、がつんと言ってやった方がいいよ!」
 言うが早いか、マルセルは、くるりと身を返して、部屋を走り出て行ってしまった。
「おい、マルセル!」
 返事の代わりに、かちゃりと金属音が響いた。
「……!? まさか……!?」
 急いでドアに駆け寄り、ノブを引いてみる。押しても引いても、ドアは開かなかった。
「マルセル〜〜〜〜!!」
 怒声を上げると、ドア越しに声がした。
「後で開けに来るよ! 頑張ってね!」
「何が、頑張って、だ! もお〜〜〜〜!」
 頭をかきむしって、地団駄を踏むランディに、エンジュは恐る恐る声を掛けた。
「あの……ランディ様?」
 ランディは、はっとして振り返り、不安そうなエンジュの顔を見て、すまないという気持ちでいっぱいになった。
「ああ、ごめんね、エンジュ。こんなことになっちゃって。マルセルって、思いこむと、突っ走っちゃうところがあるから……。あ、でも、後で開けに来るって言ってたから、心配しないで!」
「ランディ様……。わかりました」
 ランディは、大きく深呼吸を数度繰り返すと、何とかこの情況で、エンジュの不安を解消し、またマルセルが戻って来るまで、間を持たせる手だてを探した。
「そうそう! さっきマルセルとお茶飲んでたんだ。よかったら、君も飲まない? クッキーもあるよ」
 言いながら、テーブルを指し示した。
「え、でも、いいんですか?」
「勝手に、俺たちを置いてったんだから、かまやしないよ。さあ、どうぞ」
 椅子を引いて、エンジュを掛けさせると、ランディはテーブルの上を見渡して、魔法瓶と使っていないティーカップを手元に引き寄せた。
「このお湯をポットに注いで……っと」
 いささか危ういランディの手つきを見かねて、エンジュが立ち上がった。
「ランディ様、私、自分でやります」
「いいから、君は座ってて。うわあっと……」
「危ない!」
 エンジュは、急いでランディの手を押さえた。ポットを傾け過ぎたために、熱いお茶が勢いよくふき出るところだった。
「あ、ああ、ゴメン!」
「いえ、大丈夫ですか? あ……!」
 間近で視線がかち合った時、エンジュは自分の手がしっかりランディの腕を掴んでいることに気づいて、慌てて離した。そして、からだごと、ぐるりとあちらを向いてしまった。
 そんなエンジュのふるまいに、ランディは先ほどのマルセルとの会話を思い出さずには、いられなかった。
(やっぱり、そう、なのかな……?)
 動悸が速くなるのを感じる。頬がかっと熱くなる。
 けれど……。
 ランディは、自分の手に、目を落とした。今しがた、お茶を淹れそこなったのは、この手。エンジュに助けてもらわなかったら、火傷をしていたかもしれない。
 拳をぐっと握りしめると、ランディは口火を切った。
「ねえ、エンジュ」
「は、はい、ランディ様」
 振り返ったエンジュと目を合わせると、ランディはゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「君の目に……どう映ってるかわからないけど、俺、こういうヤツなんだ。君にお茶一つ満足に淹れてあげられない。たまたま、今のところ風のサクリアを持ってるだけの、ただの未熟者なんだよ」
 エンジュの瞳が、揺れる。
「ランディ様、それって、何の話ですか?」
 ランディは、彼女をなだめるように、笑みを浮かべてみせた。
「つまり、その……。君に想ってもらえるような男じゃないってことだよ」
「……!?」
 エンジュは、目を見開き、口を両手で覆った。そんな彼女に、ランディは頷きかけた。
「まさかと思ったけど……やっぱり、そうなんだね? ねえ、これから、俺の言うこと、よく聞いて?」
 エンジュが、目をそらさずに、自分を見つめていることを認めると、ランディは、話を続けた。 
