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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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7月3日がお誕生日のメルちゃんのお話です。

実は「VD2011」に提出するつもりで、書きかけたものの、
完成が締め切りに間に合わないと判断して、中断していたもの
です^^;

「VD2011」では、素敵な大人メルを拝むことが
できましたが、これはSP2当時の、ひたすら
可愛かった頃のお話です。ああ、懐かしい。

ヴィクさんや、ゼっくん出演のどたばたコメディです。

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「メルは、一所懸命」


 紅いお下げを跳ねさせながら、小さな占い師メルが、今日もちょこちょこ走ってゆく。幼いながら、彼が任じられた仕事は重要で、一生懸命、日々取り組んでいる。手に抱えた書類入れには、彼の優れた占いの才能によって導かれた、人間関係のデータが入っている。人の心は移ろうもの、日々変化するその動きを、水晶球は断片的に映し出し、時に未来のヴィジョンを見せることさえある。
 水晶球が告げたものを、鋭敏な感性で読み解き、まとめてレポートにして提出するのが、メルの日々の仕事だった。
「急がないと、エルンストさんが待ってる!」
 時間に厳しい王立研究院の主任の顔を思い浮かべ、懸命に足を急がせていたその時。
「う、わっ!!」
 思いっきり蹴つまづいてしまった。裸の膝小僧が、擦り剥けて、赤い血が滲み出す。
「い、痛いよ……。ぐすん……」
 ひりひりする痛みと、たっぷり付いてしまった白い砂埃の下から、赤い血が盛り上がってくるのを見て、メルは涙ぐんだ。
「おい、大丈夫か」
 頭の遥か上の方から、思いがけないいたわりの言葉が降って来た。顔を上げると、そこには精神の教官ヴィクトールが立っていた。上背も横幅もあるがっしりとした体躯のヴィクトールは、メルから見ると、さながら山のようだった。だが、気さくでやさしいその人柄のため、威圧感より、安心感をメルは覚えた。
「ヴィ、ヴィクトールさん。メル、転んじゃった……」
 しゃくりあげそうになりながら訴えると、大きな手がぽんぽんと軽く頭を叩いた。
「いい子だから、泣くな。男だろう。ふむ、けっこうひどく擦りむいたな。洗って手当した方がいい。歩けるか?」
「うん、たぶん」
 ヴィクトールに促されて、メルは何とか立ち上がったが、その顔は痛みに歪んだ。
「痛いのか。いい、無理はするな」
 そう言うと、ヴィクトールは、軽々とメルを抱き上げ、庭園に設置された手洗い場まで連れて行った。
「よし、とりあえずはこれでいいだろう」
 メルの膝の傷口を洗い、包帯代わりのハンカチを結ぶと、ヴィクトールは言った。
「ありがとう、ヴィクトールさん。じゃあ、メル、行くね」
「ん? 行くってどこへだ?」
「王立研究院。エルンストさんが、今日の分のデータを待ってるから」
「おい、待て。今した手当は、応急処置だ。それにここから王立研究院に行くのは、結構な距離だろう。それより宮殿の医務室で、きちんと消毒して、手当をしておいた方がいいぞ」
「でも、メル、これを持って行かないと……」
「なら、そのデータは俺が届けてやろう。おまえは、医務室に行くといい」
「そんなことしてもらって、いいの? ヴィクトールさん」
「ああ、かまわん。ところで、歩けるか?」
 メルは、立ち上がって、数歩歩いてみた。ハンカチでしっかり縛ったせいか、傷の痛みはかなり緩和されたようだ。
「うん、大丈夫みたい」
「そうか。じゃあ、気をつけて行くんだぞ。このデータは、俺が責任を持って、王立研究院に届けてやるからな」
「ありがとう! ヴィクトールさん!」
 軽く手を挙げ、大股で歩いて行くヴィクトールの背中に、ぺこりと頭を下げると、メルは彼のすすめにしたがって、医務室へと向かったのだった。


