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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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お誕生日には、結局間に合いませんでしたが、
なんとか終わりました〜v

トロワ設定のヴィエ様とチャーリーさんのお話です。
ずっと前に、恭極杏子さんにお約束した捧げもの。
(その節は、ありがとうございましたv )
実は、ヴィエ様とチャーリーさんの友情話(not BL)
ということだったのですが〜。
コメディっぽくなってしまいました、あははっ(笑ってごまかす)


3周年記念のフリーSSのトロワ編は、別のものを準備中です。
需要があるのやら? って感じですが、もう少しお待ち下さいませ。

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「君の笑顔が見たくて」


 大龍商店の奥。特別な顧客しか通さないVIPルームの空気は、ぴんと張りつめていた。
 黒檀の丸テーブルの上に広げられた、数十本ものルージュ。念入りに爪を染めた長い指が、そのうちの一本をつまみ取ると、チャーリーは思わず息を飲んだ。商品を試してもらうのは、これが初めてではない。だが、そのたび緊張のため、冷や汗が流れる。
“美”に関しては、確固たるポリシーと、誰よりも厳しい批評眼を持つ彼の眼鏡に、果たしてかなうだろうか……。気に入らなければ、さりげなく、だが、ぐっさりと良くない点を指摘される。OKならば、その商品は、ヒットを約束されたも同然、安心して、大量入荷の発注を掛けられる。
 是か、非か、いずれにせよ、彼の批評は有意義なのだが、できるかぎり、ばっさりやられたくはないと、つい身構えてしまう。
「オリヴィエ様、どうでっしゃろ?」
 ルージュを仔細に眺め、試しに手の甲に引いてみたりしている、夢の守護聖に、チャーリーはおそるおそる尋ねた。
「ん〜、そうだね。悪くはないと思うけど……。アルカディアの住民の肌色って、ちょっと黄色みがかってるんだよね。その肌色に合う色ってなると……」
 自分の手の甲に乗せてみたルージュの色合いを眺め、頭の中のイメージと重ね合わせて、しばしオリヴィエは考え込んでいた。そんな彼の視線をたどり「そうですか……」と、チャーリーが手元を覗き込んだその時だった。オリヴィエは、はっとしたようにチャーリーの顔をまじまじと見つめた。
「な、何ですのん?」
 強い視線を当てられて、どぎまぎするチャーリーの目の前で、オリヴィエの形のいい唇の端が、悪魔的な角度で、つり上がった。
「うふふ〜、チャーリー、よく見たら、あんたの肌の色って、ココの人たちとおんなじ系統。……ちょうどいいじゃない」
「は? それは、どういう?」
「私より、あんたの方が、いいサンプルになるってことだよ。さ、じっとしな。今から、このルージュを実際にあんたに塗って試すから」
「えええっ! ちょ、ちょっと待って下さいよ、オリヴィエ様! 俺は、オリヴィエ様と違って、そういう趣味は……」
「何、言ってんの! あんまり化粧の習慣のないココの女性たちに、化粧品を提供したら、喜ばれるんじゃないかって言い出したのは、あんたじゃないか。そういう場合、よく似合うものをセレクトするってのが、肝腎なとこじゃない。これもアルカディアの花のような女のコのため! わかったら、おとなしくメイクさせな!」
「いや、それは、そうですけど……。って、メイクって……口紅だけ、ちゃいますのん〜?」
「んふふ〜、そりゃそうだよ。メイクってのは、ルージュだけじゃ成立しないんだからさ」
「ちょ、ちょっと待って下さい! ああ〜〜〜っ!!」
 美への飽くなき探究心のスイッチが入ったオリヴィエから、逃れられるはずもなく。チャーリーは、餌食、いや、実験台にならざるを得なかった。
「うん、イイ感じ。ルージュは、このラインのものでいいよ。後、シャドウは、ベーシックで使いやすい、コレとコレを基本に、応用のきくのを……」
 オリヴィエがてきぱきとサンプルを選んでいく横で、さながら生けるキャンバスのごとく、あらゆるメイクパターンのモデルとなったチャーリーは、すっかり脱力していた。
