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乙女ゲーとか映画とか書物を愛する半ヲタ主婦。
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柊のお話は、秋口に、東の空の下で、KさんとCさんに、
お約束したものです。
いや、仰ぎ見たい実力派のお二人に、私の書く柊を
読みたいという、ありがたいお言葉を頂いて、
感激致しましたのですが、形にするのが、こんなに
遅くなってしまって、申し訳ありません。

少しでも、ご期待に沿うものになっていればと
思いますが……。ん〜、どうなんでしょう?
結局、自分の持ち分で、やるしかなかったので、
そうしちゃいました^^;
生あたたかいお心で、一つお目こぼしを。

※ぬるいですが、性描写がありますので、苦手な方はご注意下さい。

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「一粒の砂であっても」

 月も傾く深更。書庫で竹簡をひもといていた柊の耳は、コトリという微かな物音をとらえた。音のした方に、顔を向けると、そこには白い花のような、たおやかな姿があった。柊の目元が、ふっとゆるむ。
「我が君、どうなさいましたか?」
 問われて、千尋は、数歩近づいて来た。中つ国の二の姫。龍神を呼ぶことのできる神子と仰がれる少女は、夜に取り巻かれて、心細い様子に見えた。
「……眠れないの。柊なら、まだここで起きているかと思って」
 青い瞳が、柊を見上げる。日中のその瞳は、活力とぬくもりをもって、分け隔てなく周囲の者に配られ、時には意志と責任を貫く光が鋭く宿る。だが今は、柊一人に、何かを求めて、注がれている。
 胸の底が波立つのを、表に出さぬようにしながら、柊はゆるく笑みを作ると、彼の主に語りかけた。
「おや? それはいけませんね。私に、姫の美し眠りを導くお手伝いができればよいのですが」
「……何か、お話してくれない? 落ち着いて、眠れるように」
 幼子のように不安げな、あどけない色をたたえた瞳。だが、千尋の言葉の裏には、彼女がその生まれゆえに背負ってしまった、とてつもない重荷が透けて見えた。付き従う者の命を守るために、千尋は自ら戦場に出ることさえいとわない。しかも守るだけではなく、仲間に、兵たちに、未来をもたらさねばならないことも、承知している。
 厳しい現実、寄せられる期待……王族に生まれ、最後の一人になってしまった運命は、うら若い少女には、重過ぎる……。
(それでも……)
 柊は、心中そっと頷く。
(それでも、我が君、あなたはどの規定伝承に於いても、逃げることはしなかった。くびきに繋がれても、いつも懸命に……。だからこそ、あなたは私の王なのだ)
「柊?」
 千尋の瞳が、戸惑い気味に揺れる。目の前の男の心中を量りかねているのだろう。一度滅びた国の再興を目指すという歴史の渦中にあるとはいえ、柊の友でもある忠実な従者に大切に護られて来た彼女には、己の限界を知り、すべてあきらめてしまった男の絶望など、一端を覗くことさえできないに違いない。暁に浮かぶけがれない星の光が、洞窟の奥の闇までは、届かないように。
 だが、それでも、千尋が柊に信頼を預けているのも、また確かだった。柊なりの嘘のない言葉を尽くし、忠誠を示してきたこともあるだろう。だが、無垢な心は、それ以上に、柊の中に信ずるに値する何かを感じ取っているのかもしれなかった。
 現に今も彼女は、柊に何かを求めて、ここにいる。かぼそい様を、無防備にさらして。一体何を求めている? 安らぎ? それとも慰め? そんなものを、自分が与えられるとは思わない。けれど……。柊は自嘲した。けれど、その澄んだ瞳に、応えたいと思う自分がいる……。
「よければ、こちらへ。我が君」
 自分の座している傍らを指し示す。単衣の夜着だけをまとった細い肩を、わずかにあたためるぐらいはできるだろう。千尋は、小さくうなずくと、ためらわずに傍へ来た。
 止まり木の小鳥のように、腰を落ち着けると、柊と、その手にした竹簡を見比べた。
「何を、読んでいたの? 豊葦原の歴史?」
