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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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先日行いました、2周年アンケートで上位だった、
♂×リモージュにお応えして、書きました。

いろいろ考えましたが、ルヴァ様が需要が多そうかな、と。
ポチして下さった方々に、楽しんで頂ければ、幸いです^^


拍手下さった方、ありがとうございましたV

拍手



「金褐色のたからもの」

「もう、遅〜い。何をやっているのかしら?」
 女王アンジェリークは、ぷんと頬を膨らませた。その絶大なサクリアで、宇宙を護り、調和へ導く存在として、敬愛を一身に集める女王らしからぬ仕草ではあったが。
 休日、こうして恋人を待つ彼女は、十七歳の少女でしかなかった。その日の午後をともに過ごそうと、うきうきしながら、でも心を込めてしつらえたお茶のテーブル。それなのに、主賓が姿を現さないとあっては、彼女のご機嫌が斜めになるのも無理からぬことだった。
「ロザリアの特製いちじくパイ、私が全部食べちゃうわよ!」
 まだ来ぬ相手に宣言して、親友の心づくしのパイに手を伸ばしかけたその時だった。
「いやあ〜、遅くなってしまって、申し訳ありません」
 いつもののんびりした口調よりは、かなり切迫感が加わった、待ち人の声がした。
「やっと来たのね、ルヴァ。今何時だと思っているの」
「え〜と、3時ですね〜」
「約束の時間は?」
「……2時でしたね。いや……ほんとうに申し訳ありません」
 深々と頭を下げるルヴァの肩が、荒らぐ呼吸のために、大きく上下している。詫びの言葉も、とぎれとぎれになっているその姿から、彼ができる限りの速さで、必死にこの場所へやって来たことは、見て取れた。
 だが、一時間の大遅刻は、不問に付すわけにはいかない。まして、こうして二人きりの時間を持つのは、随分久しぶりのことなのだ。
「一体、今まで、どこで何をしてたの?」
 するとルヴァは、何とも気まずそうに、視線を泳がせた。
「あ〜、え〜と、セレスティアのリヴル・バランスから、注文していた本が入荷したと連絡がありまして、午前中のうちに、取りに行こうと思ったんですよ」
「確かに、本を買いに行くだけなら、午前中に行って帰って来られるわね。それで、どうしたの?」
「リヴル・バランスの開店時間に行って、本を受け取って。店内で新刊書をチエックしていたら、その〜、エンジュに会いまして」
 ここで、ルヴァは一層気まずそうに、アンジェリークの反応を伺った。エトワールであるとはいえ、ルヴァの口からプライヴェートな場面で、女の子の名前を聞いて、アンジェリークの片眉は、ピンと上がりかけたが、すべてを聞かないと、かえって気分が悪い。そこでアンジェリークは、努めて淡々と先を促した。
「続けて。エンジュと会って、それで、どうしたの?」
 そのアンジェリークの態度に、ルヴァもきちんと説明しなくては、という責任を感じたらしく、はっきりとした語調になった。
「彼女は、かなりの日数、星系旅行に出ていたもので、会うのは久しぶりでした。で、彼女は私のために、ある惑星で古文書を手に入れてくれたとのことでした。翌日からまたしばらく星系旅行に出るので、今、ここで会ったのがいい機会だから、手渡したいと言われました」
「なるほど、エンジュは忙しく飛び回っているものね。……それで?」
「アウローラ号まで、一緒に行こうかと思ったんですけど、エンジュが、あかつきの森が、今きれいに紅葉しているので、見に行きたい、と。それで、エンジュが古文書を一旦取りに戻り、あかつきの森で待ち合わせることになりました」
「……今、セレスティアは、秋なのね」
 言いながらアンジェリークは、手を伸ばし、ルヴァのターバンに付いていた赤く色づいた木の葉を取った。
