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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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加山Y三氏の楽曲のイメージで、遥かの小話を書いちゃおうという
企画の第三弾です。今回の楽曲は、「海、その愛」(歌詞は、こちら
そんで、海の男って言ったらってことで、遥か2の翡翠さんと花梨ちゃん
で書いてみました。
実は、でろ甘い話を書きたいと突発的にスイッチが入りまして^^;
私にしちゃ、まあそういう路線に行ったかなと思われます。

※ぬるいですが、性描写がありますので、苦手な方はご注意下さい。

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「もうひとつの海」


 彼のことを、つかみどころのない人だと、花梨は見ていた。
 京を統べる為政者が、帝派、院派に分かれ、不和と不穏が漂う京。それに加えて、異常気象や跋扈する怨霊と、打ち続く異変に、力ない庶民は、いよいよ末法だと、絶望しか見ることができなくなっていた。
 そんな京にあって、八葉の一人でありながら、彼は、どこまでも飄々としていた。「京が滅びようと、私には関係のないことだからね」と、平然とうそぶいて、謹直な対の八葉の怒りを買うことも、しばしばだった。
 だが、その唇から紡がれる言の葉は無関心でも、彼の手も、背中も、底深い力を蓄えて、大きかった。
「君は、そこで見ておいで」
 余裕綽々で、笑みさえ浮かべながら、彼がひとたび流星錘を操ると、それはまるで生き物のように宙に舞って、確実に敵をしとめた。彼にとっては、怨霊との戦いも、一汗かくためのスポーツに過ぎないように見えた。
 けれど、京を分断する結界の要に置かれた、強力な御霊をを相手にした時は、さすがにそうはいかなかった。骨髄に染むほどの深い恨みを抱いた御霊の、強大な負の力は、花梨を、八葉たちを、呑み込まんばかりだった。
 劣勢に立たされ、地に膝を屈しそうになった時、彼は身を挺して、花梨を守ってくれた。長く豊かな髪を翻し、広い背中が盾となって、目の前にすっくと立つ。苦しい戦いの中で、どれほど心強かったか、しれない。
 だが花梨は、不思議だと感じていた。何ものにもとらわれない、自由人であることを標榜している彼が、どうしてそんな風に、命がけで自分を守ってくれるのか。その真情が見えなくて、花梨は彼に問うてみたことがある。
「翡翠さんは、どうして、私の傍で戦ってくれるの?」
 すると彼は、声を立てて笑いながら、答えた。
「君は、実に興味深いひとだからね。傍にいて、退屈しないのだよ」
 そう言われると、からかわれたような、煙に巻かれたような気がして、少しもやもやするのだが、彼の笑みは、快活といえるぐらい、明るかった。
「私は、自分の本意でないことを、義理やら道義やらのために、枉げてしたりはしない。だから、私が君の傍にいるのは、完全に私がそうしたいからなのだよ」
「じゃあ、気が向かなくなったら、伊予に帰ってしまうの?」
 問い返すと彼は、つと手を伸ばした。頬にそっと指を当てられて、花梨の胸は、どきりと大きく一つ鼓動を打った。彼は、指先で、花梨を心持ち仰向かせ、低くやさしい声音で言った。
「そうだね……。私の信条に照らせば、確かにそうなるはずなのだけれど……。今、君から目を離す気にはなれないね。それに……伊予に帰る時には、お宝を持って帰るつもりだから」
「お……お宝?」
 何か盗む心づもりでいるのかと、思わずおうむ返しをした花梨に、彼は顔を寄せ、覗きこむようにした。髪の色と同じ、碧海色の瞳が、不思議な輝きを帯びる。
「私は海賊なのだから、当然だろう? 青く輝く海にも負けぬほど、私を惹きつけてやまない宝。……きっと手に入れるよ」
 ささやきの最後の方は、潮騒にも似て。魅入られたように立ち尽くす花梨は、まなかいに、波光きらめく海のヴィジョンを視た。海は、花梨を差し招いているようだった。