「……俺は、もちろん、守護聖として、君の役に立ちたいと思ってる。皆もそれは同じだ。俺だけじゃなく、守護聖たちと、女王陛下の力を受けて……君はきっと今よりもっと素敵な女の子になるだろう。俺なんか、追いつけないほどの速さで、立派な伝説のエトワールに……」
「……」
 うつむいてしまったエンジュを前に、ランディは懸命に、自分の考えを表す言葉を探した。唇を軽く噛み、天を一度仰いで……。思い切って、ありのままの自分を、彼女に見せることにした。
「でも……そうだな、俺はまだ、迷ったりつまづいたりしてるところで……。自分の持ってる力を、どう使ったらいいのかも、正直、よくわからない。君の前に立つ時に、こうだって言える自分がないんだ。情けないんだけど……。つまり……俺なんかに気持ちを向けるより、君にふさわしい選択が、いくつもあるんじゃないかって思うんだ」
 自信のない青二才であることを、正直に彼女に告げるのは、痛みを伴った。だが、それこそが、彼女の好意に対する戸惑いの本質だったから、ごまかしたくはないとも思った。
 無言で、目を失せていたエンジュが、顔を上げた。
「……ですか?」
 ようやく押し出されたような、くぐもった声。だが、ランディを見返す瞳は、強い光を帯びていた。
「? 今、なんて?」
 問い返すと、瞳の中の光は、更にかっと燃え上がった。
「……未熟なままのあなたを、好きになっちゃいけないんですか?」
「エンジュ……」
 彼女の思いがけない言葉と、その瞳に宿った力に、ランディは瞠目した。そんな彼に対して、エンジュは更に一歩前へ踏み出した。
「……いつも、私を励まして、まっすぐに向きあって下さる、今のあなたが好きなんです! それとも……そんなのって、迷惑ですか?」
「いや、それはない。迷惑なんかじゃないよ!」
 ランディは即座に言い返した。二人の視線が、火花を散らすように、絡み合う。先に緊張をほどいたのは、エンジュの方だった。
「……よかった。だったら、何も問題はないですよね? 私、これからも、ランディ様のことを、好きでいます」
「えっ? ちょっと待って! 今、俺、話したじゃない。そんな風に言ってもらえるほどのものじゃないって!」
「だから〜〜。ランディ様が、どう思おうと、私は好きなんですってば! もう、何度も言わせないで下さい!」
 頬を真っ赤に染めたエンジュに叱られて、ランディは軽く混乱した。
「えっと……俺、どうすればいいんだろう?」
 エンジュの自制心が、この一言で切れた。彼女は、ランディの顔を両手でしっかり挟むと、正面から彼を見据えた。
「……私のことを、少しでも、好きかどうか、今、この瞬間から、考えて下さい!」
 そう言い放つや否や、ぐいと引き寄せて、唇を重ねた。
「〜〜〜〜〜!!??」
 石のように、ランディが固まった瞬間、ドアが開いて、マルセルが顔をのぞかせた。
「どう? 二人で、お話できた……って、それ以上に進展したみたいだね?」
 マルセルは、気恥ずかしげに、視線をそらすと「僕、お邪魔虫みたいだから、もう、行くね!」とさっさと踵を返して、行ってしまった。
 ここで、ようやく身体能力を取り戻したランディは、エンジュの肩を、それでもかなり手加減をして押し戻した。
「ランディ様……?」
 エンジュから、顔を背けると、動揺の中から、ようやく一言だけ告げた。
「ごめん……。少し時間をくれないか? ちゃんと、君のこと、考えるから……」
「……わかりました」
「……悪いけど、一人にしてくれるかな?」
「はい……」
 エンジュの気配が、部屋を出て行くのを待って、ランディは頭を抱え込んだ。
(……何か、すごく情けないぞ、俺〜〜〜!)
 悔しさや腹立たしさが、吹き荒れる胸の中で、触れられた唇は、ただただ熱く……。乱れる感情を持て余したランディは、そのまま、その場にうずくまることしか、できなかった……。


