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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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私の居住している方面は、から梅雨でして。
今年は、まだあまり実感できていない、
梅雨の風情を思いつつ、書きました。
短いです。

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「雨上がり」


 窓の向こうから聞こえる雨の音が、変わった。
「あ、小降りになって来たみたいだね?」
 放課後の練習室。ヴァイオリンを弾く手を止めて、香穂さんが言った。僕は、窓辺に寄って、ガラス越しに、空を眺めてみた。灰色の雲が薄くなって、どんどん風に流されていく。切れ間からは、もうすぐ青空がのぞきそうだった。
「そうだね。もうすぐ、雨、上がりそうだ。今、いいタイミングかもしれない」
 僕の言葉に頷くと、香穂さんは、楽譜や楽譜台を片付け始めた。ほんとうは、もう少し彼女の演奏を聴いていたかったけれど。家までの帰路、大切なヴァイオリンを抱えていくことを思えば、雨がやみそうな今帰るのが、上策というものだろう。
 その判断が、正しかったことを示すように、校舎から外に踏み出す頃には、光が射し始めていた。
「雨、やんで、よかった〜」
 香穂さんが、顔をほころばせる。もう時間的には夕刻だけれど、一年で一番昼の長い季節の日射しは、まだまだ昼日中と同等の強さ、明るさを保っている。
「日が長いと、一日が長いみたいで、何だか得した気分になるね」
 と、香穂さんが笑った。
 たっぷり水気を含んだ空気が、その日射しにあたためられ、肌に貼りつくようだ。けれど、正門へ続くプロムナードに植えられた木も、フラワーベースの草花も、満ち足りたように生き生きしている。きっと葉脈の隅々にまで、水が行き渡っているのだ。
 香穂さんも、その瑞々しい緑に、心が向いたのだろう。手を伸ばし、庭木の葉を、軽く弾いた。すると、葉に溜まっていた透明なしずくが、躍るように跳ねあがり……その時、僕はぴんと張りつめた音を聴いた気がした。
 香穂さんは、その遊びがすっかり気に入ったらしく、数歩進んでは、水滴を散らすということを、繰り返した。
 あんまり楽しそうなので「荷物、持っていようか?」と声を掛けると、新鮮な薔薇のような笑顔とともに、傘、鞄、そしてヴァイオリンケースの三点セットが、僕の手に委ねられた。
 荷物から解放された香穂さんは、踊るような足取りで、木から木へと巡り、水玉を跳ね散らかし、時には今を盛りと咲いている大きな白百合の花に付いた水滴を、そっと指で払い落としたりした。さっき練習していた、マドリガルの旋律を口ずさみながら……。
 そんな香穂さんを見つめていると、奏でていなくとも、香穂さんのヴァイオリンの旋律が、音楽が、聴こえる気がした。彼女は、今、弦の代わりに、恵みの雨で、はち切れんばかりになった緑と、自分の中の音楽を共鳴させているのだ。

  君が触れることで、それらは楽器にもなり得る。
  緑は、もともと自分の音楽を持っているのだから。
  春には風にささやき、秋には乾いたつぶやきを洩らす。
  ヴァイオリンというのも、もしかしたら、そうした歌いたがる緑のエッセンス
  を、同じく歌いたくて仕方ない人のために、切り出し、組み立て、ニスを塗っ
  て、封じ込めた物なのかもしれない……。

 ひとしきり、緑との合奏を楽しんだ香穂さんが、僕のもとへ戻って来た。額にかかる前髪が、汗のせいか、しずくのせいか、ぺたっと張り付いている。制服のブラウスの前も濡れ、うっすらと透ける布地の下で、小さな胸が酸素を求めて上下している。……小鳥のようだと、僕は思った。
「ああ、濡れちゃった〜」
 小さなタオルハンカチを取り出し、香穂さんが額や胸元を押さえ、身じまいを整えるのを待って、僕は荷物を差し出した。
「お帰り、すてきな演奏だったよ」
 すると香穂さんは、一瞬目を丸くしたが、罪のないいたずらがばれた子供のように、小首を傾げて、笑いをこぼした。
「ああ、加地君には、お見通しだね。ほんと、かなわない」
(かなわないのは、こっちの方だよ……)
 そんな言葉を、言いかけて、飲み込む。

   僕は……知る限り、ありとあらゆる言葉で、君に話してきたけれど。
   君が弾いた葉の一枚分の思いも、きっと言い表すことは、できない。

 荷物を受け取ると、香穂さんは、長い髪をさっと振って言った。
「帰ろう、雨が降り出さないうちに」
「そうだね」
 肩を並べて、歩き出す。交わされる他愛のない会話。でも、香穂さんの話す声に、しぐさに、瞳の輝き一つひとつに、僕は彼女の音楽を聴く。

   そう、初めて君を見た日、音楽を聴いた日に、呼び覚まされたものは、 
   君という存在に触れることで、ずっとずっとふるえて、鳴り響いている。

「わあ、見て、加地君、虹だよ!」
「ああ、ほんとだ!」
 香穂さんの指差す東の空に、うっすらと虹が架かっていた。七色の橋は、遠く、美しく、実在するようで、掴めないもの。
 どれだけ望んでも、届かなかったから、僕は虹をあきらめてしまったのだけれど。
 瞳を輝かせて、空を見上げる香穂さんの横顔を、そっと見つめる。

   君なら、きっと届くだろう。
   もし、許されるのなら、僕は、傍で……君が虹を掴むのを見届けたい。

「ああ〜、もう、消えちゃう」
 香穂さんが、残念そうな声を上げる。雨粒と光が作り上げた、美しい幻は、早くも空の中に、はかなく溶け入ろうとしている。
「でも、加地君と一緒に見られて、よかった」
 香穂さんは、虹から僕に目を移し、一瞬だけ、僕の腕に、自分の腕を絡めた。

    ああ、ほら、また。 僕の奥底がふるえたよ……。

「僕も……。今日、君と見た虹を、ずっと忘れないよ」
 僕がようやく言えたのは、たったこれだけだった。香穂子さんは、にっこり頷いた。
「明日は、晴れるといいね」
「虹が出たから、きっと晴れるよ」
 虹がすっかり消えた頃、ようやく、長い日も傾き始めた。潤んだ大気が、やさしく薄紅に染まり始める。
 
    今日が終わっても、また明日。無邪気な子供のように、信じられる気がし
    た。
    傍らを歩く、君の笑顔に、心満たされる……夕暮れの道……。





加地にしては、言葉少なな感じですが、私、思うに、彼の溢れ出る美辞麗句は、感動に出会った後、ぐるぐると膨らませて、言葉として、再構成したものではないかと思うのです。かっこつけなんで、自分の考えを吐露する時、特に香穂さんとの知り合い始めの時は、相当練り練りした結果だったんでないか、と。
(星奏の来るまでの間、そんだけ妄想してたってことでもある・笑)

ですので、感動に出合った瞬間っていうのは、意外と無口だったり、特に香穂さん絡みの場合は、手をつないだ時みたいに、叫び声しか出ない状態ではないか、と。

というか”人魚”とか”天使”が、日常使う語彙な男子高校生って、
イヤじゃないですか?^^; まあ、それもまた、加地だから〜と、納得できないこともないですが。
(関係ないけど、ときメモGSの色サマに、バーガーショップで「下さいなV」って言われた時も、ビビった。そんな男子高校生って〜〜(><)
でも、まあ、色サマだからね^^;)
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