「オリヴィエ様〜〜。もう、よろしいやろ、この化粧、落としても。俺、もう、何か自分の元々の顔、忘れそうですう〜〜」
「え〜、落とすの〜? 今のあんたの顔は、この私のメイクテクを惜しみなく注ぎ込んで完成した、いわば芸術品だよ。せっかくキレイなんだから、もう少し、そのままにしときなよ」
「俺には、芸術はわかりません! それにコレでは、接客できません! 俺んとこは、昼間の健全営業で、そーゆー店と違いますから!」
「ちょっと、あんた、それ、どういう意味〜〜?」
「あ、ええと〜。メイクを試すのに、かなり時間かけましたし、そろそろお腹も空いたんちゃいますか? 軽いお食事でも、持って来ますわ。ほな!」
 そう言うと、チャーリーは脱兎のごとく、部屋を脱出していった。オリヴィエは、ふんと鼻を鳴らした。
「逃げたね、チャーリー。まあ、でも、確かにそろそろ空腹かも。何を食べさせてくれるのかな〜?」
 しばらくして、素顔に戻ったチャーリーが、何やらたくさん、ワゴンにのせて、運んで来た。
「どうも、お待たせしました〜! ささ、どうぞ、どうぞ」
 言いながら、チャーリーは、テーブルの上に、料理の皿を並べ始めた。 
「ああ、アリガト。……って、あんた、また随分とバラバラなメニューだね」
「バラエティ豊かって、言うて下さいよ〜」
 と、チャーリーは言ったが、確かに統一性はなかった。湯気のあがっているたこ焼き、きつね色に焼けたホットサンド、フルーツポンチ、と、なぜか刺身……。
「ま、いいか。いただきま〜す」
 勧められて、まずホットサンドに手を伸ばして、オリヴィエは「へえ」と驚きの声を上げた。
「焦げ目が、パンダの絵になってるんだね、コレ」
「そうです〜。このホットプレートメーカーで作りました〜。お子様が喜んで、モリモリ食べてくれること、間違いなし! 具を工夫したら、栄養も満点ですわ」
「私は、お子様じゃないんだけど……。あ、でも、おいしい」
「そうでっしゃろ〜? んじゃ、次はこっちのたこ焼きをどうぞ。あっついですから、気をつけて下さい」
「じゃあ、頂くよ。あちちっ! 中からトロットロのが飛び出して来た。しかも表面はカリカリ。絶品だね!」
「いや、さすがオリヴィエ様、ようわかってはる〜。このたこ焼き器はですな、フッ素加工のお手入れ簡単であるにも関わらず、プロ仕様の銅板の焼き加減を再現した逸品なんですわ〜」
「フッ素加工? 銅板? 何、ソレ……?」
「あや、ちょっと専門的すぎましたか? ざっくり言うたら、プロの焼き加減を、ご家庭で手軽に、ちゅうことですわ。さあ、次はどれ行きましょ?」
「……ちょっと待って、チャーリー。……あんた、さっきから、自分のとこの新商品で作った料理、私に試食させてない?」
 オリヴィエの疑いの視線に対して、チャーリーはにんまりと笑った。
「そら、オリヴィエ様、俺の顔、さんざんオモチャにしはったんですから、それぐらいは協力してもろても、よろしいやん」
「ちょっ……! オモチャって、人聞きの悪いこと、言わないでよ! それに、あれも販売促進の一環じゃないのさ」
「販売促進と、オリヴィエ様の趣味の一環ですな」
「うっ……!」
 図星を指されて、一瞬オリヴィエが言葉に詰まったすきに、チャーリーは、得意のマシンガン・セールストークを展開した。
「さてさて、こっちの刺身はですな、何と、俺が魚から作りましたんやで。ほら、これさえあれば、ウロコも落とせれば、魚の皮も剥けるっちゅうアイデアグッズ! 安くて新鮮な魚で、あっちゅう間に、本格的な刺身ができまっせ。そんで、こっちのフルーツポンチが、また美容と健康、そしてお子様の成長にも、効果バツグンのアイデアがありますねや。ささ、オリヴィエ様もどうぞ〜」
 立て板に水のように、押しまくられて、あっけに取られていたオリヴィエだったが、目の前に新製品のフルーツポンチを突きつけられるに至って、ようやく自衛のために反撃に出た。
「フルーツポンチにしてはあり得ない、その色、何……?」
「ふふん〜、お子様にも飲みやすく、っていうことで、青汁をフルーツポンチのシロップにしたててみたんですわ〜。野菜嫌いのお子様も、コレなら、バッチリ! ていうことで、ささ、食べてみて下さい〜」
「いや、目の着けどころはいいと思うけど、青汁はやめた方が……うえっ、イラナイ、勘弁してよ〜〜〜!」