「歴史、というより伝承、ですね。遥かな昔から繰り返したり、分岐したりして、営々と続いて来た伝承。そして、我が君、あなたは、正に今を生きる伝承です」
 すると千尋は、眉根を寄せ、首を傾げてみせた。
「そんなことを言われても、ぴんと来ないわ。ただ、姉様とした約束はが、いつも心に……。それと……」
「それと?」
 青い瞳が、今ではない、ここではない、どこかへの道を探すように、虚空をさまよう。
「私は……自分の生まれた場所だけれど、橿原がどんなところだったか、覚えていない。けれど風早が、私たちが暮らしていた世界の橿原と、よく似てるって言ってた……」
 千尋と風早、そして那岐が、どんな風に5年間を暮らしてきたのか、柊には思い描くこともできない。だが、こうして千尋が懐かしげに言うところを見ると、恐らくそれは幸福な日々だったのだろう。
「ねえ、柊……」
 さまよっていた視線が、柊のもとへ戻って来た。
「……豊葦原の橿原も、山に囲まれている? 畝傍、耳成……」
 指おり数える千尋の後を、柊が引き取った。
「香具山……。そして少し離れて、二上」
「二上……」
 千尋の表情が更に和らいだ。
「二上山もあるのね?」
「ええ、毎年彼岸の頃に、太陽は三輪山の頂から昇り、二上の、二つの山が連なるその鞍部へと沈みます。山々に囲まれた美しい都、それが橿原です」
 それを聞くと、千尋は花がほころぶように笑った。
「……よかった。私、毎日、山を見ていたの、あっちの世界の橿原で。山があるなら……きっと、ここの橿原も好きになれる。守りたいと思える」
 そんな千尋の、くもりない表情は、柊の心を揺らす。彼女の感慨は、意外なようで、それでいてどこかで共感できるような気もした。
(山は、山として、そこにあるものだろう。橿原は、確かに山を守り神とし、また実際、外敵の侵入を防ぐ壁として、成り立ってきた都だが)
 柊の脳裏に、橿原を囲み、護る山々の姿が、浮かび上がって来た。春には若葉が萌え出し、緑濃い夏を経て、秋には紅く染まり、凍える冬は山頂に雪の冠を戴く山々……。
(……姫が言われるのは、ただ美しい、ということか)
 当たり前すぎて、見失っていたことに、気づく。そう、橿原は美しい都だったのだ。その都を……快活で磊落な友も、凛と咲く花のような姫も愛し、守ろうとしたのだろう。
 懐かしく、あたたかい想いが、胸の奥底から、しみ出して来る。
「……我が君、あなたは、やはり姉上に似ていらっしゃいますね」
 すると千尋は、意外そうに目を瞠った。
「似ていないわ。だって姉様は、きれいな黒髪で……」
 千尋が言い終わる前に、柊は、人差し指を、そっと彼女の唇に押し当てた。
「髪、は関係ない。あなたのその心映えが、ですよ」
「でも、私の髪が、こんな色だから、龍神の声が聞こえないって言われて……」
 いい募る千尋の、耳の横に落ちた一筋の髪を、柊は指ですくい上げた。
「美しい髪です……。黄金に実った穂波のごとく……」
「ひい……らぎ……」
 この時柊は、あり得べき未来の光景をかいま見た。見渡すかぎり広がる、収穫を待つ金色の田。重そうに頭を垂れた稲穂を、農夫から捧げられて微笑む女王……。陽光と、平穏に満ちあふれた、美しい国……。それを千尋は、きっと築き上げることだろう。
「……柊?」
 名を呼ばれて、はっと我に返ると、潤んだ瞳で、見つめられていた。
「私にも、見えたわ……金色の田が。あなたのこの指先から、流れ込んで来た……」
 言いながら、千尋は柊の手を取り、胸の前で、ぎゅと握った。
「……あの未来は、ほんとうになると思う? 私に、それができると思う?」
 頬を染め、真剣な面持ちで問う千尋に、柊は確信を持って、頷くことができた。
「もちろんですとも、我が君。あなたになら……いえ、あなたにしか、できないことです」
「ありがとう!」
 千尋は、柊の手ごと、自分の手を組み合わせると、目を閉じて、祈るようなしぐさをした。
「姫……」
 合わさった手から、千尋の強い意志が伝わってくる。かいま見た未来を、きっと現実のものにしてみせる、と。
 たちのぼる凛とした気構えに反して、伏せられた睫毛はやさしくて。思わず見とれた柊だったが、あることに気づいて、はっとした。捕らえられた手の指先が、ごくわずかではあるが、千尋の胸元に触れているようだった。不適切な接触となっていないか、目で確認しようとしたその時、あえかな胸のふくらみの上部が、単衣の袷から覗いて、柊は少し狼狽した。視線をそらしながら、千尋に握られた手を、そっと振りほどこうとした。
