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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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第二弾であります。

ええと「エンジュたん、どんだけフランシス様、好きだよ?」
というような話です、多分。


この作品は2012年1月15日頃までフリー配布致します。

ご自身のサイトなどに、アップされる場合は、コマツバラの
作品であることを、明記して下さいますよう、お願い致します。

フリー配布期間は、終了致しました。

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「雪の意味」


 すべてが雪に白く染め上げられた町。除雪がなされたプロムナードを、フランシス様は、すべるように進んでいく。その背中を見ながら、数歩遅れて歩いていると、ふいにフランシス様が振り返った。
「歩きづらいですか、レディ? お手をどうぞ」
 差し伸べられた手に、心が舞い上がる。今まで、私をこんな風に扱ってくれる人はいなかった。
 本当は、雪道ぐらい、へいちゃら。故郷には、毎年雪が降り積もる。子供の頃は、その中を跳ね回って遊んでいたし、家業の農場の手伝いができる年になってからは、毎年雪かきもしていた。
 だから、多分、私の方がフランシス様より雪に慣れているし、どちらかと言うと、私の方が手を貸してあげた方がいいのかもしれない。身も心も繊細な方だから。
 にもかかわらず、私がフランシス様の後ろにいたのは、フランシス様が歩く姿を眺めていたかったからだ。銀色の艶やかな毛足の長いコートに包まれた背中。艶やかな髪の長い襟足が、ふわりと毛皮の肩に広がり、一つ、また一つと雪がまといつく。後ろ姿なら、ぶしつけに見つめることができる。見つめていたい……。まともに正面に向き合ったら、あの深い色の瞳に、何もかも見透かされてしまいそう……。
 手を取られて、フランシス様の隣を歩く。上質の革の手袋が、私の毛糸のミトンを包んでいる。ほのかに伝わるぬくもりが、嬉しい。時折、そっとフランシス様の横顔をうかがってみる。雪の街を眺める瞳は、どこか遠くの何かをを求めているよう。でも、踏みしめる足下はたゆみなく、つないだ手にこもる力は、確かに私をリードしている。このまま、ずっと一緒に歩いていたら、フランシス様の見ている彼方へ連れて行ってもらえるかしら。
 そんな想いをふくらませながら、見とれていたら、ふいに、やさしいまなざしと、声が落ちて来た。
「雪が強くなって来たようです。あなたが凍えてはいけない。どこか店に入りましょうか」
「はい」
 もう少し、このまま手を引かれていたい気もしたけれど、私は素直にうなずいた。彼方でなくとも……どこへでもついてゆきたい。
 カフェの扉をくぐると、あたたかい空気が押し寄せて来た。窓辺の席に案内されて、差し向かいに座る。……やっぱりまともに顔が見られない。だから、私は、フランシス様の襟元を飾るレースを見ていた。
 あたたかいココアを、少しずつ飲みながら、そのせいばかりでない、甘さと熱さが、自分の中にじんわりと広がっていくのを感じていた。
 窓の外には、降りしきる雪。
(あ、また……)
  思い切って目を上げてみたフランシス様の横顔。その瞳は、また遠くの何かを追っていた。街角よりも、灰色にたれ込めた雲よりも、遥か向こうにあるもの。フランシス様の瞳に映る世界は、きっと私には想像さえできないものなんだろう。今、こうして近くにいても、遠い人。その距離感は、私を安心させると同時に、胸をちくりと刺した。
(もっと近づきたい、なんて……欲張りだよね)
 そっと目を伏せた時、フランシス様のついたため息が聞こえた。
「雪を見ていると……少々嫌になってしまうのですよ。自分自身と引き比べてしまって、ね……」
 ふとこぼれ出した言葉。手がかりだと思った。この人の見ている世界に続く扉が、少しだけ開かれたのだと。
「それって、どういうことですか?」
 フランシス様は、微苦笑を浮かべながら、その意味を教えて下さった。
「雪というのは、はかなげなようですが、降り積もれば、屋根を壊してしまうほどの重量になるでしょう。それと同じで……。私の……愛は、言葉を、想いを重ねるごとに重くなってしまう……。そのくせ、時が来れば、跡形もなく、消え果ててしまう。雪は、そんな虚しい私の愛に似ている気がするのです。そんな私を……レディは、軽蔑なさいますか」
