管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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「夏の情景」
「げっ! 休みかよ!?」
“臨時の書庫整理のため、◯日〜◯日まで休館”と書かれた札を前にして、土浦はうなった。
「せっかく涼もうと思ったのに、当てがはずれたな」
傍らの香穂子に言うと、彼女は少し肩を竦め、それでも「仕方ないよ」と笑みを浮かべてみせた。
つい先刻、二人は偶然街で行き会った。用事も済んだので、帰るところだという香穂子と、家が同じ方向の土浦は、帰路を途中まで共にすることにしたのだった。
星奏学院の大学部に、ともに進学してから、初めての夏休み。土浦は指揮科、香穂子はヴァイオリン科と、それぞれ専攻を決め、目指す音楽に向かって、研鑽に努めている。わけても、ヴァイオリンを始めて、まだ年数の浅い香穂子は、並みいる優秀な学生の間で、遅れをとるまいと、懸命だった。
そのひたむきさを知る土浦は、できるだけ香穂子を励ましたり、力になったりしたいと考えている。香穂子も、そんな土浦に感謝しているようだ。
高校時代、学内コンクールや、コンサートをともに乗り越えて来た仲間として、また、同じ音楽の道を志す友人として、彼女が自分に深い信頼を寄せていることを、土浦は感じている。
その信頼を、嬉しいとは思う。しかし、正直なことを言えば、香穂子に対して友人以上の感情を抱いている土浦にとって、物足りなく思うのも事実だった。後、一歩、踏み込みたい。友人の一人ではなく、香穂子の心を占める存在になりたい。そんな願いが、もうずっと、熾き火のように、土浦の心の底でちろちろと燃えている。
だが……。ひたすらにヴァイオリンに打ち込んでいる今の香穂子に、自分の気持ちを受け入れる余地はあるのか、また恋愛感情を表に出すことで、これまで築き上げた信頼関係さえ失うことになりはしないか。そうした畏れから、土浦はせっかくの夏休みに、香穂子を遊びに誘うことすら、ためらっているような有様だった。
であればこそ、降ってわいたこの機会を、逃す手はなかった。香穂子と一緒に居る時間を、少しでも引き延ばそうと、土浦は図書館に立ち寄ろうと持ちかけたのだった。
その思惑がはずれて、かなりがっかりすると同時に、自然に、抵抗感なく、香穂子を引き止められるプランを、早速頭の中で土浦は組み立て始めた。
そんな土浦(恐らく不興そうに見えたのだろう)を、香穂子は気遣ったらしく、こんなことを言い出した。
「ねえ、エアコンが効いてるってわけじゃないんだけど、涼しくなれる場所があるの。そこに行ってみない?」
土浦にしてみれば、涼を取ることよりも、香穂子と少しでも長く一緒にいることが、主眼である。断ろうはずがなかった。しかし、露骨に嬉しそうな態度を見せるのも、少々沽券に関わる気がする。そこで、見栄を張って、何ということはないという風を装ってみせた。
「おすすめの場所ってわけだな。いいぜ、そこに行こう」
土浦の返事に、香穂子は、一瞬面白そうに瞳をきらめかせたが、口元で柔らかな笑みに変換して、頷いた。
「じゃあ、こっちだよ」
香穂子が土浦を連れて来たのは。図書館からさほど遠くない、数年前に整備された緑地だった。木々が緑の影を落とし、人工的なせせらぎの中に、幼い子供たちが入って、はしゃいでいた。
香穂子はためらいなくどんどん歩を進めていく。暑さのために、遊ぶ子供の姿もまばらな芝生広場を横断すると、こんもりした緑のトンネルのような物が見えて来た。
「あそこなんだけど」
近づいてみると、格子になった支柱を、トンネルのようにしつらえたところに、何種類かのつる性植物を這わせ、茂らせてあるということがわかった。
「なるほど。自然の日よけってわけだな」
土浦が納得すると、香穂子がにっと笑った。
「それだけじゃないよ」
「へえ? 他に何があるんだ?」
トンネルは二十数メートルほども続き、ちょうど中間になる辺りで、ちょっとした広場になっており、ベンチが数脚設置されていた。そして、そのベンチからさほど離れていないところに、大人の腰より少し上ぐらいの高さの、銀色の傘のような物が立っていた。傘の足下には、少し内側へ傾斜をつけて、直径1メートルほどの円形に、タイルが敷かれている。