「我が君……、どうか手を離して下さいませんか」
「あ……ごめんなさい」」
 千尋は、すぐに柊の手を解放したが、彼を見返すその目には——自覚しているかどうかはわからなかったが——すべての女が、恋しい男を見る時にたたえる、あの艶がにじんでいた。
「姫……。そろそろ部屋に戻られた方がよいでしょう。お送りしますよ」
 喉に絡んだ声で、何とかそう告げると、柊は先に立って歩き始めた。千尋は、おとなしく後をついて来た。軽い足音と、自分の背に注がれる視線を感じながら、柊は今、事態がどういう局面に差し掛かろうとしているのか、考えを巡らせていた。
神の理が支配するこの世界に於いて、千尋も柊も、規定伝承の駒に過ぎない。手のひらで踊らされているようなものだと思う。
 だが、その駒にも感情が、意思がある。今、柊が向き合う駒は、その中でももっともけがれなく、その意志を貫こうとするものだろう。であればこそ、自分は……。
 答えを探す間に、千尋の私室の前に来ていた。ほっとしたような、残念なような、複雑な想いがこみ上げて来たが、柊はゆるい笑みを形作ると、千尋を促した。
「では、おやすみなさい、姫。美し眠りがあなたに訪れますように」
 軽く会釈をし、立ち去ろうとしたその時だった。そっと腕に手を掛けられた。
「……姫?」
「まだ行かないで。……傍にいて?」
 小さな声で、だが明確な意志を持って、柊に向けられた言葉。そして何よりも、青い瞳が物語っていた。自分が受け入れられるかどうか、正にこの瞬間千尋は賭けに出たのだ。
 拒むことは、できた。自分はあくまで臣下である、と。柊にとっても、千尋にとっても、それ以上の結びつきを持つのは、危険このうえないはずである。千尋は、女王として、また乙女としての名誉に疵を付けることになり、柊は……誰かに深入りして味わう執着や痛みの中に、再び連れ戻される……。
 だが柊は、千尋の手を、瞳を、振り払いはしなかった。理屈ではなく、打算ではなく、今、千尋に自分が求められている、それに応えたかった。
(……愚かなことだ)
 千尋を、その褥で抱き締めた時、自嘲が頭をかすめた。だが、目の前にさらけ出された白い裸身は、そんな斜な考えなど吹き飛ばし、柊の胸を深く揺すぶった。
 なだらかにうねる千尋の曲線は、橿原を囲んでたたなづく山々を、彷彿とさせた。そっと手のひらでなぞり、二つの山が寄り添っているかたちの、あえかな胸のふくらみに、埋もれる。
(……あなたの御身こそ、さながらに、橿原を、豊葦原を、護るもの……)
 かぐわしい肌に溺れながら、隅々にまで、祈るような気持ちで、跡を記していく。そうするうちに、自分の中にあるものを、改めて悟った。抗いようのない神の理の中を、ただ漂うのみと思っていた自分が、橿原を、豊葦原を愛し、千尋に執着していることを。
 言の葉にしなくとも、それは十分千尋に伝わったようだった。頂までのぼりつめた熱を注いで、営みを終えた後、ふわりと微笑って彼女は言った。
「……私は、ここにいても、いいのね」
 千尋自身が、豊葦原を慈しみ、その大地に根を下ろしていけると確信するために、柊との絆を深めようとしたのかもしれなかった。
 そんな直ぐな想いが、柊にはいとおしくも、哀しい。
(なぜ、よりによって、私を……?)
 幾層も折り重なる時間と、紡がれ、繰り返される歴史。その中をさまようだけの自分に、なぜ確かなものを求めたのか……。
 だが、それでも、絆は結ばれた。膨大な時間の集積の中で、浜辺の砂の一粒のような一瞬であったとしても、なかったことにはならない。時間の中にこの一夜は、今舞い降り、積み重ねられたのだ。
 安心して、深い眠りに落ちた千尋の髪を撫でながら、柊はそっとささやいた。
「身も心も……能うかぎり、許されるかぎり、私のすべてをあなたに捧げましょう」
 眠りの中にあっても、柊の言葉を、想いを受け取ったのか。幼子のような桜色の頬をして、千尋は微笑んだ。いとおしさに、胸を締め付けられながら、柊はそのあどけない寝顔に、ずっと見入っていた。


