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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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ということで、書きました土日小話です。
珍しくちゃんと誕生日当日に間に合ったぞ、と。
今回はちょっぴりエロに挑戦してみました。
土日の18禁では大家がいらっさるので、影響が無意識に出て
しまってはという恐怖心から、自分なりの描写でとどめました。
(それでも滲んでしまっていたら、どうしよう??)
あ、この話のMY設定では、土浦も香穂子さんも、音楽科に転科
しております。一応注意書きもしておこう。

15禁程度の性描写があります。苦手な方はご注意下さい。
大丈夫だという方は、つづきから、どうぞ。

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「たった一度の夏」

 最後の小節の余韻を、香穂子の耳がまだ味わっていた時、土浦が何か言った。
「え?」
 音に酩酊した状態ながら、香穂子は土浦に顔を向けた。奏でるピアノの音も好きだったが、土浦の声の響きは、もっと好きだと思う瞬間が時々ある。だから、相当ぼんやりしている時でも、人混みの中でも、土浦の声には香穂子はからだで反応する。そんな香穂子に、土浦は苦笑した。
「ちゃんと聞いてんのか?」
 白い歯をこぼすと、ピアノの前から立ち上がり、香穂子の目の前にやって来た。
「もう一度言うから、よく聞けよ? 今度の日曜、海に行かないか?」
「海? 行く! あ、でも、練習は?」
「このところ、ぎっちり詰めてやって来たからな。おまえのヴァイオリンもイイ感じに仕上がって来てるし、いいだろ、一日ぐらい。息抜きも必要だぜ?」
「うん!」
 大きく肯いた香穂子は、胸が甘く高鳴るのを感じていた。
(もしかしたら、久しぶりのデートかも)と。
 土浦とは、お互いの思いを確かめ合った恋人同士であるにもかかわらず、香穂子がそんなことを思うのは、二人のこれまでの経過に原因している。
 高三のこの夏。星奏学院の大学部へ進学することを決めた香穂子と土浦は、それぞれ受験の準備にいそしんでいる。昨年参加した学内コンクールやコンサートでの実績を評価されているとはいえ、国内の音大の中でトップクラスに数えられている大学を受験するのである。それ相当の勉強や、実技試験に向けての練習が必要だった。
 そのため夏休みに入ってからも、香穂子は学校の練習室に入り浸っていた。そんな香穂子の練習に、土浦もしばしば付き合って、音を合わせたりする日が続いていた。一緒に星奏学院の大学部へ行くという目標と、また少しでも二人でいたいがために。
 出会ったきっかけが音楽なら、ともに目指す目標も音楽。というわけで、二人で過ごす時間が、ほとんど音楽絡みになってしまっているというのが実情だった。
 それで不満があるわけではなかったが、やはり純粋に二人で楽しむだけというのは嬉しい。香穂子は、浮き立つ気持ちで、約束の日曜までに水着を新調することを考えていた。


 バスを降りると、烈しい夏の日差しと、熱気が押し寄せて来た。松林の合間に見える海は、好天の空を映して紺青に輝き、香穂子は胸を期待に躍らせた。
「おい、こっちだぞ」
 先に立って歩く土浦の背中は、すっくりと高く、灯台のように頼もしげに見えた。小走りに駆けて追いつくと、香穂子の帽子を被った頭に、ぽんと手を置き、「ようし、海だ。行くぞ」と言った。
 その声が土浦の心の弾みを伝え、香穂子は気持ちが更に高まるのを感じた。海に、こうして二人で来られたのだ、と。
 ぎらぎらと日差しが照り返すアスファルトの道は、浜に向かって緩やかに下っていくが、反対側に目をやれば、緑の畑が道に沿って続いている。
「わあ、すいかだ!」
 畑に生い茂った葉の間には、やや小振りのすいかが、幾つもごろんと転がっている。収穫の時期を少し過ぎてしまって、売り物にならなくなったものだろう、時折畑の端に割られて捨てられていたりもする。赤い果肉が強い日差しのもとにさらされ、今畑に転がっているすいかの中身も、この日光にぬくめられ、甘く熟しているのだろうと、思わせられる。
「海の家で食えるぜ。この辺の畑で採れたのが」
 香穂子の考えを見透かしたように、土浦がにっと笑った。
「甘くて、うまいぞ。だけど、食い過ぎるなよ、腹壊すからな」
「もお〜、何、それ! 子供じゃないよ、私は!」
「ははは、どうだかな」
 声を立てて笑う土浦の脇腹にひじ鉄をしてみたが、かたい筋肉に跳ね返されて、香穂子は閉口した。