 
 晴れた夜空に、満月がぽかりと浮かんでいる。遮るもののない海の上は、月光に満ちあふれ、海面は鏡のように銀色に輝いている。その銀盤を見晴るかせば、ところどころに黒い島影が浮かび上がり、この海が果てもない大洋ではないことを、改めて気づかされる。古来より、島と島の間を人々は漕ぎ渡り、また、この海の回廊は、はるか筑紫にまで至る交易路となってきたのだ。
 頬に微風を感じる程度の穏やかに凪いだ晩。その微風は、頭上では、もっと強い風となっているらしく、バタバタと帆がはためく音がした。風をとらえた船は、滑るように、波をかき分けて進み、時折ぎいいっという木造船特有のうめきも聞こえる。
 花梨は船端に立ち、自分を包む、海や船のことどもに、目をやったり、耳を澄ませたりしていた。今、自分が、ここにこうしていることが、信じられない。数週間前までは、紫姫の館で、春の訪れを待っていたのに。
 そして、紫姫や深苑と別れを惜しんだのは、つい三日前のことなのに。
もはや京は、はるか波の向こうだった。
涙をにじませながらも「神子様のお幸せをずっと祈っております」と笑ってみせた紫姫の愛らしい顔。
憮然とした表情ながら「息災に暮らせよ」と言った深苑のまなじりが光っているように見えたのは、気のせいだったろうか。
 京に来てから、共に苦難を乗り越えて来た人々との別れは、胸がつまるほど辛かったけれど。花梨は、今、新しい世界へ飛び立とうとしていた。京に召喚された時のように、有無を言わさぬ力によってではなく、花梨が自身で選んだ道だった。
「中で休まないのかい?」
 穏やかな声が、背後でした。振り向くと、そこには、花梨が共に歩むと決めた相手が立っていた。長く豊かな髪を、風になぶらせながら、彼は花梨の方へ近寄って来た。
「月と、海が、あんまりきれいだったから、見とれちゃって」
 肩が触れるほどの位置に、並んで立った彼の顔を見上げて、花梨は言った。
「確かに、見過ごすには惜しい、穏やかな美しい夜だね。おかげで、旅程もはかどる。けれど、ずっと波に揺れるのも疲れるだろう。後少ししたら、波を避けられる島の入り江に入るよ。そうしたら、一層穏やかだし、君も、落ち着いて眠れることだろう」
「こんな夜なのに、どうしてちゃんと目的地に向かって進むことができるの?」
 無邪気な質問に、彼は口元をほころばせた。そして、月とともに、紫紺の夜空を飾る星々を差してみせた。
「あそこに地図があるのだよ。船乗りは、星の読み方を知る者だからね」
 そして、あれが天の柄杓、あれが北の一つ星、と、方角を知るしるべとなる星を、一つひとつ花梨に教えた。低く、耳に心地いいその声を聞きながら、満点の星を見上げていると、身も心も青く澄んでいくようだった。だが、さすがに夜風が身に染みて来て、花梨は小さなくしゃみを一つした。
 すると彼は、花梨の方を向き直り、たしなめ顔をした。
「ほら、寒くなって来たんだろう。いくら夜が美しくても、もう中に入らないといけないよ」
 言葉とともに、腕がすっと伸びて来て、花梨の肩を包み込む。
「こんなに、冷えている……。姫が風邪を引かないように、しっかり温めて差し上げないと、ね……」
「翡翠さん……」
 自分を抱きしめる腕の感触に、花梨の想いは、過去へと遡った。
龍神と意識を一つにして、百鬼夜行を滅したあの日。再び地上に舞い戻った自分を、抱きとめたのもこの腕だった。
「お帰り、可愛いひと。……もう、決して離しはしないよ」
 そのぬくもりに包まれて、花梨は自分の心が何を選んだかを、知った。そうして、その直感のままに、続いてささやかれた言葉に、頷いたのだ。
「……君を、攫うよ、私の宝物……」
 京が古い穢れを祓い、清らかな年明けを迎えた時、花梨の前にも、新しい運命への扉が開かれたのだった。
 しかし、実際に、愛する者と手に手を取って踏み出すのには、花梨は数カ月を待たなくてはならなかった。荒ぶるは、冬の海。その危険を冒してまで、花梨を伊予に伴うことを、彼はよしとはしなかった。
「春になったら、迎えに来るよ。日射しがぬるみ、海が穏やかになるまで、待っていてくれるね? その日を楽しみに、私も姫を迎え入れるのにふさわしい準備をしておくよ」
 そう言い残して、彼は京を去った。誓いの言葉を信じて、花梨は待った。厳しい冬。時には、真白な雪が、京を染め上げ、屋内にいても、足下から凍てつくような寒気が忍び寄った。身を縮めるようにして、寒さと寂しさ、不安に耐え、花梨はじっと春を待った。
 京の時は、もう止まってはいない。季節は少しずつ、でも確実に移っていった。昼が長くなり、朝晩の冷え込みが緩み始めた頃、彼は約束通り迎えに来た。
「待たせたね、可愛いひと」
 お互いの目の中に、揺るがぬ想いを認め合った時、手と手が再び結び合わされた。ここから先は、二人で歩んでいくのだ、と。
 今、こうして伊予に向かう船の上にあって、花梨の胸は、期待と不安でいっぱいになっていたが、自分の選択を悔やむ気持ちは、まるでなかった。なぜなら彼は、約束を守り、今、正に花梨を抱きしめているのだから。その腕は、強く、頼もしく……だが、花梨はほんの少し居心地の悪さを覚えて、身じろぎをした。
「ん……翡翠さん」
「どうしたのかい?」
 自分を見下ろす、碧海色の瞳に、花梨は訴えた。
「少し、腕を緩めて……。苦しい」
 すると彼は、とろかすような笑みを浮かべ、身を屈めて、花梨の耳元に口を付けた。
「……いいとも、今はね」
「あ……翡翠さん……」
 耳たぶから、首筋に下りてくる唇の感触に、花梨は身を慄わせた。彼の唇、彼の腕、それらは温かいを通り越して、爆ぜるような熱を帯びていた。
 と、その時、大きく呼ばわる声がした。
「お頭、もうすぐ島の入り江に入りますぜ」
 彼は顔を上げ、声のした方向に、大きく叫び返した。
「よし、そのまま、いつもの場所に、船を停めろ。それから今から夜が明けるまで、非常時を除いて、私の船室には、一切誰も近づくな」
「合点承知です!」
 手下たちの、口々の威勢のいい応答が、闇の向こうから響いた。
「さて、これでいい」
 満足げに髪をかきあげると、彼は花梨の方へ向き直った。
「翡翠さん……?」
 夜目にも白い彼の顔は笑みをたたえていたが、目は射抜くように強い光を放っていた、花梨は、彼から放射される意志に、少し脅えて後じさった。すると、素早く腕が伸びて来た。
「きゃ……!」
 次の瞬間、花梨のからだは、軽々と抱え上げられていた。
「……!」
 ひどく驚いたために、言葉も出なくなった花梨を、彼は小さな女の子をあやすように揺すった。
「驚かせて、すまないね。だが、私は海賊で、ここは船の上だからね。その流儀でやらせてもらう。ねえ、姫、私の可愛いひと?」
「は、はい?」
 問いかけられる声の調子に、自然に応えが出た。その素直さに、彼は笑みを深くし、そっとささやいた。
「……今夜、私に攫われてくれるかい?」
 熱さをたたえた、碧海の瞳が、間近に深々と注がれる。その熱を移され、浮かされ、酩酊した花梨は、ほとんど思考を手放したが、かろうじて自分の意志を示した。薔薇色に染まった小さな顔が、かすかに縦に振られると、そのまま彼の肩の上に伏せられた。彼は微笑み、少女の柔らかな髪に軽く唇を触れ、ゆっくりと船室へ向かって、歩き出した。得難い宝物を、しっかりとその腕に抱いて。