 端末の発信音が、メールの到着を告げた。発信者の名前を確認して、エンジュは心臓を掴まれたような心持ちがした。
『この週末、会える?  ランディ』
 あれから一週間余り、ランディに会う機会はなかった。少し、時間をくれる? と言った彼の気持ちを尊重しなければと、自分から連絡を取ることはしなかった。
(もしかしたら、怒ってるんじゃないかしら? 嫌われちゃったんじゃないかしら?)
 不安を抱きながら、今日までずっと待っていた。ランディの方から、会いたいと言って来たということは、何らかの結論が出たということだろう。……そう、彼は逃げたりごまかしたりはしない。どんな結論であれ、真摯に考えたであろう、その結果を……自分は受け入れなくてはならないだろう。
 エンジュは、息を飲み、目を閉じた。
(そうよ、どんな結果が出ようとも……!)
 彼女は、覚悟を決めて、誘いに応じる返信をした。


 噴水の水が、溢れる日射しに、きらきらと踊っている。この“乙女の噴水”に、普段あまり訪れることはないのだが、今日に限って、いつも静かなこのプレイスがいいだろうとランディは決めた。
 数歩後ろを歩いているエンジュの視線が、時折自分の背中に注がれるのを感じる。彼女は……答えを得るために、ここについて来たのだろうし、自分もそのつもりで、答えを用意した。
 木陰が涼しげなベンチが、前方に見えて来た。人影が、噴水の遥か向こうに、まばらにしかないのを確認して、ランディは自分にGOサインを出した。
「あそこに、座ろうか?」
 振り向いて声を掛けると、エンジュはびくっと肩を震わせた。
「はい、ランディ様」
 それでも、彼女は素直に頷くと、指し示した場所に、腰を下ろした。その隣に場所を占めると、ランディは何となく空を見上げた。
 抜けるように、青い空。穏やかで、美しい、この世界を護り、発展させるために、自分も隣にいるエンジュも、果たすべき役割がある。けれど……一人の少女としてのエンジュが、自分に求めているのは、そういう役割ではなく。果たして、それに自分が応えられるのかを、ずっとあの日から考え続けて来た。
 言わなくては、と思う。自分を好きだと言ってくれた彼女に……未熟でも、情けなくても、今の自分に出せる答えを。
「ねえ、エンジュ……」
 隣にいるエンジュの、緊張した気配がわかる。彼女の突き詰めたような視線を横顔に感じて、自分の背筋にも緊張が走るのをランディは感じた。しかし、逃げるわけにはいかない。
「俺、あれから、ずっと君に聞かれたことを考えてた……。君のこと、好きなのかどうかって……。そうやってずっと考えて出した答えだから、そのまま受け取ってくれるかな」
 視線を、空からエンジュへと移す。両手を強く組み合わせたエンジュが、泣きそうな顔をしながら、でも頷くのを見て取ると、ランディは(ありがとう)の意を込めて、彼女に笑いかけた。
「君が、今の俺を好きだって言ってくれたのは、すごく嬉しい。けど、俺自身が、今の俺を好きじゃないんだ……。この手に余ることが多すぎて……。だから、少しでもできることを増やしたい。一人前に近づきたい。そんな中で……君の気持ちを、今は受け取れない」
 エンジュは目を見開いた。頭を打たれたようなショックに、言葉を失っている彼女の手を、ランディはそっと自分の手で包んだ。
「ええと……。最後まで、よく聞いて? 俺、“今は”って言ったよね? 時間は掛かるかもしれないけど、自分の中で、少しは出来る男になれた、君に言ってもいいって思えた時に……俺、改めて自分の気持ちを伝えるよ。できるだけ早く、そうなれるように、頑張る。……今は、それしか言えない」
 エンジュの手を握りながら、ランディは付け加えた。
「ごめんね……」
「ランディ様……」
 泣き出してしまいそうなのを、エンジュは懸命にこらえた。あまりにも、彼らしい答え。けれど、今、胸をつき破って、こぼれ出しそうな気持ちは、どうしたらいいのだろう?
 そんなエンジュに、ためらいがちに、ランディが触れる。
「ごめん、ごめんね、エンジュ……」「
 ふわりと頭を抱き寄せると、こらえかねた嗚咽がエンジュの口から洩れ、ランディの胸元を濡らした。堰を切った彼女の想いがあふれだすままに。彼女の気が済むまで、ずっとそのままにしていた。柔らかな、その髪を撫でながら……。
 
 
 話が進むにつれて、マルセルの眉間にしわが寄ってきた。少女めいた造作の彼が、そのような表情をしても、あまり険悪さは感じられなかったが、意外ときかん気な内面がのぞく。
「何、それ? いいの、ほんとに?」
 事の次第を聞き終えると、思い切り口元をひん曲げてみせた。
「あの時、キスなんかしてたから、てっきりうまくいったもんだと思ってたのにっ!」
「うわっ! それは言わないでくれ!」
 慌てふためくランディをじろりとねめつけると、マルセルはきっぱりと言い放った。
「好きなんだったら、そう言ってあげればいいのに! やせ我慢しちゃってさ! そんなことしてる間に、他の誰かにさらわれちゃうよ?」
「いや、やせ我慢っていうのとは、ちょっと違うと思うんだよな」
「そうなの?」
 意外そうに問い返すマルセルに、ランディは、一つひとつ、確かめるように答えた。
「うん。ほんとうに、すごく彼女のことが好きなんだったら、何がなんでもって、俺、突っ走ると思うんだ。けど……何だろ?  そういうのとは違う。彼女が俺を好きだって言ってくれるからって、浮かれたくないっていうか……。大事にしたいっていうか……。それでぐずぐずしてるってことになって、彼女が他の人を好きになったら……その時はその時でしょうがないよ」
「あきらめちゃうの?」
 ランディは、笑って首を振った。
「いいや、彼女の前に、しっかり立てる男になったら、追っかける。俺のこと、もう一度、好きになってもらえるように頑張る。やるだけやって、それでも、ダメだったら、しかたないけど」
 その言葉に、マルセルは肩をすくめ、しかたないといった風情で言った。
「はあ〜。どこまでも直球勝負なんだね……。わかった! ランディがストーカーして、エンジュの迷惑になったら、僕、全力で止めてあげる! それで振られたら、慰めてあげるから、めげちゃダメだよ!」
「す、ストーカーって! それに、なんで振られることが前提なんだよっ?」
「友達としては、シビアに、サイアクの場合を予想しておかないとね」
「ひどいなあ」
 マルセルと一緒に、笑い崩れながら、ランディは決意を新たにしていた。
(俺、頑張るよ! なるべく早く、君に“好きだ”って言えるように! そうして……その時は……)
 ランディは、心の中で握りこぶしを作った。

(その時は、俺の方から、君にキスするんだ!)
 
 彼の心と、からだから、今、一陣の勇気の風が巻き起こる。その風は、掲げた目標へ、そして大切に思う少女へと、吹き抜けてゆく。

 力強く、まっすぐに……!


                              (終わり)





アクの強い先輩守護聖に囲まれて、ランディはこんなこと考えながら、
頑張ってるんじゃないかな〜と思います。
まっとうに、まっすぐに……。

マルセルは、コミックス版のイメージで書きました。
お兄さん的に、ランディはいつも彼の世話を焼いてる感じですが、
あえて悪友っぽくww
ランディとゼフェルの間で「もう、やめてよお〜!」と仲裁してたり、
ヴィエ様にメイクされて、ぷんすか怒ってたりする彼が好きですw

  
 
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