管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
カテゴリー
フリーエリア
最新記事
(08/27)
(05/22)
(09/26)
(08/03)
(07/20)
(06/28)
(06/10)
(05/26)
プロフィール
HN:
コマツバラ
性別:
女性
自己紹介:
乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
ブログ内検索
最古記事
(09/13)
(09/14)
(09/14)
(09/14)
(09/14)
(09/14)
(09/14)
(09/18)
アクセス解析
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「雨上がり」
窓の向こうから聞こえる雨の音が、変わった。
「あ、小降りになって来たみたいだね?」
放課後の練習室。ヴァイオリンを弾く手を止めて、香穂さんが言った。僕は、窓辺に寄って、ガラス越しに、空を眺めてみた。灰色の雲が薄くなって、どんどん風に流されていく。切れ間からは、もうすぐ青空がのぞきそうだった。
「そうだね。もうすぐ、雨、上がりそうだ。今、いいタイミングかもしれない」
僕の言葉に頷くと、香穂さんは、楽譜や楽譜台を片付け始めた。ほんとうは、もう少し彼女の演奏を聴いていたかったけれど。家までの帰路、大切なヴァイオリンを抱えていくことを思えば、雨がやみそうな今帰るのが、上策というものだろう。
その判断が、正しかったことを示すように、校舎から外に踏み出す頃には、光が射し始めていた。
「雨、やんで、よかった〜」
香穂さんが、顔をほころばせる。もう時間的には夕刻だけれど、一年で一番昼の長い季節の日射しは、まだまだ昼日中と同等の強さ、明るさを保っている。
「日が長いと、一日が長いみたいで、何だか得した気分になるね」
と、香穂さんが笑った。
たっぷり水気を含んだ空気が、その日射しにあたためられ、肌に貼りつくようだ。けれど、正門へ続くプロムナードに植えられた木も、フラワーベースの草花も、満ち足りたように生き生きしている。きっと葉脈の隅々にまで、水が行き渡っているのだ。
香穂さんも、その瑞々しい緑に、心が向いたのだろう。手を伸ばし、庭木の葉を、軽く弾いた。すると、葉に溜まっていた透明なしずくが、躍るように跳ねあがり……その時、僕はぴんと張りつめた音を聴いた気がした。
香穂さんは、その遊びがすっかり気に入ったらしく、数歩進んでは、水滴を散らすということを、繰り返した。
あんまり楽しそうなので「荷物、持っていようか?」と声を掛けると、新鮮な薔薇のような笑顔とともに、傘、鞄、そしてヴァイオリンケースの三点セットが、僕の手に委ねられた。
荷物から解放された香穂さんは、踊るような足取りで、木から木へと巡り、水玉を跳ね散らかし、時には今を盛りと咲いている大きな白百合の花に付いた水滴を、そっと指で払い落としたりした。さっき練習していた、マドリガルの旋律を口ずさみながら……。
そんな香穂さんを見つめていると、奏でていなくとも、香穂さんのヴァイオリンの旋律が、音楽が、聴こえる気がした。彼女は、今、弦の代わりに、恵みの雨で、はち切れんばかりになった緑と、自分の中の音楽を共鳴させているのだ。
君が触れることで、それらは楽器にもなり得る。
緑は、もともと自分の音楽を持っているのだから。
春には風にささやき、秋には乾いたつぶやきを洩らす。
ヴァイオリンというのも、もしかしたら、そうした歌いたがる緑のエッセンス
を、同じく歌いたくて仕方ない人のために、切り出し、組み立て、ニスを塗っ
て、封じ込めた物なのかもしれない……。
ひとしきり、緑との合奏を楽しんだ香穂さんが、僕のもとへ戻って来た。額にかかる前髪が、汗のせいか、しずくのせいか、ぺたっと張り付いている。制服のブラウスの前も濡れ、うっすらと透ける布地の下で、小さな胸が酸素を求めて上下している。……小鳥のようだと、僕は思った。
「ああ、濡れちゃった〜」
小さなタオルハンカチを取り出し、香穂さんが額や胸元を押さえ、身じまいを整えるのを待って、僕は荷物を差し出した。
「お帰り、すてきな演奏だったよ」
すると香穂さんは、一瞬目を丸くしたが、罪のないいたずらがばれた子供のように、小首を傾げて、笑いをこぼした。
「ああ、加地君には、お見通しだね。ほんと、かなわない」
(かなわないのは、こっちの方だよ……)
そんな言葉を、言いかけて、飲み込む。
僕は……知る限り、ありとあらゆる言葉で、君に話してきたけれど。
君が弾いた葉の一枚分の思いも、きっと言い表すことは、できない。
荷物を受け取ると、香穂さんは、長い髪をさっと振って言った。
「帰ろう、雨が降り出さないうちに」
「そうだね」
肩を並べて、歩き出す。交わされる他愛のない会話。でも、香穂さんの話す声に、しぐさに、瞳の輝き一つひとつに、僕は彼女の音楽を聴く。
そう、初めて君を見た日、音楽を聴いた日に、呼び覚まされたものは、
君という存在に触れることで、ずっとずっとふるえて、鳴り響いている。
「わあ、見て、加地君、虹だよ!」
「ああ、ほんとだ!」
香穂さんの指差す東の空に、うっすらと虹が架かっていた。七色の橋は、遠く、美しく、実在するようで、掴めないもの。
どれだけ望んでも、届かなかったから、僕は虹をあきらめてしまったのだけれど。
瞳を輝かせて、空を見上げる香穂さんの横顔を、そっと見つめる。
君なら、きっと届くだろう。
もし、許されるのなら、僕は、傍で……君が虹を掴むのを見届けたい。
「ああ〜、もう、消えちゃう」
香穂さんが、残念そうな声を上げる。雨粒と光が作り上げた、美しい幻は、早くも空の中に、はかなく溶け入ろうとしている。
「でも、加地君と一緒に見られて、よかった」
香穂さんは、虹から僕に目を移し、一瞬だけ、僕の腕に、自分の腕を絡めた。
ああ、ほら、また。 僕の奥底がふるえたよ……。
「僕も……。今日、君と見た虹を、ずっと忘れないよ」
僕がようやく言えたのは、たったこれだけだった。香穂子さんは、にっこり頷いた。
「明日は、晴れるといいね」
「虹が出たから、きっと晴れるよ」
虹がすっかり消えた頃、ようやく、長い日も傾き始めた。潤んだ大気が、やさしく薄紅に染まり始める。
今日が終わっても、また明日。無邪気な子供のように、信じられる気がし
た。
傍らを歩く、君の笑顔に、心満たされる……夕暮れの道……。
加地にしては、言葉少なな感じですが、私、思うに、彼の溢れ出る美辞麗句は、感動に出会った後、ぐるぐると膨らませて、言葉として、再構成したものではないかと思うのです。かっこつけなんで、自分の考えを吐露する時、特に香穂さんとの知り合い始めの時は、相当練り練りした結果だったんでないか、と。
(星奏の来るまでの間、そんだけ妄想してたってことでもある・笑)
ですので、感動に出合った瞬間っていうのは、意外と無口だったり、特に香穂さん絡みの場合は、手をつないだ時みたいに、叫び声しか出ない状態ではないか、と。
というか”人魚”とか”天使”が、日常使う語彙な男子高校生って、
イヤじゃないですか?^^; まあ、それもまた、加地だから〜と、納得できないこともないですが。
(関係ないけど、ときメモGSの色サマに、バーガーショップで「下さいなV」って言われた時も、ビビった。そんな男子高校生って〜〜(><)
でも、まあ、色サマだからね^^;)
PR
この記事にコメントする