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VD2011に提出したものです。
これにて、提出分、すべて再録。

私なりに、あるメッセージをこめて書いたものでした。
感じ取って下さった方がいらして、嬉しかったです。

ユーイは、本人、ヘンに頑固ですが、突き抜けてゆく
まっすぐな心、パワーがあって、夢を見させてくれる人
だな〜と思います。

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 「俺の目印」


 今回の旅は、長いものになった。聖地に帰って来たのは、ほぼ2週間ぶりだ。アウローラ号は快適な船だし、場合によっては、同じ星に何日か滞在することもあるので、それほどタイトなスケジュールとはいえない。
 だが、凍るように深く、暗い宇宙空間を航行し、砂漠から亜寒帯まで、様々な気候の星を巡るのは、それなりに体力を消耗する。
 女王補佐官レイチェルに、帰還の報告を済ませたら、すぐにでも自室に戻って休みたいところだが、エンジュの足は、とある場所に向かった。
「ユーイ様、ただいま、戻りました」
 ドアをノックし、声を掛けながら入ってみると、部屋の主は不在だった。
「いらっしゃらない……。はあ〜」
 半ば予測していたこととはいえ、久しぶりに顔を見て、少しでも言葉を交わしたかったと、エンジュはため息をついた。 
 その身に宿るサクリアさながらに、活発な風の守護聖は、聖地の中を、あちらこちら飛び回っている。それでいて、執務がこなせているのが不思議だったが、恐らく仕事に対するカンと要領がいいのだろう。
「……捕まえようがないわよね。せめて、帰って来たことを、知らせておこう」
 エンジュは手帳を取り出し、一枚ちぎり取ると、ペンを顎に当てて、文面を考えた。この2週間、ずっと会いたくて仕方なかったこと、拝受した風のサクリアを流現するたびに、彼を想ったこと……。だが、それらは、すべて、とても書ききれるものではなく、ユーイに直接会って、話したいことばかりだった。そこで、ごく簡単に伝言を記した。
『ユーイ様へ。今日、帰って来ました。エンジュ』
 メモを執務机の上にのせ、窓から入ってくる風に飛ばされないよう、ペーパーウェイトを置く。
「さあ、これでいいわ。明日には、多分会える……。今日は、もう戻って休もうかな」
 エンジュが部屋を出て行こうとしたその時だった。勢い良くドアが開いて、一陣の風のように、何かが飛び込んで来た……と思ったら、誰あろう、この部屋の主だった。
「わっ! ユ、ユーイ様!?」
「なんだ、エンジュ、帰ってたのか!」
 ユーイは、エンジュの姿を認めると、満面の笑みを広げた。
「久しぶりだな、会いたかったぞ!」
 両手が伸びて来て、エンジュの両肩をぽんぽんと叩いた。
「ユーイ様……」
 その笑顔に、疲れも吹き飛ぶ気がする。だが、ユーイの次の言葉に、エンジュは、戸惑わずにはいられなかった。
「ちょうどよかった! おまえに見せたいものがあるんだ! 一緒に丘まで行こう」
「丘までって……今からですか!? 私、さっき帰ったばっかりですし、ちょっと……」
 皆まで言い終わる前に、ユーイはエンジュの前に背を向けてかがんだ。
「疲れて歩けないんなら、俺がおぶってってやる! だから、行こう!」
「い、いいです! 自分で歩けます〜!」
「なら、手を引いてやる! さあ、行こう!」 
 ユーイのかたい手のひらが、エンジュの手を包む。
(ああ、この手……ユーイ様だ……)
 漁師として、幼い頃から、網をたぐり、船を操って来たユーイの手は、ゴツゴツしている。だが、その手にこもる力強さと、あたたかさは、エンジュを安心させると同時に、ぽっと心に火を灯すようだった。
 そして、その手を取っていると、疲れているはずなのに、足が動く。風のように駆けるユーイとともに、ぐんぐんと、追い風を受けて波間を滑るヨットのように。
 宮殿を出て、庭園を抜け、小高い丘に駆け上がる。頂まで来て、さすがに、はあはあと息を切らすエンジュに、ユーイは眼下に見下ろせるあるものを指し示した。
「ほら、アレだ!」
「え? わあ、ユーイ様、アレって!?」
 ユーイの館の裏手、草地の広がる辺りに、たくさんの苗木が等間隔をあけて、植え込まれている。まだ細い木々だったが、ちらほらと白い花をつけているのも見て取れる。だが、エンジュに声をあげさせたのは、その苗木が、並んで、形造っている意匠だった。
「ユーイ様、あれって船の形? ユーイ様が植えたんですか?」
「ああ、そうだ。俺が植えたんだ。おまえが旅している間に、少しずつな。今は、まだ小さいけど、そのうち、アレは桜の林になるんだ」
「桜の?」
「そう、桜だ。マルセル様に聞いたんだ。花はもちろんだけど、どの季節でもきれいなのは、どんな木だろうって。そしたら桜がいいって教えてくれたんだ。春には花、夏に青葉、秋に紅葉、冬には空へ伸びる枝振りがいいってさ。聖地には、四季はないけど、植物は成長するために、必要なサイクルをちょっとずつ繰り返してるんだって。だから、あの桜は、これから、花を咲かせて、葉を茂らせて、どんどん大きくなっていくだろう」
「わあ、素敵ですね!」
「そうだろう! おまえが宇宙から帰って来る時の目印にするといい」
「え?」
 思わず顔を見返すと、ユーイは大きく口を開けて、弾けるような笑顔で言った。
「今は、まだ、無理だろうけど、木が育ったら、聖地に下りて来る時に、アウローラ号から見えるようになるだろう。あの林は……俺の目印だ」
「ユーイ様の、目印?」
「ああ、おまえがどんなに遠くを旅しても、辛いことがあっても、俺は……俺の心は、ここでおまえを待ってるってことだ」
「ユーイ……様!」
 胸が熱くなった。じんと涙がわいて来る。そんなエンジュの両肩に手を置き、瞳を覗きこみながら、ユーイは言った。
「忘れるな。どんなに季節が、年月が流れようと、俺は、おまえを待ってる。おまえは……俺の腕の中に帰ってくればいいんだ」
「はい……! ユーイ様!」
 こっくりと頷いたエンジュの額に、軽くユーイの唇が触れた。うっとりと目を閉じたエンジュの頬を、吹き抜ける風が撫でる。少し冷たい空気の流れの中で、あたたかな湯気のようなものが顔に当たるのを感じた。次の瞬間、熱を帯びた柔らかい感触が唇に触れた。
 慌てて目を開けると「バカ、こういう時って、目はつぶっとくもんだろ」と、耳元にささやきが落ちた。
「はい……」
 エンジュは、言われるまま目を閉じた。再び唇に落ちて来た感触は、熱く、優しく、からだの中にしみて行った。