 メルがヴィクトールの執務室にやって来たのは、その翌日だった。
「こんにちは、ヴィクトールさん」
「おう、メル、怪我の具合はどうだ?」
「えへ、もうそんなに痛くないの。昨日、医務室に行ったら、ヴィクトールさんの手当がよかったから、すぐに治るでしょうって言われたの。ヴィクトールさん、ありがとうね!」
「そうか、よかったな。おまえ、もしかして、わざわざそれを言いに来てくれたのか」
「うん。ちゃんと『ありがとう』って言いたかったのと、後、メル、ヴィクトールさんにお礼がしたいなって思って」
「ははっ、あれしきのことで、そんな気遣いは無用だぞ。おまえは子供なのに、律儀なんだな」
「そう、メル、子供だから、ヴィクトールさんに、お礼の品物とかはあげられないの。それでいっぱい考えて、その代わりに、メル、ヴィクトールさんのこと、占ってあげようって、思いついたの」
 言いながらメルは、水晶球を取り出した。
「え? 俺のことを占うっていうのか?」
 ヴィクトールは戸惑った。この聖地で、メルの能力が高く評価されているのは、無論知っている。王立研究院が、データとして採用するほどなのだから、よほど信頼が置けるのだろうと。だが、軍人として、手と足と頭を駆使して、実務的に物事に対処して来たヴィクトールからすると、占いを判断の参考にするというのは、あまり性に合わなかった。
「いや……」
 せっかくだが俺はいいと言いかけて、ヴィクトールは言葉を飲み込んだ。
「メル、一生懸命占うね」
 真剣な面持ちで、気張っているメルを、とても拒めるものではなかった。
(……まあ、好きなようにやらせるか)
 口には出さない妥協を、承諾と受け止めたメルは、いそいそとヴィクトールの腕を取った。
「こっちのテーブルでやるのがいいかな。ヴィクトールさん、来て」
 テーブルを挟んで、向かい合わせに座ると、メルは水晶球の上に手をかざしながら、問うた。
「ねえ、何について、占ってほしい?」
「う? いや、そう言われても……」
 口ごもるヴィクトールに、メルは小首を傾げて言った。
「気になる人とか、いない?」
「き、気になる人!?」
 不意をつかれて、ヴィクトールは少々慌てた。実は、彼にも意中の人がいないわけではない。だが、彼の考えの中では、相手は高嶺の花であり、求愛などとてもできるものではなかった。
 ところがメルは、そんなヴィクトールの控えめな心情などおかまいなしに、その顔色から“好きな人がいるらしい”ということだけ読み取った。
「いるんだね? じゃあ、その人のこと、頭に思い描いていて……。星のささやきが聞こえるよ……」
 目を閉じ、意識を集中させたメルの手元で、水晶球がぱあっと光りを放ち始めた。
(こ、これは……!?)
 初めて見る神秘を前に、目を剥くヴィクトールに、メルがゆっくりと語り始めた。
「……見えるよ。ヴィクトールさんの好きな人が……。うん、そう、メルの時と同じだね。近いうちに、きっと仲良くなれるよ。そのきっかけは……」
 メルが更に言葉を続けようとしたところで、ヴィクトールはそれをさえぎった。
「メル! もうこれ以上はいい! やめてくれ!」