 抹茶色のうえに、何やら青臭いフルーツポンチを前に、オリヴィエが絶叫した、その時だった。ジリリーンと呼び鈴が鳴った。
「あ、お客さんや〜」
 チャーリーは、いそいそと店先に出て行き、オリヴィエは危機を脱して、ほっとした。
「あ〜、助かった。まったく、こんなもん食べさせられたら、たまんないよ。今のうちに、逃げようっと」
 物音を立てぬように、そっとオリヴィエは、裏口から逃げ出そうとした時、店の方から、客とチャーリーのやり取りが、切れ切れに聞こえて来た。客はどうやら子供らしく、チャーリーは普段より声のトーンを落とし、やさしく話しかけているようだった。
「大丈夫やから……な……」
「でも……」
 かぼそい声に続いて、すすり泣きが聞こえ始めた。
(チャーリーってば、子供相手に、何、やってんだろ? ああっ、もおっ、あんな悲しそうな声聞いたら、気になって帰れないじゃないかっ)
 オリヴィエは踵を返し、VIPルームから店の方へと出た。カツンと鳴らしたヒールの音に、チャーリーがこちらを振り向いた。
「あ、オリヴィエ様……」
 見ると、チャーリーが、腰を落として、目の高さに合わせて、向き合っているのは、10歳ぐらいの少女だった。アルカディアの清楚な民族衣装を着て、おさげ髪が愛らしい。だが、桃のように丸いその頬は、涙のために真っ赤になってしまっていた。
「前から、ようウチに買い物に来てくれてる子なんですわ」
「……ふうん」
 説明を続けようとするチャーリーを、オリヴィエは止めた。
「いい、この子に直接聞くから。ねえ、あんた、どうしたの? そんなに泣いちゃ、カワイイ顔が台無しだよ?」
 突然現れた、華美な身なりの見知らぬ大人に話しかけられて、少女は怯えと戸惑いの混じった目で、オリヴィエをまじまじと見た。だが、安心させるように、微笑みかけると、素直にオリヴィエの差し出したハンカチを受け取り、礼を言った。
「……ありがとう」
「いいよ、そのハンカチは、あんたにあげる。ところで、なんで泣いてるの? よかったら話してごらんよ。力になれるかもしれないよ?」
 すると少女は、意見を求めるように、チャーリーの顔を見上げた。
「このお方やったら、大丈夫や。俺が保証する。だから、あんたさえよかったら、話してみ」
 チャーリーの力強い言葉に、少女はこっくりとうなずき、幼いながら、懸命に、事情を話し始めた。
「ママが……ママが、すっかり元気をなくしちゃったの……」
 少女の話をまとめると、こういうことだった。このところ、アルカディアで頻繁になっている地震(エルンストが霊震と名付けた)に、少女の母親は、ひどく脅えて、将来への心配を訴えるようになった。
「この地震は、霧に閉じ込められた以上にひどいことが起こる前触れじゃないかしら。アルカディアは、私達は、これから一体どうなってしまうの?」
 そうして母親は、不安に駆られるあまり、気鬱になり、家からほとんど外へ出ないようになってしまった。上の空で家事はこなすものの、青い顔をして、少女のこともあまりかまいつけない。母親のそんな姿は、少女を悲しませた。
「……前のようなママに戻ってほしいの。どうしたら、いいの?」
 話しているうちに、胸が詰まったのだろう、少女は泣きじゃくり始めた。
「ツライなあ……」
 チャーリーが、そっと少女の頭を撫で、オリヴィエと顔を見合せた。銀の大樹の異変以来、アルカディアの住民の間に、不安が広がっているのは知っていたが、こんな幼い少女が追いつめられている様は、見るに耐えなかった。
 女王コレットが育成を進めるしか、この大陸を救う手だてはなく、彼女が懸命にこの事態に取り組んでいることは、傍で見ているオリヴィエもチャーリーも、承知している。
 少女と母親、そしてアルカディアのすべての住民を、未来へ導くためには、その育成の結果を待つほかはない。オリヴィエもチャーリーも、コレットが必ずやり遂げることを信じていたが、それを今少女に説明したとしても、どれほど伝わるのか、またそれで彼女の悲しみを解消できるとも思えなかった。
 オリヴィエは、少女を見つめながら、しばらく考えを巡らせていた。問題の根本解決はできないとしても、何とか少女と母親を、元気づけてやりたかった。
 と、その時、あるアイデアが頭に浮かんだ。チャーリーに「ちょっと待ってて」というように、目配せすると、先ほどまで居た奥の部屋へと入って行った。
(オリヴィエ様? 何をしはるつもりやろ?)