 ユーイが不意に言った。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
 ここに来ようと言ったのも唐突だったが、帰りを促すのもいきなりだった。
「え、あ、はい」
「よし、じゃあ、おまえ、疲れてるだろうから、楽させてやる」
「え? きゃあっ!」
 ユーイは軽々とエンジュを抱き上げると、小走りに駆け出した。
「ちょっ……! ユーイ様。危ないですよお〜〜!」
「大丈夫だ。おまえ一人ぐらい、なんてことない」
「いえ、そういう問題じゃなく〜〜!」
 声を上げて抗議すると、ユーイは車が急ブレーキをかけるように、止まった。
「あ、もしかして怖いのか。だったら、背中におぶされ!」
 言うが早いか、ユーイはエンジュを腕から下ろし、その背中をエンジュに向けた。
「ほら、早く乗れ!」
「それも困るんですけど〜〜!」
 エンジュが叫ぶと、肩越しにこちらを見ているユーイの眉が、見る見る険しくなった。
「何が、困るんだ? さっぱりわかんないぞ。いいから、早く乗れ! おまえが乗らないと、俺、ウチに帰らないし、おまえも帰さないからな!」
「ええ〜、そんなあ〜!」
 半ば脅迫されるような形で、エンジュは渋々ユーイの背に身を委ねた。
ユーイは、エンジュのからだを揺すり上げると
「ようし、しっかり捕まってろよ!」
 一声掛けるや、エンジュをおぶったまま、丘を駆け下りていった。
「きゃああ〜!」
「あはははっ!」
  赤々と丘の斜面を染める夕映えの中、エンジュの悲鳴と、ユーイの笑い声が響き渡っていた。


 それからも、エンジュは、何度となく、エトワールとして旅に赴いた。伸びゆく若い宇宙は、サクリアを必要としており、彼女は諸方を巡って、聖地から託された力を注ぎ込んだ。
 旅路にあって、いつも想うのは、愛しい風の守護聖のこと。
 使命を終えて、聖地に帰る時、アウローラ号が主星の大気圏に入った辺りから、エンジュの胸は高鳴り始める。そうして、聖地の上空に差し掛かる頃、懸命に眼下の大地の上に、探すのだ。
 彼が、エンジュのために作った目印、船をかたどった桜の林を。
 時に花咲き、時に緑色濃く。紅葉に燃える時もあれば、裸の枝を鋭く突き上げていることもある。だが、どんな時であっても、それを見つけるたび、エンジュは彼の声を聞くのだ。

「おかえり、待っていたぞ」


                             (終わり)

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