 褥が波打っている。彼が、自分と花梨のためにしつらえたそれには、遠い異国から渡って来た、毛足の長い、高価な毛皮が敷き詰められていた。そこに生まれたままの素肌を横たえられた花梨は、その毛皮の肌触りを楽しむどころではなく、小舟のように揺さぶられていた。
 熱い手に、指に、触れられるたびに、体の奥底から、慄えがわき起こる。今、初めてのむつみ合いを経験する少女を、彼は翻弄しているようだったが、実はそうではないことに、花梨は気づき始めていた。汗がちりばめられた白い胸の上に、敬虔なほど深く着けられる額。耳元で荒らぐ吐息。あれほど、普段、何ごとにも動じず、自分の心のままにふるまう彼が、ゆとりを失っている……。
 それは、彼が花梨を心底求めている証だった。広い胸、大きな手を持つ彼が、そうして一心に自分に甘えている……。そう感じた時、花梨は大きく腕を広げた。
  今度は、私が、抱きしめてあげる。
  あなたのすべてを、傍にいて、ずっと受けとめてあげる。
 花梨の腕が、彼の首を抱き、髪をやさしく梳いた時、彼はふっと顔を上げた。熱く潤んだ碧海色の瞳と、慈しみをたたえた少女の瞳が絡みあう。お互いを思う真情が溢れ出し、熱と汗と入り交じって、高みへのぼり詰めていく。
 熟したものが頂点で爆ぜて、ぐったりと二人、褥に崩折れた時、彼がひっそりとささやいた。
「君は、海のようだね」
 その吐息のような声を聞き漏らさず、花梨は答えた。
「ええ、そうよ……。私は、あなたの海になる……」
 微笑みとともに、口づけが交わされた。そうして手と手を絡め、二人は眠りに落ちてゆく。すべてが、始まった夜だった。


