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お初の柚木サマのお話です。

はっきり言って、かゆいです、わはは^^;

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「この想いとともに……」


「香穂子、堀田さんのお宅に、回覧板、持って行ってくれる?」
 冬の初めの昼下がり。期末試験が終わって、こたつでのんびり雑誌を繰っていた私に、お母さんが言った。ちょうどおやつも欲しくなって来たところだったし、帰りにコンビニに寄れるって思ったので、引き受けることにした。
「うん、いいよ」
 こたつから出て、回覧板を受け取ると、私は軽いコートを羽織った。外に出ると、風が少し冷たかったけど、白い午後の日差しがほんのりあたたかった。こんな穏やかな日なら、散歩がてら、ぶらぶら歩くのもいいなと思えた。
 うちは三丁目の外れで、順番がラストになるので、お隣ではなく、巡回済みの回覧板を町内会長の堀田さんのお宅に持って行くことになっている。子供の頃、このお使いが、私は大好きだった。なぜかというと、やさしい堀田のおばさんが、「香穂子ちゃん、偉いわね」って、いつもキャンディとかおせんべいをくれたからだ。
さすがに高校生になった今は、お菓子のために、いそいそっていうことはないけれど。そういえば、ずっとセレクションや学内コンサートで忙しくて、こうして堀田さんのお宅を訪ねるのも、随分と久しぶりだった。ちょっと懐かしいかも。そんなことを考えながら、慣れた道をたどり、こんもりと庭木が茂っている、青い瓦屋根の家にたどり着く。門柱に掛けられた表札の横にあるチャイムを押してみる。応答がない。
「……あれ? お留守かな?」
 仕方ないので、ポストに回覧板を入れておくことにした。
「よっと……」
 庭木の伸びた枝がポストに覆いかぶさり、足下には植木鉢が並んでいて、私は前につんのめるような格好で、何とか回覧板を押し込んだ。その時、ふわりと清しい香りが鼻をつくと同時に、何かにちくりと頭を刺されて、私は思わず首をすくめた。
「あ、痛……!」
 体勢を立て直し、改めてポストの回りの様子を確認して、私の胸は小さく躍った。
「これって……柊木犀!」
 私の頭に当たったのは、この柊木犀(ひいらぎもくせい)のぎざぎざの葉だったのだ。色濃い緑の間に、真っ白い小さな花が幾つも咲いて、香っている。私は、その名前を、ついこの間教えてもらったばかりだった。その時見たのは、肩ぐらいの高さの木だったので、堀田さんの門前の大きく茂った庭木がそれだとは、気づかなかったのだ。
『この花をどう思う?』
 耳に、笑みを含んだ声が甦る。週末、コンサートに向けて一緒に練習した後、「息抜きにどこか連れて行ってやる」と言われて、とっさに思いつかなくて、ただ散歩をすることになった。柚木先輩は、時々意地悪だけど、私がプレゼントしたマフラーを巻いて、白い息を吐きながら、さりげなく歩幅を合わせて……。そんな先輩を傍らに感じると、胸がきゅんと切なくなる。子供の頃から見慣れた街の風景も、今、先輩と共有しているのだと思うと、大切にしまっておきたい想い出になる。
 そんなひとときに、先輩は児童公園に植えられている木を、私に示して、聞いたのだ。これまで、目に入ったとしても、全然気に留めたこともなかった木。冬の季節に青々とした葉を付けているその木は、白い花をたくさん咲かせていた。そして花から流れて来る清しい香りは、冷たい冬の空気に見えない彩りを添えていた。
 柚木先輩の、私を試すような微笑みに、どぎまぎして、辛うじて「色がきれい」と答えた、すると柚木先輩は、私の好きな、きれいな笑い方をして「そうだね」とうなずき、その名前を教えてくれた。
彩りの少ない冬の季節に、香りとともに楽しめる花だ、と。柚木先輩の家柄からして、花に詳しくても、不思議なことではなかったけれど。冷たい風の中で、小さな花を無数に付けて、盛りを迎えている木を見る柚木先輩の目は、やさしくて……。私が見落としてしまう、季節ごとの花の命を慈しめる人なんだって思った……。
 
