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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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「アンジェリーク・ヴァレンタイン・パーティー2009」さんに提出したものです。
「ヴィクロザって、初めて見ました」という感想を、頂きました。
普及の一助になったなら、嬉しいです。

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「チョコレートの意味」

 チョコレートは、糖分補給にいいと思っていた。まる一日かけての行軍、災害現場での作業。酷使したからだは、糖分を欲する。基地の売店でも、歩きながら食べられる、ナッツのぎっしり詰まったチョコバーは、定番商品だった。駐屯先に時々送られて来る家族からの差し入れや、慰問箱の中でも、チョコレートは奪い合いになりかねないほどの人気だった。
 そんなわけで、2月に入ったばかりのある昼下がり、真っ白なクロスと、花があしらわれたお茶会のテーブルで、美しい女王補佐官に「チョコレートはお好き?」と問われた時も、ヴィクトールは大きく頷いて答えた。
「好きですな。甘いものは疲労回復に最適です」
 ロザリアの柳眉は、ほんの少し曇ったようだったが、重ねて聞かれた。
「そ、そう、例えばどんな種類のチョコレートが? やはり洋酒の利いたものなどかしら?」
「そんな気の利いた物は、軍ではめったに口にする機会はなかったですな。何と言っても、うまかったのは、麦チョコです」
「む、麦チョコ!? それは一体どんな物ですの?」
「その名の通り、麦をチョコレートで包んだ菓子です。たまに配給があるんですが、みんなそれが楽しみで。若い連中は、十粒、二十粒を賭けて、カード勝負をしたり。ははっ、大の男が夢中になったものでしたよ」
「……」
 なぜか黙ってしまったロザリアの代わりに、マルセルが目を輝かせて言った。
「わあ、そんなにおいしいチョコなら、僕も食べてみたいです!」
「マルセル様のお口に合うかどうかは、わかりませんが。まあ、安手の素朴な菓子ですよ。オリヴィエ様、どうかなさいましたか?」
 なぜか先ほどから、椅子の上で、腹を抱え込むようにしていたオリヴィエは、ヴィクトールの言葉に、顔を上げた。そして形のいい眉根を苦しげに寄せ、目尻にたまった涙を拭いながら、楽しそうに言った。
「いや、ごめん、なんでもないよ。そっか〜、麦チョコなんだ〜。私も子供の頃、よく食べたもんだよ。不滅の定番ってヤツだね」
「オリヴィエ様もごぞんじでしたか。いや、まったく、おっしゃる通りです」
 オリヴィエが、なぜ涙目になっていたのかは、結局わからなかったが、その後も、麦チョコの思い出を語らったり、和やかな時間が流れて、お茶会は終わった。
 ただ帰り際に、ロザリアと目が合ったときに、いささか鋭い光を向けられたような気がした。
(どうなさったんだろう? 俺は何か不始末をしでかしただろうか?)
 ヴィクトールは首をひねった。思い当たることは特になかった。だがもし仮に不始末があったのなら、一見柔和ではあるが、自分の考えはきちんと主張するロザリアのことである。直接はっきり言うだろうとヴィクトールは考えた。常の彼なら、そうして、さらりと流してしまうところだったが。青い瞳の光は、妙に心に残った。
(こんな些細なことを、気にしてしまうとはな)
 ヴィクトールは苦笑した。なぜそうなってしまうのか、理由はわかっていた。まったく、らしくないと自嘲し、女王補佐官へ秘かに寄せる思慕を、注意深く払いのけるヴィクトールなのだった。
 