香穂子は、その銀色の傘に近づくと、手をかざした。すると、傘からぶしゅうと音を立てて、白い煙のようなものが、噴射された。
「おい、なんだ、それ?」
音に驚いた土浦が問うと、香穂子は気持ち良さそうに、その煙を浴びながら答えた。
「ミストだよ。細かい水の粒が、霧みたいになって出て来るの」
霧が消えた時、確かに涼やかな空気が周囲に生まれた。
「ああ、こいつは、いいな。おまえ、よくこんな場所、知ってたな。俺にもちょっとやらせてくれ」
香穂子に場所を譲ってもらい、真似をして手をかざしてみた。噴き出した霧が当たると、うっすらと肌が濡れる。だが、水の粒がごく細かいため、濡れたといっても、ぐっしょりという感じではない。肌に吹き付けられた薄い水のヴェールはすぐに蒸発し、蒸発する時に、汗と同じ要領で、体温を下げていく。
二人は、霧を浴び、肌が冷える感触を楽しんだ。ひとしきり遊んで満足したのか、香穂子はミスト装置から離れ、ベンチに腰を下ろした。からだを背もたれに預け、両足をまっすぐに伸ばすと、まぶたを閉じた。
そうして、まだ霧と戯れていた土浦が振り返った時には、香穂子はかすかな寝息を立てていた。
「おい、日野?」
あまりに静かなので、不審に思った土浦は、香穂子の傍に寄った。重なり合う緑の葉の影が、香穂子のあまり日焼けしていない頬や、生成りのキャミソールの上に、模様を描いている。微風で葉が揺れる度に、影も動く。薄く開いた唇や、わずかに上下する胸を撫でるように。
「ああっ、たく!」
土浦は、額に手を当ててうめいた。香穂子の眠りを乱さぬように、声を落として。そして慎重に距離を測りつつ、香穂子の座っているベンチに、自分も腰掛けた。
背もたれに手を掛け、長い足を前に投げ出して、頭上を仰ぐ。すると茂った葉の隙間から差し込む夏の光が、万華鏡のように、揺らめいている様子が、土浦の視界を埋めた。
気持ちを落ち着けるために、そうした姿勢を取ったのだが、それでも、どうしても、隣にいる香穂子を意識せずにはいられない。
何度か、止められない視線を、香穂子に走らせ、土浦はおもむろに腰を上げた。香穂子に向き合う位置に立ち、そっと独りごちた。
「……俺の前で、そんなに無防備にするなよ」
胸の中で膨らむ思いを抑えきれず、手を伸ばして、香穂子の頬に触れた。踊る影のリズムに合わせるように、ピアニッシモで鍵盤を叩く時より優しく。
すると香穂子は、ほんの少し身じろぎをし、目を開けた。
「あ……」
マズイと、手を引っ込めるより先に、香穂子の瞳が、まっすぐに土浦の瞳を見返した。瞳の中の光にとらわれたように、土浦が息を詰めた時、香穂子がほんのわずか顎を上げた。睫毛を再び落として。
そのしぐさの意味を、土浦は自分に都合良く解釈していいものか、しばし逡巡した。だが、先ほど触れた頬よりも、もっと柔らかいと予想される、桜色の唇の誘惑に勝てなかった。
ぎこちなく香穂子の肩に手を掛け、唇を寄せると、小鳥が水を飲むように、息を吸い込むのが伝わって来た。そのあえかな呼吸に誘われるように、香穂子のきゃしゃなからだに腕を回し、抱きしめた。腕の中で、香穂子のからだはほんの少し強ばったが、すぐに弛緩して、胸にすっぽりと収まった。
日射しと影がゆらゆらと、二人のからだの上を走る。緑のトンネルは、二人だけの世界になった。
もったりしたクリームを舌にのせると、甘さと冷たさが、口の中に広がる。日射しの下で、ソフトクリームを食べるのは、スピードが勝負だ。今、空に浮かんでいる入道雲のようなクリームの山を、慎重かつ素早く崩していく。
「おいしいね」
口のまわりに付いたクリームをなめながら、香穂子が笑った。ちらりとのぞいた赤い舌が下唇をなぞった時、土浦は背筋がぞくりとするのを感じた。……先ほどの接吻の感触がよみがえって来る。
唇を合わせていた時、トンネルの入り口の方から、子供の声がして、二人は慌てて身を離した。その直後に、日焼けした数人の小学生が、我先にミスト装置に取り付いたので、二人は苦笑しつつ、その場を明け渡したのだった。
