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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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第一弾から、大分、間が空いてしまいましたが、やっとでけました。
3周年企画の第2弾です。(企画の詳細はこちら
トロワ設定のチャーリーさんのお話です。

ヒロインの名前は、特に固定しておりません。
ご自分に変換して頂ければと思います。(そのように
したいと思える仕上がりになってるとよいのですが)
つづきから、どーぞv

※フリー期間は終了しております。


第3弾は、コルダ3の予定。特にご要望がなければ、好きにやっちゃうぜv

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「風の吹く丘で」


「今日もエエ天気やな」
 店先から、ふと空を仰いで、チャーリーはつぶやいた。うんっと背伸びをして、息を吸い込むと、きれいな空気とともに、朝の光がからだの中に入って来る気がする。
「さあ、今日もやったるでェ〜」
 素早く頭の中で、段取りを確認する。ここには、長年一緒に働いて、手足のごとく動いてくれるようになったスタッフはいない。アルバイトは数人雇ったが、実際のところ、仕入れから何から、ほぼ自分の手で行わねばならない。
「ま、それが基本やんな」
一人納得して、うんうんと頷くと、チャーリーはまず陳列棚の確認を始めた。
ここアルカディアに来たのは、自ら望んで、というわけではなかった。しかも、決して喜ばしい現況ではないのは確かだったが、それでも彼の店で品物をもとめる客がいる以上、手を抜くつもりはなかった。
 神鳥の女王がこのアルカディアが存在する空間の収縮を、今何とか食い止めている。その間に、聖獣の女王が育成を行うことで、この地に封じられた何かを解放する。切られた期限は、110日間。失敗すれば、閉じて行く空間もろともに、大陸ごと自分たちも消滅する……。
 そんな情況下にあっても、「商売を通じて、お客さんにしあわせになってもらうこと」は、商人としての彼の揺るぎないポリシーであった。
(女王陛下や守護聖様みたいに、育成はできんけど、せめていい品物を届けることで、みんなを元気づけてあげられたらな)と思う。
 そんな彼の気持ちが通じたのか、最近店に立ち寄ってくれる客の数も、少しずつ増えて来ており、チャーリーは手応えを感じていた。
(どこに行っても、一生懸命やれば、真心は通じるんや)
 昨日取り寄せた新しい商品を、陳列棚に並べながら、それを手に取る客の喜ぶ顔を思い描いていた時、明るい声が店先に響いた。
「オハヨウサン!」
 アクセントが少々違っていたが、チャーリーのまねをして、挨拶をした娘は、花のような笑みを浮かべていた。
「おお、おはようさん! 毎朝、あんたの顔を見ると、何や、元気が出て来るわ」
「私も! チャーリーさんに会うと、元気がもらえる気がするの」
 近所に住んでいるこの娘は、天使の広場にあるカフェで働いている。毎朝、仕事に行きがけに、店の前を通るうちに、チャーリーと朝の挨拶を交わすのが、いつの間にか習慣になっていた。
「今日は、早番なの。夕方、買い物に来るわね」
「おお、待ってるで。あんたのために、今日は新商品を入荷したからな」
 すると娘は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑みを取り戻した。
「もう、調子いいんだから。誰にでも、そんなこと言ってるんでしょ」
「いや、ホンマやって。こういうの、あんたが好きそうかなと思って、セレクトしたんやで?」
「はいはい。じゃあ、私も、チャーリーさんのために、おいしいコーヒーを淹れるから。待ってるから……来てね」
「ふふん、あんたもなかなかのもんやな。いや、そう言われたら、行かんことにはな。近いうちに、寄せてもらうわ」
「約束よ? あ、もう、そろそろ行かなくちゃ。じゃあ、行ってきま〜す」
「はい、いってらっしゃ〜い」
 手を振りながら、仕事場に向かって行く娘を見送ってから、チャーリーは作業に戻った。梱包をほどきかけた新商品に目が行った時、ふとため息が出た。
「ん〜、ホンマにあんたのこと考えながら、仕入れしたんやけど……。まあ、ええか……」
 店を開けて、昼前まで、接客やその他の作業で、あっという間に過ぎて行った。だが午後になると、仕事の段取りが予想以上にスムーズに運び、思わぬ時間ができた。
「ん〜、何や、ええ感じにかたづいてしもたな。そや、いっぺんあのコの店にでも行ってみるかな。コーヒー淹れてくれる言うてたし」
“チャーリーさんのために”と、にっこりした娘の顔が、頭に浮かんだ。
「何を期待してるんや、俺は……。お愛想に決まってるやないか」
 チャーリーは、ほろ苦い笑みを浮かべて、首を振った。