 翌朝、明るい陽光が、花梨のまぶたを刺した。傍らに寝ていたはずの彼は、もう臥所にはいなかった。甲板を行き来する足音や、男たちが掛け合う声を聞き、花梨は理解した。船出の準備にかかっているのだ。手早く身じまいを整えて、花梨は甲板に出てみた。
 すると、そこには忙しく行き交う手下たちに、次々と指示を与える彼の姿があった。
「おはようございます、翡翠さん」
 声を掛けると、彼は振り返り、晴れやかな笑みをひらめかせた。
「おはよう、姫。そろそろ出航だよ」
 彼の傍に寄り添うと、動き回っている男たちも、笑顔を向けて来た。
「おはようごぜえます!」
「おはようごぜえます、姐さん!」
 ふいに自分に向けられたその呼びかけに、花梨は目を見開いた。
「あ、姐さん?」
  花梨の動揺を見て取った手下が、“姐さん”と呼んだ男の頭を小突いた。
「このバカ! びっくりしてなさるじゃねえか!」
「痛っ! だってよ〜、お頭の嫁になるお方なんだから、姐さんだろ。ね、姐さん!」
 自分が、手下たちにも、そのように認識されていると知って、花梨は嬉しさと恥ずかしさで頬を染め、そっと彼の袖の後ろに隠れた。
 彼は、そんな花梨を、後ろ手でかばうと、朗らかに声を張った。
「おまえたち、この姫は確かに私の花嫁になるひとだがね、この通り恥ずかしがりやなのだから、あまりむきつけな無礼な物言いや、振る舞いは慎むように!もし、私の白菊を脅かしたら……その時はわかっているね?」
 後半、目と語調に剣呑なものが入り交じったのを、手下たちは敏感に感じ取り、ぴんとしゃちほこばった。
「も、もちろん、承知しておりやす!」
「へい、けっしてご無礼は、働きませんです!」
 その様を見て、自分のために、叱られて縮み上がる手下たちに、花梨はすまなさを覚えた。そして、ちょっとしたことで、動揺してしまった自分を恥ずかしくも思った。
「あの、翡翠さん」
「ん? 何だね?」
「私から、皆さんに、挨拶しても、いいですか?」
 ためらいがちなこの申し出を、彼は笑って受け入れた。
「もちろんだよ。彼らは、私の仲間だからね」
「ありがとう」
 花梨は、彼の背後から、前へ進み出た。彼は、花梨の肩を抱きながら、手下たちに、再び呼ばわった。
「さて、皆。姫から、皆に何か話があるそうだ」
 一同に驚きが流れるとともに、彼の傍らに立つ花梨に、視線が集まる。一体何を言うつもりなのかと、興味津々の注視を浴びて、花梨は少し足が震えた。だが、大きく一つ息を吸い込むと、できるだけ大きな声で、男たちに語りかけた。
「皆さん、おはようございます。私は高倉花梨といいます。えっと、これからずっと翡翠さんと一緒にいるつもりなので、皆さんにもお世話になると思います。これからどうぞ宜しくお願いします!」
 ぺこりと頭を下げると、一斉に拍手がわき起こった。
「よっ、姫さん!」
「日本一!」
 荒っぽいが。陽気な声と笑顔で受け入れられて、花梨は嬉しさで頬を染めた。そして、思い切って、言葉を続けた。
「あの、私のことは、どうぞ花梨って呼んで下さい」
 すると、わっと一座が沸いた。
「花梨さん、万歳!」
「姐さん、万歳!」
 歓声に包まれて、花梨は気恥ずかしかったが、胸の中には、あたたかいものが満ちていた。今日から花梨も、彼らの仲間になったのだ。
 