「ヴィクトールさん?」
 激しい物言いに、メルは驚いて、ヴィクトールを見返した。
「すまん……。大きな声を出して。だが……俺はあの人とどうこうなろうとは思わないんだ。おまえの好意は嬉しいが……それ以上は、よしてくれ」
「ヴィクトールさん……。ごめんなさい。メル、悪いことしちゃったの?」
 するとヴィクトールは、ほろ苦い笑みを浮かべて言った。
「いいや。おまえは、何も悪いことはしていないさ」
「ヴィクトールさん……」
「すまんが、今日はこれで帰ってくれるか。おまえの気持ちは、嬉しかった。ありがとう」
 ヴィクトールのあたたかい、だが、少し辛そうな笑顔に送られて、メルはしおしおと部屋を出た。
(メル、ヴィクトールさんに悪いことしちゃった……。でも、どうして? ヴィクトールさんとあの人が仲良くなったら、二人とも、しあわせになれるのに……!)
 うつむき、肩を落として歩くメルの姿を、見つけた者があった。
「よお、メル! どした? 何、しょぼくれて歩いてんだよ!」
 声を掛けられて、メルははっとして目を上げた。
「あ、ゼフェル様……」
 口は悪いが、意外と面倒見のいい鋼の守護聖は、メルの目に涙が浮かんでいるのに気づいて、心配そうに眉を寄せた。
「なんだ、おめー、泣いてんのか? 誰かにイジメられたのか? ははあ、わかった、エルンストに、ネチネチいびられたんだな?」
「違う! 違うの! ゼフェル様!」
「だったら、どーしたんだよ? 泣いてるだけじゃ、わかんねー。言ってみろよ」
 ゼフェルに促されて、メルは昨日からのできごとを話した。ヴィクトールの恋占いのくだりまで来ると、ゼフェルは「へーっ」と目を丸くした。
「あのおっさん、好きな女がいるのかよ。まあ、でも、あのツラじゃ、引け目感じて、告らねーのも無理ないかもな」
 あまりの言いように、メルはぷうっと頬をふくらませた。
「ヴィクトールさんのこと、悪く言わないで!」
「ああ、わかった、わかった。あのおっさんが、誰、好きになろうと、自由だし、あんだけ立派なガタイしてんだから、怖じけることもないよな」
 勝手に納得しつつ、ゼフェルは興味津々といった様子で尋ねた。
「で、相手、誰なんだよ? 俺の知ってるヤツか?」
 メルはぶんぶんと大きくかぶりを振った。
「言わない。占いの結果を教えるのは、その人だけに、だもん」
「ちぇっ、守秘義務ってヤツか。まあ、いいけどよ。おめーが、そんだけ、おっさんと相手の女が引っ付いた方がいいって思うんなら、手を貸してやりゃいいじゃねーか」
「手を貸すって……。どうやって?」
「どうやって? って……そんなの、自分で考えろ!」
「え〜、ゼフェル様、そこまで言って、見捨てるなんて、ひどいよお〜」
 うるうるした瞳で、メルに見上げられて、ゼフェルは銀髪をかき回した。
「だーーーーっ! しょうがねーな! 俺も手伝ってやるよ!」
「わ〜い、ありがとう、ゼフェル様」
「で、どうすんだよ?」
「そうだなあ。メルね、……すると、いいきっかけになるんじゃないかって思うの」
 額を寄せ合って、メルが小声で洩らした案に、ゼフェルは赤い瞳をこぼれんばかりに見開いた。