 丘の道をゆっくりと下って、天使の広場へと向かう。吹く風はやさしく、柔らかな日射しが、満ちている。こうして見ると、この地が危機に瀕しているとは、信じがたいほどだ。だが、表には見えないところで、最悪の事態を招かないよう、日々調整が行われていることを、チャーリーは知っていた。この地に必要なエネルギーを、数値目標として弾き出し、それに向かって、女王コレットが粛々と育成を行っている。
 遠い未来から来た、見知らぬはずだったこの大陸が、女王の力を注がれて、目覚めてゆく不思議……。
(アルカディア全体が、陛下の愛情に応えてるような気がするわ……)
 生き生きと葉を広げた丈高い木と、野に群がり咲く草花を、眺めながらチャーリーは思った。中でも、ひときわ明るい色彩を放つ、黄色い花を見て、以前あの娘が言っていたことを思い出した。
『私の名前は、あの花から貰ったの』
 自然と、笑みがチャーリーの頬に浮かんで来た。
『亡くなった父さんが付けてくれたのよ』
 その父の代わりに、娘は、母とまだ幼い弟との生活を守るために、働いている。顔を太陽に向けて咲く花の名を、愛する娘に付けた父の願いは、叶っていると、チャーリーには思えた。
(そうやな。あんたも……この大地に根を張って、咲く花やな……)
 この大陸の行く末は、まだわからない。育成が完成したその先に、何が待っているのか……。目的を果たしたこの大陸が、元あった場所に戻るということだって、考えられる。あるいは……。
 チャーリーは、少し足を止めて考え、黄色い花を一本だけ「ごめんな」と言いながら手折った。愛用している革表紙のシステム手帳を取り出して、白いページにそっと挟んだ。
(この先どうなったとしても……ここで出会った、あんたの一部は、ずっと俺の傍にあることになるやろ)
 システム手帳の表紙を、大切そうに撫でると、チャーリーは、再び歩き出した。
 