「あ、すみません。付いていましたか。ええ、森全体がその葉の色に染まっていて、とてもきれいでした。
 そんな森を、しばらく二人で散策しているうちに、エンジュが郷里でよくキノコ採りをしたという話になりまして。では、探してみようということになりました。あかつきの森の主要な樹木は、広葉樹なんですけども、いや〜、奥に入ると、ほんとにたくさんの種類を見つけることができました。中には、随分珍しいものもありましてね……」
 目を輝かせて話すルヴァを、アンジェリークは片手を挙げて、押しとどめるしぐさをしました。
「……もう、いいわ。つまりあなたは、キノコ探しに夢中になって、約束の時間を忘れてしまった、と?」
 アンジェリークの声のトーンが低くなった。その声の響きに、ルヴァはキノコ話の興奮から、一気にさめた。さめるのを通り越して、背筋が凍るのを感じた。
「……はい、そうです」
「……それも、エンジュと一緒に?」
「いや、それはその、古文書を頂いたお礼と、日頃忙しくしている彼女に息抜きをさせてあげられれば、と……」
 ルヴァがとりあえず試みた言い訳は、かえってアンジェリークの怒りに火を注いだ。
「……あなたが、エンジュを、エトワールを気遣う気持ちはわからないでもない。だけど、なんであなたが、どうして今日、彼女に付き合わないといけないの? 私、私、今日をすごく楽しみにしていたのに!」
 胸の内を訴えるうちに、アンジェリークの目から大粒の涙が、転がり落ちた。
「すみません、ほんとうに、すみません。この通りです」
 深々と頭を下げるルヴァに、アンジェリークは、くるりと背を向けると、鋭く言い放った。
「もう、帰って! 帰って、キノコでも栗でも、探しに行けばいいんだわ! きっと山ほど見つかるでしょうよ! なんたって、私より、大事なんですものね!」
「あ、アンジェリーク、そ、そんなことは、決して……! ああ、ほんとうに、すみません!」
 ルヴァが、慌ててアンジェリークの肩に手を掛けようとした、その時だった。ほっそりとした人影が、その場に現れた。
「陛下、お邪魔だとは思いますけど……。!? どうしたの、アンジェリーク!?」
「ロザリア!」
 アンジェリークは、ルヴァの手を振り払うと、親友の胸に、身を投げかけた。ロザリアは、泣きじゃくるアンジェリークを抱きとめると、当惑して、問いただした。
「どうしたの、泣いたりして?」
「う……ふ……ルヴァったら、ルヴァったら……」
 一応説明しようとするが、こみ上げる嗚咽のために、意味のある言葉にはならなかった。
「しっかりしなさい、宇宙の女王でしょう、あなたは」
 ロザリアが、アンジェリークを叱咤する様を見て、ルヴァが申し訳なさそうに、口を挟んだ。
「ロザリア、私が悪いんです。私がアンジェリークとの約束を破ったんです」
「まあ、あなたが、約束を破る? それも、アンジェリークとの?」
 ロザリアは、意外そうに目を丸くしたが、ともあれこの事態を収拾せねばという判断をしたようだった。
「とにかく、こうアンジェリークが興奮しているのでは、話になりませんわ。後は、私が彼女から話を聞きますから、あなたはお引き取りになって」
「ですが、ロザリア」
 アンジェリークを案じるがゆえに、立ち去り難そうなルヴァに、ロザリアはぴしりと言った。
「泣かせた張本人のあなたがこの場にいるのでは、アンジェリークが落ち着くはずがないでしょう! だから、お引き取りをと言ってるんです!」
 そう言われては、もはや引き下がる他はなかった。
「……わかりました、ロザリア。どうか、彼女を落ち着かせてあげて下さい」
「ええ、あなたに言われなくても、そうします」
 ロザリアの返答は、怒気をはらんでいる。アンジェリークの肩を抱きながら、きっとルヴァを見た青い目が言っていた。
(まったく、なんてこと……! この子は女王なのよ! あなたも守護聖なんだから、わきまえて欲しいわ!)
 その無言の非難を甘んじて受け、ルヴァはその場を引き下がった。アンジェリークの泣きじゃくる声と、震える細い肩に思いを残しながら。