「はあっ? 何だ、そりゃ?」
「だって、一生懸命占ったら、水晶球にちゃんと映ったもん! 水晶球は、ウソつかないもん!」
「まあ、おめーの腕を信じねーワケじゃないけどよ。……しかし、まあ、考えてみたら、ククッ、相当おもしれーな。よっしゃ、乗った! このゼフェル様が、ばっちり細工してやるぜ」
「もう、ゼフェル様。遊びじゃないんだよ。ヴィクトールさんのしあわせがかかってるんだから!」
「あー、わかった。わかった。とりあえず段取りを考えようぜ」
 かくして、ゼフェルも巻き込んで、メルの“ヴィクトールさんハッピー作戦”は始動した。水晶球の示す未来を信じて疑わぬメルと、何やらひどく楽しげなゼフェルの間で、どんな段取りが組まれたのか。
 数日後の聖殿裏に、結果を見ることができる。
 その場所は、日当りのいい草地になっていて、そこを抜けて更に歩くと、緑濃い林に入っていく。こんもりとした灌木の陰に、メルとゼフェルが身を潜めている。
「おめー、コレ、かぶっとけ」
 ゼフェルが、ぽんとメルの頭にかぶせたのは、どこから調達して来たのか、迷彩色の軍用ヘルメットだった。
「何、これ? 重いよ〜」
「我慢しろ! おめーの頭の色は目立つんだからよ」
 そう言うゼフェルは、葉のたくさん付いた木の枝でカムフラージュした、バイクのヘルメットをかぶっている。
「……」
(メルたちって、ゲリラだったっけ?)
 そんな考えが、ふとメルの頭をよぎったが、ゼフェルの緊迫したささやきが、現状への注意を促した。
「お? 誰か来たぞ! ターゲットかっ? ……って、おっさんの相手って、アイツだったんかよ! いや、まあ、それはいいとして! なんで、ジュリアスが一緒なんだよっ?」
「ええ〜? メル知らないよ〜。ジュリアス様には、メール出してないよ〜」
 二人が驚き、注視するその先には、にこやかに談笑しながら歩を進めるジュリアスと、ロザリアの姿があった。そして、メルとゼフェルの位置からは聞こえない、二人の会話はこのようなものだった。
「あなたが、こうしたことに興味がおありとは知りませんでしたわ」
「いや、かねてより、メルの評判を耳にしていてな。執務に取り紛れて、なかなか占いの館まで足を運ぶ機会はないのだが。そのメルが、この場所で、今日という日に、吉兆が現れるといのだから、ぜひこの目で見てみたいと思ったのだ。女王試験の結果を嘉するものであればいいと願っている」
 自分にいいことが起こることを期待するのではなく、女王試験の行く末を気にかけるところが、実にジュリアスらしかったが、彼の崇高な思いは、この際、木陰の二人には、迷惑以外何ものでもなかった。
 想定外の事態に、何とか対処しようと動き出したのはゼフェルだった。
「ちくしょう! ジュリアスの野郎。余計な時に出て来やがって! おい、メル! 作戦変更だ! おめー、出て行って、ジュリアスを足止めしろ!」
「ええ〜〜、そんなこと言ったって、ムリだよ〜〜!」
「バカ! 今、アイツの足を止めねーと、トラップが……ああ、もう。ダメだ! デンジャラスゾーンだ!」
 ゼフェルが額を押さえた次の瞬間、ことは起こった。