緑の陰をもたらしていたトンネルから踏み出すと、一層暑さが募る気がした。香穂子の目は、売店の軒先に立てられたソフトクリームののぼりに、吸い寄せられた。そうして、すぐに、二人してソフトクリームをなめることになったため、土浦は、先刻来、胸にわいた疑問を、香穂子に問いただすことができなかった。それは、香穂子が、なぜ、自分に口づけを許したのか、ということだった。満足そうに、今やコーンの部分をかじっている香穂子を眺めながら、後少しだと、土浦は考えた。ソフトを食べ終わったら、この疑問を香穂子にぶつけてみよう。
と、その時、香穂子が声を上げた。
「土浦君てば! クリームが垂れてるよ!」
「え? うわ、やべ!」
香穂子に注意されて、土浦は手首の上辺りまで、すでにクリームが流れ出しているのに気づいた。ぼんやり香穂子を見ていた間に、クリームの山の片側の岸壁が崩れ始めていたのだ。慌てて、クリームの垂れた手をなめると、汗と混じって、少し塩っぱかった。
「しょうがないなあ」
許容の笑みを浮かべる香穂子の前で、土浦はしばらくソフトを食べることに集中し、それ以上手元を汚さずに食べ終わった。
「俺、ちょっと手を洗って来る」
「うん」
売店のそばにある水飲み場に、土浦が手を洗いに行くと、後ろから香穂子もついて来た。二の腕の辺りまで、両手をほとばしる水で流し、ついでに顔を洗うと、香穂子が自分のタオルハンカチを「はい」と差し出してくれた。
「ああ、いいよ。おまえのがぐしょぐしょになっちゃうだろ」
土浦は持ち歩いているバッグを探り、スポーツタオルを見つけると、それで水分をごしごし拭き取った。その動作を見守りながら、香穂子が笑った。
「クリームもしたたるイイ男だったね」
「抜かせ!」
一言切り返すと同時に土浦は、水道から勢いよく水を出し、蛇口に親指を当てて、放射状の線のようになった水を、香穂子に向けた。香穂子は、きゃあきゃあと笑いながら、逃げ回った。
飛び散った水しぶきが、霧散していくうちに、小さな虹ができた。香穂子の笑い声、跳ね回る華奢な姿、夏の日射しで浮かび上がる虹……。胸が満たされるのを、土浦は感じていた。
「ああ〜、土浦君のせいで、濡れちゃったよ」
少し唇を尖らせながら、香穂子が自分のタオルハンカチで、顔や首筋、腕などを拭う。
「水もしたたるイイ女になったじゃねえか」
「もお〜!」
香穂子が、手を挙げて、土浦を叩こうとする。自分に向かって、振り上げられた小さな拳を、手のひらの中に握り込み……土浦は切り出した。
「日野、聞いてもいいか?」
それまでの、じゃれあいムードから空気が変わったのを感じたらしく、香穂子の目が戸惑いの色を浮かべる。
「何?」
「その……なんで、さっき、俺を受け入れたんだ?」
香穂子は、しばらく質問の意味を考えたようだったが、やがて腑に落ちたのだろう、先刻と同じ、光を宿した目で土浦を見返した。
「……そうするのが、自然なような気がしたからだよ」
「自然……?」
「そう、あの時……目の前に土浦君が立っているのが目に入った時、そうするのが、自然なことに思えたから。そして今も……こうして一緒にいるのって、自然だなって感じてる」
あどけないような、満ち足りたような笑みとともに、香穂子は自分の拳を包んだ土浦の手に、空いた方の手を重ねた。
「……だから、これからも、傍にいてね?」
飾り気のない、だが、気持ちのこもった言葉。土浦も、ごく簡単に答えた。
「ああ、そうする。お前がそれを嫌がらない限り」
すると香穂子は、小さく頷いた。
「うん、そうして」
二人の間に、やさしい風が生まれる。
土浦の胸の底に、もはやじりじりとした焦りはなかった。時に、悩み、苦しむことはあるとしても。今日ともに過ごした数時間のように、自然に、無理なく香穂子の傍にいることができる……その確信が芽生えたからだ。
ありふれた夏の日の昼下がり。
ほんの少し、でも確かに、色あいの違う風が、今、流れ始めた。
(終わり)
いろいろ、ごめんなさいなお話です。土浦、ヘタレてるし。
こんな大学生、今時いるかよ とか 日記でほざいていた桃色妄想はどうした? とか、もろもろ(汗)
実を言うと、つらつら考えていた、いくつかの展開が、どうも、あちらこちら”被る”気がして。
んで、被らなさそうな辺りを、引き出しから出してみたら、こーゆーことになりました。今度書く時は、もう少し色気が欲しいですね……(;;)
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