 夜も更けてきた、ベッドに入る前に、ドレッサーに向かって、明るい金の髪を梳いていたアンジェリークは、ため息を一つついた。
「はあ〜、やっぱり私が折れなくちゃいけないのかな」
 鏡の中のアンジェリークは、憂い顔で見返した。まだほんの少し目が赤いような気もする。昼間、さんざん泣いたせいだ。
 久しぶりに持てた二人だけのティータイムに、ルヴァが大遅刻をし、しかもその理由がエンジュと一緒にキノコ探しに熱中したためと、本人の口から言われて、アンジェリークは怒り心頭に発した。
 今日のために、段取りを組んで、やらなければならない執務を、前倒しに片付けたのに。「今度の日の曜日は、目いっぱいフリーですから」と、ロザリアに励まされ、お菓子を焼いてもらう約束も取り付けて、ややこしい文書も、頑張って読み通したのに。ほんとうに、ルヴァはひどいと思った。
 泣き出したところへ、ロザリアが来て、ルヴァを帰した後で、ゆっくり話を聞いてくれたけれど。
 慰めてくれたうえで、ロザリアは言った。
「確かに、今回のルヴァの行動はどうかと思うけれど。そこまで泣いて怒るほどのことではないんじゃない」
「でも、他の女の子と一緒だったのよ! 私が、ずっと待ってるのに!」
「相手はエンジュなのでしょう? ルヴァはエトワールだからこそ、付き合ったのではなくて? 第一彼があなた以外に心を移すなんて、考えられないわ」
「それは、もちろんそうなんだけど……。私が待ち焦がれている間、時間を忘れるぐらい、彼女と楽しく過ごしていたっていうのが、許せないの」
「それもねえ……。ルヴァが夢中になったのは、どちらかと言うと……」
 皆まで言わずに、ロザリアは苦笑した。言外の意味は、アンジェリークにも、察しられた。キノコに、彼の飽くなき学術的興味が、そそられたためだろうということである。
 ルヴァのこうした少々変わったところは、もちろん理解していた。だが、キノコにかまけるなんて、自分にも、またエンジュにだって、失礼ではないか。女の子を馬鹿にするにも、ほどがある! と、ルヴァに、腹が立つのはもちろんだが、自分は、キノコに負けたのかと思うと、情けなさの方が勝って、気持ちがどーんと降下した。
 うつむくアンジェリークを、ロザリアはいたわるように、見守った。そして、低く呟いた。
「ルヴァには、きっちり反省して頂かないとね。あなたをこんなにがっかりさせるなんて、冗談じゃないわ」
「今、なんて言ったの、ロザリア?」
「いいえ、何でもないわ。とにかく、いつまでも、そう沈んだ顔をしているものじゃなくてよ、あなたらしくもない。ルヴァとは、これからも長い付き合いになるんだから、会う機会だって作れるし、お互い話し合って、わかり合っていけばいいわ」
 ロザリアにそう言われて、とりあえずは気持ちを収めたアンジェリークだったが。
「あんまり……私の方から、笑って許してあげたくはないなあ……」
 ルヴァと仲直りしたいのは、確かだ。気まずい状態が続くと思うと、ぞっとする。
 またロザリアには「女王がこんなことでいちいち落ち込んでいたら、宇宙にも影響が出る」とも、言われた。
 もっともだとは思う。自分が、この愛する宇宙に、直接つながっている存在であること、そして女王としても、守護聖であるルヴァと、良好な関係を保たねばならないことは、よく理解しているつもりだ。
 恋人同士であると同時に、自分たちは女王と守護聖。多くの人、ものへの影響を考えれば、個人としてより、その立場が優先される場合があることは、やむを得ない現実だった。
 だが、それらをすべて理解したうえでも、理屈ではなく、もやもやするのも、致し方ない。
 脳裏に、ふとルヴァのターバンに付着していた、木の葉が思い浮かんだ。紅く染まる秋の森。どれほど美しいことだろう。
 聖地では、通例として、外界の影響を受けないように、女王が結界を張っている。そのため、気候も安定して、いわば常春である。冬の厳しい寒さをしのぐために、木々が紅葉することも、むろんない。女王たる自分や守護聖たちを護るために、アンジェリーク自身が行っていることではあったが、ただの女子高生であった頃には、当たり前のように享受していた、季節の移り変わりが、それを失った今、懐かしくて仕方なかった。
 ルヴァは、エトワールとして頑張っているエンジュをねぎらうためだと、言っていた。
「私だって、女王として、頑張ってるのにな……」
 子供じみているとわかってはいたが、そう拗ねてみたくもなる。
 頬を、両手で挟んで、ドレッサーに肘を着き、何度目かの深いため息をついた時、どこかでコツンという音がした。はっとして、音がした方を見ると、何か小さい物が飛んできて、窓ガラスに当たって、同じ音を立てた。二階にあるこの窓に、一体何が飛んで来るというのか。