ズボッ!!

 異様な音ともに、ジュリアスの姿が消えた! 大地の中に!
「ジュリアスっ!? ジュリアスっ!? まあ、大変! 誰か、誰か〜っ!」
 ロザリアの悲鳴が響き渡る。
「あ〜あ、ハマっちまいやがった……」
「ハマっちまったって、ゼフェル様ってば、落とし穴掘ったのっ? 草と草、結んで、転びやすくするっていうのしか、聞いてないよっ!」
「いや、そこは、ほら、ただ転ぶだけより、穴にハマる方が、いかにもピンチって感じがするじゃねーか。そこに、おっさんが来て助ければ……って、そういう話だろ?」
「違う〜〜! メル、ロザリア様を穴に落としてなんて、言ってない〜〜!」
「ああ、もう、大丈夫だって。落ちてもケガしねーように、底にマット仕込んであるんだ、土のせて、わかんないようにしてあるけどな」
 こんなところで、職人的きめ細やかさを発揮する、正に才能を無駄遣いしている鋼の守護聖であった。
「あっ、ねえねえ、ヴィクトールさんが来ちゃった!」
「うえっ、もう来ちまったのかよ!」
 ますますこの場に出て行くわけにはいかなくなった。もはや、これから先の展開を、固唾を飲んで見守るしかない二人だった。
「誰か〜〜っ!」
 ロザリアのSOSが、まだ続いている。もとよりヴィクトールが、それを聞き逃すはずもなく、当然のごとく、彼女のもとへ駆けつけた。
「どうなさいましたか、ロザリア様!」
「ああ、ヴィクトール! いいところへ! ジュリアスが、大変なことに!……きゃあっ!」
 ヴィクトールに、ジュリアスの災難を訴えようと、ロザリアが振り返ったその時だった。当初の予定のごとく、彼女はゼフェルが仕掛けた草の罠に足を取られ、倒れ込みそうになった。
 そこへすかさず、ヴィクトールの手が、伸びて来た。
「あぶない! ロザリア様!」
 たくましい腕が、しっかとロザリアのからだを受け止め、そのまま大切そうに、胸の中に抱え入れた。
「よっしゃ、来た〜〜!」
 ゼフェルがパチンと指を鳴らし、メルは水晶球で予見した通りの光景が現出するのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。
「よかった〜、これでもう大丈夫!」
 離れた場所で、そんな風にメルとゼフェルが小躍りしているとはつゆ知らないヴィクトールとロザリアは、二人の世界を展開しつつあった。
「あ、ありがとう、ヴィクトール」
「いえ、お怪我はありませんか?」
「ええ、わたくしは、大丈夫です……」
 ふれあった温もりと、見交わす瞳の中で、改めてお互いを意識していた。胸の高鳴りは、まぎれもなく、恋の予感。時が止まったように見つめ合う二人の姿に、メルとゼフェルは作戦の成功を確信した。
「よかった〜。これでヴィクトールさんもロザリア様も、しあわせになれるね」
「けっ! 恥ずかしくて、見てらんねえぜ。よし、とっとと退散するぞ、メル」
「うん!」
 頷いて、ゼフェルとともに、その場を立ち去りかけたメルだったが、ふと心に引っかかるものがあった。
(あれ? 何だったっけ?)
「どした、メル?」
 足を止めてしまったメルを、ゼフェルが振り返った。
「あ、うん、ゼフェル様。うんと、何かだいじなことを忘れてない?」
「ああ? そうだっけ?」
 ゼフェルが、ぽりぽりと指先で頬をかくのを見ながら、メルは懸命に考え……そして、やっと思い出した。
「ゼフェル様、大変! ジュリアス様が、穴ぼこに落っこちたまんまだよ!」
「あ〜、そう言や、そうだったな。いいじゃん、ほっといても、そのうちロザリアが思い出すだろ」
「ダメだよ、あの様子じゃ、いつ思い出すかわかんないよ!」
 メルが指差す先には、さながらハートのマークを辺りにまき散らす風情で、まだ見つめ合っているロザリアとヴィクトールがいた。
「うおっ、まだやってんのか。たく、恥ずかしいヤツらだな」
「それはいいの! ていうか、ジュリアス様が。穴ぼこに落ちちゃったのは、ゼフェル様のせいでしょ! 何とかしてあげないと!」
「あ〜、わかったよ。しょうがねえな」
 ぶつぶつ言いながらゼフェルは、しばし小首を傾げて考え、ポケットから何やら取り出した。
「コイツを使うか」
「わあ、メカチュピだ! 何か、キラキラしてる〜!」
「メカチュピって言うな。こいつはな、昨日ヴァージョンアップしたばっかの最新版だぞ。この尾っぽの部分の舵が、方向転換するたんびに、装着したクリスタルが、光をプリズム分解するんだぜ」
「ふうん……。何か、スゴイんだね。じゃあ、それで、ジュリアス様を助けられるの?」
「まあ、見てろって」
 最新版メカチュピは、ゼフェルの手元から飛び立ち、まっすぐにロザリアとヴィクトールの方へ向かって行った。そして、虹色の軌跡を描きながら、二人の周りをぐるぐる回り、注意を引きつけてから、ジュリアスの落下した穴の方へと飛んだ。穴の上を周回したところで、どうやらロザリアが、そこにジュリアスがいることを思い出した様子だった。二人が急いで、穴の傍に駆け寄るのを見届けてから、ゼフェルはメカチュピを高く舞い上がらせた。
「よし、行くぞ。ここから離れてから、目立たねえところで、アイツは回収する」
「うん」
 急ぎ足で歩き始めるゼフェルの後を追いながら、メルはもう一度振り向いた。穴の傍では、ヴィクトールが早速救出の手はずを講じ始めていた。
(ごめんなさい、ジュリアス様)
 両手を胸の前に組み合わせて、ジュリアスに詫びると、メルはそっとその場を後にした。
 