 天使の広場は、今日も新鮮な食材や雑貨をもとめる人々で、賑わっていた。その賑わいの真ん中に、娘の働いているカフェはあった。大きな窓ガラスを通して、たくさんの客が、思い思いにくつろいだり、話に興じているのが、見て取れた。
(おお、なかなか繁盛しとるなあ。空いてる席、あるやろか)
 カランとドアベルを鳴らして、店に足を踏み入れると「いらっしゃいませ」の合唱に迎えられた。
 店内を見渡して、空席を探していると、ウエイトレス姿のあの娘が、嬉しそうにやって来た。
「チャーリーさん! ほんとに来てくれたんだ!」
「おう、あんたの働きぶりを見に来たで。うまいコーヒー飲のませてくれるんやろ?」
「それは、もちろん。お席にご案内します、お客様」
「はいはい、ご案内されます、可愛いウエイトレスさん」
「もう!」
 娘は笑いながら、チャーリーを店の奥の空席に案内すると「ちょっと待っててね」と言い置いて、きびきびと立ち去った。
 チャーリーは、ややだらしなく、 椅子の背もたれに身体を預け、周囲を見回した。初めて入った店で、今日のように、話し相手もいない場合、何となく店の雰囲気や客層などを観察するのが、彼の習い性になっていた。
(ふむふむ、なるほど。買い物に来た奥さん方が3割、仕事の合間に一息入れに来た勤め人が2割……。常連のお年寄りが2割ってとこか? 今の時間は、お茶だけやなくて、ちょっとした食べ物を注文する客が多いみたいやな。季節のスイーツに、サンドイッチ、あのホットドッグは、なかなかボリュームあるな。男性客でも、結構腹ふくれそうや……)
 客として店を訪れても、つい営業する側の目で、チェックしてしまう。
(我ながら、イヤな癖やな)
 苦笑しながら、再び何となくホールの方に目をやると、あの娘がコーヒーをのせた盆を手に、こちらに向かって、やって来るところだった。時折常連客が声を掛けるのに、微笑みを返しながら、テーブルと椅子の間を、泳ぐように歩を運ぶ。もの馴れた、水際立った立ち居振る舞いだった。
(そんなおっさんに、笑いかけんでも、ええやん……)
 彼女が惜しみなく笑顔を振りまくことに、嫉妬を覚える自分に気づいて、チャーリーははっとした。この店の従業員として、申し分なく働いている彼女を、なぜか商売人としての目で評価できない。チャーリーにとって、アイデンティティの一部となっている“商売”を忘れさせてしまう……そんな存在に、どうやらなりつつあったのだ。
(う……、でも、コレは正直、あんまり宜しくないかもしれん……)
 チャーリーが額を押さえた時、明るい声が頭上から降って来た。
「お待たせしました。特製ブレンドでございます」
 目を上げると、とびきりの笑顔の彼女がいた。
(アカンて、そんなカワイイ顔したら〜)
 自分で自分を叱咤してみても、胸の高鳴りは抑えられない。
「う……」
 言葉に詰まってしまったチャーリーを、娘は不審そうに見つめた。
「どうしたの、 チャーリーさん?」
「……いや、何でもない。何でもないねん!」
「そう? なら、いいんだけど……。約束通り、このブレンド、私が淹れたの」
「お、おお? それは、ゆっくり味わって飲まんとな」
 チャーリーの言葉に、照れくさそうに笑うと、娘はためらいがちに続けた。
「うん……。ねえ、今日、後30分で仕事上がるんだけど……。待っててもらってもいい? 一緒に……チャーリーさんのお店に行きたいの」
「おお、ええで。俺、あんたのコーヒー飲んで、おとなしゅう待ってるから、お仕事、頑張っておいで」
「うん、ありがとう」
 小さく手を振ると、娘は持ち場へ戻って行った。
(あ〜、またホールを泳いでる……。キレイな魚みたいに……)
 人がたくさんいる中で、彼女の姿だけ、浮き上がって見える気がする。
(手遅れ……かもしれん)
 チャーリーは、ほっとため息をつき、彼女が淹れてくれたコーヒーに口を付けた。香りが、ほわりと胸に沁みた。