 少女の背中を、軽くさすってなだめながら、しばらく待っていると、オリヴィエが腕いっぱいに、先ほど試していた化粧品を抱えて来た。
「オ、オリヴィエ様、それ、まさか……!?」
「ふふん、いいから、あんたは黙って見てな」
 チャーリーにウインクをしてみせると、オリヴィエは、少女の顎を人差し指でくいと持ち上げた。
「え……?」
「ほら、さっき言っただろう、泣いたらせっかくのカワイイ顔が台無しだって。いい? 今から私があんたに魔法をかけて、あ、げ、る。私の魔法にかかったら、あんたの中に眠ってるかわいさが輝くよ。さあ、顔を上げて」
 目をまんまるに見開いた少女の涙を拭うと、オリヴィエはごく薄く、化粧を施していった。
「爪もキレイにしておこうね〜」
 桜貝のような少女の爪を磨き、艶を引き出した。
「ほうら、できた。見てごらん」
 数十分後、オリヴィエが差し出した手鏡の中には、元々の可憐さを損なわず、光のベールをまといつけたように輝く、少女の顔があった。
「……キレイ。これが私?」
「そうだよ。ねえ、よくお聞き。私は元々あんたが持ってるかわいさに、働きかけただけなんだ。それで、こんなにキレイになっただろう? 
このアルカディアも、あんたと同じ……。美しい空、美しい海、この大地は元々すごいエネルギーを持っている。ねえ、アルカディアの大地を目覚めさせ、幸せであふれさせるために、私なんかより、もっとすごい人が、今、力と愛情を注いでる。
いい方向に変わらないはずがないだろう? 地震は、この大陸が大きなしあわせを手に入れる前の準備運動みたいなもんだよ。だから……恐れないで。明日を信じて、頑張ればいいんだよ」
 オリヴィエの言葉を聞くうちに、少女の顔が、明かりがともったように、明るくなった。
「何か、元気が出て来た。……ありがとう」
「うん、いい笑顔。やっぱり笑った方がカワイイよ。ところで、あんたのお母さんは、あんたに似てるんだろうね?」
「え? うん……よく似てるって言われる」
「だったら、このルージュを持ってお帰り。きっとあんたのお母さんに似合うよ。お母さんにも、キレイの魔法をかけてあげるんだ、いいね?」
「うん!」
 二人の様子を、ずっと傍らで見守っていたチャーリーが、パチパチと手を叩いた。
「いや〜、さすがオリヴィエ様。俺、感服しましたわ。な、オリヴィエ様のおっしゃる通り、あんたは笑った方がカワイイねんから、元気出さんとアカンで。そや、俺からも、あんたの役に立ちそうなモン、あげるわ」
 ポンと手を打って、そう言い残すと、チャーリーは店の奥へ引っ込んだ。
「?」
「あれれ? あいつ、何するつもりだろうね?」
 少女とオリヴィエが、顔を見合せているうちに、チャーリーは戻って来た。
「じゃじゃーん、コレや〜!」
 チャーリーが持って来たのは、先ほどオリヴィエに出したたこ焼きと、それを作ったたこ焼き器だった。
