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確か今年の初めぐらいに書いたのが、小話フォルダにありました。
習作のようなものですが、コルダの更新をこのところしていませんし、
(コルダに限らず)しばらく新しい物を仕上げられないと思うので、
アップしておきます。

当方にしては、めずらしくマトモな加地だな、と(笑)

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「こころの音」

「よいしょっと」
 英和辞書が入っているせいで、普段より二割り増し重いセカンドバッグを、私は左から右へ持ち直した。その瞬間、手から肩まで電流みたいに、痛みが走った。
 実は、右の首筋から肩に掛けて、寝違えちゃったんだよね。うう、よりによって、こんな辞書持って行かなくちゃならない日に、寝違えるなんてついてない。
 目の前に続く坂道を見上げて、校門までの距離を目で測った。あ〜、まだやっと半分ちょいじゃない。思わずため息をついて、肩を落としたその時だった。
「おはよう、日野さん」
 加地君だった。朝の光に、明るい色の髪が透けるみたい。坂道ですでに手持ちのエネルギーを消費して、げんなりしている私と違って、洗い立てのシャツみたいに、しゃっきりぱっきりしていた。
「おはよう、加地君」
 まぶしいものを見るような気分で、私は加地君に答えた。すると加地君は、ちょっと心配そうに、きれいな眉をひそめた。
「何だか、元気ないね? 大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと荷物が重いだけ」
 言いながら私は、バッグをちょっと持ち上げてみせた。その瞬間、また痛みが走った。
「あ、痛っ!」
 思わず顔をしかめると、加地君は本格的に心配して、私の顔を覗き込んだ。
「どうしたの? どこか痛むの?」
「あ〜、平気。ちょっと肩を寝違えただけだから」
 言い終えるより先に、加地君の手がすっと伸びて、私の手からセカンドバッグを取った。
「僕が持つよ。そんなに痛いのに荷物を持たせるわけにはいかない。湿布は貼ってる?」
「え〜と、朝、時間がなかったし、多分すぐに治るし……」
「ダメだよ。学校に着いたら保健室に行って、湿布しよう。もっと大事にしなきゃ」
 言いながら加地君は、私の肩のあたりに目を走らせた。
「君の音色を支える大事な肩なんだから」
 で、気が付いたら、私の手から全部の荷物が消え失せていた。
「か、加地君、いいよ〜。反対の手は何ともないんだし」
「いいから、いいから」
 荷物を取り戻そうとする私の手をかわしながら、加地君の言葉は続く。
「あ、それに、今日は無理しない方がいいね。放課後、一緒に練習しようって言ってたけど、また今度にしよう」
「でも……」
「君の音色を間近に聴いて、合わせられないのは残念だけど、君のコンディションの方が大事だからね」
 この時、私はきっと不安そうな顔になったんだと思う。加地君は、とびきりの笑顔と一緒に、まっすぐに私を見つめて言った。
「大丈夫、コンサートに間に合うように、僕がきっちりフォローするから。今日は、肩をいたわって、ね?」
 ……心強い言葉。胸にふあっと安心感が広がるのと一緒に、顔が熱くなるのが、わかった。
「さあ、行こう。遅れちゃうよ?」
 加地君は、両手いっぱいに自分のと私の荷物を抱えて、苦もない様子で歩き始めた。速くもなく、遅くもない足取り。多分、私が遅れたら、きっと立ち止まって、待ってくれる。
 そんな惜しみないやさしさに、私は何を返せばいいんだろう? 私のヴァイオリンの音色が好きでたまらないから、聴かせてくれるだけでいいって、加地君は言うけれど。
 ほんとに、それでいいの? それに……。
 私はひきつるように痛む右肩を押さえながら、思った。
 もし、私がヴァイオリンを弾けなくなったら……。
 加地君の好きな音色を奏でられなくなったら、このやさしさはなくなってしまうの?
 だったら、やさしくなんてしないでほしい。
 このままやさしくされたら、好きに……なってしまうから。
足が止まってしまった私を、加地君が振り返る。
「どうしたの? 日野さん?」
 その笑顔に、自分の心の一部が、めためたと崩れていくのがわかる。……どうしよう? もう手遅れかもしれない。
「日野さん?」
「あ……」
 立ちつくしてしまった私の方へ、加地君が一歩二歩と、近寄ってくる。胸がずきりと痛んだ。
その時、不意にどこからかヴァイオリンの音色が聞こえて来た気がした。
……今、練習している曲? どこから? 
 どうしてだか、加地君が持ってくれているヴァイオリンに目が惹きつけられた。
……呼んでいるの? そうなの?
 ふっと、霧が晴れたように気づいた。ああ、そうなんだ。
……今はもう、ヴァイオリンは、私の心。私そのもの。
 そこに思いを込めればいいんだ。きっと、加地君は聴き取ってくれる。
 心がふうっと穏やかになるのを感じた。大丈夫。
 私は、加地君に微笑み返した。
「ねえ、無理しないように、気を付けるから、放課後、ちょっとだけヴァイオリン弾いちゃダメ?」 
 加地君は、ちょっと目を丸くしたけれど、すぐにふわりと笑みを広げた。
「日野さんは、ほんとうにヴァイオリンが好きなんだね。じゃあ、無理しないように、僕が監視していてあげる」
「うん、そうして」
 心の中で続ける。傍にいて。私の音を、心を、聴いて。
 言葉にできない思いも、きっと私のヴァイオリンが伝えてくれる。
 確かな思いを胸に、私は加地君に追いつき、その傍らを歩き始めた。
                                (終わり)


加地は、まあ、普通にモテ要素を備えた子なので、こういう感じも当然有りだとは
思うのですが。
いかんせんゲームに輪をかけて、漫画版の加地はイタイので。
自分で書いた物なのに、ムズがゆい気がします。
それもどうかと思いますが^^;

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