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管理人の書いた、乙女ゲーの二次創作保管庫です。
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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
このブログ内の文章の無断転載は、固くお断り致します。
また、同人サイトさんに限り、リンクフリー、アンリンクフリーです。
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アンジェリーク阿弥陀企画さんに提出したものです。
企画が終了しましたので、自宅に上げて起きます。

”その6”となっておりますが、連続ものではありませんので、
単品でお読み頂けます。

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 「あなたに触れたい

 あの人の声は、いつも高いところから、降って来るような気がする。それはもちろん、あの人が長身だからなのだけれど。
 背筋を伸ばしてみても、高いヒールの靴を履いても、せいぜい肩までしか届かない。言葉を交わす時、いつも私はあの人を見上げなくてはならない。
 そんなあの人との立ち位置は、安心するような、落ち着かないような、自分でもよくわからない気持ちにさせられる。
 背の高い男性自体は、私にとって、特に珍しくはない。守護聖たちのうちの何人かは、あの人と変わらないほどの長身だ。けれど、私をそんな風な気持ちにさせるのは、あの人だけ。
 落ち着いた響きのいい声が頭上から聞こえる感覚。それは、遠い子供の日に、父の声を身近に聞いていた頃に、私を引き戻すようで、胸がほわりとあたたかくなる。でも、その一方で落ち着かなくなるのは、多分あの人が私を敬称で呼ぶためだ。
「ロザリア様」
 そう呼ぶ声音は、あの人の謙譲に裏打ちされて、丁寧で、それでいて、あたたかい。その声に誘われて、見上げるあの人の顔には、大抵やさしい笑みが浮かんでいた。見守るような、包み込むような、琥珀色の瞳……。
 私より、ずっと年上で、人生経験(人並み以上に苛酷な経験もあったと聞いている)を積んだあの人からすれば、私は小娘にしか見えないはずだ。
 それなのに、まぎれもない敬意をもって、あの人は私に接する。女王補佐官という私の立場に対して、礼儀をいつも外さない。
 ……むろん、礼儀を外されたら、私は困る……に違いない。あの人が私に対して保っている距離感、態度は、まさに適切で、文句のつけようがない。女王補佐官としての私は、それで十分満足……なはずなのに。胸のどこかが、ざわざわと波立つ。何が気に入らないというのだろう? 自分でもわからないことに苛立ちが募る会うたびに、私をそんな気持ちにさせるあの人が、憎らしくさえ思える。
 そうした苛立ちの反動で、私はことさらあの人に、高飛車にふるまってしまう。……これはもう、八つ当たりのようなものだ。よくないことだと、頭でわかってはいる。けれど……私がそんな風に子供じみた真似をしても、あの人の目はいつもあたたかかった。
 その目に「なんて生意気な女だ」という嫌悪が、いつ浮かぶかと恐れながら、それでいて、変わらぬやさしさを期待してもいる。……認めたくないけれど、もしかしたら私は、あの人を試しているのかもしれない……。