 翌日、メルはジュリアスの執務室を訪ねた。故意ではなかったが、自分とゼフェルの立てた計画のために、彼が落とし穴にかかる羽目に陥ったことに、責任を感じたからだ。
 厳格な首座の守護聖は、メルに畏怖を与える存在だったが、今は苦手意識より、申し訳なさの方が勝っていた。
「こんにちは、ジュリアス様」
 勇を鼓して、室に一歩踏み入れると、常と変わらない様子のジュリアスがそこにいた。
「メルか。何か用件があるなら、聞こう」
「えっと……用事ってわけじゃなくて、その、ジュリアス様が昨日穴に落ちたって聞いて、メル、心配になっちゃって……」
 もじもじしながら、思い切って言ってみた。するとジュリアスは、思いのほか柔らかな態度で答えた。
「それで、わざわざ立ち寄ってくれたのか。そなたにまで、心配をかけたことを詫びよう。だが、見ての通り、幸い大事には至らなかった。危険な穴も、すでに埋めさせたゆえ、もう被害者が出ることもない。安心するがよい」
「そうなんだ、よかった〜」
 ジュリアスにの無事を確認して、とりあえず安心したメルだったが、次の言葉には、肝を冷やした。
「誰があのような穴を掘ったのかも、おおよその見当はついている。証拠が固まり次第、追及するつもりだ」
(うわ、ゼフェル様、大丈夫かなあ……)
 ゼフェルが、何とか逃げおおせることを願って、メルはそっと手を胸の前で組み合わせた。そんなメルに、ジュリアスは一層やさしい笑みを向けた。
「そうだな。穴に落ちたのは、不愉快なできごとだったが。メル、そなたの占い師としての才能の片鱗を見られたのは、幸いだった」
「え? メルの才能って……。一体何のこと?」
「実はそなたがロザリアに知らせた、吉兆というものを見たくてな。それで私はあの場に出向いたのだが、そうとしか言いようのないものを、確かに見た」
「一体、どんなもの?」
「七色に輝く小鳥だ……。私を勇気づけるかのように、何度も穴の上を旋回して、矢のように飛び去って行った……」
(それって……!?)
 その吉兆の正体を、メルは無論知っていたが、忘れがたい貴重な体験として嬉しそうに語るジュリアスに、本当のことなど言えるはずがなかった。
(ジュリアス様ってば〜〜〜)
 良心の痛みを覚えるとともに、ジュリアスの純な人柄に、メルは打たれた。
 ジュリアスは、いとおしむような目で、更に続けた。
「あの吉兆が……女王試験に……アンジェリークに、成功をもたらすものであろうと、私は信じている」
 図らずもジュリアスが洩らしてしまった名前から、メルは彼の心の中に誰が住んでいるのかを悟った。
(ジュリアス様ってば〜〜!!)
 恐らくジュリアス自身は、自分が恋をしていることを自覚していない。ただただ女王試験の、アンジェリークの成功に想いを託している。そう直感した時、メルは、叫ぶように言った。
「ジュリアス様! メル……メル……ジュリアス様のために、心をこめて占うよ!」
 この瞬間、メルの「ジュリアス様をしあわせにしてあげる作戦」が発動した。
紅い髪の小さな占い師の真摯な願い、行動は、きっと再びの成功を呼び込むに違いない。
 ちなみに今回に関しては、ゼフェルの協力は期待できなかった。メルのささやかな祈りも、ジュリアスの追及には及ばず、当分忘れられないほどの説教を食らったからである。
 それでもメルは、もう落とし穴に頼ることなく、己の占い師としての才能のみを頼りに、日々頑張っている。
 気迫のこもったおまじないにより、何となく煙たがられているジュリアスと、他の守護聖たちの相性は、ぐんぐん上がっている。もちろん、アンジェリークとの相性も同様である。後は、ジュリアス自身が、自分の気持ちを認め、踏み出すだけ……。
(ジュリアス様、頑張って!)
 小さな胸いっぱいに、想いをこめて、日々メルは願いを掛けている。ジュリアスに星の恵みがあるように……。 
 
 ヴィクトールに続いて、“ジュリアス様のしあわせ”が実現する日は、きっとそう遠くはないだろう。
 
 メルは、今日も、一所懸命、頑張っている。
                             (終わり)






ジュリアス様、ごめんなさい(><)
どうか、しあわせになって下さい。
PR
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