「? 何かしら?」
 不審に思ったアンジェリークが窓辺に寄って、ガラス戸を開いてみると、下の方から、密やかな声がした。
「アンジェリーク、私です」
 自分を呼んだ人物が誰か、闇を透かし見て、確認したアンジェリークは、目を瞠った。
「ルヴァ!? あなたなの?」
 思い人の存在を認めた時、アンジェリークの胸に、驚きとともにわき上がったのは、熱い喜びだった。
 ルヴァは、静かにと、人差し指を口に当ててみせると、言葉を続けた。
「夜遅くにすみません。ですが、どうしてもあなたにお話したいことがあって。長い時間は取らせませんから、下りてきてもらえませんか」
「今、行くわ」
 夜着の上にガウンを引っ掛けると、アンジェリークは素早く、けれど、物音を立てて、邸の使用人に気づかれたりしないように、ルヴァのもとへ向かった。
「アンジェリーク」
 飛ぶようにやってきたアンジェリークを見て、ルヴァは心底ほっとしたような顔をした。その顔は、彼も昼間の一件で、相当心を痛めていたことを、うかがわせた。少々方向がずれがちだとはいえ、根っから純粋な彼のその心を感じ取った時、アンジェリークは黙って、その胸に飛び込んで行った。
 我ながら、単純だという意識が、ちらと頭をかすめたが、恋しい相手を前に、自分を押し殺すことなど、アンジェリークにはできるはずもなかった。
 ルヴァは、その腕でアンジェリークをしっかり抱きとめ、震える肩から背中まで、そっと撫でさすった。
「アンジェリーク、アンジェリーク、すみませんでした」
「……あなたと一緒に過ごしたかったの。寂しかったの」
 とぎれとぎれに、素直な気持ちを、ルヴァにぶつけた時、わだかまりは解け、あふれ出した涙とともに、流れ去って行った。
 そうしてしばらく抱き合って、腕の中のアンジェリークが、落ち着きを取り戻したとみると、ルヴァはそっとからだを離して、微笑んだ。
「あなたに、見せたい物があるんです。見てもらえますか?」
「何?」
 驚き、瞳を輝かせるアンジェリークの前で、ルヴァはたすきがけにしていた布製のバッグの中から、何かを取り出した。
「それなの、見せたいものって。あら!」
 バッグの中から現れたのは、つややかな金褐色に光る、かなり大粒のどんぐりでこしらえた、やじろべえだった。
「見ていて下さい」
 ルヴァは、人差し指の腹の上に、そっとやじろべえの真ん中の支柱を立てると、錘になっている片方のどんぐりを、軽くつついた。やじろべえは、ゆっくりと揺れていたが、やがて均衡を取り戻し、ルヴァの指の上で、ぴたりと静止した。
 左右の重さが均等だからこそ生まれる、小さな均衡を目の前にして、アンジェリークは目を丸くした。
「ほんとうにぴたりと止まるものなのね」
「ええ。それで、その……私はあなたにとって、このやじろべえのようなものでありたいと思うんです」
「? どういうこと?」
 やや面映げに言うルヴァを、アンジェリークは見返した。見つめられると、ルヴァは一層赤くなったが、ポケットを探ると、いくつかのやや小さめのどんぐりを取り出し、アンジェリークに差し出した。
「これには、穴が開けてあります。一つをこのやじろべえの腕に差してみて下さい」
「こう?」
 アンジェリークは言われた通り、どんぐりを片方の腕に差し込んだ。すると、やじろべえは大きく傾いて、今にも倒れそうになった。
「もう一つを、反対側の腕に差して下さい」
 指示通りのことをすると、やじろべえは揺れながら均衡を取り戻し、再び直立した。
「わあ、元に戻ったわ!」
 ルヴァは、咳払いを一つすると、楽しげにやじろべえを見つめるアンジェリークに、ゆっくりと語りかけた。
「……つまり、これと同じで。あなたは、女王でもあれば、アンジェリークという私のただ一人の女性でもある……」
 言いながら、ルヴァは腕の両端にあるどんぐりを、一つずつ女王、少女、というように、アンジェリークに指し示した。そして、もう一つどんぐりを片方の腕に差した。
「……その間で、揺らいだり、悩み苦しむこともあるでしょう。そんな時に……」
 反対側にルヴァは、どんぐりを追加した。
「私は、守護聖として、また一人の男として、あなたの支えになりたいんです」
 やじろべえは、再びみごとに左右のバランスを保って、アンジェリークの目の前に掲げられた。
「ルヴァ……!」
 アンジェリークは、両手を口に当てると、今度はこみ上げて来る喜びのままに、涙をあふれさせた。ルヴァは、アンジェリークの肩を、そっと抱き寄せて、ささやいた。
「私に、あなたのやじろべえを務めさせてもらえますか」
 否やのあろうはずがなかった。金色の頭が大きく縦に振られ、ルヴァは腕の中の少女への愛と、責任の重さを、改めて噛みしめた。


