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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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先日キリ番18181の申告をして下さった、
ののんさんのリクエスト「エルレイ小話」です。


テーマは、レイチェルがエルンストさんに、
フォーリンラブした時。
……の割に、例によって、糖度は低いです。

なお、このお話は、ご本人のみ、お持ち帰りOKでございます。
(突き返されたら、どうしよう ;;)


注)後半で、エルンストさんが、若干壊れてますので、
そういう彼が苦手な方は、スルー推奨です。

拍手





 「点火した瞬間」

 
 初めて彼を知ったのは、中等部の理科の実験の時だった。
 
 その頃のワタシは、初等部4年だったけど、理数系の才能を認められて、中等部の授業に時々参加し、次の学期からは、理数コースに飛び級で編入することになっていた。ウチの学校は、主星でも名門ってことになっていて、レベルも高いっていう評判だったけど、ワタシはその中でも、誰にも引けをとらずにやっていく自信はあった。
 というより小学校の授業は、もう物足りなくなっていて、学校に遊びに行っているようなものだったし、それでは何だか自分がダメになりそうな気がして……。できれば新学期からとは言わず、すぐにでも中等部に移りたいと思っていた。
「はい、じゃあ、今日はバーナーを使うから、くれぐれも慎重に。各班から一名ずつ、試薬を取りに来て」
 今日の“先生”は金髪の、明るい目をした人。王立研究院の職員だった。中等部には、年に数度OBがボランティアで課外授業を行うプログラムがある。大学生や院生の時もあったし、社会人が来ることもあった。
 大学生は、感覚が近くて、お兄さんお姉さんみたいだったし、一線で働いている人の話は、具体的で面白かった。王立研究院は、ゆくゆく考えている進路だったから、ワタシはいつもより一層の興味を持って、今日の“先生”の言葉に耳を傾けていた。
「よおし、行き渡ったか? じゃあ、試料を5グラムずつ天秤で量って、純水に溶かして、溶液を作ること……」
 説明を続ける“先生”の横に、彼は黙って立っていた。授業の始めに“先生”に、今日助手をやってもらう人だと紹介されたけれど、眼鏡の奥の薄い色の瞳は、落ち着いている、というよりは、感情がなくて、淡々と自分の役割を果たしに来た、という感じ。陽気で、気さくな“先生”とは、正反対のタイプだった。
「水溶液の準備ができたら、ガスバーナーを用意して。手順通りやっても、点火しなかったら、俺か、こいつに言ってくれ」
 そう“先生”は言うけど、こんなロボットみたいな冷たそうな人に、あんまりヘルプは求めづらいなと思った。
 実験は、炎色反応を見るというもの。花火のような、キレイな色が見られるんだって、わくわくした。班のメンバーと手分けして、水溶液を作っている時、こっそり試料AとB、そしてDも少し混ぜてみた。さあ、これで、どんな色が出るか、いよいよってところで……バーナーが点かない。
 理科室の装備品が古いものばかりなのは、一目見ればわかる。だから“先生”は、点かないバーナーがあると予想して、ああ言ったんだろうけど。期待が膨らんでたところだったので、ちょっと腹が立った。
「先生、バーナーが点きませーん」
 手を上げて、思いっきりアピールすると、他の班の机に行っていた“先生”は、すぐこっちを振り返った。
「悪い、今、手が離せないんだ。エルンスト、そっちに行ってあげてくれ」
「はい」
 その一言で、無表情な助手の方が、来てしまった。内心、ええ〜? と思ったけど、もちろん彼はそんなことに気づく気配もなく。
 まず元栓を閉め、ガスの出る量を調節するねじの部分を回したり、つまようじで接続部をつついたり、数分間いろいろやって、もう一度点火を試みた。すると、さっきはうんともすんとも言わなかったバーナーが、ぼうっと青い炎を上げた。
「わあ」
 私をはじめ、班全員から、歓声が上がった。すると彼は……口元にかすかに照れ笑いのようなものを浮かべて、言った。
「この種のガスバーナーは、シンプルな構造ですから、点火しない原因は、いくつかに絞られます。その原因を取り除けばいい、それだけのことです」
 そのぎこちない笑みは、彼の顔に思いがけず、柔らかい線をもたらした。
(へえ、この人、笑うとこういう顔になるんだ?)
 ちょっとビックリ。ワタシの頭のかなり上の方にある、その横顔を思わず見直した。
 ガスバーナーの点火がうまくいって、気を良くしたのか、彼は楽しげに言った。
「さあ、バーナーの準備ができました。実験をしてみましょう。どの溶液から試しますか?」
「あ、じゃあ、コレから!」
 勢い良く、ワタシはさっき作ったAB+D溶液を差し出した。彼はワタシを見て、ちょっと驚いたようだった。
「あなたは……初等部生のように見えますが? どうしてここにいるのですか?」
「初等部の授業が、物足りないんで、次の学期から、飛び級で中等部に入る予定なんです」
 そう答えると、後は班のメンバーが、口々に言い出した。
「レイチェルは、アタマいいもんな〜」
「そうそう、編入してきたら、俺らの方が勉強教えてもらうことになりそう」
「お父さんもお母さんも、有名な学者だし〜」
 彼は納得したように頷いた。そして、放っておいたら、そのまま延々と続きそうなワタシに関する雑談を終わらせるために、ちょっと強い視線で、班のみんなを眺め渡した。
「彼女がここにいる事情は、よくわかりましたので、実験に戻りましょう。では、君から時計回りに順番にやってみて下さい」
 そう言って、彼が促したのは、机を挟んで、ワタシの反対側にいる生徒だった。
(え〜、なんで〜? その順番だったら、ワタシはラストになっちゃうじゃない)って、思ったけど。溶液に浸した白金線が、赤、青、緑と、いろんな色の炎を作り出すのを見ているうちに、どうでも良くなった。
「最後は、あなたですね」
「はい」
 ようやく順番が回って来た。ワタシは期待に胸を膨らませながら、白金線の先をバーナーの炎に入れた。すると……鮮やかなピンク色の炎が上がった。しかも炎の縁が紫に揺らめいて、すごくキレイで……見ていた人全員が、おお〜ってどよめいた。他の班の人も集まって来て、たちまちワタシの班の机の周りに人だかりができた。
 と、その時、ワタシは気づいた。ガスバーナーの方へ身を乗り出している、彼の白衣の袖口が、思い切り水溶液に浸かっていることに。
(うわ……気づかないのかな?)
 一言言った方がいいかと、顔を見上げたら……。薄い色の瞳に、炎を映して、子供のように夢中で見入っていた。それを見た瞬間、ワタシの胸は、大きな鼓動を打った。それから、もう、ずっと理科の時間が終わるまで、彼から目が離せなかった……。