 そんなある日、陛下が催した小さなお茶会に、私はあの人と同席した。出席者は、陛下と私、あの人を含めた学芸館の教官たちだけだった。
「お茶のお替わりはいかが?」
 談笑が続く中、皆のカップがそろそろ空になって来たので、私は声を掛けた。
「お願いします」
 という口々の返事を受けて、ポットを手に、立ち上がった。そうして、あの人と、隣に座っている黒い瞳の品性の教官の間に来た時だった。私は、ふとあの人の手元に目を留めた。
 あの人は、白磁のティーカップを、大事そうに両手で包むようにしていたのだけれど。白い手袋をした大きな手の中で、ティーカップが、まるでままごと遊びのおもちゃのように見えた。
 威風堂々とした軍人のあの人と、ままごと遊び。ふと重なったイメージのギャップが、何だか無性におかしくて、私は吹き出しそうになった。声を立てて笑い出すのは、何とか我慢したけれど、手元が震えてしまって、うっかりあの人の手にお茶をこぼしてしまった。
「……っ!?」
「ご、ごめんなさい、ヴィクトール!」
「いえ、大丈夫ですよ」
 あの人は、私を安心させるように、微笑んでみせたけれど、その言葉を鵜呑みにするわけにはいかなかった。ポットのお茶には、沸かしたてのお湯を使ったのだ。熱くないはずはないし、手袋をしていても、やけどをしているかもしれなかった。
「とにかくすぐに冷やして。それから手当をしないと!」
「いや、それには及びませ……」
 遠慮しようとするあの人の手を取り、隣接する洗面所へ引っ張って行った。
「こっちの後片付けは、やっておくわ」
  陛下の声が追いかけて来た。
「すみません、陛下。お願いしますわ」
 後を陛下に任せ、私はまず、水道の蛇口をひねり、手袋をしたままのあの人の手を、流水に当てた。
「ロザリア様、ご心配なく。たいしたことはありませんよ。こうして冷やせば、もう十分です」
 言いながら、あの人は手を引っ込めようとしたけれど、私は譲る気はなかった。
「いいえ、ちゃんと手当をしないといけませんわ。手袋を外して、見せて下さいな」
 あの人は、仕方ないというように、眉をわずかにしかめると、ゆっくり手袋を外した。
「……!?」
 あの人の素手を見たのは、これが初めてだった。手の甲が、予想通りやけどで赤くなっていて……でもそれより私を驚かせたのは、無数に走る痛々しい傷あとだった。あの人は、私の動揺を汲み取り、穏やかに言った。
「すみません、お見苦しいものを見せて。ですが、ご覧の通り、俺の手は、やけどの一つや二つ増えても、同じですから。どうか、気になさらんで下さい」
 その言葉に、私は驚きをそのまま見せてしまった自分を恥じた。
「いいえ、いいえ! 私、ほんとに申し訳ないことをしましたわ! お願いですから、どうか手当をさせて下さい!」
 すると、あの人はかすかに苦い笑みを浮かべた。
「誤解のないように、言っておきますが、俺が手袋をしているのは、この傷を恥じているからではなく、ちょうど今のあなたのように、やさしい人がこれを見て心を痛めないために、ですから」
 そして、そっと私の手に、やけどをした手を預けた。
「ですが、お気遣いはほんとうにありがたく思います。手当をお願いできますか」
「ヴィクトール……」
 それもまた、私が気の済むようにさせようという、あの人の思いやりに違いなかった。怪我をさせたのに、かえって気遣われるなんて、申し訳なさでいっぱいになった。けれど、もうこれ以上、あの人の手に傷あとを増やしたくない。私は、その気遣いに甘えることにした。
 救急箱を持って来て、赤くなった患部に、炎症を抑える薬を塗りこみ、包帯を取り出した。するとあの人は、そこまで大仰にしなくても、と言いたそうな顔をしたけれど、やけどの範囲が割合広かったので、包帯を巻く方がいいと判断した。
 あの人の大きな手に、清潔な包帯を巻き付けながら、この手がどんな厳しい現実を経験したのかを、考えてみた。想像すらできなかった……。
 手当を終えると、あの人は包帯を巻いた手を見やって、言った。
「ありがとうございました。楽になりました」
「いいえ、ほんとにすみませんでした」
 やけどは、数日もすれば治るだろう。けれど、あの人の手に刻まれた、たくさんの傷あとは、生涯消えることはないのだろう。
 私は、悲しそうな顔をしていたのかもしれない。頭上から、いつもより更にやさしい声が降って来た。
「どうか、お気になさらんで下さい。あなたにそんな風にうつむいてほしくはない」
「ヴィクトール」
 思わず顔を見返すと、あの人は、ちょっとまぶしそうに目を細めた。
「そう、もし俺の希望を聞いて頂けるのなら、いつものあなたのように、顔をまっすぐ上げていて下さい。俺は……そんなあなたを見ているのが、好きだ。その……愛らしい小鳥か、蝶のようで……」
「ヴィクトール……!」
 私は、頬にかっと血がのぼるのを感じた。私の虚勢を張った態度など、あの人はつゆほども気にしていなかったのだ。それどころか……。
「ロザリア様? すみません、図に乗って、失礼なことを言いましたか?」
 私は、首を振った。
「違いますわ。あなたは、一つも悪くない。ただ、私……自分で自分が恥ずかしくなっただけですの」
 するとあの人は、一瞬不思議そうな顔をしたけれど、すぐに一層笑みを深くして言った。
「あなたに、一体何を恥じることが? ですが、そんな風にご自分を顧みられる謙虚さは、確かにあなたの美点の一つですな」
「ヴィクトール……」
 思いやりのある言葉。頭を撫でられているような気持ちになる。
 ……敵わない、大きな人……。
 あの人は、ちょっと横を向いて、更に言葉を継いだ。
「……そんなあなたを、間近に見ていると……なぜか心が軽くなる。だから、どうか悲しい顔は、なさらんで下さい」
「ヴィクトール、ほんとうに?」
「ええ」
 あの人は、面映げに目をそらしながら、でも、力強く頷いてくれた。その瞬間、自分の中のもやもやが一気に氷解するのを、私は感じた。自分がどうしたいのか、はっきりした。
 そうして私は、初めて心のままにふるまった。両手で、あの人の包帯を巻いた手を取り、額の前で、押し頂くようにした。あの人は驚いて、私を見返した。
「ロザリア様?」
傷ついた、大きな手。広くて、深い心。許されるのなら……私は触れたい、あなたに……。そんな思いを触れあった手にこめた。
 すると、じんわりと温かいものが、私の手に重ねられた。……あの人の、もう一方の手。言葉ではなく、熱で伝わる、あの人の答え……。お互いの心に通じ合う扉が、今、開いた……。


 それから、扉を通じて、少しずつ、私たちは想いを積み重ねた。あの人の強さ、やさしさ、そして苦しみ……。触れられたことが、しあわせだった。
 ……たとえ、終わりがさだめられているとしても。
 新たな女王が、その白い翼を広げる時、私とあの人がともに生きる時間は終わる。その日は、そう遠いことではないだろう。
 けれど……あの人に触れたいと望み、それが叶ったあの瞬間。そして、そこから始まった、胸苦しいほどにいとしく、しあわせな時間は、私の内に生き続ける。あの人の内にも、きっと……。

時が移り、宇宙が変転しても、きっと……。
                         (終わり)




ヴィクトールの手袋を脱がせることは、彼の過去を知ることに
他ならないので、ルヴァ様のターバンに近いものがあるのでは〜?
と、今、ふと思いました^^
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