 ルヴァと別れて、部屋に戻ったアンジェリークは、書き物机の上に、宝物になったやじろべえを、大切に置いた。ルヴァは、器用にも台座まで自作して、飾れるような細工にしたのである。
 アンジェリークは、机の上に顎を着けるようにして、嬉しそうにそれを眺めた。
「うふ、嬉しい、どんなプレゼントよりも。どんぐりっていうのも、ルヴァらしいわ。それにしても、どこでこのどんぐりを見つけて来たのかしら? 聖地にドどんぐりが拾える場所があるのかしら? 今度一緒に行きたいな」
 金褐色の肌を光らせたどんぐりは、小さな秋をアンジェリークに感じさせ、彼女は秋の森を思い描きながら、しあわせに満たされて、眠りに就いた。


「もう一杯、お茶をいかが、ルヴァ?」
 ロザリアが微笑みながら、ティーポッドを持ち上げた。
「ありがとう、いただきます」
 午後の執務が一段落したひととき、ルヴァはロザリアの執務室を訪れていた。笑顔で彼を迎えたロザリアは、アンジェリークがすっかり元気を取り戻したことを告げた。
「まったくひどく打ち萎れてしまって、あのままの状態が続いたら、どうしようかと思いましたけれど、安心しましたわ」
「ロザリアにまで、ご心配をおかけして、すみませんでした。あなたに、あの後、彼女が女王で、私が守護聖であることをに、もっと思いを致すように、改めて指摘されて、私も目が覚める思いでしたよ」
「わかって下されば、いいんです。ところで、アンジェリークは、あなたからとても素敵な物をもらったと言ってましたけど、私にもそれが何だか教えてくれませんのよ。一体、何なのでしょうね?」
「ええと、それは、その……」
 テーブルに飾られた薔薇より赤くなったルヴァが、どうやってごまかそうかと、必死に考えていた時、軽いノックの音がした。
「ロザリア様、リュミエールです」
「どうぞ、お入りになって」
「失礼致します」
 いつに変わらぬ優雅な物腰で、部屋に入ってきたリュミエールは、そこにルヴァがいることに気づくと、小さく口を開けた。
「あ、これは、私、お邪魔してしまったでしょうか」
「いいえ、私は特に用事があって来たわけじゃないんですよ〜」
 むしろ、絶妙のタイミングで来てくれて、ありがとう、リュミエールと、ルヴァは心の中で付け加えた。
「そうですか、よかった」
 繊細な水の守護聖は、安堵の笑みを浮かべた。
「ご用件をうかがいますわ、リュミエール」
「はい、ロザリア。実は……」
 二人の間で、ちょっとした打ち合わせが行われる間、ルヴァはのんびりと、先ほどロザリアがいれてくれたお茶を楽しんでいた。
「……では、そういうことで」
「ええ、お願いしますわ。ああ、リュミエール、よかったら、あなたもお茶を一杯、いかが?」
「ですが、お邪魔では……」
 リュミエールの遠慮する気配を聞きつけて、ルヴァは顔を上げた。
「どうぞ、ご一緒に。ロザリアのお茶は、今日も絶品ですよ〜」
 二人に勧められて、リュミエールは顔をほころばせた。
「そうですか。では、お言葉に甘えて、一杯頂きます」
 椅子に収まり、ティーカップを手に、一息ついたリュミエールは、何気ない調子で、ルヴァに問いかけた。
「そう言えば、ルヴァ様、探し物は見つかったのですか?」
「はい? 探し物ですか? 私は特に何もなくしていませんよ〜」
「そうなのですか? いえ、今朝ユーイに会いましたら、あちらの聖地で、ちょっとした噂になっていると」
「う、噂? どんな噂ですか?」
「なんでも、セレスティアで、何人もの人が、ルヴァ様をあかつきの森で見かけて、それはもう、すさまじい勢いで、落ち葉をひっくり返したりして、何かを探し回っておられたと。ですので、よほど大切な物をなくされたのかと、気になりまして」
「あ、いえ、けっして、そういうわけでは……」
 もごもごと口ごもるルヴァを、不審そうにロザリアとリュミエールは、見守った。そんな二人に、やじろべえを作るために、適当な大きさの、しかも珍種の金褐色のどんぐりを探していたのだとは、到底言えないルヴァだった。
 リュミエールが、わずかに眉をひそめながら、言葉を継いだ。
「そうですか。なくし物ではないのですね? いえ、私はそのように解釈致しましたのですが、ユーイの話によれば、ルヴァ様はあかつきの森で、宝探しをしていたのではという話になっているそうですよ。地の守護聖がそれほど血眼になって探す宝物は、どれほどの物かと、たくさんの人があかつきの森に押し寄せているとか……」
 ここでリュミエールは、お茶を一口飲み、淡々と付け加えた。
「俺がルヴァ様のお宝を見つけるんだって、ユーイも張り切っていましたけれどね」
 面も上げられないぐらい、縮こまったルヴァの上に、ロアリアの怒気をはらんだ声が降り注いだ。
「……ルヴァ、おわかりでしょうけれど、あなたの責任で、騒動を収めて下さいな。……神鳥の地の守護聖が、環境破壊の引き金になるなんて、まったく言語道断ですわ!」
 