 理科の時間の終わりに、ワタシは“先生”から、厳しく注意を受けた。こうした実験で、指示された以外のことをしてはいけない。薬品を勝手に混ぜたりしたら、ものによっては、爆発したり有害なガスが発生したり、危険を招くことがある、絶対にダメだと言われた。
 自分が悪かったんだから仕方ないとは思ったけど、クラス全員の前で叱られて、さすがのワタシも、へこんだ。悲しい気持ちを抱えながら、初等部の校舎に戻ろうと、とぼとぼと廊下を歩いていた時だった。後ろから誰かに名前を呼ばれた。
「レイチェル、待って下さい」
 振り返ってみて、ワタシの心臓は、ドキンと跳ねた。足早に、ワタシ目がけてやって来たのは彼だった。
「あの……何ですか?」
 すると彼は。急ぎ足で来たためだろう、少し上がってしまった息を、襟のホックを外して整えながら、思いがけないことを言った。
「……よかったら、少し私とお話しませんか? 長い時間は取らせませんので」
 ドキンドキンと続けざまに、鼓動を打った。その後で、すぐに(もしかしたら、お説教の追加?)という考えが浮かんだ。それでもいいと思った。一対一で、彼とお話できるなんて……。
 彼は、中庭に私を連れて行き、すみっこにあるベンチを指し示した。
「あそこに、掛けませんか?」
 並んで座ると、立っている時は、はるか頭上にあった彼の顔が近くに降りて来た。咳払いを一つすると、ゆっくりと言葉を選びながら、彼は話し始めた。
「ええと……レイチェル。まず一つ確認しておきたいのですが。先ほどの実験で、あなたはいくつかの試料を混ぜて溶液を作りましたね。あれは、行き当たりばったりではなく、ある程度、金属に関する知識があって、やったことなのではないですか? つまり、これとこれを混ぜても危険はないという予測を持っていたのではないか、ということです」
 その推測は当たっていた。ワタシは、あの実験を実際にやるのは初めてだったけど、パパの書庫にあった文献を読んでいて、炎色反応、そして金属の化合物についての知識を、ワタシは持っていた。知識があったとしても、本で読むのと、実際に手を動かして、目で見るのとでは、やっぱり違う。だから、ワタシは試してみたかったんだ。
 そういう気持ちを、彼はわかってくれた。
「なるほど。理論を実践によって証明するのは、大切なことです。ですが、自分一人ではなく、協力して行う場では、他のメンバーの理解と合意が要ります。ロキシーがあなたに注意をしたのは、そういう側面もあるのです。聡明なあなたなら、わかりますね?」
 ワタシは頷いた。確かにスタンドプレイは禁物だ。彼の言葉をワタシが受け入れたのを見て取ると、彼はためらいがちに、更に突っ込んだ内容に触れた。
「その……差し出たことを言いますが、あなたは飛び級をするそうですね。年齢が上の集団に入って行った時に、受け入れられるためには、同年代の集団より、一層の協調性が要ります。あなたの秀でた才能が、かえって仇となる場合もあるかもしれません……」
 思わず、彼の顔を見直した。
(なに、コレ? そんなことまで心配してくれるの?)
 ワタシが驚いた気配を感じたのだろう。彼は苦笑いを浮かべて言った。
「実は、私も、過去に飛び級をしたのですよ」と。
 それを聞いた時、胸がふわっとあったかくなった。ああ、この人は、冷たい人なんかじゃない。自分の経験を振り返って、同じ道をたどるワタシを、気遣ってくれてるんだって。そのために、わざわざ追いかけて来てくれたんだって。
 ……彼のやさしさを知って……ワタシは、ホントに大好きになっていた。だからこそ……ワタシのことをこんなに心配してくれるこの人を、安心させてあげたくなった。
「タイジョウブですよ。ワタシ、強いですから。それに、人より頭がいいのだって、それがワタシの個性なんだし、隠したってしょうがないし。ありのままの自分で、みんなとうまくやっていけるように、努力します」
 すると彼は、目を丸くして、ワタシを見つめた。そして……とっても素敵な笑い方をした。
「確かに、そうですね。あなたは、私と違って、のびのびと自分の個性を発揮して、人の輪の中に入ってゆくことができそうです。私が助言などしなくとも、あなたは、ちゃんと自分の考えを持っている。あなたなら、中等部に編入しても、きっとうまくいくことでしょう」 
 ワタシは、急いで言った。
「でも、今、アナタが言ってくれた言葉は、心に響きました。ホントです」
 すると彼は、少しだけ笑い声を立てた。
「私の心にも響きましたよ、あなたの作り出した炎がね。思わず、見入ってしましまいました」 
 眼鏡の奥の瞳は、無表情なんかじゃなかった。彼は、いかにも楽しそうに、そしてあたたかい目をワタシに向けていた。
「もし、よかったら、あなたの進む道の選択肢として、王立研究院を入れておいて下さい。成長したあなたと、科学的な事象について、意見交換をしてみたいものです」
  ワタシは速攻で返事をした。
「はい! ワタシ、王立研究院に行きます、きっと!」
「そうですか。それは嬉しいですね。待っていますよ」
 午後の日射しがあったかいベンチで、彼と目を合わせた時、ワタシの心は決まった。この人の傍に行きたい、そしてずっと傍にいたい。その想いがワタシを一筋の道へと押し進めた。彼の傍らを歩く道へ、と……。
 
