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しろがねさん主催のオリヴィエ様のお誕生日企画「夢誕2011」に
投稿したものです。

直接的表現はありませんが、微エロ注意。

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「見えない翼」


 足音をしのばせて、オリヴィエは、目的の部屋に向かって歩いた。
聖獣の宇宙の聖殿は、神鳥の宇宙のそれに劣らない、広大なもので、慣れない者なら、迷子になりかねない。しかも、今は夜もとっぷりと更けた時刻で、廊下の照明も少なくなっている。だがオリヴィエは、迷うことも、戸惑うこともなく、磨き立てられた石造りの廊下を、階段を、すべるように進んでいく。
 彼の心に位置を占める、大切なひとに会うためなら、ぬかるみだろうが、崖っぷちだろうが、どんな道でも越えていくだろう。
 目指す部屋の前にたどり着くと、ほとほとと戸を叩いた。
「私だよ、アンジェ。ここを開けて」
 待ち構えていたように、さっとドアが開いて、オリヴィエを引き入れた。そして次の瞬間、彼の腕の中に、いとしい少女が飛び込んできた。
「待たせたね、ごめんよ」
 長い栗色の髪を撫でながら、そっと囁く。するとアンジェリークは、いやいやをするように、オリヴィエの胸に、頬をすり寄せた。
「会いたかったの……。ずっとあなたを待っていたわ」
「私もだよ。三月もあんたの顔を見られなくって、恋しくって、仕方なかったよ。だから、ねえ、よく見せてよ。毎晩夢に見た、あんたの顔を……」
 オリヴィエに促されて、アンジェリークは、顔を上げた。桜色に上気した頬、強い意思と慈愛をたたえた、青緑色の瞳。花のように可憐でありながら、宇宙に息づくあまたの生命に対する愛と責任を抱く、女王の顔がそこにあった。
 女王候補として、初めて知り合った頃より、その背に白い翼を戴いてから、ますます輝きを増したようだ。
 そんなアンジェリークを見つめながら、オリヴィエの心は揺れる。彼女をまぶしく仰ぎ見たい気持ちになるとともに、自分だけのものとして、引き寄せたい衝動にも駆られる。
 内心の葛藤が、表情に出ていたのだろう。アンジェリークが、心配そうに眉をひそめた。
「どうしたの……? 何だか悲しそうな顔をしてる……」
 細い手が伸びて、オリヴィエの頬を包む。その手をぎゅと握って、オリヴィエは、何度も強く唇を押し当てた。
「アンジェ……。アンジェ……。お願いだ、今だけは……私だけのものでいて」
 かすれた声で、繰り返される懇願。不意にオリヴィエが見せた激情に、アンジェリークは驚き、されるがままになっていた。だが、やがてその目に、理解と慈しみが浮かび、彼女は空いた方の手を、そっとオリヴィエの左胸に当てた。
「もちろんよ。私の心も、からだも、あなたのものだわ。今までも、これからも、ずっとよ」
 アンジェリークの手のぬくもりが、震える胸に染みる。せつなく締め付けられる痛みをときほぐすように。
「アンジェ……!」
 焦がれてやまない少女を、オリヴィエは強く抱き締めた。そして、彼女の言葉通り、身も心も、ほんとうに自分のものであるかを、確かめ始めた。髪に、唇に、肌に。一つひとつ、自分の証を印して。


 真夜中に、ふっとオリヴィエは、目を開けた。ベッドの上で、肘を立ててみると、傍らで枕に横顔を埋めるようにして、ぐっすり眠っているアンジェリークが目に入った。栗色の髪が広がっているその背に、上掛けをしっかり掛け直そうとして、オリヴィエは、ふと手を止めた。
 彼女を起こさぬように、指先で、そっとうなじの辺りから、髪を横へ流して、肩と背中を露出させた。夜目にも白いその肌には、その下に息づく華奢な骨格のラインが浮かび上がっている。オリヴィエの指が、肩甲骨の曲線を、ゆっくりとなぞる。その動作を繰り返しながら、彼は心の中でつぶやいた。
(見えないけれど、ここには確かに翼があるんだよね。そのはばたきは、誰にも止めることなんて、できやしない。それが、私たちの間を分かつとしても、あんた自身が選んだことだから)
(だから、思うように、信じるように、はばたくといい。私は……会えない時は想いを絡め、会えた時には、この指を絡める。今、生きる場所が違っても、けっしてあんたを離しはしないよ)
 オリヴィエは微笑み、アンジェリークの肩先に、一つキスを落とした。
(そうして、いつか……二人一緒にいられる時が来たら……。毎晩、一緒に眠って、朝を迎えるんだ。ただのアンジェと、ただのオリヴィエとしてさ。それが今の私の……私だけのユ、メ。けっしてあきらめないよ。……いいよね、アンジェ?)
 するとアンジェリークは、彼の心の独白に応えるかのように、身じろぎをした。楽しい夢を見ているのだろう、やすらかな微笑みを浮かべていた。その桜色の唇にそっと触れると、オリヴィエは彼女のからだを上掛けで覆い、自分も再び身を横たえた。
(後、もう少し、寝られるかな。いや、それより……あんたの寝顔を見てようかな)
 最初の朝の光が射すまでのわずかな時間、オリヴィエは、ずっと見つめていた。傍らで眠る彼の夢を。

(一緒に生きよう、いつの日か、必ず……!)


                             (終わり)




ヴィエ様の恋愛ものを書いたのは、これが初めてでした。
もうちょっとヴィエ様ご本人のうるわしさを描写した方が
よかったかな〜と、ちょっと反省したんですが。
ヴィエラーのしろがねさん、そこは脳内補完して下さった
ようで、さすがだな〜と思ったことでした。
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