「ちょっと冷めてもうたけど、ウマイで、コレは。はい、あーんしてみ」
 つまようじに刺したたこ焼きを差し出されて、少女は一瞬戸惑ったが、素直に口を開けた。
「んん……もぐっ。……おいしい!」
 少女が、また笑顔になるのを見て、チャーリーは勢いづいた。 
「な、な、ウマイいやろ。このたこ焼きが、これ使ったら、そらもう、カンタンに、できるねんで。これこそ、誰でも、プロ並みのたこ焼きが作れる究極の家庭用たこ焼き器『OK! タコやん!』 一家に一台! 家族団らんはこれで、キマリ!あんたも、これで、お母さんに、うまいたこ焼き作ったげるんや。お母さんのほっぺも心も、ほっかほかの、トロトロになるで〜」
「チャーリー……」
 (なるほどね)と納得しつつも、オリヴィエは内心(あんたってば、もう少しマシなネーミングはなかったのかい)、(まあ、あのフルーツポンチを勧めなかったのは正解だけど)と呟いたが、口には出さずにすませた。
「この『OK! タコやん!』は、ちょっとばかり重いから、あんたの家まで、俺が配達したろ。そのついでに、たこ焼きの焼き方も、伝授したるわ」
「ほんと? おうちまで来てくれるの?」
「ああ、俺も、あんたの笑顔を、もっと見たいしな。ほな、行こか〜」
「うん!」
 たこ焼き器とオリヴィエ推薦のルージュを携え、少女の肩を抱くようにして、店を出て行く時、チャーリーはオリヴィエの方に向かって、ぱちんとウインクを一つしてみせた。
「ほな、オリヴィエ様、行ってきます〜」
「ああ、チャーリー、後のことは頼んだよ。それと、ねえ、あんた、もしお母さんが私にメイクしてほしいって言うなら、ここへ連れておいで。ばっちり、キレイにしてあげるからさ」
「うん、ありがとう」
 少女は嬉しそうにうなずき、手を振りながら、チャーリーとともに、家路をたどって行った。それを見送りながら、オリヴィエは、小さく笑った。
「……たく、チャーリーってば、アレで私に対抗したつもりかな? ほんと、わかりやすいんだから」
 くくっと笑い声を洩らした、その時だった。部屋の天井から下がっている照明が、かたかた音を立て、大地が身震いするかのように、揺れた。オリヴィエは、机の上に手を着いて、からだを支え、周りを冷静に見回して、どんな情況にも対応できるように、備えた。
 幸い、揺れはたいしたこともなく、すぐに収まったが、オリヴィエの眉には憂いが浮かんでいた。少女の母親をはじめ、アルカディアの住民が、明日をも知れぬ不安に駆られていることに、思いを致さずにいられなかったからだ。
(みんな、負けるんじゃないよ! 私も、この大陸のために、できるだけのことは、するからさ)
 そう、心の中で、アルカディアの民に語りかけたオリヴィエの唇には、今は目にも鮮やかな、力強い笑みが浮かんでいた。
(皆で頑張れば、この大陸に、明日は来るよ。きっと、ね!)