 
 そして今、ワタシはこの時の決意通り、王立研究院に籍を置いている。一日も早くって思いがあったから、中等部に編入した後、ラッシュをかけた。「ここまでやれる」ということを、誰の目にもわかるように見せつけて、高等部をすっ飛ばし、異例の早さで王立研究院入りした。同年代の子がエンジョイしている学校生活を、味わう間もなく駆け抜けてしまったけれど、後悔はしていない。
 あの時の“先生”ロキシーさんは、別の星の研究院に異動して、いなかったけど、彼が主任になっていることを、新人研修の一日目で知った。
「ようこそ、王立研究院へ。私は主任を務めるエルンストです。皆さんがこれからここで取り組む作業の一つひとつが、宇宙の現状をとらえ、未来を予測し、またその生成の秘密を探ることにつながります。すぐには、研究成果が出ないことも多いでしょうが、たゆまぬ情熱を持ち続けていれば、きっと答えに近づけることでしょう。答えを、真理を一つでも解き明かすべく、研究員同士、協力してやって行きましょう。私も助力を惜しみませんので」
 ぱりっと音のしそうな糊のきいた制服を着て、まっすぐに背中を伸ばして、新人のワタシたちを励ます彼は、とっても頼もしかった。しかも彼はワタシのことを覚えていた。
「ああ、レイチェル。有言実行、しかも随分早く来ましたね」
 あの時と同じ、あたたかい瞳。嬉しかった。ずっと憧れて来たこの人の傍で、自分の好きな研究ができること。なんてラッキー! 心から頑張ろうって思えた。だから新人の間は、当然のように割り振られる単純作業や雑用も、苦にならなかった。
 その一つが、飲み物を作ること。ラボでは、基本飲み物は自分で作ることになってたけど、来客や会議の合間の休憩の時や、席を立つ間も惜しいほど忙しい人のために、お茶を淹れるのは、主に新人の役目だった。
 その日、彼ともう一人の研究員が、午前中からずっと難解な演算に取り組んでいた。端末に貼り付いたままになっている二人のために、ワタシは飲み物を用意した。
「お疲れさま、一息いれませんか」
 声を掛けながら、二人がそれぞれ向き合っている端末の間に、入って行った。
「ああ、ありがとう」
言いながら彼は、ディスプレイから、目を離さないまま、ワタシの持っているお盆に手を伸ばした。
「あ、それは……!」
 ワタシが叫ぶより、一瞬早くことは起こってしまった。
「あっ!」
 よそ見をしていて、彼は自分のコーヒーの入ったマグカップではなく、緑茶の入った湯のみに、思い切り親指を突っ込んでしまったのだ。
「だ、大丈夫!?」
 緑茶は、少し冷ましたお湯で淹れたから、そんなに熱くはないはずだけど、突然のことに、ワタシが戸惑っているうちに、先輩の研究員がさっと洗面所に行って、濡れタオルを持って来た。
(あ……)
 先輩研究員の適切な対応は、さすがだと思った。そして何の動きも取れなかった自分のふがいなさを感じていた時、驚きの会話が目の前で交わされた。
「まったく、主任〜、またですか。ダメですよ〜、よそ見しちゃ」
「……後もう少しで解が出るというところだったので、目が離せなかったのです。君の飲み物をダメにしてしまいましたね。すみません」
「いや、それはいいんですけど。服、ちゃんと拭いておかないと、染みになりますよ」
 すると彼は、余裕の笑みを浮かべて言った。
「大丈夫です。先日、出入りのクリーニング業者に、私が開発して、更に強力になった染みとり剤を提供しました。あれを使用すれば、こんな染みなど、恐るるに足りません」
 先輩研究員は、あきれ顔で言った。
「まあ、確かに、主任のおかげで、あの業者さん、染みとり技術がどんどん向上して、お客さんが増えたって、喜んでましたけどね……。あ、それと、制服のメーカーの人も、染みになりにくい生地の開発にいいアイデアをもらったって、感謝してましたっけ。ですが主任、僕には、どうもそれって、才能の無駄遣いのような気がして、仕方がないです」
「何を言うのです? 染みとりは、普遍的に役立つ技術ですし、より機能性の高い生地の開発も有用性が高い。どちらも、広く活用できます」
「いや、それは確かにそうですけど、王立研究院の主任がやることではないんじゃないですか〜?」
 すると彼は、胸を張って、言いきった。
「いいえ、人類は衣服を着用するようになった瞬間から、染みと戦って来ました。染みとりは、衣服を大切に長く着られるようにするという意味で、環境保護の側面からも、宇宙のすべての住民に利するものなのです。その人類共通の課題に、私の知識、経験を生かせるのなら、実に有意義なことだと思えますね」
 あっけに取られて、このやりとりを聞いていたワタシは、ふと気づいた。持論を堂々と展開する彼の制服、一見ぱりっとした制服のあちらこちらに、うっすらと取りきれなかった染みが残っていることに。ワタシの頭に、あの理科の実験のときに、思い切り袖口を水溶液に突っ込んでいた彼の姿が、甦って来た。
 先輩の研究員の対応が、いかにも冷静で、適切だった理由が、腑に落ちた。つまりこんな小さな事故が、しょっちゅうあって、先輩研究員はすっかり慣れっこになっている、ってことなんだって。