 問いかけられた時、稲妻みたいに、インスピレーションが落ちて来た。この、冷たく凍えてしまった、心のしこりに、私は触れることができる、そう直感した。私の中に別の力が入り込んできたみたいだった。神様か、女王陛下かわらない、何かがもたらしてくれたその力に突き動かされ、フランシス様にとって、私にとって、正しい答えを、私は差し出すことができた。何のためらいもなく、心からの笑顔とともに……。
「軽蔑なんてしません。それに、フランシス様の愛は、虚しくなんてありません。だって……溶けた雪は、きれいな水になります。水に姿を変えて、春に芽吹く草木を、命を育むんですよ? だから……絶対虚しくなんてありません!」
 私が一息にしゃべるのを、フランシス様は目を丸くして聞いていたけれど。“違う、違う”という風に、少し首を振りながら、言葉を返して来た。
「レディ……私の愛は、そのような慈しみのあるものではありません。ただ、ただ、相手を苦しめるだけなのです」
 私は、もっと大きく、はっきり首を振った。
「いいえ、それは違います! だって、フランシス様は、私をしあわせな、あたたかな気持ちにして下さいますもの。フランシス様が、否定なさっても、それはほんとのことなんです」
 こみ上げる気持ちのままに、私は手を伸ばして、フランシス様の頬に触れていた。
「……あなたが、あたためて下さったこの手で……どんな冷たい雪だって、私が溶かしてみせます」
「レディ……!」
 フランシス様は、まるで痛みに耐えるように、ぎゅっと目を閉じた。長い睫毛がかすかに震えていた。もう一度目を開けた時、頬に添えた私の手を握りながら、脅えているような、かすれ声で言った。
「……信じてもよいのですか? あなたの、愛を?」
「ええ、もちろん!」
 確信を持って言い放った私を、まじまじと見つめて、フランシス様は、心の中で自問自答しているようだった。苦しげだった表情が、次第にやわらぎ、微笑みへと移り変わった。
「夢のようなことですが……。そうですね、あなたという光に導かれて、私は自分というものに、新たな意義を見いだすことができた……。そして、あなたのこの手のぬくもりが……私の愛の形をも、きっと生まれ変わらせて下さるのでしょう」
「フランシス様……」
 私の手に、そっと唇を押し当てると、フランシス様は言った。
「これからは、背中ではなく、私を見ていて下さいますね?
「え? あぁ……!」
 気づかれてたんだ……と思った瞬間、どっと恥ずかしさが押し寄せて来た。頭にかっと血がのぼる。インスピレーションは、どこかへ飛んで行って、いつもの自分が戻って来てしまった。
「えっと……あの……」
 どうしよう? 心臓がばくばくする。だのに、フランシス様の瞳が、じっと私に注がれて……目をそらすこともできない。
「そして、こうして、正面からあなたを見つめてもよいのですよね?」
 ダメです、無理です! と言えたものではなかった。私は……私も、飛び越えるしかなかった。自分の中で「フランシス様は、私と違う次元の人」と線を引いて作っていた安全圏を。
「……はい」
 自分自身の動悸に責め上げられながら、辛うじて答えた瞬間、これまでとは違う世界に、私は飛び込んでいた。もう、後戻りはできない……。そう悟った瞬間、力が満ちてくるのを感じた。今度は、外から降って来たのではなく……自分の中から、お腹の底からわいてきた力だった。

 さっきの言葉を、私はほんとうの、確かなものにする。
 この手で、冷たい雪だって、きっと溶かしてみせる。
 この人の傍で、この人だけを見つめて。

 心を決めて、フランシス様を見つめ返した時、フランシス様は笑ってくれた。光が差したような、明るいきれいな笑顔だった。


 あれから冬が来るたびに、この時のことを思い出す。フランシス様にとっても、私にとっても、雪の意味が変わった、忘れられない冬。
 溶かした雪が、私たちの間に、想いを、絆を育んでゆく。
 二人手を取り合って、きっと見届ける、雪の向こうにあるものを。
 
 そこには、きっと果てない春が広がっている。






短いで話ですが、自分としては、いくつかのコンセプトを
盛り込んだつもりです。その辺り感じて頂けると嬉しいです。
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