 鮮やかな花柄のビキニは、小振りの香穂子の胸を持ち上げ、ふっくらと見せてくれる。土浦は、一瞬まぶしげに香穂子を見つめ、目のやり場に困るといった風情で、横を向いた。
「さあ、泳ぐぞ!」
「うん」
 熱く白い砂を踏んで、波打ち際から少しずつ水にからだをなじませる。水の中に収まったからだは、暑熱と重力から解放される。
 抜き手を切って泳いだり、難なくあおむけに浮かぶ土浦の傍らで、浮き輪につかまりながら、香穂子は心とからだがほどけていくのを感じていた。いつまでも漂っていたいような、満ち足りた時間が過ぎていく。
 ひとしきり遊んで、太陽が中天高く上がった頃、土浦が言った。
「腹、減らないか? そろそろメシにしようぜ。メシの後は、お楽しみのすいかだ」
「待ってました!」
「めちゃめちゃ嬉しそうだな、おまえ」
 苦笑する土浦に手を引かれるようにして、海から上がる。少しひび割れたレゲエが流れる海の家で、焼きそばや焼きとうもろこしで空腹を満たした後、冷やしすいかを注文した。真っ赤な果肉にかぶりつくと、期待以上に甘い果汁が口の中に広がる。
「甘い〜、おいしい〜!」
 夢中になって食べる香穂子を楽しげに眺めながら、自分もすいかを頬張っていた土浦だったが、ちょっと呆れ気味に肩をすくめた。
「あ〜あ、おまえ、やっぱりお子サマだな。種が付いてるぞ、こんなとこに」
 言いながら、何げなく土浦は手を伸ばし、香穂子の鎖骨の少し下あたりに付いた種をつまんだ。その瞬間、土浦の指に触れられた香穂子の肌が、電流を流したようにぴくりと震えた。
(あ……)
 二人は声にならない息を飲み込んだ。視線が絡み合うと、香穂子の目元は戸惑いから羞恥に揺れ、土浦の目は強い光を帯びた。
「あ、ええと……汁が付いちゃったから、ちょっとシャワーで流して来るね」
 香穂子は居たたまれずに立ち上がると、そそくさと海の家の横手にあるシャワー室へと向かった。パネルのような建材を巡らせただけの個室に入り、鍵を引っかけると、すぐに薄い扉の向こうに人の立つ気配がした。
「香穂……」
「つ、土浦君。ちょっと待っててね、すぐ終わるから」
「いや、出なくていい」
「え……?」
「……中に入れてくれ」
 混乱と疑問が香穂子に押し寄せて来る。
「な……なんで?」
 しばし沈黙が落ちた後、低い声音が押し出される。
「……入れてほしいんだ」
 聞いたことのない、なにごとかを底に秘めた男の声。しかし、その響きは……土浦の声の響きは、一瞬香穂子を狂わせた。ほとんど自分が何をしているかわからないまま、香穂子は掛けがねを外し、ドアを開けた。
 土浦はすっと身を入れると、また鍵をかけ直した。
「つ、土浦君……?」
 上背のある土浦が、目の底に光をたたえてにじり寄って来た時、本能的な脅えを感じて、香穂子は思わず後ずさった。しかし狭い室内では逃げ場はなく、壁にぺたりと背中を押しつけると同時に、唇を塞がれた。
「ん……ぅん……」
 キスを交わしたのは初めてではないが、強引に唇を割られて、香穂子は息もできずにあえいだ。土浦の舌の感触を受け入れるのが精いっぱいで、頭のてっぺんが麻痺してゆく。
 そんな中で、香穂子の全身に戦慄が走った。土浦の手が……香穂子の愛する旋律を生み出す手が、胸元を探り始めたからだ。
「……!!」
 驚きで声も出ない香穂子の唇から、ようやく離れた土浦の唇が、今度はのど元を這い、鎖骨をなぞり始める。
 ビキニの肩ひもをずらされ、土浦の手が直接胸の丸みを包み込む段になって、香穂子はやっとか細い抗議の声を上げた。
「い…や……土浦君。こんな……恥ずかしい……!」
 すると土浦は、シャワーの栓をひねって全開にした。勢いよく流れる水音の中で、土浦は香穂子の耳に口を付けて言った。
「悪い……。後少しだけ許してくれ。ほんとに少しだけ」
 熱を帯びて、せっぱ詰まった声に、香穂子の抵抗への意思が、めためたと崩れ落ちる。
「バカ……」
「……悪い!」 
 それから香穂子は、水音に閉じこめられたもろい密室で、土浦の手、指、舌が、自分の肌を蹂躙するがままにさせた。実際の時間は、ほんの数分だっただろう。しかし世界を塗り替えられたその数分間、土浦に追い上げられながら、香穂子の耳はとらえていた。水流と、音の割れたレゲエと……自分の中で呼び起こされる官能の旋律を。
(土浦君が……私の中の音を探してる)
 その思いは、苦しくも甘く、香穂子の胸を締め上げていた。