 こんな風に、ぱっと見、理性理論派の典型に見える彼が、実はかなりの変わり者であることは、段々にわかってきた。考えごとや作業に集中するあまり、物をこぼしたり倒したりすることは、日常茶飯事。仕事に打ち込むあまり、寝ることも食べることも忘れて、王立研究院に泊まり込んで、過労と餓死の寸前に陥ることも、しばしば。
 そんな有様を見るにつけ、最初はショックだったけど、段々慣れて、何をしても驚かないようになっちゃった。やらかした時のフォローのしかたも、ばっちり習得したし。
 そして、いつの頃からか、主任って呼ぶのも、敬語を使うのも、何でこんなヤツにっていう気分になって来て、呼び捨て、ため口になっていった。彼、エルンストも、そういうこと、全然気にしなかったし。
 そういう困った点が多々あっても、エルンストが、デキる男なのは、確かだった。日常生活から、時々離れてしまうその瞳は、まっすぐに宇宙へと注がれている。
 怜悧な思考から生み出される理論。たゆみない努力と熱意。宇宙を語る時、いつも生き生きと輝いていた。
 そんなエルンストを……ワタシは研究の面でも、日常生活の面でも、手助けできるんじゃないかって、思った。というか、この人、ホント放っておけないって。
 仕方のないヤツって、思えば思うほど、好きになる。そんな自分自身の心が不思議だったけど、もう、どうしようもなかった。
 エルンストの方は、どう思ってるかわからないけれど、少なくとも、これまで周りにいた女性たちの誰よりも、彼にとって頼りになる存在になることが、目標。……達成できる自信はある。