 それから数日後の昼下がり、大龍商店のVIPルームで、またチャーリーとオリヴィエは角を突き合わせていた。
「ほんと、わかんない男だねえ。キレイは、人々に夢と希望をもたらすんだってば」
 と、オリヴィエが言い募れば、チャーリーは、はっきりきっぱり反論した。
「いや、そら“美” は大切でしょうけど、それでは腹はふくれませんやん。ていうか、それと俺がまたメイクの実験台になるって話は、また別ですがな。ええ、もう、その件については、ナシっていうことで」
「ケチ〜!」 
 そんな応酬が続いていた時、店頭に客が来たことを知らせる呼び鈴が鳴った。
「あ、お客さんや、はいはい、ただいま〜」
 スキップするように、部屋を出て行ったチャーリーだったが、行ったと思ったら、すぐに戻って来た。
「オリヴィエ様、ちょっと! ちょっと出て来て下さい!」
「ん〜? 何〜? そんなに慌てちゃってさ」
「ええから、早よ、おいで下さい!」
 チャーリーにせき立てられて、vipルームから出て来たオリヴィエは、思わず声を上げた。
「あ、あんたは……!」
 そこにいたのは、先日オリヴィエがメイクをし、チャーリーがたこ焼き器をプレゼントした、あの少女と……少女に面差しの似た婦人だった。
「こんにちは。あの時はありがとう」
 少女は、見違えるような明るい笑顔で、オリヴィエとチャーリーに、ぺこりと頭を下げた。それに続いて、婦人が言った。
「お二人とも、ご親切にして下さって、ありがとうございました。お二人が下さった品物と、お言葉を伝え聞いて……。先のことをあまり悲観せずに、頑張ろうという気持ちになれました……。ほんとうに、ありがとうございました」
 そう言って微笑む婦人—つまり少女の母親は、顔色がまだ青ざめてはいたが、オリヴィエが想像したように、なかなかに美しかった。
「いいや、お礼には及ばないよ。私たちのしたことが、あんたの役に立ったんなら、嬉しいよ。あんたにも、この子にも、笑顔でいてほしい。それが、私も、このチャーリーも、願うことなんだ」
「ははっ、オリヴィエ様に、全部言われてもうた。けど、その通りや。お客さんの喜んでくれる顔が、俺にとって一番の報酬やからな。ところで、奥さん、お子さんは、この子だけですのん? お姉さんは、いてませんのん? その、エエお年頃の……」
 チャーリーの脇腹を、肘で小突くと、オリヴィエはにっこりと母親に笑いかけた。
「私が選んだルージュを使ってくれてるんだね。思った通り、似合うよ。ね、もっとキレイになりたくない? あんたさえ、よかったら、このオリヴィエが心を込めて、ばっちり魅力を引き出すフルメイクをして、あ、げ、る」
「え? いいんですか、ほんとに? 実は……娘がしてもらったメイクを見て、すっかり驚いてしまって……。私もお願いできたらと思ってたんです」
「モチロン、OKだよ! そうと決まったら、早速始めよう。チャーリー、奥の部屋、借りるよ!」
「ああ、そら、もう、どうぞご自由にお使い下さい」
 水を得た魚のように、楽しげに、母親を伴っていくオリヴィエの姿に、チャーリーは、ほっと胸を撫で下ろした。
「いや〜、オリヴィエ様のメイク欲が、正しい相手に向かって、よかったわ。あの役、こっちに振られるのは、ご勘弁やからな〜」
 思わずにんまりしたチャーリーの袖を、少女が引っ張った。
「お兄ちゃん、私、たこ焼き、上手に焼けるようになったんだよ」
「おお〜、そうか、そら良かった! そしたら、そやな〜、今日はうまいホットサンドと、からだにいいフルーツポンチの作り方、教えたるわ!」
「うん、教えて!」
「よっしゃあ! ほな、あんたも奥へおいで! ところで、あんたって、一人っ子? お姉さんは……?」
 昼下がりの大龍商店に、それからの数時間、明るい笑い声が絶えることはなかった。


 その夜。王立研究院で、アルカディアの幸福度を計測していたエルンストは、軽く瞠目した。
「おや……! 今日は、ことのほか、幸福度の上がり幅が大きい。育成の成果以外に、何か別の要因が働いているのだろうか?
原因を追究せねばならないが、実にいい傾向だ。この調子で、順調に幸福度が上がっていけば、きっと……!」
 幸福度が上がった要因が、住民の笑顔であることを、エルンストが特定できたかどうかはわからない。だが、二人の女王とその補佐官、守護聖と協力者たち、そしてすべてのアルカディアの住民の想いが、この大陸の傷を癒し、活力を甦らせることは、数値以上に間違いのないことだった。
 
 
 夜を越えて、アルカディアの海原の、青い水平線から、今日も陽は昇る。
 明けそめる光は、告げる。人々が希望を失わない限り、アルカディアの未来が閉ざされることはないのだ、と……。

                             (終わり)




企画のために「トロワ」を再プイした時に感じたことを、
反映しております。
日向の丘の、一連の恋愛イベント、いいよね〜vvv
アルカディアの空と海は、美しい……。
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