おそい午後の日射しに、ほのかに暮色が混ざり始めていた。緩やかな勾配の小径を、二人肩を並べて、ゆっくりとたどった。娘は、今日のできごとや、家族のこと、好きな食べ物のことなどを、とりとめなく話した、それに対してチャーリーは、相づちを打ったり、茶々を入れたり、話が途切れないように、気を配った。娘の弾むような声をずっと聞いていたかったからだ。
 そうして、店の近くまで、戻って来た時だった。
「あ、いた! チャーリーさん!」
 華やいだ声がして、数人の若い女性の一団が、道の向こうから、二人のところへ駆けつけて来た。そして、あっという間に、チャーリーを取り囲んだ。
「おや〜、カワイイお客さん方、もしかして、ウチの店に寄ってくれはったん?」
「そうよ〜。せっかく行ったのに、チャーリーさん、いないんだもん〜。がっかりしちゃった」
「うん、ほんと、がっかりした〜」
「ははっ、エラい、スンマセン〜」
 一団に押し出されて、娘はチャーリーの傍を、離れざるを得なかった。皆に愛想よく振る舞うチャーリーの様子を、しばらく悲しげに見ていたが、くるりと背を向けて、足早にその場を立ち去ってしまった。
「ああっ、ちょっと! 待ってえな! ええと……お客さん方、ゴメンな。今はオフの時間やねん。また、店に寄ってくれたら、今日の分もサービスさせてもらうから〜。またのお越しをお待ちしております〜」
 チャーリーは、さながら執事のように丁寧に頭を下げると、急いで娘の後を追った。追跡は、さほど難しいことではなく、小径から外れた雑木林で、娘に追いつくことができた。
「待ってって! なあ、黙って行ってしまわんといて! 頼むから!」
 肩に手を掛け、振り向かせると、娘の眼には、うっすら涙が溜まっていた。
「ちょっ……! 泣いてるん? なんで?」
 慌てて取り出したハンカチで、チャーリーが涙を拭おうとすると、娘はすっと顔をそらした。
「……え?」
 戸惑うチャーリーに向かって、声を詰らせながら、言った。
「……わかってるつもりだったの。あなたがお客なら、誰にだってやさしくする人だって……。私も、あの人たちと同じ……。お客だからなのに……。今日来てくれたのが嬉しくって……勘違いしちゃった……」
 とぎれとぎれの言葉を聞き取るうちに、チャーリーの胸に、カフェで娘が客に笑みを向けていた時の気持ちが甦って来た。今、彼女が、あれと同じ気持ちを味わっているというのなら……。
 チャーリーは、すっと息を吸い込むと、慎重に娘に語りかけた。
「そう思われても、仕方ない……。けど、今日俺があんたの店に行ったのは、あんたがお客やからやない……。俺が、あんたに会いたかったから行ったんや」
「……ほんとに?」
「ああ」
「じゃあ……私は望んでもいいの?」
「何を?」
 娘は、ひたとチャーリーを見据えて言った。
「……あなたの店の品物じゃなくて、チャーリーさん、あなたの心が、私は欲しい」
 チャーリーは、まじまじと娘を見つめ返したが、やがて眼をそらした。
「……チャーリーさん?」
 娘の声が、せつなく響く。チャーリーは、苦しげに、絞り出すように言った。
「……俺は、元々ここにおった人間やない。多分、いずれは自分の元おった場所へ帰ることになるやろう……。せやから、あんたの気持ちには応えられへん」
 その瞬間、空気が冷たく凝固した。娘が身動きもできないほどショックを受けている気配を感じて、チャーリーの胸は締め付けられるように痛んだ。だが、いつまで続くかと思われた凍り付いた空気を、ゆるゆると融かしたのは、娘の方だった。
「……それでも……わないって……たら?」
「え?」
 驚いて顔を見直すと、強ばって青ざめていたが、娘の唇は確かに動いていた。
「今、なんて言うた?」
 問い返した瞬間、堰を切ったように、娘の感情があふれた。
「それでも、かまわないって言ったら? ここにあなたがいる間だけでもいいて言ったら? ずっと傍にいてくれなくてもいいって言ったら?」
 矢継ぎ早に「……たら?」を繰り返し、最後に言い放った。
「……あなたが、好きなの……!」
 それは、全身で投げかけた叫びだった。娘が見せた激しさを、紅潮した頬を、涙を溜めて輝く瞳を……チャーリーは美しいと思った。潮のように、押し寄せる熱い想いを、努めて抑えながらチャーリーは、娘の頬を両手で挟んだ。親指で、で涙を拭ってやりながら、低く囁きかけた。
「……そんな風に、気持ちぶつけてくるあんたが、俺も、好きや……。けど、この先、どうなるかわからん。あんたに未来をあげられへんかもしれん……。それでも、ええんか?」
 娘は、射抜かんばかりに、チャーリーを見つめた。
「……かまわない! 未来なんていらない! 今、目の前にいるあなたが欲しい……!」
 足下がぐらつく。全身を電流のように何かが貫いてゆく。喜びも、極まると衝撃的なものになるということを、チャーリーは知った。
「……ありがとう。こんな俺に、そこまで言うてくれて。……俺も約束するわ。この先、何が起ころうとも、俺の心は、あんたのもんや」
「チャーリーさん……!」
 腕の中に飛び込んで来た娘を抱き締めながら、この小さなからだのどこに、あれほどの情熱があるのだろうと、チャーリーは思った。その熱が、チャーリーの血をも、燃え立たせる。
(……もう、退くのはやめや。行けるとこまで行ったる……!)
 情熱が、動き始めた。