 契りを交わしたのは、ただ一度だけだったが、この一夜は、後々まで、千尋を支えた。柊が、再び時の流れの中に、さまよい出て行ってしまっても。愛し、愛されたという事実は、種として、彼女の心に残り、芽を吹き、そうしてこの大地に根を下ろしていったのだ。
 
 往時の姿を、ほとんど取り戻した橿原の宮で、三つの山と、その向こうに連なる山並みを仰ぎ、千尋は微笑む。
 ここは……この地こそが、私のまほろば。だから、柊、いつでも帰って来て……。
 民たちが、汗を流して切り拓き、雨の日も、風の日も、心血を注いで育んだ田が、今見渡す限り、千尋の目の前に広がっている。秋には、一面の黄金に染まることだろう。
 あの日、柊とともに、かいま見た未来そのままに。
「我が君……」
 背後から、ふいに呼ばれて、千尋はどきりとした。彼女にそう呼びかける者は、一人しかいなかった。口元の笑みが、大きく広がると同時に、涙があふれだした。振り向いて、彼女の心に住み着いたいとしい男がいるのを認めると、ためらわずその腕に飛びこんでいった。忘れ得なかったにおい、温もりが千尋をしっかりと包みこむ。……そして、頭上から、ためらうような低い声が落ちて来た。
「私は……ここにいても宜しいのでしょうか?」
 涙の中で、千尋は答えた。
「もちろんよ!」 
 
 
 一粒ひとつぶは小さくとも、確かに存在する想いが、時間を、歴史を作ってゆく。それを信じられるようになった時、さまよい人も、ようやく大地に根を下ろした。その先の未来は、愛する者とともに、自らの身と心で確かめていくのだ、命あるかぎり……。
                             (終わり)



柊という人は、私的には”メーテル”かな〜と、そんなイメージがありまして。
でも、他のオトコと比べても、もっとも明確に千尋ちゃんが求める意志を示したのは、彼ではなかったかと。
だったら”青春の幻影”で終わらせたくはないよね〜。
ということで、捕獲致しました。
読んで下さる方に、これが柊的に、正解と思って頂けるかどうか、わからんのですが、そこはどうか広いお心で^^;
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無題
柊千小説、堪能させていただきましたです。
そーか、彼は男メーテルだったのか。
こういう男を受け止められる女性というのは相当深い懐がないとダメですよね。
千尋ちゃんの裸身の表現が艶っぽくってノックアウトです。
さすがコマツバラさん!
ごちそうさまでした!!
どら 2009/12/30(Wed)21:06:20 編集
ご感想、ありがとうございます
男メーテル〜(笑) ←(脳内でお着替えさせたらしい)
そですね、女性を包容するというよりは、
千々に心を乱して、放っとけないという気にさせといて、どっかに行ってしまうという、やっかいなタイプの
ように思えます。
裸身に萌えて頂けましたか! 
そこが核という位置づけの部分に、反応して頂けて、
嬉しいです〜V

いえいえ、お愛想なしで、お粗末でございました^^

コマツバラ URL 2009/12/30(Wed)22:38:58 編集
ありがとうございました
コマツバラさんあけましておめでとうございます。
遅ればせながら柊千小説読ませていただきました。正月から目の保養です。
柊がメーテル(笑)いやものすごく納得いたしました。
変えられない既定伝承のなかで懸命にあがく千尋が愛おしくて、見守っているうちに自分もあがいているのだと、そしてそれに気づかない柊が大好きです。
ごちそうさまでした!!
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
ちどり 2010/01/04(Mon)09:12:21 編集
こんなん、なりましたけど^^;
ちどりさん、あけましておめでとうございます。
柊→メーテル説にご賛同頂き、ありがとうございます(笑)
メーテル含めて、私なりの柊って、こんなん、なりました
けど^^;  
そうですね、柊も人の子でありますから、傍観者ではなく、
あがいて生きていってほしいと思ったりします。

今年も、このようにカオス状態ですが、
どうぞ宜しくお願い致します^^
コマツバラ URL 2010/01/05(Tue)09:56:28 編集
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