 あの日のことを振り返りながら、今、この木を前にしていると、何だか、柚木先輩に似ている……なんて思えてきた。柚木先輩は、自分が人に与える印象を、いつも計算して、コントロールしている人。人望厚い、“お優しい”優等生ポジションを、いつでも、どこでもキープしている。そんな先輩が、なぜか私にだけは、素の自分をぶつけて来るのだけれど。どうもそれは、ガス抜きみたいなものなんじゃないかって最近思うようになった。
 演技とはいえ、相手が望むこと、喜ぶことがわからなければ、あそこまで人に慕われないだろう。人の心を汲み取れるっていうのは、“計算”というより、むしろ“やさしさ”なんじゃないだろうか。
 柚木先輩は、複雑な人だ。いくつもの顔を持っている。優等生の仮面、火原先輩に向ける柔らかい笑顔、私に向けるきつい表情と、ちょっとはにかんだような微笑み。折り重なったいくつもの柚木先輩の底には、この柊木犀の花のような、混じりけなしの純白のやさしさが、きっとある……。
 ずっとそんなことを考えて、どれぐらいその場に立ち尽くしていたのかわからない。ふいに後ろから声を掛けられて、びっくりした。
「まあ、香穂子ちゃん。どうしたの? 寒いのに、そんなところに、じっとして」
 振り向くと、堀田のおばさんのやさしい笑顔が、そこにあった。
「まあ、回覧板を持って来てくれたの。ありがとう、よかったら、久しぶりに上がっていかない? おばさん、ちょうどお茶菓子を買って来たところなのよ」
 私はうなずき、おばさんの後に続いて、堀田家の門をくぐった。香り高い、真っ白な花に思いを残しながら……。


 昼休み、屋上で柚木先輩を見つけた。気候のいい時期には、屋上に上がる生徒は多いけれど、木枯らしが吹く今時分、あえてここに来ようという人は、いない。柚木先輩が、その人気のなさを気に入っていて、時々ここで過ごしていることを、私は知っていた。
「なんだい。こんなところまで、いじめられに来たのかい。おまえも、物好きだね」
 からかうように笑う先輩に、首を振ってみせた。
「違います! これ返そうと思って」
 手提げから、私のレッスンのために、柚木先輩が貸してくれたピアノ教本を取り出した。
「ああ、もう、いいのか。まあ、この本は、ほんの初歩だしな。次は、もう少しレベルの高いのを貸してやろうか。……おや?」
 本を受け取りながら、柚木先輩は、私がページの間に挟んだものに、目を留めた。
「これは柊木犀じゃないか。おまえ、これ、どうしたの? まさか、この間の児童公園で採って来たんじゃないだろうね?」
「ち、違いますよ。ご近所で、植えているお家があって、少し切ってもらったんです」
 慌てて説明すると、柚木先輩は枝を手に取って、胸の前でくるくる回しながら、人の悪い笑みを浮かべた。
「俺のために、か?」
 胸がどきんと高鳴る。確かに、その通り。柚木先輩との想い出の花だから、堀田のおばさんにお願いした。あの時、花と柚木先輩に寄せた、想いごと、時間ごと……私は手渡したかったのだ。
「はい……。そう……です」
 頬が熱くなるのを感じながら、私は目を合わせられなくて、うつむいた。すると、ふわりと空気が動いた。花の香りが鼻をかすめたと思うと、あたたかい手が私の頬に添えられ、こめかみに一瞬だけ柔らかいものが触れた。そして、頭上から、ささやくような柚木先輩の声が落ちて来た。
「……おまえが、この花の花言葉を知っててやったのかどうかわからないが、こういうのは嫌いじゃない。褒めてやるよ」
 言い終わると同時に、柚木先輩は、すっと離れた。私は、思わず顔を上げて、聞き返した。
「え? 花言葉って……なんていうんですか?」
 すると柚木先輩は、くすりと笑った。
「なんだ、やっぱり知らなかったのか。まあ、いい」
 柚木先輩は、少し照れたように、まばたきを繰り返すと、そっと言葉を押し出すようにして、教えてくれた。
「柊木犀の花言葉はね……『想い出の輝き』っていうんだよ」
 胸にじわっと込みあげてくるものがあった。その一言で……私がこの一枝に込めたのと同じぐらい、柚木先輩が私との想い出を大切にしてくれているのが、わかったから。
 嬉しさのために、にじんできた涙を止めようと、目頭を指で押さえた時、柚木先輩の声が、さっきよりも間近で聞こえた。
「おまえは、ほんとうに俺を喜ばせるのがうまいね。ご褒美を上げないとね……」
 甘く清しい花の香りが再び匂い……私はふわりとあたたかい腕の中に収められていた。
「この瞬間も、輝く想い出になる……。そうだろう?」
 唇を塞がれて、答えられなかったけれど、私が同じ気持ちなのは、きっと伝わったと思う。返事の代わりに、柚木先輩の背中に手を回して、大好きな人を、この一瞬を、抱き締めたから。
 
 強く、強く……ありったけの想いをこめて……。


                            (終わり)




私が、今まで書いたコルダのSS の中で、もっともドリーマーな話
のような気がします(笑)
柚木サマはかくあってくれたらなあという願望が露骨に……ああ、恥ずかしっ!
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