 時は、満ちた……。遠い未来から託された約束は果たされ、希望の種が解放された。そしてアルカディアは、この空間に存在し続けることになった。
 風が吹くあの丘で、チャーリーと娘はたたずんでいた。二人の周りでは、数えきれないほどの、あの黄色い花が揺れていた。
 目を細め、空を、木を、草を……周囲にあるすべてを、いとおしむように見渡したチャーリーが、ゆっくりと娘の方へ振り返った。
「……明日、自分の宇宙に帰ることになったわ」
 その時が来ることを、覚悟していた娘は、泣かないように奥歯を噛み締め、ただ頷いた。そんな娘の、懸命の自制を見て取って、チャーリーの胸は、いとしさに締め付けられた。手を伸ばして、頬にそっと触れると、できるだけやさしく言った。
「ここへ来て……。あんたに出会えて……一緒に歩いて、笑った日々は、ホンマに楽しかった……。不安な部分もあったけど……太陽を浴びて咲く花みたいなあんたに、元気をもろたし……熱い想いももろた……。
なあ、あんたは前に言うてくれたな? 未来はいらん、今の俺が欲しいって……。未来は……“今”の積み重ねでできるもんやろ? そやから、“今”の俺は、未来をつなげようと思うんや」
 言葉の意味を図りかねた娘は、チャーリーをじっと見返した。
「……ホンマは、あんたを連れて帰りたいところやけど……。あんたは、ここにいてこそ、咲く花や。そんで、俺も……俺を待ってる人らのとこへ帰らなあかん。そやから……会いに来るわ、あんたに」
「チャーリーさん……!」
「今みたいに、しょっちゅう会えんようになっても、俺の心は、ずっとあんたのもんや。……それを信じてくれるか?」
 娘は、大きく頷いた。
「ええ、信じるわ、あなたの心を……!」
 チャーリーは、ゆっくりと笑みを広げた。
「……ありがとう。あんたは、あんたらしく……ここで生きて。そんで、もし俺の傍で咲きたなったら……来てな。……俺は、あんたに絶対忘れられへんような、立派な男になるから」
 言いながら、ウインクを一つした。
「チャーリーさんったら!」
 娘は笑い声を立て、勢い良くチャーリーの胸に飛び込んで来た。そして、しっかりとチャーリーの背に腕を回して、囁いた。
「……忘れない、絶対に……! だから……チャーリーさんも、チャーリーさんらしく生きてね……」
「ああ……ありがとう」
 お互いの温もりを忘れぬよう、ずっと抱き合っていた。アルカディアの風の中で……。揺れる黄色い花の間で……。明日へ進む道しるべを、お互いの中に見つめていた……。
 

本社ビルの一隅にしつらえられた社長室は、チャーリーの好みで、大きく窓が取られ、日射しがふんだんに入るようになっている。そんな明るい部屋の、大きな机の前で、分厚い企画書の束を揃えながら、チャーリーは、会心の笑みを浮かべた。
「さあ、これで準備はバッチリや。絶対、うんって言わせたるからな〜」
 今から10分後、宇宙に名だたるウォン財閥の中枢を担う幹部や重役たちを前に、ある大掛かりなプロジェクトのプレゼンを行うことになっている。それは、神鳥の宇宙と、聖獣の宇宙の中間に存在する大陸アルカディアに、巨大テーマパークを建設するというものだ。
 何度となく足を運び、地形や気候、地盤の調査など、入念に下準備を行って、練り上げたプランが、とうとう動き出す手前に来ているのだった。
「くう〜、武者震いがしてきたわ。やったるで〜〜!」
 勢い込んだチャーリーが、書類の束を、よいしょと抱え上げた時、何かがぱさりと床に落ちた。
「お? イカン、イカン、大事なものを落としてもうた」
 書類の束を一旦机の上に戻すと、チャーリーは、革表紙のシステム手帳を、大切そうに拾い上げ、埃をそっと指で払った。それから慣れた仕草で、手帳の目的のページをぴたりと開いた。
(アルカディアを、もっともっとしあわせなところにしてみせるからな。そんで、うまく行ったら、ご褒美に、またウマいコーヒー飲ませてや。俺のいとしの……)
 心の中で、その名を呼びながら、ページにそっと唇を当てると、チャーリーは鍵の掛かる引き出しに手帳を収めた。 
 その胸の中には、手帳の中の押し花と一緒に、一つの映像がしまいこまれている。鮮やかな黄色い花が咲き乱れる風の吹く丘で微笑むいとしい人……。あの日、その人にした誓いは、絶えることなく、チャーリーの中に燃え続けている。

(俺のこと、絶対、忘れさせへんからな)

 分厚い企画書を手に、意気揚々と向かう会議室には、うるさ型の重役たちが。そして、その先には……彼が切り開く明日が待っている……。

                             (終わり)





ねつ造設定しました(笑)トロワで無料で遊べる施設をチャーリーさんが
町に作ったとゆーエピソードがあったので、アルカディアのテーマパークに、
ウォン財閥が関わっていても、不思議はないかな〜と。

エピソードにうまく肉付けできなくて、先に進むのがしんどかったお話ですが、
何とかまとまったので、よかったです。ほっ。
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