 そんなできごとがあった数日後。ヴィクトールは、ここ聖地では、ある一日に限り、チョコレートが特別の意味を持つということを、知らされた。庭園の商人が、嬉々として教えてくれたのだ。
「いや〜、そらもちろん、かき入れ時ですけど、女の子が言うに言えない想いを託してプレゼントすると思うと、こう、俺の胸までキュウンとなりますわ〜」
「そういうものなのか?」
「そうです〜。もっとも、それだけやなくて、日頃世話になってる人への感謝の意味合いで贈ることもありますな。義理チョコというヤツですわ。これまた無視できへん需要がありますよってに、きっちり仕入れしとかんと〜」
 もみ手をしないばかりの商人のテンションに、ヴィクトールは少々気圧されてしまった。
「そうか、じゃあ、まあ、商売に励んでくれ」
「はいな。ヴィクトールさんも、どうぞお楽しみに〜」
「俺がなんで楽しみにするんだ?」
「またまた、とぼけて〜。ウチでかわいいお客さんたちがお買い上げになるうちの、何%かはヴィクトールさんのところへ行きますがな。あ、お返しをするホワイトデーちゅう日もありますんで、その節はどうぞよろしゅうに〜」
 と、愛想を振りまかれたが、ヴィクトールはほとんど気にも留めなかった。 ここへ来てから日も浅く、女王試験の関係者以外、知人もいない。自分にそのような贈り物をする人間がいようとは思われなかった。
 だが、女性が想いを込めて贈るというのなら……。あの人がもし贈ってくれたなら……と、図らずも甘い想像をしてしまった。
「まったく俺としたことが、ヤツの話にすっかり乗せられてしまったようだ。あの人が、俺にそんなことをするはずがないのに」
 苦い笑いがこみ上げる。だが、自分の願望の、かなうあてがないと認めるのは、ほんの少し、胸が痛かった。
 