「まったく、妬けるね」
 青空の下、船は飛ぶような快速で走っている。
「え? 何か、言いました?」
 空を映して、どこまでも青い海の色と、点在する緑の島々の見事な色の対比を、飽かずに眺めていた花梨は、彼の言葉に振り返った。
「何の話?」
 小首を傾げて、重ねて聞くと、彼は苦笑いを浮かべた。
「先ほどのことだよ。私以外の男、しかもあんな大勢に、自分の魅力を見せつけて。私をやきもきさせるつもりかい」
「え? ええ?」
 思ってもみないことを言われて、口をパクパクさせる花梨の肩を、彼は抱き寄せた。
「……まったく、あれから手下の者たちが、君を褒めそやすことと言ったら! もう今後一切、誰の目にも、君を触れさせたくないと思うほどだったよ」
「あの、でも、翡翠さん、それは……」
 ようやく彼が言わんことを理解して、懸命に説明しようとする花梨の唇を、彼は自分のそれで塞いだ。
「ん……」
 舌を絡めとられて、あえぎながらも、からだの底から、昨日知りそめた甘い陶酔が、身をもたげるのを、花梨は感じた。
「も……ダメ……」
 羞恥から、小さな手で、何とか彼の顔を押しやろうとすると、ようやく解放された。花梨の髪を撫でながら、彼は薄く笑った。
「打てば響くような反応だね。これからが、楽しみだ」
「もうっ、翡翠さんったら!」
 顔を朱に染めて怒る花梨に、彼は平然とうそぶいた。
「私をやきもきさせた罰さ。こう見えても、私は嫉妬深い男だからね。今後、君のことを、よこしまな目で見る男がいたら、そいつの目玉をくりぬいてしまうかもしれないよ」
「ひ、翡翠さん!」
「冗談だよ」
「もおぉっ!」
 ひとしきり笑い崩れた後、彼は真顔になって、花梨を見つめた。
「さて、意地悪はここまでだ。わかっているよ、君の気持ちは。私の仲間を受け入れ、また受け入れられるためにしてくれたことだとね。ありがとう」
 気持ちのこもった言葉に、花梨は微笑みを返した。
「当たり前のことよ。だって、私たち、これからずっと一緒でしょう?」
 彼は、深く頷いた。
「ああ、一緒だ。けれど、わかっておくれ。私という男は、海に出ずにはいられない。海に出ている間、君を一人にしてしまうこともあるだろう。それに、海というのは、今日のような晴れた日ばかりじゃない。嵐に立ち向かわねばならない時もある。きっと君をひどく心配させてしまう。それでも……ついて来てくれるかい。……いや、ついて来て欲しいんだ」
 花梨は、彼の切実な思いのあふれた瞳を見上げ、手を取った。両手で包むように握ったその手を、自分の頬に押し当てると、語りかけた。
「わかっている……。何も言わなくていいの。だって、私、あなたのもう一つの海だから。あなたの帰る場所になる……」
「……花梨!」
 絞り出すように、愛しい名を一声呼ぶと、彼は少女を抱きしめた。その華奢な小さなからだに宿る、自分への愛の深さ……。心の奥底から揺さぶられていた。
「君に誓おう。どんな嵐に遭っても、危難にさらされようと、私はきっと君のもとへ帰って来る……!」
 虚勢も何もない、裸の言葉。彼の腕の中で、花梨は、こっくりと頷いた。
「うん。必ず帰って来てね。待ってるから……」


 海に焦がれてやまぬ海賊が、一つの宝物を手に入れた。それは、愛という名のもうひとつの海。ひたすらに彼を愛し、受け止め、安らがせる、かけがえのない海だった。


 翳りない陽光が、惜しみなく降り注ぎ、輝くほどの青を、海に与える。いくつもの島のその向こうに、緑の陸地が姿を現した。伊予の港まで、もう間もなく。波光が織りなす、二人の新しい世界へ、今、船は静かに滑りこんでいく……。
                             (終わり)



雄大で男のロマン溢るるY三さんの歌とは、かなりかけ離れたものになっちまいました^^; けど、ようつべの動画で見まくったこの歌のY三さんの弾き語りは、とってもかっくいいので、良かったら、鑑賞して下さい。

思っていたより長くなってしまったので、ちょっとしんどかったですが、実は、私の書く話って、ちゅうより先に進むことがあまりないので、翡翠さんだったら、その辺スムーズにいけるよね〜と、ちょっとウキウキしちゃいました。←
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