 今日、休憩時間に、コーヒーを持って行ったら、一口飲んで、ほっと顔を和ませて言った。
「最近、あなたの淹れてくれるコーヒーが、楽しみですよ。本当においしい……」
 アタリマエじゃない。コーヒーの淹れ方だって、アナタの好みに合うのを、徹底して研究したんだもの。コーヒーだろうが、何だろうが、アナタにとっての一番を、誰にも譲るつもりはない。
 だから……ねえ、気づいてよ。アナタみたいな変人にとことん付き合えるのは、この世でワタシだけだってことを。
 宇宙を見つめるアナタのまなざしに、この頃、ほんの少し嫉妬している。瞳に宿る熱の、何分の一かでも、ワタシを見る時にって……。

 相手が相手だけに、長期戦は覚悟している。でも、どんなに時間がかかっても、ワタシ、めげない。たゆまぬ情熱を持ち続けていれば、答えに届く、そう言ったのは、アナタだものね。

 あの日、理科室で感じたときめきは、今もずっと、いいえ、もっと強くなって、この胸にある……。
 
 大好きなの、エルンスト。
 だから、いつか、きっと気づいてよね!

                             (終わり)






脳内BGMは、アイドル時代の広◯涼子の歌でした。
「ずっと前から、彼〜のこと、好き〜だった、誰よりも〜♪」
って、ヤツね(笑)
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