 そして、その日がやって来た。ヴィクトールは、ヴァレンタインというものに対して、自分がいかに認識不足であったか、思い知らされることになった。
 生徒である二人の女王候補が、顔を揃えて、きれいな箱を持ってきたのを皮切りに、職務で足を運ぶ王立研究院の女子職員から、学芸館の食堂のおばさんまで、行く先々で女性たちが、彼にチョコレートをよこしたのである。
「ヴァレンタインのチョコです」
「いつもお世話になってます」
 笑顔とともに差し出される小さな包みを受け取るたびに、ヴィクトールは心温まる思いがした。もちろん、大半が商人のいうところの、義理チョコというものだろうが、中には随分高級そうな包装の物もあった。
(案外悪くないイベントなんだな、ヴァレンタインというのは。そういえば、お返しをする日があるとか、言っていたな。好意にはきちんと応えておくべきだな)
 そんなことを考えながら、大量のチョコを抱えて、執務室に戻って来た時だった。ドアの前に、ほっそりした姿を認めて、ヴィクトールは驚きに目をみはった。
「これは、ロザリア様。わざわざ来て頂くとは、恐縮です。俺に何か御用ですか」
 ロザリアは、ヴィクトールが腕に抱えたたくさんのチョコを、素早く一瞥すると、婉然と微笑んでみせた。
「ええ、あなたに用があって、参りましたの。中に入ってもよろしくて?」
「もちろんです、どうぞお入り下さい」
 ロザリアのためにドアを開け、室内に入ると、ヴィクトールは、とりあえずチョコの山を机の上に置いた。
「……たくさん、チョコレートをもらったのね」
 背後で、ロザリアの静かな声がした。何となく、その声音にひやりとするものを覚えて、ヴィクトールは焦った。
(もしかしたら、教官でありながら、このようなイベントに浮かれていると、怒っていらっしゃるのだろうか)
 縮こまるような思いで振り向くと、ロザリアはにっこり微笑んでいた……が、目は少しも笑っていなかった。あの日の別れ際に見た鋭い光が、射抜くようにヴィクトールに注がれていた。
「申し訳ありません、ロザリア様! 大切な女王試験の最中に。しかし、贈ってくれた気持ちをむげにするわけには……」
「もちろん、そうですわ。ヴァレンタインは、そういうイベントですもの。私、それがわからないほどの石頭ではありませんのよ。第一、私も、あなたにチョコレートをお持ちしたんですもの」
「ロザリア様が、俺にチョコレートを!?」
 ヴィクトールは、胸が熱くなるのを覚えた。たとえいわゆる義理チョコであっても、ロザリアが自分を気に掛けてくれたというのが、嬉しかった。
「それは……ありがとうございます」
 心からの感謝を述べると、ロザリアは頬を染めた。
「まだ、お礼を言うのは、早くてよ。これをあげるのには、条件がありますの」
「条件、ですか?」
「ええ」
 うなずきながら、ロザリアは、手にした紙袋の中から、何やら取り出した。
「そ、それはもしかして、麦チョコですか!?」
「ええ、そうよ。あなたのお好きな麦チョコです。そして、これをお渡しするのも、あなたの流儀で、と思うのよ」
「俺の流儀?」
「ええ」
 ロザリアは、麦チョコの大袋に掛けた、美しい金色のリボンを整えながら、花のような唇をほころばせた。そして、手のひらに何かをのせて、ヴィクトールに見せた。
「……私と、このコインで賭けをして、あなたが勝ったら、この麦チョコはあなたのもの。私が勝ったら……私の希望を叶えて頂くわ。そう、この麦チョコの粒の数に見合うぐらいにね。いかがかしら?」
 ヴィクトールは、思わずごくりとつばを飲み込んだ。恐らく自分のために、ロザリアがわざわざ取り寄せてくれたであろう麦チョコ。その気持ちはぜひ受け取りたい。
 また、ロザリアの希望というのが、どういうものなのか、量りかねたが、彼女が自分に望んでくれるのなら、何を厭うことがあろうか。床磨きでも、どぶ掃除でも何でもやると、心から思った。
「ロザリア様、お受けします」
 口元では微笑みながらも、息を詰めるようにして、ヴィクトールを見ていたロザリアは、その答えにほっとしたようだった。
「では、始めるわ。勝負は一回だけ。今から投げ上げるこのコインの、表が出るか裏が出るか、当てた方が勝ちよ。よろしくて?」
「はい」
 ヴィクトールが頷いてみせると、ロザリアは勢い良くコインを宙に投げ上げ、くるくる回りながら落下してきたところを、白い手で受け止めた。そして、両の手でしっかりコインを挟んで納め、答えを求めた。
「さあ、ヴィクトール。あなたは、どちらを選ぶの?」
 勝ち負けは、どちらでも良かった。ただロザリアの真剣さに応えたくて、ヴィクトールは答えを出した。
「表です」
「それがあなたの答えなのね?」
「はい、ロザリア様」
「では、開けますわよ」
 ロザリアは一瞬目をきつく閉じ、祈るように両手を握り合わせた。そして、手を開いた……!
「……裏! 私の勝ちよ!」
「そうですな」
 ロザリアは、嬉しそうに頬を火照らせて、ヴィクトールを見上げた。輝く青い瞳と、ヴィクトールの琥珀色の瞳が絡み合う。ロザリアは、逃すまいというように、ひたとヴィクトールを見つめながら、ゆっくりと言葉を押し出した。
「私の望みは……あなたのほんとうのお気持ち、真実の言葉を、今、ここで私に下さることよ」
「……? 俺のほんとうの気持ち……?」
 ヴィクトールの要領を得ない応答に、ロザリアは、目を光らせた。そして、つんと誇り高く、頭を上げた。そうすると、貴婦人にふさわしい凛とした威厳が表現されることを、彼女は熟知していたのだが……ヴィクトールに向ける言葉の語尾は震えていた。
「……私にヴァレンタインのチョコレートの意味を、解説させるおつもり?」
 渦巻く感情を、必死にせき止めようと、唇をぎゅっと引き結び、それでも直ぐに背を伸ばして立っている。
 そんなロザリアを前にして、いかに無骨なヴィクトールだとて、彼女が何を求めているのか、気づかないわけにはいかなかった。
 胸の中にじんわりと熱い泉がわきあがる思いがする。そして、その泉の水を、今こそ彼女に捧げるべき時なのだと、ようやくにヴィクトールは悟った。
 一歩前に踏み出し、ロザリアの正面に立つ、するとロザリアは少しおびえたように肩を動かしたが、一歩も後には引かなかった。その矜持に、心からの敬意を払いながら、ヴィクトールは語りかけた。
「……チョコレートに、あなたの想いを託して下さった、ということですか」
 形のいい頭が、小さく縦にふられ、そのままうつむけられた。その所作のために、目の前にさらされた白鳥を思わせる首筋まで、ほんのり紅く染まっているのを見て、ヴィクトールは深く心を揺さぶられた。
 その心のままに、ヴィクトールは腕を伸ばし、ロザリアの細い肩を引き寄せ、そっとささやいた。
「ありがとう、あなたの勇気に心から感謝します。……俺の心は、あなたのものです」
「……ヴィクトール」
 吐息混じりのかすかな声とともに、しなやかな肢体が、ヴィクトールの胸に預けられた。二人の想いが初めて重なり合った瞬間だった。