 冷房を効かせた室内でも、練習に打ち込むと、汗が滲んでくる。ほっと息を吐き、ヴァイオリンを肩から下ろすと、香穂子は土浦に笑いかけた。
「今日もいい練習ができたよ、ありがとう」
 土浦も肯いて、微笑った。
「ああ、そうだな。俺も今日はよく弾けたぜ」
 楽器や譜面台を片づけようとしながら、香穂子は肩に降りかかる髪を、ゴムで後ろに一つに束ねた。露わになった首に目を止めて、土浦が言った。
「おまえ、けっこう焼けてるな」
「え? ああ、この間海に行った時に……」
 言いながら、香穂子は頬に朱をのぼせた。海でのできごとを思いだしたためだ。すると土浦は、底の深い笑みを刻むと、ゆっくりと香穂子の傍に来た。
「……甘かったな」
「え?」
 土浦は長い指で、香穂子の胸元を指した。
「おまえの、ここ。甘くて、しょっぱかった。すいかの汁と、海の水で」
「……バカ。エッチ!」
「おまえが、俺の理性を飛ばすような水着、着るからだ。でも、ぎりぎりのラインは保ったろ? 最後までいかなかったし」
「あたりまえだよ! あんなところで!」
「じゃあ、あんなところでなきゃいいんだな?」
「……!!」
 すっと土浦の指が伸びて、香穂子の制服のブラウスの襟元から、肩のラインをなぞる。香穂子は肌のざわめきに、身をすくませる。ゆっくりとすべる指は、下着のストラップの場所で止まった。
「……跡、付いてるんだろな」
「え?」
「あん時の水着の跡。……今度見せてくれよ……全部。俺が付けた跡も残ってたりしてな」
「もぉう〜、ほんとに、バカっ!! スケベ!!」
 胸を打ち叩く香穂子の手を、土浦は笑いながら受け止めた。
「わかった、わかった! そう怒るなって」
「知らないっ!!」
 憤然と背を向けた香穂子の肩に、そっと腕が回される。
「……悪かったよ。でも……おまえが怒るとしても……欲しいんだ」
 落ちてくるささやきの甘さに、香穂子の胸は震える。
(この声に……私の心もからだも、応えてしまう。好きなんだ……)
 小さくため息をつくと、首を振り向けて、ささやきを返した。
「……わかったよ、でも、時と場所は選んでね」
「ああ」
 応えとともに、土浦の唇が落ちてきた。触れるだけのやさしい感触だったが、香穂子の方からその先を求めた。土浦の舌が、すぐにそれに応じた。これまでと色合いの違う長いキスの後、土浦が言った。
「おまえ……変わったな」
「……土浦君が変えたんだよ、あの時に」
「……そうか」
 香穂子の頭を抱えて、土浦は自分の胸に押し当てた。その鼓動に耳を澄ませながら、香穂子はそっと心の中で語りかけた。
(……あなたの声に応えるから……。探して、私の中の音を。変えて、あなたの手で)
 言葉にはしない。けれど、ぬくもりできっと思いは伝わる。香穂子は土浦の胸に顔を埋めながら、確信していた。その証のように、土浦はぎゅっと香穂子の肩を抱き締めて言った。
「……おまえを変えても、いいんだな?」
 香穂子は小さく肯いた。あなたの傍で変わり、また変わらないものを抱きながら、ともに歩いていきたいのだ、と。


 二人の歩く道はまだ始まったばかりで、その行き先は、まだ見えない。けれど、ありたけの思いをお互いに傾けたこの夏の日が色褪せることは、けっしてないだろう。身と心に熱を刻み、自分以上に愛しく思える人を、揺さぶり揺さぶられた、十七歳の夏……。
                              (終わり)



実を言いますと、往年のアイドルの歌をイメージしながら、書きました。ちょっぴり歌詞が大人なのですよね〜。
どっちかというと、きまじめなトーンになってしまいがちな自分としては、こういう開放的な恋愛を書けるかなあとやってみて、結果として土浦がただのスケベになっただけという^^;
修業が足りませぬ。でも、いいリハビリになった気はします。

海の傍にすいか畑というのは、私が子供の頃見た風景です。
土浦と香穂子さんは、たぶん鎌倉とか千葉の海に行くのでしょうが、そっち方面にそういうところがあるのかどうかは、行ったことないので、わかりません。架空の海ということで、一つよろしく^^;
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