 それからほどなくして、セレスティアの入り口に、地の守護聖ルヴァの署名入りで、誰の目にもつく大きな看板が立てられた。
「過日、私があかつきの森に於いて、取った行動により、セレスティアに多大なご迷惑をおかけしたことを、謹んで陳謝致します。私があかつきの森で行ったのは、極めて個人的な学術的な興味に基づくキノコの探索であり、巷間に語られているような財宝の類は、あかつきの森には一切存在致しません。
 以上の事情をご理解頂くとともに、あかつきの森の環境を損なうような行動は、お慎み下さいますよう、来園者各位に心よりお願い申し上げます
                        地の守護聖 ルヴァ
                        セレスティア管理組合」

 
 というわけで、意外に金銭ではないところで、大層なものになってしまったやじろべえだったが。
 ルヴァの変わらぬ愛の証として、今日もアンジェリークの机の上に、大切に飾られている。差し込む光に、どんぐりも、つやつやと金褐色に輝いて……。
                            (終わり)





素直に寂しいと言えるのが、リモちゃんの強みであり、魅力ではないか、と^^
対するロザリアは、しっかり者の、ママより怖い補佐官様です(笑)
実は、エピローグを書くのが、一番楽しかったです。
ルヴァ様、おいたわしい^^; でも、二人は、これからもバランスを取って、しあわせになっていくと思いますV


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