 その日の夜。ヴィクトールは、私室で静かに一日のできごとを振り返っていた。わけても、これまでの人生で、もっとも大事な一コマとなった場面のことを。いまだに信じられないよう気がするのだが……。夢や幻ではなかった証拠に、ロザリアがくれた贈り物は、今、手元にあった。
 手を伸ばし、リボンをといて、袋の口を開けてみる。何粒か口に入れてみると、やはり麦チョコだった。軍隊時代に、よく食べたのと同じ、しごく素朴かつ庶民的な味……。そしてヴィクトールは、はたと気づいた。
 もしかしたら、ありとあらゆるチョコの中で、麦チョコに本気の想いを託そうとは、女性たちは考えないのではないだろうか、と。
 いわゆる義理チョコですら、庭園の商人の言によれば、女性は結構楽しんで、相手の顔を思い浮かべながら、わくわくと選ぶものであるらしい。事実ヴィクトールがもらった他のチョコレートも、それぞれに洒落た可愛らしい仕様になっていた。それなのに、この華やぎも何もない麦チョコを選ばざるを得なかった、ロザリアの心情は、どんなものだったのだろう。
 そう考えると、彼女が持ちかけた、あのらしからぬコイントスも、腑に落ちる。どう見ても義理チョコにさえ見えない麦チョコ。その麦チョコに、彼女は文字通り、自分の想いを賭けたのだ。
 いじらしさに、胸が詰まった。また、それほどの想いを傾けられたことへの感謝が満ちあふれてきた。
「お返しを、きちんとしないといかんな……。しかし、何を贈ったら、喜んでもらえるんだろう。適当な物を選ぶ自信がないな。あいつに相談してみるか」
 庭園の商人の陽気な顔を思い浮かべながら、ヴィクトールは独りごちた。商人に相談するとなると、例の調子で、相当にからかわれたり、ペースにはめられたりする恐れがあるが。
「……それも、まあ、いいか」
 くすりと笑い、ヴィクトールは、また袋から麦チョコを取り出した。そこにこめられた意味を、再び噛みしめるために。そして、その夜食べた麦チョコは、かつてないほど、甘美な味に、ヴィクトールには感じられたのだった。
                              (終わり)



個人的に、軍隊で、麦チョコを賭けて、勝負するという辺りが、気に入ってます。ヴィクトールは、絶対、いい上官だと思う。そんで部下たちも、絶対いいヤツらなんだよ〜。 
ロザリアは多分ガトー・ショコラかなんか、手作りしようと思ってたんでしょうが。カルチャー・ショックでしたね。でも、そこがまた、きっと惹かれ合う理由なのですよ、むふふ。


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